第12話 「僕が決める」その①
ハイファンタジーです。
女の子とサボりが大好きな、魔法使いの王子。自分の言動のせいで今日もやること増えて行く。
気心のしれた冒険仲間と向かった先には、地獄。 第12話、その①です。(1/3)
東の遠征は兄トーラスに名誉をもたらしたが、当のアリエスには表立って大きな功績は無かった。
しかし、あの移動城塞ジャガーノートに居たもの達の間では違う。
アリエス王子を<白>などと侮るな。化け物だ。
我らを守ったのはアリエス王子。トーラス王子ではない。
実際に、アリエスの許に仕えたいという兵士も居たほどなのだが、彼は私兵もなく、部隊を率いているわけでもない。当然、<魔術の塔>のアークマスターについて知るものも居ない。
ただ、戦場にアリエスを称える者が居るという事は大きい。それは、後に生きるだろう。
…少なくとも、王はそう思っていた。
―――――――――ー
さて、当のアリエスは、まずはあの場に居なかった(と思っている)メイフェアの所に報告に来た。つまり酒場だ。
颯爽と酒場に登場、例の如く歌と演奏で盛り上げる。
「で、どうなの!メイフェアは落ちたの!?」
条連たちの話題は1つ。
「ちょっと!本人が居るのに何の話してんの!やめてよ!」
メイフェアは慌てて止めに入った。
「まだ落ちてくれないんだよー!」
「やめろっていってんだろー!」
メイフェア、首絞める。
「<紫>なったのに!」
確かに、前にせめて<青>になれと言った。言った。
<紫>はその上だ。エリートクラスだ。間違いなく褒賞も増える。
だからと言って…まだ答えは出せない…。
アリエスは、ひとしきり遊んだあと。
「あ、ノエルにも報告してなかた。行ってこよ。」
酒場帰りに、今度は北へ。
落ち着きの無さにおいてアリエスは定評がある。
近々、姫を婚姻で迎えようとする若者にはとても見えないが。
――テレポート。
―――そして、ここは北の国、ダッカーヴァ公爵領。城。
突然、姫の部屋に現れた影に、侍女たちは一斉に身構えた。
麗しい姫が手で合図をすると、何も無かったようにお世話に戻る。
「…徹底してますね~、ダッカーヴァの侍女たち。」
「王家の侍女はこんなものでは?貴方の侍女は違うの?アリエス王子?」
アリエスは、可憐な誰かの顔を思い浮かべた。
「ま、違うねえ。」
「…それはそうと、突然来ないように。そしてそれ以前に、仮にも婚約者を1週間も放っておくというのは何です?もっと限られたチャンスを生かして、わたくしの気を引く努力をすべきです。」
横にいた侍女、リロウズがフッと笑った。
「ハイ、じゃぁ、このあとお出かけはどうでしょう?姫。城下の街などで、僕と賑やかな時間を過ごしませんか?」
「街…ふうん、街。王子、なかなか興味深い所を突いてきますね。褒めてあげます。この1週間、何をしていたか白状したら、そのデート付き合ってあげます。」
「はぁ。誰かさんを妃に迎えたいと王に言ったら、お前は名が無いので手柄立てて来いと。」
「………。」
「で、魔族の巣窟にちょっと乗り込む手伝いして帰ってきました。」
「…<奈落>に??」
「そですよ?」
「無事に帰って来れる所がアー…貴方の凄い所です。貴方が強くて頼もしいのだけは確かですけど…で、ツァルト王のお許しは出たのですか?」
「えーまー、一応というか一応…」
「前言撤回です。頼りなーい…」
笑うノエル姫を連れて、アリエスは街中へ飛んだ。
王族を街中に連れ出すのだ。1つ、呪文をかけた。
姿を変える魔法だ。2人で、30歳くらいの姿へ。一見、街人にしか見えない。
「名は、エル、でどう?。僕の妻の役です。」
「貴方は何と呼べば?スアレス様、でいい?」
「話し方でバレそうです。呼び捨てで。エル。」
少し照れている30歳の美女。それは勿論、可憐だった。
――1ヶ所目。賑やかな酒場。
チーズとスモークサーモン、肉を乱暴に焼いた筋張ったステーキを注文し、エールを飲む。
この大きな酒場では、女たちのショーがあった。ラインダンスとでも言うのだろうか。
美しい足を並んで振り上げるので、男たちの歓声が絶えず上がった。
エル、は、スアレスの微妙な制止を振り切って、何と飛び入りで参加。
客たちの大歓声を浴びて笑っていた。
「別に下着を見せるのではないのですから、良いのです!」
いい女を奥方にしてるじゃねえか!2人には追加のエールが奢られた。
――2ヶ所目。賭博場。
今でいうトランプのポーカーに、スアレスが座る。ちょっとは慣れてる風に見えた。日ごろ遊びまわっているだけある。
スタートで2ペアだ。幸先良い。1枚チェンジで勝負をしようとしていたら、後ろからよしかかっていた妻が、こともあろうに右半分、ペアも含めて勝手にチェンジ。しかも、チップを全掛け。
オワッタ。
…と思ったのだが、結果はフルハウス。じゃぁ1枚チェンジで良いだろうと思うのだが結果はとにかくフルハウス。エルはドヤ顔で腕組みしていた。
――3ヶ所目。寺院の前、露天立ち並ぶ賑やかな街路。
旅の商隊が持ち寄る、玉石混合の商品。商人同士のやり取り。旅人夫婦に吹っ掛ける宝石。
「これはこれは、高貴な奥様、このネックレスなどはファルトラントの武人が泣く泣く手放した一品でして…」
魔法のパッシブを常時、複数発動しているアリエスでも、判るのは「嘘か本当か」ではない。「悪意があるかどうか」だ。勧められる商品の中で、1つだけ悪意の感じられないイヤリングを買って、エルに渡した。とは言え、アリエスも「王子」なので値切るのは得意ではなく、この値段が正規かどうかは測りかねる。ともかく、エルはとても喜んでいた。彼女の立場なら、至る所から、宝石など届くのだろうが。
薄暗くなってきた。
スアレスは、妻のエルに帰ろうか聞いた。
「ご褒美に、一ヶ所だけなら、貴方の行きたい所に付き合ってあげましてよ?」
どき。
普通の夫婦として、そこに見える安宿でも!?
…いや。きっと違うなー。
アリエスは、ふと、余計なことを思い出した。が言うのは辞め、考えた末に魔法を唱えた。
そして、姫を白い鳩へ変える。姫は驚いていたが、やがて元気に羽ばたいて日暮れの空に舞う。アリエスも、同じく鳩になって続いた。
―――鳩は、城の中央近辺、白磁の尖塔にあるノエル姫の部屋へ。アリエスの鳩が近づくと、窓は勝手に開き、2羽の鳩を招き入れる。
イタズラっ子の様に、どうしましょうと近寄って来た侍女の前で本当の姿に戻り、大きく口を開いて笑った。
多分、この笑顔が本当のカオなんだろうな。アリエスは少し、誇らしく思う。
「王子、一緒にお食事を取ることを許します。」
ん。それだけだったかー!
「ハイ、姫。喜んで。」
――――――――――
楽しい食事の後、アリエスは今日もダッカーヴァには留まらず、行く場所があることを告げた。
「“第2夫人”の所でしょうか?」
多少皮肉は入っていたと思うが、実際そうではなく。
「ちょっと、パナティモア公爵領の酒場を見てみたくて。まぁ、仕事、で。」
ノエルは、再び瞳を輝かせて言った。
「では、お供してあげましょう。貴方はこちらの国々には疎いのですから。わたしくが案内して差し上げましてよ?」
しまったと言う前に、ノエルが言う。
「あら、本当にわたくしが欲しいなら、わたくしと夜のデートなど震えるくらい嬉しいのではないかしら?」
「そのような――」
「ダンジョンやら戦争でもなく只の街中で恋人を守れないような弱い男、のわけは無いですわよね。アリエス様。」
ノエルは、強かった。世間知らずなだけに、強かった。




