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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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第18話 「まじない人形と侍女」

侍女にして婚約者、ティアナの日常。彼女が手にしたまじない人形の正体はー。


お気楽回です。糖度回です。すみません。戦いはありません。

お暇な方、TRPG、RPG好きな方、リプレイ好きな方、ぜひ。

 その日、ティアナは珍しく自分で買い物に出かけた。

給仕に頼むのではなく。


 腹立たしいが、いや、腹立たしくてはいけないと自分では思うのだが、アリエスは外泊が増えた。ダッカ―ヴァ公爵領やら魔術の塔やら、冒険やら。冒険はともかく、他の2つは明らかに他の女性の所だから、嫉妬するなと言われても…する。


 でも、今夜は“ちゃんと”離宮に帰ってくるという。どうせメイフェア様の酒場帰りだろうけど、とにかく帰ってくるという。


 だから、いそいそと買い物に出かけた。夕食を、自分で選んで、ちょっと良いものにしたかった。


 まぁ、それを取り仕切るだけの権力が彼女にはあるわけだが。侍女は彼女一人なのだから。

侍女で、従者で、妹で、恋人で、婚約者だから。



 昼の市場は活気に満ちている。威勢のいい言葉が飛び交う。所狭しと並べられた新鮮な魚介類。肉。言う間でもないが、恒温の石が配布されているツァルトでは、恒冷の石も売られている。そうでなければ、新鮮な魚を保っておけない。生活の隅々に魔法の恩恵がある、恐るべき生活水準がツァルトの売り。


 だから、今日は大きな赤い魚を買ってみようかと、魚を眺めていた。一軒の屋台の魚が大きくて足を止めた。


「これは王子の所の姫さん!王子への御料理かね。ウチのは獲れたての海サカナだ。旨いよ、どうだね!」

 

ガタイの良いおじさんが声を掛けてくる。侍女であることは服装でバレバレなのだが、むしろ変な絡みが無くて良い。具体的にアリエス王子のと言われたが、いつの間にバレただろう?


「…これは、白身でしょうか、焼き物には合いますか?ご主人は小骨が苦手なのです。」

「骨は大き目で取りやすいよ!お嬢ちゃんは可愛いので、こちらの貝も付けちゃおう。どうだい?」

「では、一匹いただきます、おじさま。」

「うは~、おじさまと来た、もう2つ貝をつけちゃおう。ほぼ赤字だ!もってけ!」

「ありがとう、おじさま。」


その時、店の奥から1人の老婆が来た。手に、スカーフと袋を持っていた。

「もし、お嬢さんや。このスカーフを持って行かんかね。いやいや、売り物ではなく。この婆が昔つけていたものだ。貰ってくれんかね。アンタにはきっととても似合う。」

「おい、おふくろ、無理に押し付けんな…! あ、すまんね、最近オレらの所に引っ越して来たから物を減らしたいんだわ。ウチの婆。」


年老いた母親を迎えた息子…。家族…。

…羨ましい。私には…。


「おばあ様、宜しければ頂けますか。とても素敵なスカーフです。」

「おお、貰ってくれるかね?」


その場で首に巻いたティアナが余りに可憐で、老婆は感激した様子だった。

「こ、これも持ってきなさいな!アンタには少々早いが、持っていて損はない。ああ、可愛いい娘じゃなぁ…」

老婆は、布に包まれた奇妙な木彫りの人形を手渡した。



 ティアナにはエリエスの作った指輪がある。

悪意を感知する。邪悪を感知する。防護円が掛かる。鉄になれる。精神攻撃を無効にする。


そのどれも、屈託ない笑顔の老婆からも、奇妙な人形からも感じられない。

正直人形は要らなかったが、笑顔で受け取った。


老婆は再び感激し、更に奥から何か持って来ようとしたが、息子に止められた。


ティアナは楽しく買い物を済ませ、離宮に帰った。


――――――――――


 夜。約束通りアリエスは離宮に帰って来たし、酒は少し入って居たが食事はしてこなかった。

その辺は気配りしてくれる男なので、お腹を空かせて自分の前に座っている。そこは大好き。


美味しい、美味しいと言って、大きな魚と貝をぺろりと平らげた。


 シアワセな気分で、食事を片付けようとするティアナの耳もと。アリエスはいつもの様に囁く。

可愛いティアナ、僕、湯を浴びて来るから、仕事終わったら部屋にオイデ…。


毎度のことだけど、自然と頬は赤くなる。

でも、ふと乙女心で…。今日貰ったスカーフと、人形を見せたくなった。主にスカーフを。


今日は、私の部屋に来て。


給仕やメイドたちには分からぬよう、密かに逢引の約束を交わし、ティアナは仕事へ戻る。


…いや、バレバレですよ、“侍女姫”…というか、もっと堂々と一緒に居れば良いものを!


というのが、給仕たちの共通見解だ。この前、アリーナで王妃の隣に居たのだから。国中、アリエス王子のお妃になるって知ってるって!


給仕とメイドたちは、いつか。誰か。言おう! と、タイミングを計っていた。


――――――――――


 その後、狙い通り、スカーフを褒められ。ちょっといい気分になり。

予想通り、木の人形は笑われた。変なのって言われた。


 確かに変。クマの様でもあり、タヌキの様でもあり、人間の子どもの様でもあり。

――言ってしまえば、ヘタクソ。手作り感がにじみ出ていた。


 でも、王子は言った。

「まじない品だね。」

まじない?魔法じゃなくて?


詳しく聞きたかったけど、聞けなかった。王子が明かりを消してしまったから。



 …そして、真夜中。


王子の大きな部屋と違って、窓が1つの小さな寝室。何故か。ティアナは目覚めてしまった。


横には王子。スヤスヤ寝ている。相変わらず寝つきがイイ。

大好きな寝顔を見つつ。月を見つつ。

…いつ婚姻の儀を行うのかなと素朴な疑問を持ちつつ。


仰向けに毛布を掛けたところで、気が付いてしまった。


…光ってる。


人形が。あの、まじない物、って王子が言った木彫りの素朴な人形が。


「アリエス様、起きて…?」

ゆさゆさ。ゆさゆさ。…相変わらず寝起き最悪。

「アリエス様!」

少し怖くて、強引に揺すった。ごめんなさい。


「…あーナニ、ティアナ…今日も可愛いね…」

起きがけにまずキスしようとする王子の首を人形の方に向ける。

「あれを見て下さい!光ってるのでは?」

「うん…そうかも」

「そうかもって、不思議では?」

「うん、不思議。」

「お願い…見て来て…?」


アリエスは、ようやくティアナが怯えていることを理解して、人形を手に取った。

「“ブレイク・イビル” “ディスペル・カース”」

2つ唱えたが、何も変わらなかった。


「これ。守り像だと思うよ。何のかは、知らないけど。大丈夫。何かを守ろうとしている。」


「守り?ですか?」

「分かんないけど、僕のティアナを守ってくれるらしいから、置いとこう。」

「うん…。」

自分を守る事は絶対最優先なアリエスがそう言うのだから。


ティアナは毛布を掛けた。けど。目が完全に覚めたアリエスは、再びティアナの毛布をゆっくり剝いで、もう少し起きてることを提案してきた…。


―――――――――


 翌朝、寝過ごした。ティアナは慌てて部屋を飛び出し。アリエスは人様の部屋でまだダラダラ寝ていた。


「今日は、何処にも行かないよ。オフなんだ~!エディも今日は<魔術の塔>の修行でボロボロになる予定なんだってさー。」


それは、ティアナにとっては一日中、独り占めできるという事でもある。

ティアナは笑顔になって、またまた、買い物に出かけた。


 そして、今日はお肉だなと思いながらも、どうしても気になるので、魚屋に行くつもりだった。昨日の店に。


 店からは今日も元気な声が響いていた。奥に老婆の姿が見えた。


「こんにちは、おじさま。」

「おお、昨日のお嬢さん、今日も来てくれたのかい。嬉しいねえ。」

「今日は、貝だけなんですが…おばあさまに、お礼を渡したくって…」

「お礼だなんてお嬢さん、ウチの婆、ホントに荷物減らしてるだけさね。」

「おお、昨日の。スカーフは気にいったかね?」

「勿論です。おばあ様。」


 ティアナは、食事の後の酒の当てに小粒の貝を選んで買うと、勇気を出して、老婆に尋ねた。


「あの、おばあ様、宜しければ教えてほしいんですけども…」

「ん?なんじゃね、何でも言いなさい」

「…あの人形、どういう謂れのものなのですか?」


「あぁ、ワシの父が手ずから彫り上げたカエルの人形でなあ」


…カエルだった。


「あれは、こほん、父が中々子宝に恵まれず、祈りを込めた子宝祈願の人形よ。まぁ、まだ嬢ちゃんには早いだろうから仕舞っておきなさい。」

「ああ、オレの所にも無理やりおかれたので、息子生まれてから突っ返した。夜光草の液を沁み込ませてるとかで、夜光ってぶ…不思議なんだよなぁ。」


――衝撃の事実。


ティアナは真っ赤になって、老婆にお礼の品と言って、綺麗なレースの手袋を渡し。貝を持って駆け出した。


子宝祈願人形―――!!


昨夜、その前で私!!

アリエス様がいけないのでは!!アリエス様のせい!!バカ―!!


――――――――――


 …肉系の食事は勿論大好評。

ティアナもお酒をほんの少し付き合い、酒の当ても美味しかった。


勿論、アリエスは彼女を今夜も口説いた。

ティアナは、今夜はアリエスの部屋でと言った。

人形の前はごめんなのです。


妃の中で一番年下の私がそんなことになったら!

いや、こんな毎日がもう2年。今まで、いつそうなってもおかしく無かったのでは?


勿論、イヤじゃない。妃になるんだから、やがて…。

やがて…本当の家族が…いつかできる。この人の赤ちゃんが…ほしい。



っでも。今はまだ、あの人形の力を借りなくていい!

…クローゼットにでも仕舞っておこう。




人形は、今夜も、クローゼットの中でうっすら蒼く光っていた。余計なお世話の祈りをこめて。



続く――


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