第20話 「国を継ぐもの。竜を継ぐもの。」後編
魔法ギルド<魔術の塔>を継いだ、ダラダラ好き女の子好きの王子、変わっていく。
再び、<奈落>との戦いに挑むアリエス。”ジャガーノート”VS”ジャガーノート”。
お時間のある方、TRPG・RPG好きな方ぜひ…。後編です。
賢者マーガクレイドルは、巨大工房でジャガーノートの準備をしていた。
彼は内心、アリエスの策を評価していたが、急遽襲って来た魔族の軍を追い払うために、再びジャガーノートを移動させるつもりでここにやって来た。
無論、急ぎの魔法ではあるが、2階の弓スリットは塞いだ。
兵士たちを配置し、3回には魔法防護円を張れる魔術師と、攻城兵器を操る工兵を配置。
急げ!ラプトールの砦に急ぎ迎え!
アリエスがその工房に到着してすぐに、従兄たちも姿を現す。
アリエスは前回と同じく甲板にあがろうと考えていたが、従兄達が止めた。
「我らが乗り、実際の運用を試す。アリエスは、昨日の案を急ぎ具現化してみよ。」
「え!そんな!」
「自分の理想を追ってみよ。大丈夫、我らが到着すれば実際にはジャガーノート無しでも勝てようから。」
従兄2人は、ツァルトの貴族。当然、有能な魔術師だ。
2人を乗せたジャガーノートは、轟音と共にすぐ先の砦へ向かう。
アリエスを置いて。
んー、困ったもんだ。
アリエスは周囲を見渡し、朝早くから働くドワーフたちに声を掛けた――。
――――――――――
ラプトール砦で第2王子トーラスを乗せ、ジャガーノートが南東へ出向く。
相変らずの轟音。
暫し、走って。明け方の明るい陽射しの中、敵の同じく移動する要塞が見えて来た。
細かな点で作られた様に見える壁。
敵ジャガーノートの周りには、幾つもの飛行する生き物が見えた。
「何だ、あれは?」
アケロニオの問いに、トーラスは落ち着いて答えた。
「慌てるな。今、俺の使い魔が近くに飛んでいる…」
「骨…骨で出来た壁だ…笑わせる。空を飛んでいるのは…」
トーラスは驚いたようだった。
「ぐっ!!」
胸を押さえる。
「つ、使い魔がやられた…。ワイバーンだ。飛竜だ!何故飛竜が居る!!」
「飛竜だと!魔族ではないのか!?」ウィンダルが叫ぶ。
「いや、操っているか、飛竜を動かせる者が魔族と手を組んだかだろう!」トーラスが胸を押さえながら言う。
「飛竜?まさか、1000年の不戦盟約を…?」アケロニオは疑いの声をあげる。
「決めつけるな。それも罠かもしれん。」トーラスはアケロニオをたしなめつつ、次の命を出す。
「撃て。投石でまず、骨の壁を砕け!飛竜が近づいてきたら攻撃をやめよ!防護円で飛竜を近づけるな!」
ジャガーノートから投石カタパルトが唸りをあげる。
数匹のワイバーンを巻き込み地面に叩き落した後、骨の壁を容易く砕く。
「所詮、骨だな。笑わせる。」あざけるアケロニオ。
近づいて来た。真正面。
「…奴ら!!ぶつけるつもりか!!真正面!避けないぞ!」
距離が近づき、敵ジャガーノートの不気味な相貌がわかる。飛竜もやって来た。
トーラスの命通り、魔法防護円が張られる…。
「奴らの甲板…スケルトン…!?」
「只のスケルトンじゃないな。腕が6本だ。」
「骨の…ゴーレムか!」
「見えるか?一番奥。甲板の奥」
「あぁ、生意気にも玉座に座っている魔物が居る。」
2つの移動要塞が、衝突する。
当然のように、骨の方が砕け、石のジャガーノートがめり込む。
…石のジャガーノートが、骨に包まれるようにめり込む。
骨の軍勢が、こちらに渡って来た。上空の飛竜は防護円で止めていたが、接近戦に入った以上、それも保っては居られなかった。
「俺たちが出向かねば無理だ!行くぞ!」ウィンダルとアケロニオは甲板に駆け下りる。
「俺も行こう!」
トーラスは、ウィンダルとアケロニオに止められた。
「兄殿は良い!全体指揮を頼む!」
「…すまんな、任せるぞ!」
2人が駆け下りるのを見て、次兄は呟いた。
アリエス。お前なら、どうする?
――――――――――
甲板に元々いたのは、工兵だ。
魔族の接近戦に。ワイバーンの襲撃に耐えられる筈も無かった。
次に魔術師だ。接近戦もこなせる者は…少数。
2人の加勢が無ければ、もう終わっていただろう。
だが、次から次へ湧き出る。骨のゴーレムに徐々に押されて行く。
「何故減らない!?かなり倒したぞ!?」
誰もが疑問に思い始めたが、その疑問はすぐに解けた。
移動要塞、船の形を保っている、骨。骨…骨。
船の全てが、そのゴーレムの素材じゃないか…!!
こちらにはまだ、下層の兵士達も居るのに!出て来ることも出来ない!
上層と下層で分断されてしまった!1階層から地面に降りたところで何ができようか!?
奥に居る魔族へ、手も届かない。
負ける――――。
「兄上、俺が魔族の元へ短距離テレポートする!」
「やめろ!囲まれるだけだ!」
「他に術があるか!?兄上!」
その時。
左の方から、別の轟音が聞こえて。
大きな、まるでゴキブリの様な形態の平べったい、タダの黒い楕円の物体が。
敵の要塞の横っ腹へ突っ込んだ!
まるで食い破る様に、逆側から派手に突き破る。
「ひゃっほ~!さすがだねドワーフの皆さんの移動法、力強い~!!」
ゴキブリ型突撃艇は、左右に幾つもの、深い溝を持つ石の歯車がついており、まるで戦車。
「おほほー!アリエス殿の魔力あってこそですな~!!」
中では、はしゃぐドワーフたちと、王子。
入口もない。出口もない。只の強固な、強固な楕円形。でも、それで良かった。骨を踏みつぶし、砕き、巨大なゴキブリは素早く往復し、骨の船を止めてしまった。斜めに傾き、座礁。
「あれは…何だ!?」従兄の兄弟は叫んだ。
司令塔からは、トーラスがふっと笑った。
「あんな馬鹿なこと考えるヤツは、1人だ。気色悪いシロモノを。」
2度目に突き破った後。ゴキブリの背中に一人の青年が現れる。
「みんな!あとは任せておくれよ!」
「アリエスか!?」ウィンダルが叫ぶ。
「良かろう、では今だ!兄上!俺に任せてくれ!“テレポート!”」
アケロニオが飛んだ。敵の、首領と思しき魔族の元へ。
――――――――――
アケロニオの目の前に、禍々しい一対の翼を持った魔族が居た。
女の形だった。美しいかも知れない。体がうろこで覆われているのを除けば。
大きな、蛇の尾を除けば。頭から何本も蛇の尾が生えていなければ。
――最初から、一撃離脱のつもりで飛んできたのだ。迷いはしない。
「“ファイア・エクスプロード!”」
魔族に向かって、大いなる一撃が飛ぶ。アケロニオは、魔術の塔<赤>の称号を持つ、剛の者。
火球を受けて、魔族はフッと消えた。
「愚かしい…何故、幻影を疑わないのか…愚かしくて、いとおしい。優しく絞め殺してあげよう…」
アケロニオは、背後にとてつもない殺意を感じて硬直した。
足元から腰まで、何かが絡みついていた。もう、逃げられない。きっと、蛇の尾なのだろう…。
「……ふうむ、そうも行かないか、命拾いしたね、魔術師。」
蛇の女デーモンが、絡みながら、自分の前に来た。
「お前が愚かなおかげで助かった。逃げるまでの人質になって貰おう。後ろの男。怖ろしい魔力の化け物。だが、今日はわたしの運が上。また戦場で会おう。」
魔族は、知らない言語の魔術を唱え、テレポートして消えた。
アケロニオは、後ろを振り返った。
魔力で空気を歪ませながら、指輪を口元に構える第3王子の姿を見た。
俺が居なければ、彼が倒していただろう。
彼が居たから、俺は殺されなかったのだろう。
「アケロニオ兄さん、船へテレポートを。」
「…判った。」
アリエスも、ゴキブリ船の背中に飛ぶ。
「“エナジー・ブラスト・ストーム!”」
光系衝撃の大魔法が、骨のジャガーノートを飲み込み、粉々に粉砕する…。
残った飛竜は次々に魔族の勢力圏へ飛び去り、甲板に居た骨のゴーレムたちもようやく、全て片付いた。戦は、終わった。
残念ながら、甲板に居た兵士たちは無傷では無かった。重傷を負ったものも居たが、ウィンダルとアケロニオの守りで死者だけは、奇跡的に出さなかった。
それはそれで、賞賛すべきことだ。
アリエスは、ゴキブリの背に乗ってそそくさと帰って行く。
…ドワーフ達を無事返す為だったが。何と言っても、仮に形を成しただけの石の船は時間で崩れる。急ぎ帰らないと、えらいことになる。なんと移動方法は半分手動。魔法でブーストしているが、ドワーフの手漕ぎ。
残ったジャガーノート内では、2人の声を失った王子たちと、アリエスを称える兵士達。そそして、バカで頼もしい弟を見て笑う兄の姿があった。
――――――――――
ツァルト公爵家の館。
ウィンダルとアケロニオは、比較的狭い、しかし無駄なく美しい部屋で酒を注いでいた。
「トーラス兄上も王位をつがぬつもりらしい。」
「姫たちもですよ。兄上。」
「であれば、当然、王位継承権第4位の、この私だ。次のツァルト王は。」
「勿論、そうだが…兄上。」
アケロニオは、窓に向かい、酒を揺らす。
才能、か。
アイツが今日見せたことを、俺はきっと、何一つ出来ない。
女遊びばかりの、つまらぬ従弟と思って居たが…。
兄上、アイツの方が、器なのでは無いか?
少なくとも、俺には、アイツを認めない理由は無くなった。
兄上だって、見ただろうに…。
アケロニオは、残りの酒を一気にあおった。
――――――――――
再び、閉鎖領域“ミラージュスポット”
メイフェアの母、マルティアと、シャリーの母ブラウが同じく酒を交わしながら。
「…知るわけない。聞いた事もないよ。」
「だよねえ。アタシもだ。」
「そんなのは、ファルトラントの王か、または…」
「ツァルトの王。つまり神祖の家系?」
「…なんでそんな事を聞く?」
「ドラゴン・プリーストが動き始めていると。」
「…エライもんの名が出たね…まだ根を張っているのかい。」
「そして、竜は頂点であるとの信仰をまた広めている。」
「1000年の不戦盟約が破られようとしていると?」
「カモね。」
「…誰の依頼で動いているの?神官同盟?」
「いや。ファルトラント国王。」
「ファルトラントにも、伝わってないってのか?」
「そうらしい」
「…必要にならないことを祈るよ。あたしら人間にとって、300年は…」
「…物忘れをするには、十分過ぎる時間だ…」
2人は、小さく、グラスを合わせた。
続く――。




