第22話 「飛竜の首」
貴族や大商人の間でひそかに流行っているハンティングは、やがて大きなゆがみを引き起こす。
ファイファンタジーです。お時間ある方、TRPG・RPG好きな方、ぜひ。
ダッカーヴァ公爵領の、ある男爵の館。
今日、新しいハンティングトロフィーが居間に掛けられた。
勿論、銃は無いので、弓によるもの。
もっと言えば、1人でそれを狩る力などあるわけないので、雇った冒険者が叩き落し、または動けなくなったところを弓で仕留める。
トカゲの様な首には鋭い牙が並ぶ。大きく広げた翼はコウモリの様。
この翼が大きい方が、自慢できる。
ワイバーン。足を持たず、飛竜族の中でも蛇に近い。
その亜種、小さめの種をリンクルホーンと呼ぶが、一般にはまとめて<飛竜>と呼ばれる。
最近、一部のもの達の中で、暇を持て余し退廃した者の中で、禁を破り、この様なハンティングが行われている…。
男爵は、新しいオモチャを見ながら、明日、誰を呼び、自慢しようかと考えていた。
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ダッカーヴァ公爵領には最近、大きな動きがあった。公爵ヴォンベルゼンが退位し、辺境に引っ込んでしまった。代わりに即位したのは若干17歳の、花のような姫。
民集はノエル姫の人望で納得していたが、貴族たちはそうでもない。まして、姫の婚約者は、歴史上は仮想敵国の魔道国ツァルト、第3王子。しかも第3王子だ。
この第3王子も、今まで3回はダッカーヴァに奇跡をもたらしており、民の中でも、この者ならば仕方ない。そう言う者が大半だ。
これもまた、気に入らない。
だから、貴族の間では、この度の騒動は面白くない。
当然、暗躍する者も出て来るわけだ。
――さて、そんな影響があってか無くてか。
公爵ノエル姫の前に、アテンドル国から使者が来た。
ノエル姫は、実は最近、あまり民の前に姿を現していなかった。
人々には、重圧のあまり体調を崩しているのでは、そう噂されている。
「――して、ノエル姫、我が国の皇帝はこのように危惧されておられる。ダッカーヴァは、メルカーナ皇国を抜けようとしておるのではないか、と。」
玉座の姫は、左右に2名づつの腹心を置いて、使者の弁を聞いていた。
ダッカーヴァの賢者、ファルトラント出身の新たな賢者。魔道国ツァルトより派遣された<黒>の宮廷魔術師。歴史に詳しい執事。の4名。
姫は、誰に相談するもなく答えた。
「いえ、考えてもおりません。わたくしは確かに、いづれツァルトのアリエス様の元へ嫁ぎますが、それはそのような変革を差すわけではありません。隣国と友好を築くことで、謂れのない疑いを掛けられる筋合いはありませんわ。」
「ほう、今後も、ツァルトと友好を深めると。」
「ひ、姫?」執事が一呼吸入れようとしたが、ノエルは制した。
「そうです。元々は歴史上の誤解もあってのこと。300年昔の事。アリエス様とお話し、魔術ギルドの館がもうじきダッカーヴァにも開放されます。勿論、ダッカーヴァの治安を守るための事。」
「…あまり、はしゃがぬことですな、姫。いっそ、そのような者との婚約は破棄し、アテンドルから夫を迎えればよろしい。」
「…それは無理な話です。ダッカーヴァの女は、一途ですのよ?…さて、わたくしは疲れました。道中お気をつけて、国境まで精鋭に送らせます。」
簡単に言うと、追い返した。
側近たちは、姫の豪胆さに少々呆れ、笑った。世間知らずの強み。恋する女の強み。
…だが、愛すべき、我らの姫らしい言動だ。
――――――――――
―別な日。
宝石商を営むこの男は、今日、屈強な冒険者を6名もつれて、関所を通った。
「最初の頃は、関の城壁から撃てたそうだが、減ったのか?面倒なことだなぁ」
大きなおなかを揺らしながら、一見人のよさそうな笑顔で冒険者たちを見た。
「さぁ、お前達。大きさによって報酬を弾む。沢山狩れば良いというものではない。大きさが大事だ。頼むよ?」
「へいへい。がっちり稼がせてもらうよ。ポーラッカの旦那。」
「山に向かうか…」
キルメット火山一帯は、大半が荒野である。低い灌木はあるが、高い木の森などは無い。
それでも、古い湖や他の野生は豊かである。当然のことながら、ここでの生態系頂点は、竜。
山脈に作られた古い城壁は、人間と竜の勢力図を分けた証である。キルメット火山帯は見ようによっては最大規模の1つの国だ。大陸西側の真ん中に陣取る。もし、ここを手に入れると事が出来たなら、あまりにも広大な領土と、豊かな資源を得られるだろう…。
だが、そんなバカなことを考える者はいない。居るはずもない。
キルメット山の火口には、今なお、竜王が鎮座しているのだから。
神の域に居るという。物質攻撃など意味が無いという。魔法であっても、鱗に弾かれるという。…まぁ、伝承に過ぎないが。
―――その火山帯の1つ山。その麓まで、少々深入りしてしまった商人と、冒険者。
腕の立つ面々だった。良からぬ仕事も受ける、ダークサイドに精通した面々だった。
「おお、ようやく…あの岩山に飛竜の姿が見えるな。」
「あそこですかぁ、旦那。見かけより高いですぜ。オレたちは行けるけど。アンタじゃ無理だなぁ。」
「では、飛行の呪文を唱えれば良かろう?」
「…そりゃ出来ますがね。飛行中に襲われたらやりにくいんで。」
「そこは、そなたらの腕の見せ所だろうが。」
「へいへい…よお、アンディ。フライの呪文を全員に掛けてくれ」
男たちは宙に浮き、岩山の中腹にある出っ張りに向かった。
あっと言う間に。飛竜が寄って来た。
「やべえ、あの平坦な所に一度降りるぞ!」
男たちはそこで迎え撃った。
ハーフナーの弓が次々に、正確無比に飛竜を撃つ。
魔法使いの火炎が、飛竜を包む。爆裂音。
「バカ者!!羽が燃えてはトロフィーにならん!大きいやつは弓で撃て!」
商人の叫びに、冒険者たちは閉口する…。
10匹ほどの群れの大半を追い払う。しつこく近くを旋回する奴も居たが、もう距離を取っている。
「ふん、意気地のない飛竜が!」商人は勝ち誇った。
岩の出っ張りに近づく。そこには、いくつかの卵と、竜族が好んで集める宝石があった。
「おおお!宝石はワシが戴こう!いいな?お前らにはたっぷり金を払うのだから!」
「……ち。」
「卵か、これも珍しい。1つ持って行こう。」
持ち帰ろうとする彼らに、一匹だけ果敢に襲い掛かる飛竜が居たが、即、撃ち抜かれ、地面に落下した。
卵の親であることを、彼らは知る由も無かった。
こうして、商人ポーラッカは、自慢の品を手に入れる。
家には大きな飛竜のはく製がトロフィーとして飾られ。
卵は孵っては困るので、煮て、飾った。
宝石は壁に並んだ。
商人ポーラッカのトロフィーは評判となった。
まねる者、それを上回る品を求める者が多数でる程に。
――――――――――
…そこでやめておけば、良かったのだ。
第2陣など編成せずに。
だが、彼はより大きな標的を求めた。
大きな大きな飛竜は居ないのか。いっそのこと、ワイバーンを。
いやいや、それならいっそのこと、竜が良い。
なぁに、元々、関所近くにワラワラ湧いて、関を襲ったのは飛竜。不戦などアイツらが先に破ったのだ。非難されるはずも無いだろう。
そう思って、彼は前回の冒険者を連れて、再びあの山へ向かった。
飛竜は飛んでいる。やはり、この辺には居るのだな。
前回より、少し奥へ向かった。
「オイ、あそこに飛んでいる飛竜、デカいな!見た事ない位だ!あれを狩れ!」
「は?飛行中のを一体狙うとか、無理難題を」
「特別ボーナスを出そうじゃないか!どうだ!あれを落としてくれたら、1万G出す!」
「1万か…考えるか…」
男たちは、腕の立つもの達だ。考えて、思いついた。
「前回ワラワラ来やがったのは、卵が近くにあったからじゃねえかな?別の卵あるところに近づけば、降りてくるだろう?」
山の頂上近くに、男たちは近づいた。
狙い通り、飛竜が寄ってくる。ターゲットも含めてだ。
剣を抜く。弓を番える。魔法を準備し、僧侶は盾を構え、精霊術師は精霊を呼ぶ。
飛竜は決して弱くない。いや、2対1ならこのメンツにも勝てるかもしれない。
だが、次々に撃ち落された。冒険達は、悪党だが、それなりに腕の立つ者だったから。
そして、ついに、ひときわ大きな飛竜を撃ちぬいた。
「やったー!やったぞ!これでワシの栄誉は確かなものになろう!」
そんな風に盛り上がる彼らの上を、強風と共に、影が差した。
男たちは、空を見上げた。
巨大な翼。赤黒い鱗。獰猛な手足の鉤爪。
赤竜。レッドドラゴン。
ドラゴンが、旋回している。
「ど、ドラゴン!? 逃げるぞ、逃げ…!」
逃げれば良かったのだ。竜の勢力圏内で、思うさま暴れたのだから。
「いや待て!お前達なら、勝てるのではないか!!一流の腕っぷし、ここで見せてくれい!竜を狩れば!ドラゴンバスターは超一流の証ではないか!?」
「はぁ!?」
竜のトロフィーを居間に飾れたなら。ワシは、ワシはぁ!!
「一人2万出す!狩れ!狩るんだ!!」
リーダーの戦士は逃げようと思った。魔法使いと僧侶も逃げようと思った。だが、
精霊術師は水の精霊を呼んでガードを始めた。ハーフナーが弓を撃った。
剣士がバスターソードを抜いた。
「やめろー!!」
その叫びがリーダーの戦士から発せられた時はもう、遅かった。
竜は、彼らの近くで羽ばたきながら宙に浮き。
大きく息を吸い、炎を勢いよく吐き出した。
ガードを展開した水の精霊は瞬時に消え去り、精霊術師は黒焦げになった。
共に巻き込まれた弓使いは、炎を目に焼き付けたのを最後に、動かなくなった。
僧侶を、地面に飛び降りて踏みつぶし。
回転した尾で、戦士を岩に叩きつける。戦士は呻きをあげた。
バスタードソードを強く握った剣士は、火竜の足の付け根に一撃を加えた。
エンチャントされた魔剣だったが、硬い岩でも殴った様に、弾かれた。
魔剣なら切れるはず!彼はそう思っていたし、事実なのだが。
剣士は剣が通らなかった理由を、魔剣のグレードのせいなのか、腕のせいなのか、竜が特別なのか。判別する暇もなく、一撃で右手の爪に引き裂かれた。
…ドン、ドンと足音を響かせながら、戦士の目の前に再び、巨大な竜の顔が迫って来た。
静かに、怒りに燃えた目だった。
火竜は、低い知能しか無いのではなかっただろうか。
頭だけで。戦士と同じくらいの大きさがある。開いた口は巨大な牙が並び、丸のみに出来る大きさ。
戦士の体は、いや、鉄の鎧は簡単に嚙みつぶされた。竜は戦士を食わず、飛竜の群れに放り込んだ。
…戦士は、絶叫するだけの体力は、最期に残っていたらしい。
魔法使いは、感謝した。竜が、戦士に何秒も掛けてくれたことを。
「“テレポート”」
唯一の生き残りはこうして街にたどり着いた。
商人?
その竜は、商人を片手でつかみ、飛竜の巣の近くに落とした。
高さは3m程からだろうか。商人は、岩に足をぶつけ折った。
叫びをあげ、呻く。だが、不幸なことに、生きている。
巣の近くには、孵ったばかりの小さな飛竜たちが、腹を空かせ。
親が小さく噛み切ってくれるのを、待っていた…。
――――――――――
「貴様たちは、何という事をしてくれたのか!!我らが盟約を破り、竜が怒りに攻め入ったら国はどうなると思うのだ!!」
該当した商人や貴族たち。そして、金を貰って密かに関を通していた番人たちは、皆、処罰され牢獄行きとなった。
貴族の家にあるトロフィーや、角などは、直ちに没収となり、燃やされた。
竜の生息地に返しても、怒りを買うだけだろうから。
貴族の一部も容赦なく処罰され、降格や、領地の削減。かなり重い扱いを受けた。
そして。残念だが、竜の怒りが収まるはずもなく。
関所の周りには、時折だが。まるで姿を見せたことのなかった赤竜が飛来するようになったのだ。今は、威嚇かも知れないが。
この様に、人と竜の境は、緊迫して行った。一部の愚かな人間の所業で。
…または、誰かの悪意によって。
――――――――――
朝食を向かい合って取りながら…。
「…とまぁ、このようなことがあったのですよ。アリエス様。」
「大変だったね。ノエル。」
「処罰を言い渡したのは父上ですから、わたくしはそれほどでも。むしろ、今後、竜が活動
を始めないことを祈ります。」
「そもそも、関を何度か襲った飛竜の群れが居ると聞いたけど…何でかな…」
アリエスは、先日の戦いで、魔族の中にワイバーンが混ざっていたのを思い出す。
「まぁ、今の所は様子を見るしかありません…。勿論、手厚く守りを固めます。<魔術の塔>も協力してくださいね。」
「勿論さ。だけど、反撃してはいけない。徹底してくれ。」
「心得ておりますわ。」
「…ノエル、食事進んでないね。具合悪いの?」
「いえ?昨夜は食べ過ぎましたので、控えております。」
「…キミはぜーんぜん、気にする必要ないと思うけどなー。」
「じゃあ、何かあったら指輪で呼ぶんだよ、ノエル。兄上の婚姻式には迎えに来るからね」
「はい。いってらっしゃい。アリエス様。」
アリエスは、テレポートで、いつものように一瞬で消える。
侍女リロウズが、アリエスの食器を片付けながら、姫の横で小さく囁く。
尚、侍女の中でノエルと話をする者は少ない。彼女らは、空気であることを徹底しているから。
リロウズは、周囲を見渡す。誰も居ないことを確認する。
「あの男は昨夜からあなたの元に?」
「…ええ。」
「…伝えたのですか?」
ノエルは首を振った。
「どうして言わないのです?」
「だって。色々考えないといけないから…。」
ノエルは、お茶を飲み、お菓子を一つだけつまむと、何も答えず横になった。
続くー。




