第17話 「無垢なる者」後編
ハイファンタジーです。
ハーフエルフ、キャステラの冒険話、後編です。
お時間のある方、TRPGやRPG好きな方、ぜひ。
2頭のオオカミに道案内をさせながら。夜の森を進む。
夜の森は、本来怖ろしいが、勿論怖くない。ただ、悔しかった。
音が聞こえる。聞いた事のある曲。美しい旋律。
目の前の少し開けた空間で。倒木に腰掛けて小さくリュートを奏でていた王子の姿を見て、キャステリオは泣きながら駆け出した。
変身の指環を乱暴に外し、ポケットにねじ込んだ。
「キャステラ、どうしたの?何があったの?」
深夜にも関わらず自分の為に飛んできた王子に、キャステラは全力で抱き着いた。
「…ふうん。じゃぁ、一緒に行こう。」
キャステラの話を聞いたアリエスは、そういって優しく笑った。
――再び、湖。
「キャステラ、暫くここで待ってて。」
アリエスは、湖に歩きだした。
「“ウォーター・ブリーズ”」
アリエスの前に、美しい女性が現れた。アリエスの肩に、首に手を回し。
口付けする。アリエスは平然と唇を重ねる。
「!!!!」
キャステラは、非常に何か言いたかったが、我慢した。
女性が、アリエスを湖の中に誘う。
キャステラは止めようとしたが、アリエスの左手が、後ろ手に制止をジェスチャーした。
アリエスは水の中。底の底に沈みゆく。
周りを、何人ものニンフが取り囲み。次々に触れあって来る。例えが悪いが、ハーレムの様。
何人もがキスをせがんだ。
1時間ほど、そしてアリエスは湖から出て来た。
キャステラは腕を組んで背を向けていた。
「ん?どうしたの?」
「…いかがわしい…王子。見損なった。」
「えーなんで!」
「悪いがさっき魔法で水の中を覗いたら…君って奴は!婚約者4人いるんでしょう!裏切りだと思わないの!?」
「何もしてない!ホントに!」
「嘘だ!キスしてた!」
「キスしかしてない!絶対!ぜ-ったい!」
「……」
「こほん。水中で意思疎通の呪文を唱えてみた。彼女ら、遊びたがってる。性交渉を求めてなんかいないんだ。キスはしてくるけど、挨拶みたいな。抱き付いて来るけど。ただのスキンシップみたいな。」
「…そ、そうなの?」
「服も、体の一部みたいな…彼女らは多分精霊族だけど、ウィンディーネと違って高度に知性的ではないみたい。」
「どういうこと?」
「知らないんだ。人間は水の中で生きられない事すら。水の底で、骨たちと遊んでいたよ…」
「“ウォーター・ブリーズ”」「“マインド・バリア”」「“テレパシー”」「”ブライトアイ”」
アリエスは、キャステラに呪文を掛けた。
「行っておいで、キャステラ。君が、伝えておいで。僕は何も言わなかった。」
「……王子。俺に出来るだろうか。」
「出来る。君は、真っすぐで、優しいから。」
「…勇気を、もらえる?」
アリエスは、キャステラを抱きしめる。
「大丈夫。君は大丈夫」
「…行ってきます…」
キャステラはキャステリオに変わり、湖に沈む。
…ねえ、聞いておくれ、美しい水の精たち。
ねえ、キミ達、キミ達と違って、魚も、人間も死ぬと骨になるんだよ。
今は判るよ。君たちは遊びたかっただけ。
でも男たちは、君たちを欲しくて湖に入って来た。
人間を呼ぶのは辞めておくれ。皆、死んでしまう。その、骨と同じになってしまうよ。
それは、魚の骨と、同じなんだよ?そして、この世の中で、最も悲しい事の1つなんだ。
え?俺やさっきの男は平然としている?
魔法使いだからさ。そうだね、たまに遊びに来るよ。彼を連れて。
判んないだろうけど、キスまでにしてよね…。
――――――――――
明け方、キャステリオは、村の入り口に立った。
歩き出してすぐ、多くの人々から疎ましい目で見られた。
でも、中央の広場前に来て、出来る限りの、あらん限りの大声で叫んだ。
「ニンフと、話を着けて来た!!」
「もう、彼女らが自分から寄ってくることはない!確かに、話し合える相手だった!」
「でも、男たちよ、キミ達から近づく限りは危険は消えない!」
「彼女らは愛したいんじゃない!寂しがっているだけだ!勝手に思い込むなー!!」
キャステラは、背を向けて村の入り口に戻った。
門には、柱にもたれてリュートを弾く王子の姿があった。
「あたま、撫でる?」
「すぐバカにする…」
「でもね、謎なんだよ。ニンフってどうして、女性の姿で、服を着てて、男性を呼ぶんだろうね?」
「…さぁ。歌にでも残っているかもね。」
「僕ね、バカな事考えた。昔、ニンフに知恵のある子が居て。人間の男に恋しちゃって。服を着て、キスを覚えて。なーんて。」
「…王子、ものすごく意外にロマンチストだね。」
「うーんやはり言われたかー。」
「王子、そのニンフは、幸せになれたのかな?異種族を愛して。」
「はは、なったに決まってる!」
…ねえ王子…人間に恋したハーフエルフは、何を覚えたらいい?
キミを追って村を出た愚かな娘は、幸せになれる?
「王子、俺は当面キミの傍に居たいと思うんだ。ダメかな?」
「大歓迎だよキャステラ。僕にチェスと自然魔法を教えておくれよ!」
一番大事なことは言えなかった。
キャステラは、アリエスに抱き着く。
…王子は鈍そうだけど、それでもこの気持ちは少しは判ってるだろう。
ゆっくりでもいい。だって私は人間の倍生きるのだから。
―――帰り道。
「…そう言えば、吸血の姫、どうなったの?」
――――――――――
<魔術の塔>10階。アークマスターの間。表。
「ハイ、君はココ!暫くはココ!」
天下のアークマスター私室。魔法で防護され、塔の上から竜が火を噴こうと無事だ。
窓は有るが、魔法的なモノで実際には無い。
その豪華なベッドに、吸血の姫はポンと投げ出された。
「…やはりな…結局あたしを2人っきりの部屋でベッドに転がすか…まいったな、モテすぎあたし。」
「ちーがーう!」
「まだ気持ちの整理つかん。待て。」
「ちがうー!!僕を誰かれなく襲うバカと一緒にしないで!」
「あ、本だらけでカビくせー。」
「聞けー!」
「この部屋じめってない?」
「ジメジメ地下棺桶に居たくせに文句言わない!」
「そうでしたテヘ。」
だ、だめだ!早く逃げ出したい!
「で、ここで貴方の帰りを待つ~あたしは吸血姫~」
「うるさい。」
「どう暇潰せばいい?」
「本でも読んでろ!山ほどある!めちゃ難しい魔術の本!」
「えー、笑い話とか恋物語とかくれー」
「わかったから!用意するから聞け―!」
「……いいかい!これから連れて行く場所は、人間は居ない!草原が広がっている!そこに牛を放牧するから、君はコウモリになってちょっとずつ血を吸う!殺しちゃ駄目!一頭からちょっとずつ!…後日そこに、君の為に小屋も作る!」
「ほへー」
最期に、アリエスは真面目な顔で言った。
「…この話は、君が人をこれからも襲わないという誓いのもとでの話。君が人を襲い始めたら、僕はきっと君を…殺す。」
「死んでるけど。」
「真面目に聞いて~!いいかい!もし、もし人の血がどうしてもどうしても吸いたいときは僕に言うんだ!ほんの少しなら、少しだよ!?あげるよ!!」
吸血の姫は、血の気のない顔で、でも少し、恥じらった。
「オマエ吸血鬼を知らないな~このお子様が!」
「なんだと~!」
「オマエ今、ちょー大胆なこと言ったんだからな?」
「なんで!」
シャルロナはほんの小さな小声で、言った。
これが天然タラシかーこええなーあたし、こえー。
「ナニ?」
「何でもない。と、寝るあたし。」
吸血姫はぱたっとベッドに潜った。
「そういや、なんで棺桶に入ることにしたんだっけかー?」
「知らんて~!」
――――――――――
また、別の吸血鬼が居る部屋で、このような事が起きていた。
燭台の明かり1つだけの広めの部屋で。
「オマエの言う通りに3人、吸血鬼にしてきた。流石の俺も、赤子を吸血鬼にしたのは初めてだがな。」
「そうか。ご苦労だったな。」
黒いローブを纏った背の高い男は、フードを外し、女の背に回った。
左手は女の肩に。右手は女の腰に。
「では、約束通り、その血を貰おうか。」
「ふむ、お前が良いのなら、存分に吸え。」
男の目が爛々と赤く燃える。
「血を寄越せ、抱かせろ…お前を寄越せ…」
「そうだったな、吸血鬼は食事と性欲のどちらも吸血なんだったな…まずは血を受け取れ。褒美だ。」
男は、荒い息で女の首筋に噛みつき、牙を立てた。
恍惚とした表情で血を流し込み、突然、体中をかきむしり始めた。
「は…あ? なんだ?何故だ?体が…壊れる…!」
男の全身から血が流れ始める。
振り向いた女は、有り得ない位、妖艶に笑い、男の腹部に左手を突き刺した。
―突き刺して、腹の中に何か、置いた。
「お前には、私の血は強すぎたようだな。お前のような下種な輩がよくバンパイアロードを名乗れたものだ…」
男の腹の中の何かが、異変を起こし始める。
「何を!何を入れたー!!」
男は自分で腹に手を突っ込み、探そうとする。だが、ない。
「まして私を抱こうなどと…1000年早い…」
男の腹部から、木が生えて来た。
「やめろー!やめろぉぉー!!」
「お前らは、木の杭で死ぬんだったな。」
男の体から幾つもの太い枝が生え、苦痛にのたうち…灰になった。
ははははは、吸血鬼も人間も私には関係ない。美しく滅べ。褒めてやる。死にざまだけ面白かった。ははははははは!
女の笑い声は、やはり、狂ってしまう程に妖艶だった。
「お前が死なねば始まらないのだ。お前が死ねば、お前が許さずとも、夢遊病の様な吸血鬼のしもべ共は自我に目覚めるのだろう?なぁ、ロード殿?」
続くー。




