第20話 「国を継ぐもの。竜を継ぐもの。」前編
魔法ギルド<魔術の塔>を継いだ、ダラダラ好き女の子好きの王子、変わっていく。
再び、<奈落>との戦いに挑むアリエス。”ジャガーノート”VS”ジャガーノート”。
お時間のある方、TRPG・RPG好きな方ぜひ…。前編です。
この女性はファルトランドの南東、”3連砦”近くの閉鎖領域を取り仕切っている。名をマルティアと言う、44歳の精霊術師。背が高く姉御肌の美魔女。さらに、かなりの筋肉質。
彼女の役割は、この直径2kmにわたる巨大な閉鎖領域を守ることだ。この閉鎖領域の空間は未だに安定せず、時折渦を巻き、異界へつながる。滅多に、何かが出て来ることは無いが、稀に“あちら”から訪れる旅人が居る。
魔物かも知れないし、悪魔かもしれないし、人間かも知れない。
それらと接するには、並外れた技量が必要だ。
マルティア・ストレインは、大陸最強の精霊術師と呼ばれている。
そんな彼女の元を、古い友人が訪ねて来た。年のころはほぼ同じ、彼女と似た非常にマッシブな女性である。神官戦士ブラウ。アリエスの冒険仲間、シャリーの母。
「久しぶりね、マルティア。腕相撲する?」
「いきなり腕相撲挑まれてもねえ…。腕相撲より、ワインでもどう?旦那の所から良いのが送られてきたわ。」
「それは嬉しいね。酒場も繁盛してるみたいじゃないの。」
「まぁ、売り上げの半分はメイフェアかしらね…。」
「それは嫁にやれんねえ。虫は相変わらずブンブン飛んでるの?」
「居るねえ、10年は付きまとってる大きな虫が。」
「あらまぁ、その虫はどうするの?」
「最近は酒場でも堂々と2人で話してるって、手紙にかいてあった。」
「…へえ、ご愁傷様? それともおめでとう?」
「まぁ、今は様子見…それより、ワインでも。向こうで飲みましょう。」
巨大な城壁を張り巡らせたこの施設。言ってみれば荒野を取り囲む城塞。世にも珍しい、内向きに作られた城塞。生活空間は大きく4ブロックに分かれ、常に常駐する兵が監視の目を怠らない。居住区には幾つものテレポート魔方陣が恒久的に敷かれ、直径2kmの範囲をカバーしている。
その居住区、落ち着いた広い部屋が、マルティアの生活空間だ。
「で、アンタが来たという事は、何か大事なのかしら?」
「あぁ、<竜王の奉玉>、あるじゃない?」
「有るじゃないって、300年前の事なんて伝説程度にしか知らんって話だけど?」
「冷たいねえ、うちらの御先祖の成し遂げた偉業でしょうに。」
彼女らの先祖は、300年前に火竜王の侵攻を受けたファルトラントを救った。とか。
以来、彼女らは名誉貴族である。領地はないが、館と、名誉を継いでいる。
5人の先祖は、1つの強大な冒険者グループであり、兄弟であったと云われている。
「…うちらの血筋同士で婚姻はするなと云われている。」
「まぁ、どうでもいい言い伝えだとは思ってるけど?シャーリーはユ=メとイイ仲じゃなかったっけ?」
「娘の恋愛に口を出すわけないじゃん。ご先祖の話は伝えてもいないよ。」
「同じく。」
「あ、そりゃそうか。アリエスは神祖の血筋かぁ。」
マルティアは、アリエスとよく似て非なる、真祖の顔を思い出す。
「…アリエスはイイ子だけど…考えが軽すぎる。」
「神祖と比べちゃいけないよマルティア。むしろあの人みたいになっちゃぁ…コわ過ぎる。」
「…本題を聞かせてよ。」
「当時、まぁその300年前? 先祖たちと竜王が交わした約束があるらしい。<竜王の奉玉> 何処にあるか知ってる? アンタ?」
「はあ??」
――――――――――
その頃、アリエスはファルトラントに呼ばれていた。
例の継承権は特段急ぐわけでは無い…。父が在位中なのに王位継承も何も。
アリエスは皇帝でも目指そうかと、お気楽に言っているのだ。国王の座を奪うつもりもない。
兄、長兄レオの婚姻は一月後、ファルトラントにて盛大に挙行される。その知らせは大陸東方を駆け巡り、ファルトラントには大いなる祝福を、ツァルト国民には疑問を抱かせた。
聡明で人望があり、落ち着いた人柄で文武…<魔術の塔>第二位、<銀>の位を持ち、剣術にも秀でた秀才が、皇太子が玉座に座らぬと言うのだから。
だから、自然とその他の継承者たちに目は向く。次兄のトーラス様か、公爵家のウィンダル様か、アケロニオ様か。
勿論、アリエスの名はごく一部の者からしか、挙がらない。
そして今、アリエスはファルトラントの巨大な軍事工房に居る。
ファルトラントの南東、次兄トーラスの治める“砦<ラプトール>”と、“閉鎖領域<ミラージュスポット>”手前に位置する、これもまた一般には砦と扱われている――という秘密の場所に。
アリエス的には、あまりご一緒したくない面々と一緒。
公爵の息子。ウィンダルとアケロニオの兄弟。王位継承権4位、5位。
何故、この従兄たちとご一緒なワケ―!?
なぜって、アリエスは、魔術の塔を代表してきている。銀のハイメルの命で。
2人の従弟は、ツァルトの軍事顧問として来ている。
…と、このようにジャガーノートは改良される事でしょう。ツァルトの軍事顧問としてのご意見は如何か?
話を進めているのは、強大なファルトラントの3人の賢者、その1人マーガクレイドル。
魔術と見識深い賢人と言われている。
「私は、実戦記録を見ても完成度は高いと思って居る。記録にある通り、数名の魔術師を甲板に置けば飛来する敵も気にならんのではないかと思う。」
兄ウィンダルが落ち着いて言った。
「俺は、2階層のスリットを塞いでしまった方が良いと思う。完全に、兵の休息の場と待機場所にしてしまえば良いかと。」
弟アケロニオが大胆な改変を望んだ。
アリエスは勝手に離れ、近くに居たドワーフたちと談笑していた。
「やっぱ流石、キミ達ドワーフの技術入ってたか~!」
「ほほほ、ワシらが居ないと造れんですよ、こんなデカい石造り。」
「アリエス殿?」
「キミ達ならもっと凝りたかったんじゃないの~?」
「判りますかな!ワシら彫刻までしたかったんですがの!」
「アリエス殿!!」
「ハイッ!!」
2人の従弟はため息をついた。
「アリエス殿の意見は?」
「何の…?」
「聞いてなかったのですかな…?」
「イエス。」
「ジャガーノート、貴方なら如何になさる。魔術の塔の使者として。」
王子としては聞いていない、ともとれる。
「使わないデス。」
「…は?」
「使うとしたら、各階バラバラで3台にします。3つの移動要塞の出来上がりで。速度も速くなる。」
「何故そう考えるのですかな?」
「3階部分の甲板は攻城兵器。でも攻撃するという事は攻撃されます。でも、移動でき、高さがあるので並の魔物を押しのけられるのはいい。攻城兵器のみのジャガーノートを1つ。後方から撃ちます。タワーの部分は指揮塔に特化します。で、2階部分が兵士の救護や避難に使われるのは良いけど、これもアケロニオ兄さんが言っていたようにスリット不要で、戦闘は捨てましょう。完全に、後方支援。あと1階部分に兵を乗せ疾走するなら、高さのある、平らな移動戦車にします。これは2、3台あるといいなぁ。歩兵を乗せ、進軍するだけ。上からの攻撃は捨てて、対魔法、対遠距離の魔法防御を張る。」
「そんな大改造が今から出来るわけなかろう!」とウィンダル。
「そうかなぁ…できそう…。」
「やって見せろ。できるものならな。」とアケロニオ。
「御三方のご意見ありがとうございまする。国王にも進言いたしましょう。では、今宵はこれにて。城に戻り、ごゆるりとおくつろぎを。」
――――――――――
夜会には、国王も一瞬姿を現した。挨拶を皆にしただけで、すぐに戻ってしまったが。
ツァルトの倍は歴史ある、偉大なるファルトラントの国王、クィルウィーザ。名君と言われるが、少々体が弱いとのこと。
従って、宴は公女ユレニナが取り仕切る。兄、レオとの婚礼を控えている、女王となる者。
アリエスは彼女に挨拶に向かう。
「初めまして、ユレニナ様。さっすがお綺麗ですね!レオ兄様の弟、アリエスと申します。」
儀礼無視のフランクな自己紹介に、姉となる者は笑った。
「まぁ、貴方がレオ様自慢の弟、アリエス。宜しくね、わたくしはユニレナ。」
アリエスは貴族の礼をした。
「素晴らしい力をお持ちで、館に沢山の妃を呼んでいるとか…」
兄上…何を伝えているんですかー!
アリエスは、兄の嫁としばし楽しく話をしていたが、姫の周りに余りに人が集まるので退散した。
あぁ、これが虚礼と云うものか。要らないなぁ。でも必要なのかなぁ。面倒。
アリエスは部屋に戻ると、テレポートで帰国。塔のエディと抱き合い、吸血姫とくだらないおしゃべりをして、その後、離宮のティアナにキスをして、真夜中ダッカーヴァへ飛んだ。
今日はメイフェアの顔見て無いなぁゴメン…。キャステラもゴメン…。
――――――――――
――明け方。
「アリエス様。アリエス様…。貴方の服から声が聞こえますわよ?」
ノエル姫に起こされる。
襟章から、<銀のハイメル>の声。
「アリエス様。」
「はいー、僕ですー。」
「…まだ明け方で良かったですな。東の<奈落>から、“骨のジャガーノート”が侵攻して来たようです。」
「ジャガーノート!?」
「大方、猿真似でしょうが。如何される?」
「東の砦はトーラス兄さんが居るからね。行くよ。」
「では、今日の修行は許しましょう。行ってらっしゃいませ。」
仕方ない。これもお仕事かー。兄さん無理するしなぁ。
「お出かけ?アリエスさま?」
「うん、ゴメン、ノエル。」
「いえ、行ってらっしゃい」
「…行ってきます」
忘れずキスをしてから。アリエスはテレポートで、ファルトラントへ飛ぶ。
続く―。




