第16話 「吸血鬼」後編
ハイファンタジーです。
女の子とサボりが大好きな、魔法使いの王子。自分の言動のせいで今日もやること増えて行く。
家畜被害で駆り出されるアリエスとキャステリオ。次の出会いは、吸血姫。
アリエスの冒険で現時点もっともライトなお話です。
TRPG、RPG好きな方、お時間ある方ぜひ。後編です。
崩れかけた碑かあり、碑の裏側に、地下へ降りる石の階段が見える。
崩れた入り口は狭く、細身の2人でもギリギリで苦労しそうだ。
どうなんだろう、既に獣の住処と化していてもおかしくないが。
「いや、生き物の気配はないよ。」
「動物も避けている、という事かな?」
「じゃぁ、ここからは、僕の番。」
「頼むよ、王子。」
2人は覚悟を決めて地下に潜る。
だが、あっと言う間に行き止まり。
両側で壁を作っていた積み上げ石が崩れ、通路はほぼ埋まっている。上に穴が見える。向こうが在ることは想像できるが、人の通れる幅ではない。
まぁ、人なら、なので。
「“シェイプ・チェンジ”小鳥で良いかな?」
2人は雀になって隙間から入った。
――再び、人へ戻り、明かりを魔法で付ける。すぐ前に、扉があった。
扉も半壊しており、中は部屋の模様。
警戒を怠らず、進む。何時でも呪文は唱えられる。
…棺桶、歪んだ気のテーブル。ひび割れた食器。鏡のないドレッサー。
…棺桶。
開けるしかないが。
この状況で考えられるのは、アンデッド。吸血鬼。しかし、家畜を襲う?
違うかもしれない。
「キャステリオ、攻撃姿勢を。“オープン”」
自動的に、扉があく。
「うわ、いきなり開いたのは何故!?」
中から、声が聞こえた。女性の声だった。どちらかと言えば、少女の声。
ボロボロのドレスを整えながら、上半身を起こす。
「キャステリオ、目を見るな。」
少女の目は赤く。肌はハーフエルフのキャステリオより白く…血の気が無く。口を開くと長い八重歯が見える…。髪は綺麗な蒼でふわっとしたミドル。顔立ちは大層可愛らしい…。
吸血鬼。冒険者にとって特上の難敵。
「うわ、人がいる!」
少女は間抜けな事を言った。
「命だけはお助けを!」
「…死んでるでしょ?」
「そうでしたテヘ。」
「ふ、不思議な吸血鬼……?」 面食らうキャステリオ。
「何者だ?」 アリエスは警戒を怠らず尋ねる。
「え、眠り姫的な…」
「違うでしょ。眠り吸血鬼でしょ。」
「そうともいう。」
「…家畜を襲ったのはまさかキミか?」
「まさかとはなに?」
「キミなのか…?」
「そう。正解。おめでとう。」
既に、不思議を超えてきた。
「………なんで?」
「世の中に、人を襲ったことのない伝説の吸血姫がいる。それがあたし。」
「…いや、伝説聞いたことない。」
「えー。」
「取り合えず滅べ…」
アリエスは頭上に100程の短い木の杭を呼んだ。魔術の塔に常備してある、召喚用の武器。無論、対吸血鬼用。
「やめろ悪党!無害なあたしに!カヨワイあたしに!カワイイあたしに!」
アリエスはかなり呆れた顔で…。話だけは聞くことにした。
「名前は?」
「シャルロナ」
「何故家畜を襲う?」
「人の方が良かったり?」
「いや、それはダメ。」
「人は襲わないのか?」
「襲ったことない。」
「何歳?」
「それはタブー。」
「…失礼。何故人を襲わない?」
「あたしを見逃してくれた僧侶との約束。」
少女は小指に嵌めた指輪を見た。魔法の品と、一目でアリエスは感じ取る。
「…へえ。」
「へえか。もっと聞きたくないのか。」
「聞きましょう。」
「オトコの吸血鬼があたしをさらって、血を吸った直後に即退治されて、即自由になり吸血鬼としてお目覚め。」
「ほうほう。」
「あたしの人生続く。」
「…いや、死んでるでしょ?」
「そうでしたテヘ。」
「以来、暫くここで寝てたら、誰かに起こされた。」
「起こされた?」
「誰かが眠りの碑を壊したんだろう、王子。」
「なるほど。」
「そして起きたから腹が減り。」
「そうでしょうな。」
「ラクダが一番旨く。」
「………滅ぼしとくかなぁ…」
「やめろ!無害だろう!」
「でも貴女は人を襲おうと思えば出来るのでは?吸血の姫よ?」
「ん?なにあんた?男?オンナ?」
「とにかく!無害だ!家畜を食うのはそちらも同じ!むしろ殺してないあたし無害!」
まぁ、それはその通りだった。
「嘘を言っていない証拠は?」
「瞳見ろ。」
「魅了されるでしょ!」
「そうでしたテヘ」
だめだ!この子、テンポ狂う!!
「悪いけど、それが嘘か本当かだけは呪文で確かめさせてもらう!“スピーク・トゥルース!”君は、人の血を吸ったことがあるか!?」
「無いね。」
なんと、驚くべきことに、本当だった。
「うううううううううううううう。どうしたものか!?」
「どうすんだよ~。」
「ウルサイ。」
「ハイスミマセン命だけは。」
「もう、一緒に来い!捕虜ね!取り合えず!諸条件を飲むなら退治しない!」
「諸条件とは女性的に受け入れがたいカンジの事か?えっち。」
「ちがうー!」
狂える?吸血姫、シャルロナ。こうして、アリエスに捕らえられる。
――――――――――
キャステリオは微妙な顔をしていたが、彼とて殺すに殺せず。
再び、宿に戻る。事態は解決したと伝えよう。いや、伝えるとこの吸血姫は確実に殺されるだろう。死んでるけど。
退治したことにするしかない…。嘘も方便と偉い人は言いました。…はぁ。
アリエスは、これまた取り合えず、バザールで少女に合いそうな濃い蒼のドレスを買った。
そして宿へ。
「服はボロボロだが綺麗な娘を連れて来たな…買ったのか?追加料金だ…いや…タダでいい…ぜひどうぞ…」
マスターの言葉は途中からあやふやになった。
“魅了”の目を見てしまったのだろう。アリエスは何度目かのため息をつき、勝手に一人分を多く金を置いた。
――――――――――
「レディーには悪いけど、見張りの為ここで寝てもらうからね!」
「良いのか?ドキドキしないか?」
「うるさい!」
「つ、疲れた、僕、横になる…シャルロナ、さっきの服に着替えると良いよ…」
アリエスはベッドにダイブした。
「で、オマエがそこに横になるとあたしは床なのだろうか?王子サマあん?」
「ぐああああ!」
アリエスは床に毛布を置いて転がった!
キャステリオは笑い、じゃぁ俺は湯あみさせてもらう、といって消えた。
吸血姫シャルロナは、「おお、ベッドだ、久しい」といってご満悦だ。
しばし横になって、アリエスはふと思う。
…マスターの警告じゃないけど、長く一人旅してたんだし大丈夫だろうけど…キャステリオ一人じゃ危ないかな?
「シャルロナ、僕も湯浴み行くから。」
「スヤァ」
吸血姫って寝るんだ…いや、生物的に寝るのかどうかは不明…。しかも夜寝るのか!?
――――――――――
アリエスは、質素な浴室に入る。
ザバっと音がして、距離を取る人影。
「キャステリオ?僕。」
「……」 返事はない。
その髪。キャステリオで間違いないのに?
「…ち、近くに来ちゃ駄目だ、王子。」
違う声だった。女の…声。聞き覚えが、ある。
「キャステラ…?」
人影はびくっとした。
「覚えていてくれたんだ…。」
「ご、ごめん出るね…!」
「い、いや、後ろ向きなら構わない…」
アリエスは背を向けて湯に入る。
「キャステリオは?」
「………」
「知らない?キャステラは何時の間に此処へ?」
「………」
答えられない。答えようもない。まさかすぐ来るとは思ってなかったから、指輪を外して変身を解いていた。…向こうにある。
「弟のキャステリオをどう、思いますか?」
「ん?ああ…。」
「綺麗で、知的で。真っすぐな心で、親思いで優しいよね。男の子なのに女の子みたいな色………今のはナシで…」
「…キャステリオは、すぐそばに居ますよ…?」
キャステラは、立ち上がり後ろから、アリエスを抱きしめる。
勿論、接してしまうけど…。
「嘘をついていて、ごめん。俺が、キャステリオだよ。ホントの名前は、キャステラ。一人旅は危険だから、ずっと男の姿で居たんだ。」
自分が今、どんなに大胆な事をしているのかは理解している。けど、今言わないとチャンスが無いような気もして、キャステラは震えながら背中に抱きついている。
アリエスは振り向きたかったけど、振り向けなかった。
勿論、キャステラの大胆な行動のせいだ。
「な…何か言って!」
アリエスは背中を向けたまま、「こ、混乱していて!僕が言えるのは、君が魅力的すぎるってことだけだ!」
自制心が持たないので逃げる。
「あ、上がるので!変なのが来ないように入り口で見張ってるよ!」
「うん…ありがとう王子。」
アリエスは逃げ出した。逃げたくなかったけど逃げ出したのだった。
――――――――――
――「おお~速え~」
アリエスの鞄の中、コウモリに変化したシャルロナが感心する。
そういや、吸血姫は煙にも成れるんじゃなかっただろうか…昨夜、僕は何故、宿代を払ったのだろうか…いや、人間と思えば正当な料金…。
「遠くなる~我が故郷~ルラ―♪」
「ウルサイ。」
「なんか、スゴイ子が来たね…。」キャステリオが言う。
昨夜、彼女にアリエスは言った。「相部屋だし!キャッステリオに戻ってくれるとドキドキしないで済む!」
キャステラは、目の前で指輪を着け、男性に変化して見せた。本当だった…。
「じゃぁ、王子、君をドキドキさせたい時に女に戻ろう。」
キャステラは悪戯っぽく笑った。
そして翌朝。ツァルトへ向かっている。また砂を浴びてしまう。テレポートを使わないのは、
キャステラと飛びながら話をして居たかったから、なのかも知れない。
彼女は、この後何処へ行くんだろう。というか、何故、僕とツァルトへ来てくれるのだろう。エルフの森ではなく。
「あ、そういや、あたしを起こした奴が、なんか変な事言ってた。 “お前も目覚めてコントンを起こせ。” コントンってなんだ?」
「…も?」
あの辺は、竜の巣くう山脈。世界最強の脅威、竜。
でも吸血鬼にはどうなのだろう。
竜の息、牙、爪。敵わずとも、何度引き裂かれても蘇る吸血鬼にとって、最大の脅威は何なのだろう。
「シャルロナ。吸血鬼にとって、最大の脅威は、何?」
「ん?太陽じゃん。バカ?」
「腹立つー!!」
続く――。




