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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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第17話 「無垢なる者」前編

ハイファンタジーです。

女の子とサボりが大好きな、魔法使いの王子。自分の言動のせいで今日もやること増えて行く。


魔道国ツァルトを巡っていたキャステラがたどり着いた湖には、秘密が隠されている…。

TRPG、RPG好きな方、お時間ある方ぜひ。前編です。

 夜――。満月。

満月を境に数日、月が出ている時には、ニンフが現れるという。


ツァルト南西のこの村には、そんな伝説が息づいている。


―いや、いまも。今宵も。


 男が、美しい一人のニンフに手招きされて、湖に入って行く。

ニンフは、素肌に薄い白い布を巻いただけに見える美しい女性だ。

「おお美しいお前と愛し合えるなら、それでいい」

男とニンフは唇を重ね、踊る様に湖の中央に向かって、ゆっくりと歩み進める。

「前の満月にお前を見て以来、忘れたられた日など無いんだ」

やがて、男の鼻より上に水が来た。

でも。男は歩みを辞めない。


――――――――――


 ハーフエルフのキャステリオは、ツァルト各地を回りながら、森の様子を見ていた。


感心する。この国は、森をちゃんと生かしている。


この綺麗な湖も豊かで、澄んで、間違いなく良い漁場になっているだろう。

周囲を低めの広葉樹で覆われ、多くの生き物の息遣いが聞こえる。

狩りや猟、人と獣、木々。それぞれ生きて戦っている。


 魔道国は豊かだった。さすが、世界に一つ、<魔術の塔>の置かれる国。

ツァルトの主産業は貴石などの鉱物であり、次の産業は“魔術”。だが、当然それを支える農耕も盛んだ。絶えず風車や水車を回すゴーレムが置かれたり、火を付けなくても永遠に暖かい石などが、なんと各村に支給されている。


この国なら、住んでもいいかな。

…出来ればあの人と。


キャステリオが夢見心地になった頃。向こうに、40位の女性が来た。

湖に腰まで入り、水の中を覗き、何かを叫ぶ。その表情は怒りと悲しみに満ちている…。

「返してよ!息子をどこにやった!グディーを返せー!!」


美しく静寂の豊かな湖…不似合いな女性の叫び。

女性は何度も湖に意思を投げ込み泣いて、喚いて、去って行った。


何も言えず、キャステリオは湖を去る。

だが、気になって仕方ない。キャステリオは村の数少ない酒場兼宿へ向かった。


 

――美しい青年キャステリオの周りには、すぐに酒を飲みに来ていた女たちがやって来た。

エルフであることも珍しく、キャステリオの話を聞きたくてしょうがないようだ。


彼は、彼女らに一杯ずつエールを奢り、さりげなく、湖に来た女性の事を調べてみた。

「美しい湖があるんですね、この村は…」

「そうでしょ?タシュペナ湖は自慢の湖よ。」


だが、話が泣きわめく女性になった途端、人々は彼から離れて行った。

「おっと、俺は失礼な事でも歌ってしまったのかな?」


 行ってみるしかないのだろう。

二階で、装備を整えてから行ってみよう。なあに、俺もそれなりの冒険者さ。自然魔法の使い手が森を怖れるはずもない。


 キャステリオは、二階へ上がろうとした。

先程話に加わっていた女性の1人が、後ろから早歩きでやってきて、彼を追い抜く。

「失礼、お先に上に」

彼女はそう言った上で、小声で。

「アンタ綺麗なんだから、言っちゃ駄目。湖に夜行ったら命が無いよ」

キャステリオの返事を待たず、女性は駆けあがって行った。

「ありがとう、お嬢さん」

キャステリオは小さく礼を言う。


だが、行かないわけには行かなくなった…。


――――――――――タシュペナ湖。


 キャステリオは、湖のほとりにボディーガードを置いた。

2頭の灰色オオカミだ。村人が見たら悲鳴を上げるかもしれないが、自然魔法の使い手にとっては、森の野生は全て仲間である。


そして、湖面に満月の輝く波打ち際に立った。


 1時間、それくらいは立っていたかも知れない。

岸から20mほど向こうに、静かな湖の湖面に、美しい女性が立っていた。

静かな湖の上に立っていた。


美しい…白い濡れた僅かな衣を纏い、ゆっくりとキャステリオに近づく。

近づきながら、少しづつ水の中に身を沈め、相手と高さを合わせている様にも見える。


キャステリオは息をのんだ。

女は、多分人間ではない。精霊?魔物?妖精?死人?

判るのは、多くの男性にとって耐えがたく魅惑的だろう事。

“一応”男性の姿の今、少しわかる。


女は目の前に来た。濡れた衣は透けており、同性ながら目のやり場に困る。

キャステリオの肩に両手を乗せ、微笑む。


キャステリオは、自分の腰にまで水が来ていることに驚いた。

俺は、何時の間に湖に入ったのだろう!?


女性は、何もしゃべらず。湖の奥へ連れ行こうと彼の体を引っ張った。

キャステリオが動こうとしないと観ると、唇を近づけて来た。

キャステリオは慌てて振り払い、距離を取る。

本当の男性だったら、そのままだったと思う。


「キミは、誰だ!そうやって誘惑し、男を湖に引き込み…引き込んで、殺すのか!?」

女は、身を引かれたことに悲し気な顔をしたが、両手を広げて再び彼を呼びこむ。

「答えろ!湖の妖よ!」

女は、再びゆっくり近づいて来る。

周りの水が幾つも波紋を作り始めた。同じような女性たちが、4人、5人と湖に現れた。


「昼間の女性は、誰かを奪われた女性なんだな!?お前たちが奪ったんだな!?」


囲まれている。マズイ。


直感的に…。キャステリオは、左手の指輪を外した。

…キャステリオは、瞬時に美しい女性へと姿を変える。

まさか、男性の姿を取っているがために罠に遭遇するとは思わなかった。


女たちは、動きを止めた。キャステラを見て、首を傾げた。


――今だ!

 

1人の腕を搔い潜り、何とか岸へ戻った。


「お前達、この美しい湖には不似合い。このキャステラが滅ぼしてくれる!」

「“自然魔法・暗雲招雷!”」

長く、コマンドを唱え、腕を動かす。

数少ない、自然魔法系破壊魔法。


湖の上に、黒雲が巻き起こる。雲の中で、雷が目を覚まし始める。



 突然、キャステラの足元に、弓が飛んできた。

慌てて離れる。魔法は中断され。雷雲が散らばっていく。


キャステラは、すぐに魔法の指輪をはめ、男性に“戻った”。

雷雲と、多くの人影。湖の妖たちは水の中に姿を消した。


「誰だ!何故邪魔をする!」

「邪魔なのはお前の方だ!エルフ!何も知らんで邪魔をするな!」

「そうだ!とっとと立ち去れ!」


男たちは皆、武器を持っていた。とは言え、キャステラが本気になれば、抑え込まれない限りは、呪文でどうとでもなりそうな相手でしかない。


「どういうことだ!」

村長らしき男が前に出る。

「森の旅人よ、引いて貰えれば危害は加えぬ。先ほどの弓が足元であったことで判っていただけるだろう?」

「…確かに。」

「呪文使いのエルフに戦いを挑めばこちらも無傷では済まないでしょうからな…。」

「…それもその通り。聞かせてもらいたい。」


「先ほどの女性たちは、ニンフ。」


村長が話す内容は、真っすぐなキャステリオには、気持ちとして理解できないものだった。


ニンフは、男性を誘惑する。湖に引き込み、二度と帰って来ない。


村人は知っているのに、言い聞かせているのに。実際に会ってしまうとその美しさに我を忘れ…例え最初に逃げ帰っても、再び会いに行く者が絶えないのだという…。


「では、何故そのような魔物を放っておくのです!甘美な蜘蛛の巣に向かわせるのです!?」

「湖が死んでしまうからだ!!」


勢いのある言葉には、同じく荒い言葉が返されるもの。


「湖が、死ぬ!?」

「ニンフの居る湖はニンフによって豊かさが守られるのだ!」

「漁の豊かさの為に犠牲は仕方ないと言うのか!?」

「その通りだ!ここはツァルトの中でも南、貴石の恩恵はない!漁で豊かなのだ!湖が死ねば、村も死ぬのだ!」

「!!」


「今、此処に居る者たちは、ほぼ男だ。お前の言葉を借りれば、蜘蛛の巣の近くをうろつく虫よ。だが、共に生きることを選んだのだ!お前に、とやかく云われる筋合いの話では無い!」


 キャステリオは、水辺に置いた荷を背負った。

「でも、一言だけ、言わせてほしい。俺の森にも、池も河もある。漁を営んでいる。でも。ニンフは居ないが、池は死んでいない。死んでだけは、絶対に、いない。」


悔しくて、涙が出て来た。

「王子、君なら。どうするの?」


森のほとりで、美しい少年は、王子の名をつい呼んでしまった。

――彼に“友情の証”と貰った指輪を見つめながら、名を呼んでしまった。



後編に続く―

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