第13話 「迷いの森、迷うエルフ」その③
ハイファンタジーです。
女の子とサボりが大好きな、魔法使いの王子。自分の言動のせいで今日もやること増えて行く。
友、美しい少年キャステリオが誘うのは、エルフの隠れ里。その③です。(3/3)
アリエスが優雅に食事を頂いていた時。
森の木々に振動が伝わって来た。
食事が名残惜しいが、外へ駆けだす。
村を安全に覆っているはずの固い木々。再生する木々の隙間から、蛇ののたうつ様に、煙が入って来ていた。
森に火。
エルフが最も嫌う、悪徳の所業だ。
エルフたちが広場に出て来て、叫ぶ。
「どうなっている!?」
「なぜ回生樹層から騒音と煙が!?」
ドン!っと再び轟音。
長老が出て来た。
「エリエス殿!キャス……は居るか!」
「アリエスです~居ますよ~。」
「キャステリオです!長老!」
「オーガ、トロル、鬼どもの軍と侮っていたが魔法の使い手がおるようじゃな。大きな火球の魔法。おまけに、火を放つとは許せぬ。人間の軍と共に挟み撃ちを考えておったが、とにかくこの狼藉は許せぬ。お前達で行けるか!?」
そう言ったときだ。一際大きな爆発音で、木々の一部が穴をあけた。
再生しようとする木々を馬鹿力でかき分けながら、2体のトロールがついに村に乗り込んできた。
だが、エルフたちは、それほど慌てることは無く。女子供が静かに家に戻っただけ。
突進してくるトロールが何を叫んでいるのかは判らないが、エルフたちは次々と、呪文を唱え始めた。
この村の住人は、当然の様に一人一人が魔法戦士なのだ。
トロールは、次々と飛来する魔法に撃ち抜かれ、その再生力を発揮するまでもなく、沈黙した。
「もう一度問う。エリオス。キャス…。手腕を見せてもらいたい。如何か。」
「いいですよ~。でも、やっつけてきたら、名前覚えてくださいね。」
「“フライ” “アンチファイア” キャステリオ、道を開いてくれ。」
「“自然魔法、トンネル!” 行こう、アリエス王子!」
2人は宙に浮き、木々のトンネルを潜り抜ける。
「ああ、ついでに魔物の軍、やっつけてきましょう!」
「また、大法螺な約束を…」
―――――――――
外には、20からなるオーガ、トロール、ゴブリンの軍が居た。
無骨な車輪の付いた引き車の上に、玉座にすわる、杖を持ったひと際巨大なオーガ。
「魔法はアイツかな?」
相手もこちらを見つけ、杖を動かした。
「*********!」オーガが呪文を唱える。ファイヤボールだ。それなりに大きい。
「“バリア”」
大きな障壁が、森の要塞の前に現れる。炎はその壁にぶつかり霧散した。
「駆け抜けよう、キャステリオ。“ハイスピード!”」
アリエスは自分と、キャステリオに呪文をかけた。更に。
「“サモン・ゴーレム・ストナ・ブースト”」
アリエスの目の前に、石のゴーレムが12体現れる。
「12体!ゴーレムを一度に12体呼んだのか!?」
指を、魔物の軍に向ける。
「行け…!」
ゴーレムと巨大な鬼族の魔物たちの肉弾戦が始まる。
「じゃぁ、行こうか。森を傷つけないように、あとは個別にやるよ。」
ゴーレムの隙間を縫うように、アリエスは低空で飛びながら、光の弓を手に構える。
「“マジック・アロー”」
アリエスの弓は、次々と魔物を打ち抜いていく。魔法の弓は曲がり、うねり、敵を追う。外れることは無い。
自らも風の魔法で戦いながら、キャステリオはその圧倒的な魔力に、破壊力に、容赦ない迅速な鉄槌に目を奪われる。
「君は…戦神なのか?それとも美しい魔人か?」
「心外だなぁ、僕は戦うのなんか好きじゃないよ。1秒でも早く終わらせたいだけ。」
次々と打ち倒し、エルフの森から引き離した。
ここまで来たら、エルフの村への被害は無いだろう。
巨大な引き車の前に立ちふさがるアリエス。
オーガメイジは、最大級の火の球を呼び出した。直径3mはある火球だ。
アリエスは、短く魔法を唱えた。「”ディスペル!”」
オーガの火炎球が霧散する。
目の前で、若者はニヤッと笑った。
両手を動かしたその軌跡に沿い、光の球が8つほど現れる。
「”エナジーブラスト!”」
体中を光の球に削り取られ、オーガは死んだ。
リーダーの敗北を見て、生き残りの魔物たちは敗走を始めた。
―――本隊に向かって。
「キャステリオ、待っててくれるかなぁ。」
え、あ、うん。
キャステリオは、ついそう頷いてしまった。
アリエスは、上空高くに移動し、ゆっくり、敗走するオーガ達をつけた。途中で姿が消えた。恐らく透明化を使ったのだろう。
キャステリオは、慌ててついていった。
遠くに、オーガやトロールの群れ為す砦が見えた。武器を手にし、木を削ってつくった攻城兵器のような物も少し見えた。
その砦のを包み込むように、雷が渦巻いた。
彼らのいびつな砦を蒼く包み込み、美しく暫く輝かせた。
透明化の魔法は、攻撃すると姿が見えてしまう…。
だから、崩壊した魔物の砦の上空で一人の青年が宙に漂う姿が良く見えた。
破壊された砦。黒焦げで転がる数百の鬼の魔族。揺らぐ空気。立ち上るうっすらとした煙。
キャステリオは、ぶるっと震えた。
「やだなぁ。見てたのかい?」
怖かったのは、アリエスが微笑んで自分にそう呼びかけたことだ。
―――微笑んで。
――――――――――
長老は上機嫌だった。
エルフの森に影を落とす2つの案件を、たった一夜で半分にした英雄に、エルフたちは最大限のもてなしをしていた。
「アリエス、そろそろ逃げることをお勧めするよ。長老は酔うと…」
「モリエス殿。こちらへ。是非、話が聞きたい。」
キャステリオはため息をついた。遅かった。
「問答をしたい。答えてくれ。相手を知るには、これが一番よ。」
アリエスは、心の中で「えーーーーー」っと言った。
「サリエス殿、エルフと人の違いとは何か?」
「僕の考えでいいですよね?正しくないですよ~こんな僕の考え聞いても」
ふう。
「エルフと人の違いはありません。異国の民というだけ。」
ほほう 意外と多くの村人がその答えを聞いていた。
「…魔法とはなにか?」
「粘土で遊ぶオモチャ。または世界を顔料に描く絵画。」
ざわめきが起きる。
種族を問わず、多くの者は血のにじむような努力と研鑽の上に魔力を得るのだ。
「…恐るべし、魔王の子孫…お前さんの進む道が我らと同じ向きであることを願う。」
「…い、行こう、アリエス。」
キャステリオは、アリエスの手を引っ張った。
――――――――――
キャステリオの家。
先程散々もてなしを受けたので、控えめに。
歴史ある上品なワインを飲んで、アリエスは眠りについた。
――先日と同じく、夜。
静かにアリエスの部屋を訪れる乙女が居た。
再び、フクロウのフーゴがアリエスに視覚を送る…。
少女は、薄着のまま、アリエスの顔を覗き込んだ。
「優しくて、凶悪で、不遜で、無邪気で…怠惰で。怖ろしい男だな、君は。」
アリエスはまだスヤスヤ寝ていた。
「…妃が2人居るんだっけ…?」
キャステリオに似た少女は、アリエスの唇を、その細く白い指先で触れてみた。
「…あぁ、何をしているんだろう…」
エルフは何かに飽きれるようにつぶやく。
アリエスは、目を覚ました。
少女はハッとして、扉まで逃げ出し、こちらを振り帰った。
「……待って。君の名前は…?」
儚げな美貌の少女は、一瞬戸惑い、口を開く。
「キャステラ…」
彼女はそういって、扉の向こう、近くて遠い所に逃げて行った。
――続く。




