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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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第15話 「 仮 面 」

ハイファンタジーです。

女の子とサボりが大好きな、魔法使いの王子。自分の言動のせいで今日もやること増えて行く。


北の国で起こる悲しい事件、侯爵令嬢ノエルにも悲劇が迫る。

TRPG、RPG好きな方、お時間ある方ぜひ。


 人狼騒動のあったパナティモア公爵領の西側。レンゲンメサール公爵領との境にある町で、ひと月の間に、立て続けに3人の美女が自殺した。


 共通点があった。それはすぐに、人々の噂に上がる所となった。

曰く、3人とも、自分の顔を人に見られるのを嫌がった。

1人は、布で隠したまま火に焼かれて死んだ。

1人は、夜、森に入り獣の餌食になった。部屋の鏡は全て割られていた。

1人は、海に身を投げた。


3人とも、亡骸はすぐ見つかったが、少なくとも1人は。美しい顔のままだった。


“呪いの鏡”でも見たに違いない。人々は、そう、噂する。


――――――――――


 ダッカーヴァのノエル姫は、美しい。

その銀の髪がなびくだけで香り立つよう。その笑顔だけで、溶かされるよう。


だから、彼女は狙われることになった…。


 ―――  第15話 「 仮 面 」 ―――


 仮面の踊り子が、広場で舞っていた。

旅芸人の一座の娘で、その踊りは弾けるようで、また輝くようで、見る者を驚かせる。

が、仮面を外さない。奇異なその風体も噂になった。本人や団長のいうには、酷いやけどのせいで外せないのだとのことだ。


仮面の下に可憐な顔を想像した男たちは、皆、残念がった。


 そんなある日。 1人の女の死体があった。首をつっていた。顔を焼いた後で。


 3日後 また別の女が死んだ。自分の心臓を貫いた。

この女には遺書があり、再び人々のウワサとなる所だった。


「この様な醜い顔では生きていられません。」

…勿論、亡骸は美しかった…。



 ――さて、アリエスが呼ばれたのはその3日後。


「…何か僕、探偵と思われてる?」

「さぁ、腕の立つ都合の良い異国の臣下では無いでしょうか?」

「ひっど…いけどそれが事実な訳ね?」

「でも、貴方を空位の伯爵に推す声も上がっていますのよ?特にわたくしから。」

「…それは光栄です。ノエル。」


遠目に控える侍女たちがくすっと表情を崩した。


「では、取り合えず行ってきます。余り期待せずにお待ちください。」

「…何を言っているのです?」

「はい?」

「わたくしも行くに決まっているでしょう。」

「はい?侯爵令嬢の姫が危険かも知れない事件に首を突っ込むと。」

「だって教われているるのは美女ばかりなのでしょう?誘い出すにはもってこいでしょう、わたくし」


呆気にとられるアリエス。

「ダメ―。」

アリエスはテレポートで飛んで行ってしまった。


「あー、酷い!」

侍女たちは、やはり遠目に当たり前だ、という顔で見ていた。


――――――――――


 少女は、旅人であった。

多少、魔法の使える冒険者だ。名をエスティ。


ピンクの髪、蒼い目、白い肌。

1人旅なので声を掛けられるのは当たり前、大抵はあっさり流されるのだが、しつこい男と強引な男には魔法でお仕置きをしながら危険を避ける事にしている。


 街並みを歩き、珍しい食事に目をつけ買いあさる。

宿にそれらを持って帰る時に、視線を感じて周囲を見渡した。

…誰も居ない様に見える。エスティは宿へ入った。


 また後日、エスティは路地裏を冒険する。寄ってくる男たちのガラが悪くなったが、魔法で次々眠らせて、意気揚々と歩き回っていた。


突然後ろから、人影が彼女を襲う。意識を奪う毒を嗅がされ、エスティは気を失った。



 ―――ここは、何処だろう?


 椅子に縛られ、身動きは取れない。口も塞がれている。これでは魔法が使えない。

人の気配が近寄ってくる。


1人の男が、少女と共に部屋へ入って来た。

仮面をしていた。見覚えがある。広場で踊っていた少女。


少女は、仮面を外した。可憐な少女だった。噂のやけどなど、何処にもない。

「父様、この子は確かに素敵ね。この顔、ほしい。」

「ああ、そう言うと思った。お前に相応しいだろう」

少女は、仮面をエスティに近づけた。

“やめてー!!”


エスティは塞がれた口で叫んだが、仮面を押し付けられた。

強烈な呪いを感じる。悪意を。どす黒い、べとべとした、悪意を。


「あなた、死なないでね、頑張って、生きて」


少女は、笑いながら言った。少女の顔はエスティの顔になっていた。

え、じゃぁ今の顔は?


 エスティの顔を奪った少女は、小さな手鏡を見せた。見た事も無いような、醜悪な少女がそこに居た。目の位置、鼻の位置、口の位置、全て歪んでいた。こみ上げる吐き気をこらえた。


ははは、死なないでね、死なないで、暫くこの顔で過ごしたいの、死なないで…。


笑いながら、怖ろしい親子は部屋を去って行った。


扉が閉じ、静寂、暗闇。


――――――――――


 一方、暴挙にでる者が居た。


侯爵令嬢ノエルは、数人の騎士を引き連れ、広場に来ていた。


「わたくしを狙う逆賊が居たら、すぐに捕まえるのですよ?」


 騎士たちは大反対したが、押し切られた。

午後、ここでまた、旅芸人一座が踊るらしい。人目を引く。だからここを選んだ。


ここなら、わたくし狙われるでしょ?


ノエルの世間知らずな予想は、すぐ後で、当たる。


――――――――――


 頭を下げて、うなだれていたエスティが、ため息と共に顔をあげる。

深くため息をついて、「はぁ、これは酷いもんだ」と呟いた。


…勿論、エスティは可憐で美しいまま。


これは、幻覚の呪いだ。酷いな、女性にこれは…男性でもか。おそらく、自分が思う最悪の醜さに見せるんだろう。


“メタライズ” “ファイア”


硬質化し、炎で拘束を焼き落す。

そして、姿を元に戻した。…アリエスの元の姿に。


“ディスペル・カース”


呪いを砕く。鉱石を踏みつぶす様な音がして、呪いはかき消される。


「はぁ、女性たちが命を落とした理由はこれか。」

アリエスは一人、誰にいうでもなく口にする。

「仕組みは判った。犯人も判った。後は、理由だ。」


 ノエルの言っていたように、自分を囮にして試したわけだが。実際に呪いを受けるのは少々勇気が必要だった。勿論、自分で呪いをかき消せる自信があっての事。実は毒も効いていない。もしもの場合は、隠れていた使い魔が解呪する手筈だった。


「死なないでね、まだこの顔で居たい」


…つまり、顔を写し取った女性が死ぬと呪いが解けてしまうので、元に戻るわけか。

普段から仮面をしているのは…自分を醜いと思って居るからか…可愛かったけど。


うーん、呪い解くの早かったかな? 少女の顔は元に戻ったはずだ。


<フーゴ! 今、あの親子は何処に居る?>


 使い魔は、上空から怖ろしい親子の場所を伝えた。

そこは、公演を終えた後の、大きいが質素なつくりのテントの中だった。


――――――――――


 「へえ、中は広いんですのね?」

踊り子に興味を持ったノエル姫がテントに案内されていた。


仮面を外し、可憐な顔を見せて喝采を受けていたはずの踊り子は、急に自分の顔を押さえ、ペタペタと顔の至る所を触り、叫び始めた。


「あああああ!顔!顔が!父様!とうさまああ!!」

父親は、狂ったように叫ぶ娘を見ると、仮面を持ってノエルに向かった。


ノエルは、悪意を感じ取った。先ほどまでは無かった。悪意を。それはアリエスの指輪の力による。

人は一瞬で悪意を持てるのか。ノエルは怖ろしくなった。


“メタライズ!” うろ覚えのコマンドで硬質化するが、父親はその上から呪いの仮面をかぶせて来た。


硬質化していようが。呪いは呪い。硬質化は物資的な攻撃から身を守る呪文だった。

ノエルは無知だった。また。アリエスの説明も足りなかったのだろう。


ノエルは、自分から、“メタライズ”を解いた。自分の顔を手で触れずにいられなかった。そして、半狂乱に陥った。


「“スタン・フォース!” ゴメン!」


追いついたアリエスが呪文を掛ける。眠らせたかったが、ノエルはアリエスの指輪で精神攻撃が通じない。

だから、強制的に、気絶させた。身体的に気絶させた。


周囲のナイトはノエルを護衛する。


父親はアリエスに襲い掛かった。「ルケルカ、逃げるのだ!!」

“ワイア”

父親の体に鋭利なワイアが巻き付く。


「動くな。聞かせてもらおうか。その所業の理由を!」

父親は、笑って、涙を流しながら。そのまま殴りかかって来た。

バラバラになりながら。


アリエスは、その力ない血まみれの拳をあえて受けた。

「なぜ…その強い思いを…他の娘には向けなかったんだ…?」


答えは、帰ってくるはずがなかった。


アリエスは仮面を拾う。強烈な呪いを発していた。解呪の呪文を唱えると、仮面は砕けた。

勿論、ノエルへの効果も消えただろう。


…父親の行為は、全くの無駄ではなかった。少なくとも、少女が逃げる時間は在った。

ノエルを騎士たちに委ね、少女を、追う。


少女は、顔をかきむしりながら、街はずれに向かっていた。


厩の近くにある藁に突っ込んで、火をつけた。


上空に居るフーゴの知らせで、アリエスはすぐに飛んだ。


“フラッド!” “テレキネシス!”


燃える火の中で笑っていた少女を、すぐさま助け出した。火も消した…。


…少女は、手遅れな程、ひどいやけどを負っている。

いや、手遅れではない。「死」の「直後」なら、蘇生できる友が居るのだから。


「…見ないでよ。アンタみたいに綺麗な人に見られて死にたくない…」

「…生きて、償え。君は自分が美しいことを知らないのか?」

「何を…言っている?あたしは自分を見ていつも吐きそうだった…だから、あの仮面には感謝しかない。あはは…。」


仮面を手に入れた経緯は判らない。だが、もしかすると、そうなのだろう。


「…お前に、醜い者の気持ちがわかるもんか…」

「…判らないね!キミは美しい!心を醜くする必要なんてなかったんだ!」

「………」

「…僕には好きな子が居る。例え醜くなっても愛する自信があるね!」

「…そう?相手はその時、それを本当に望むと思う? ぐっ…ぅ」

「…望むさ」

アリエスは、死にゆく少女に優しく口付けする。

「…ひ どい 男…」

少女は、困惑の表情のまま、息を引き取った。


アリエスは、彼女を甦らせることを。


…しなかった。


――――――――――


 ノエル姫の寝室。


目を覚ました彼女に、アリエスは鏡を見せる。

自分で認める程、美しい姫がそこには映っていた。


「わたくし! あれ? 顔、顔が…?」

「ノエル。幻影に襲われただけ。君は一瞬たりとも、その美しい顔から変わっていない。」


ノエル姫は、泣き出して、アリエスにしがみ付いた。


「怖い思いをさせてゴメン。もっと詳しく使い方を説明しておけば良かったよ。」


「そうです!あなたのせいです!あなたのせい!あなたが!あなたが!!」


「はい。ノエル。」

アリエスは目を瞑り、優しく微笑んだ。彼女の言葉を全て受け入れるつもりで。


「…ずっとそばに居てくれないから!」


ストレートに思いをぶつけてくる、愛しい姫を思わず抱き寄せる。




 ――アリエスの前で、ノエル姫は全てが美しかった。

髪も、瞳も、唇も、体も。爪先まで。


…もし今、突然、彼女が醜くなっても。僕は愛する自信がある。


“ 相手はその時、それを本当に望むと思う? ”


それでも死にたくないと思えるくらい、幸せをあげたらいいさ。理想論だろうが何だろうが、異論があろうが無かろうが。外見だけで幸せは決まりはしない。僕は、腕の中の愛する人ぐらい守って見せる。それでもダメな時は、一緒に黒猫にでもなって、楽しく笑って生きるね。


かと言って、判ってはいる。僕はこれからも美しいものを愛するだろうし、多分、当たり前の事なんだ。


――美しさというものは、それ自体、人を狂わせる魔物なのかも知れない。自分に。人に。物に。求めずにいられない――。


…今、腕の中にいるノエルは、狂おしく、美しい。



―続く。



おまけ。


翌朝、信じられないことに、2人が眠る寝室に侍女たちは平然と入り、これまた平然と裸のノエル姫を立たせ、体を拭き、着替えをさせる。一言も発しない。アリエスの存在も無視…。あくびのノエル姫も、当たり前の様に身を任せていた…。


…侍女とは空気である。そこに存在しない、姫の為にだけ働く空気である。リロウズが一瞬ちらっと目線を送ってきた以外、表情らしきもの出すことは一切なかった。彼女らが表情を僅かに表すのは、遠目の時だけ。


――違う! 文化が違うー!


アリエスは、絶対に姫をツァルトに連れて行くと固く誓った。

下手すると、侍女も連れて行くと言われかねないけども、リロウズだけで頼みたい!


―再び、続く。


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