第19話 「悪意、芽吹く。」後編
―――数日、或いは十数日後。
公爵ヴォンベルゼン、ノエルの父である侯爵ウォルマ。そして侯爵令嬢ノエル姫。
3人が揃い、城の大広間にて大いなる発表がされる事となった。
大広間に人々は入り切れず、長い列を作った。
アリエスは、ノエルの婚約者として、特別にそこに居ることが許された。
大勢の前で、覇気を無くし気落ちした公爵ヴォンベルゼンは、退位を告げた。
本来跡を継ぐはずの侯爵もその世継ぎも、もう、居なかった。
弟侯爵ウォルマは兄を差し置いて公爵に就くことを良しとしなかった。
だから―――。
新たな公爵として、ノエル姫が宣言された。
侯爵と皇太子を失い落胆する人々の顔を上げさせるにはこれしかなかった。
美しく純粋な姫は、それほど人々に愛されていたから。
アリエスと言う小虫がついて尚、その人望は衰えなかったから。
姫は、王冠をつけ人々の前に立った。
アリエスが見ても神々しい程に、相応しかった。
「皆さま、わたくしは。これより公爵としてダッカーヴァを守り育てます。でも、石と化した叔父上と皇太子がいつか目覚めたなら、その場で王冠をお返しします。」
「わたくしのような若輩者の小娘、きっと相応しい威厳も知恵もありません。どうか。皆さまのお力をわたくしにお貸しください。」
「そして、公爵となるわたくしは、ダッカーヴァの女王。故に、わたくしの婚姻は無期限に延期いたします」
「え!!なんだってノエル!!」
聞いていない!!アリエスは横から口を挟んでしまった。
「驚かないで。婚約は破棄しません。」
「で、でも!?」
「わたくしは女王になります。貴方と共に、ツァルトへは行けないでしょう?」
「ノエル…」
ノエルは、人々に向かって、アリエスに向かって叫んだ。
「ホントは、ツァルトに行きたかったー!!」
「貴方と一緒に暮らしたかったー!!」
「だから…お待ちしています…。」
「アリエス様!わたくし、女王ですので!相応しい身になってお迎えに来てくださいませ!!ずっと待ってるから!!それまで毎日!わたくしの顔を見に飛んでくること!毎日愛を囁きに飛んで来ること!」
アリエスは、皆の前でノエルと口付けし、その手を取って人々に叫んだ。
「悲劇は繰り返させない。この城、このアリエスが魔法の陣を張り守って見せる。ノエル姫を守って見せる!そして、必ず迎えに来る!王になって、皇帝にでもなって、女王を迎えに来る!!」
歓声が、上がった。この日。国の希望を、一身にノエルは背負った。
…それはきっと、この悪意を仕込んだ者の想像を少し超える出来事だったに違いない。
――――――――――
――少し前。
「…だが、アリエス、お前には言っておくべきことがある。」
皆の目がアリエスに集中する。
「オマエ、妃を4人娶りたいそうだなぁ。」
皇太子は悪戯っぽく言う。
「知っているか?知っていたか?王じゃないと、正式な妃は1名だからな!?」
「えーーーー!?」
「只の王族だと、第2夫人、第3夫人は側室だからな!?挙式は無いからな!?」
「ええええ!?」
「オマエの婚約者たちは知っているのかな?」
「うそでしょー!!」
兄姉たちは、アリエスの肩を叩いて皆、去って行った。
勿論、そんなことは望まない!面倒!嫌!しかも、第4継承権、第5継承権の従弟が黙っている筈もない!
あー!何とかしなければ!逃げなければ!
…いや、単純に考えて、従兄のウィンダル兄さんか、アケロニオ兄さんが名乗りを上げるな。
気にすること無かった。
…いやまて、それじゃぁ僕の婚姻は誰か一人とだけ?側室!?
エディの睨む顔が想像できた。刺されるかもしれない。
ティアナの寂しそうな顔が浮かんだ。きっと平気なふりして泣く。
メイフェアの怒りが想像できる。多分殴られる。婚約破棄されるかも。
ノエルは、絶対第一夫人じゃないと殺される。侯爵令嬢だもの!
僕はどうしたらいいんだぁあ!?アリエスは一人残って叫ぶ。
――そんなことが、あった。少し前にそんなことがあったのに。
――――――――――
そして、今日。
一羽のフクロウが、皇太子の住む部屋の窓枠へ止まった。
兄上。
アリエスか。
ノエル姫との婚姻は延期になりました。
なにが在った?
それは後ほど。今日は、一つだけ。
僕が王になります。姫たちの為。
姫の為か? お前らしいが、それでは国民が不幸かもな。
姫たちが幸せになるには、人々が幸せじゃないとダメなんですよ。
…ほう。
また、来ます―――。
噓ではない。
国を背負ったノエルを娶るという事は、国と結婚するようなもの。
日陰に育ったエディは、一緒に戦いたいと言いながら日向を求めてる。
悲しい過去を背負ったティアナは、世の不幸を憎んでる。
冒険で辛い現実を幾つも見て来たメイフェアは、悲劇が大嫌いだ。
故郷を失いかけたハーフエルフは平穏の大切さを知っている。
望まぬ吸血の姫になってしまった少女は、誰かの為に自分を殺している。たぶん。
彼女らが望む世界。それが僕の作る世界だ。
なんてねー。あまり真面目に考えると疲れるから寝よう。
…眠れたら。
続く―。




