第13話 「迷いの森、迷うエルフ」その②
ハイファンタジーです。
女の子とサボりが大好きな、魔法使いの王子。自分の言動のせいで今日もやること増えて行く。
友、美しい少年キャステリオが誘うのは、エルフの隠れ里。その②です。(2/3)
東の城塞都市群、エリゴール。
ファルトラントの東。
つまり、エリゴールの南こそ、魔の軍勢が生まれ出ずる<奈落>があり、<黒炎の魔神>が猛威を振るった破滅の地。
アリエスも、エリゴールに来たことは無い。行くには、ファルトラントから東に向かう必要がある。
馬は使わない。飛べるのだから。飛んで、休んで、飛ぶ。
少女たちに、1週間ほどの旅を告げ、アリエスはキャステリオに連れられて東へ向かった。
勿論、ハイメルの命令だ。行きたくはないが…彼女たちとダラダラしていたいが…。
人助け+ギルド命令。行かない訳にも。ま、行ったことない街に行くのも良いだろう。
「そもそも何でこちらは城塞都市群なのかな、キャステリオ?」
河辺で広めの岩に腰を掛け、2人で食事をしている。干し肉をアリエスの炎で焼く。ついでに、川の魚も採って、頂く。
「この辺りは、簡単に言えば魔物が多い。荒くれ者も多い。弱い人々は、身を寄せて強くなったという訳さ。7つの城塞都市に、それぞれ勝手に<王>と名乗っている奴が居てね。」
「ほうほう。」
「奴ら同士でも競い合って、謀略を繰り返している。でも、城塞の民たちも大したもので、王がまともじゃなければ、隣の城塞の王をけしかけたり、隣の城塞に移住したり。そうやって、自分らの暮らしを守れる奴だけが王で居られる。逆に言えば、エリゴールの王たちは民の機嫌を損なわないように考えている。」
「ほうほう」
「…君、あまり興味ないだろ?」
「ん?いや?面白いよ?僕が王ならどうしようかなって。」
「はは、こんな遠い所まで遠征するつもりかい?君が戦乱を好むようには思えないが。」
「まさか。戦争はごめんだ。もし戦うなら、一人でやるよお。」
「まったく。不遜な王子だ。」
と言いながら、キャステリオは思う。
はぁ、呆れた。一人で国を手に入れる自信があるって言うのかい?
2人はまた飛び立った。
鳥になる方法もあったが、何故かキャステリオは人のまま飛びたいという。
…まぁいいけど。
―――――――――――
「見えて来たね。ここが一番南の城塞都市ガランサン…俺たちエルフの森に一番近く、交易もあるんだ…けど。」
多くの騎馬が行き来している。武装騎馬隊だ。まるで戦争の準備をしているよう…。
キャステリオは無口になった。
故郷近くでなじみのある都市がこんな様子では、無口にもなろうというモノだ。
キャステリオは、一人の戦士を捕まえて聞いた。
「何があってこんな物々しいんだい?勇猛な騎士よ。」
「あ?知らねえのか?に南の森近くに、魔物が集まっている。一戦ありそうだ。」
「バカな!南にはエルフの森があるはずだ!古代の力を持つエルフが簡単に落ちるわけが!」
「知らねえよ!あぁ、お前、エルフか。行ってみりゃいいじゃねえか!」
アリエスが制した。
「お兄さん。どんな敵が居るんだい。僕は魔術師だ。1つ、手柄でも建てようかな?」
「はあぁ?雇われたきゃ、城塞の広場へ行けよ。受け付けてるぜ?臨時の兵を。」
キャステリオは怒りの目で呟いている。
「あり得ない!あるはずがない!エルフの森を超えてくるはずがない…!」
「落ち着いて、キャステリオ。僕らは飛べる。見に行こう。勿論消えて。」
「そうだな、すぐ行こう!アリエス王子!!」
アリエスは首を振る。
「条件というか、聞いてほしい。勝手に戦い始めない事。今から“透明化”かけるけど、戦うと姿が出ちゃうよ。“テレパシー”も掛ける。音なく行こう。」
キャステリオの瞳からは焦りの色が消えない。
森を抜けて魔物が来ているなら、森のエルフたちが全滅した可能性すらある。
焦って当然。だから、焦るなとは言わない。
―――――――――
2人で、姿を消して飛ぶ。
若干低空で飛ぶ。会話はテレパシーで。
少し飛んで、森の異変はすぐに、目に見えるものになって行った。
枯れて、燃やされて、折られて、豊かだった森の木々は悲惨なものだった。
魔物の軍が陣地を築いていた。森の木々を使って砦の様なものが見える。
その向こう。
ドームが見える。巨大な、ドーム。木と植物のツルで覆われたドーム。
<王子、森のエルフたちは、少なくとも生きているらしい。>
<まさか、あの木の出来た繭の中に?すごいね!>
<自然魔法の中でも、一人では掛けられない“群読魔法”だよ。長老たちが使ったんだろう>
<初めて見た。初めて聞いた。エルフすごいな!>
アリエスは感動していた。
その繭には、屈強なオーガが数体で穴を開けようとしているのが見える。
正直言えば、一瞬焦ったが。多少破壊されても、次々に木が伸び、ツタが伸びて穴を塞ぐ。薔薇のような刺さるツタが。オーガの破壊活動は、まるで波打ち際に砂城を作るような無意味なものに見える。
アリエスの感動もつかの間。
その異様な景観は、嫌でも目に入った。
何の呪いなのだ?
エルフの…今は繭だが…の真後ろには、氷の塊が、大波が襲い掛かる様に迫っていた。並の大きさではない。繭はその壁に沿って作られている様にも見える。良く見れば、繭は完全な楕円ではなく、その壁に一部切り取られた様でもある。そして、その幅、実に数100m。
<あれかい、キミの謎解きは?>
<そうだ。でも、その前に魔物の群れを何とかしなければ。まずは、村に入ろう>
<どうやって?>
<エルフの魔法さ。>
キャステリオは、木々に語り掛ける。<“自然魔法、トンネル”>
<急ごう、すぐ閉まる>
2人は、木々のトンネルをくぐり、エルフ以外は必ず迷うと言われる隠れ里へ。
――――――――――
広場だ。美しい黄緑の草が茂る広場だ。公園の様に広い。
日差しまで見える。木々で覆われてるはずなのに。
氷の壁に接する面にはひと際高い木々が隙間なく並ぶ。見えないように。見せないように。見ないように。
「これが、エルフの隠れ里…美しいね。キャステリオ。」
「そうかい。君に言われると誇らしいな。」
広場を囲む木々の隙間からたくさんのエルフが出て来た。
影から出て来たのではない。木々の隙間に、異相があるのだろう。
次々に現れる。皆、若く、美しい。人間との大きな違いは耳だが。
彼らは、年頃までは人間とほぼ同じ速度で育ち、その後、突然老化が止まる。
数百年後、ようやく再び老化が始まる。寿命は400年前後。
年老いた男性のエルフが、キャステリオとアリエスを歓迎する。
「良く帰った、キャス…何だったかな…?」
アリエスは、エルフが年老いているのだから相当なものなのだろう、記憶が衰えるのも当然かと、普通に考えた。
「嫌だなぁ、キャステリオですよ、長老クァルパディフ様。」
「おお、そうであった、そうであった。して、このお方が我らを救っていただける力ある者なのか?」
「ハイ、ツァルトの王子、アリエス殿です。若くして類まれなる力を持つ魔術師。」
「てれるなぁ~!」
長老は、そしてエルフの人々はアリエスを“魔力の目”で見たらしい。
「…なるほど、恐るべき魔力を感じる。」
「サリエス殿、と言ったか。まずはくつろいでくれ。外の魔物も今慌ててどうこうするものでもない。」
おお、さすが太古の力を持つエルフ。名前は違うけど。
「キャステリオ、お前の家でもてなすがいい。」
「え?それは…どうでしょう?彼は長老様の館が良いのでは?」
「この様な老いぼれでは疲れるだけじゃろう。話したいことは夜通し勝たれる程あるのじゃが…」
「キャステリオの家で頼みたいなぁ…」
「う、ええと…姉が住んでいるので、むやみに部屋を探らぬこと。親しき中にも礼儀ありだ。」
「当然でしょ~。姉上から招かれたら喜んで入るけど~」
「…ああ、それは無い…。」
「冗談だよお。失礼失礼。」
「いや、君の場合アヤシイが…まぁとにかくどうぞ…」
キャステリオに続き、若い広葉樹の影に進む。
一瞬、眩暈のような感覚に襲われると、木の中に吸い込まれるような気がした。
――――――――――
質素な家に見えたが、美しい調度品、手の込んだ装飾、優美で繊細な銀の飾り。
「綺麗な部屋だね。一つ一つのものが美しい。」
「ふふ、ありがとう王子。まあ、座ってくれ。」
アリエスは華奢かも知れないが美しい椅子に座り、しばしエルフの村について、取り留めない話をした。もっぱら、エルフの村の美しさに感動した話だったが、決して誇張ではない。キャステリオは嬉しそうに聞いていた。
そうこうしているうちに、部屋に一人の男性が入って来た。
「父上!お帰りなさいませ。」
へえ、キャステリオの父上か。
エルフだった。キャステリオがハーフエルフなのだから、母親は人間なのだろう。
「話は聞いている。ようこそ、人間の御客人よ。まずは此処で英気を養い、その力の翼を広げてくれたまえ。」
ああ、この言い回しは親子だなぁ、とアリエスは微笑んだ。
キャステリオは少しムっとした。
3人でテーブルを挟み、流石に本題へ入ることになる。
―――大波のような氷は、魔物の仕業ではない。人間の、魔術師の仕業である。
「ああ、誤解無いように言っておくが、彼は我々を救うためにその呪文を唱えたのだ」
僅か1年半前のことだが、かの破滅の魔神。黒炎の魔神は、この地にまで迫った。かの魔神の進行方向は違ったが、巨大な魔人が吐いた炎の息はエルフの村を飲み込もうとした。
魔術師は、瞬時の判断だったのだろうが…。範囲内の時を凍らせる大魔法を使った。
恐るべき範囲で、恐るべき魔力で、炎と逃げ惑うエルフを同時に凍らせた。村に届く寸前で凍らせた。
「…アリエス、君の先祖。魔王メイフィールドの話だ。」
あー。だろうなぁー。真祖の予告通りの尻ぬぐい来たな~。
「謎解きの意味は分かったよ。魔法を解いてしまったら、ブレスが逃げ遅れたエルフたちを焼き殺し、村も燃えるわけだね。そして、解かなければ永遠に凍ったまま。」
「その通り。これが、キミに賭けた願いなんだ。」
「ふむ」
まいった。思いつかない。真祖。困るんですけど。
「まぁ、急げとは言わないよ。君の魔力と知恵を信じている。今日は休もう。俺は姉の部屋を使うから、君は隣の空き部屋を使ってくれ。父上、良いだろう?」
「うむ…?あぁ、うむ。そうだな…そうしてくれ。アリエス殿、ゆっくり休んでくれ。」
アリエスは、追い立てられるように部屋に案内された。
勿論、しっかりした美しい部屋だったが。
まぁ、いいか。人の家族事情など、ツッコむ話じゃぁないさ。流石の僕もね。
自分達用の食器が3組しかなかったこと。母の気配も姉の気配も無い事。
いいんだ。キャステリオが言いたくないなら、聞かないだけの事―――。
聞いたらキャステリオの美しい顔を曇らせてしまいそうだからね。
―――男だけど。
―――――――――
夜。アリエスは爆睡中。
その部屋の扉が、静かに開いた。薄い光を隙間から運んで来る。
…勿論、アリエスは爆睡継続中。
恐る恐る覗き込んでいるようだったが、アリエスが寝ているのを確認すると、ほっとしたような残念そうな、複雑な表情を見せた。
…キャステリオによく似た、とても綺麗に目鼻立ちの整った美しいハーフエルフの少女が。
だが、アリエスは爆睡中でも、起きている者がすぐ近くに居た。夜通し警戒を怠らない、使い魔のフクロウが。アリエスと感覚を共有でき、アリエスと同様悪意を感知し反応する有能な歩哨が。
“フーゴ”はアリエスに感覚を送った。
ああ、キミの姉さん?キャステリオ?ああ、起きたいなぁ、素敵な人だなぁ…。お話を…。
アリエスは起きなかった。悪意が無いから鋭い反応ができない。
スヤァ。
「…何をやってるんだろう…」
緑が似合う美しいハーフエルフは、何やら独り言を言って戸を閉めた。
――続く。




