表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
15/134

第10話 「ジャガーノート」後編

本当は働きたくない、女の子大好き王子。自分で首をしめる言動で今日もまた駆り出されます。


「手柄を立てて来い!」で送られた先は、最前線。

ハイファンタジーです。TRPG、RPG好きな方など是非。後編です。

 ファルトラントという国がある。大きな国だ。この大陸の中心的存在の1つ。魔道国ツァルトは、もともとこの国の一地方であったが、ツァルト建国王の働きにより独立した。以来300年、兄弟国として強固なつながりを持っている。当然、王家のつながりも深く、ツァルト王家の長女リブラは、ファルトラントの侯爵家に嫁いでいる。


 さて、ファルトランドより更に南東には、不安定な次元の歪みが頻発する地域、<ミラージュスポット>と呼ばれる、直径2kmほどの地域がある。2年前、絶望の根源であった<黒炎の魔神>が<魔王>と呼ばれる男と共に消えた地域だ。現在、此処には、その地域をすっぽり取り囲む城壁が作られ、超国家的な組織により常に監視されている。


そして、その東には、その魔神が率いて来た魔物が出て来たと言われる、<奈落>。地獄に通じる大穴があると言われている。現に、そちらに行くほど、今もなお、魔族が跋扈し、既に人々が住むべき地域ではない。


故に、ファルトラントから南東には人は住まず、魔物と人類との最前線がある。「血の積み木」と言われる荒野である。そこにはファルトラントとツァルトが合同で作り上げた巨大な城壁と、3つの城塞がある。


 人々の平和は、このような壮大な軍備により保たれている…保てているのだ。黒炎の魔神と共に散った魔王と言われた男…<神祖>は、禁忌の魔法を用いて、魔神と共に、魔族の軍勢その半分近くを滅ぼした。その勢い、残った勇猛なるもの達は、敵を東に押し込めた。


…そして、それは現在に至る。



――――――――――


 この日。アリエスは、3人にあてがわれた狭い部屋で、小さく演奏をしていた。


ヒマ。昼間でも、帰っちゃおうか?


綺麗エルフ男子は静かに書を読み。ぼさぼさ男子はただ黙って座っていた。


「…キミ達静かだねえ!?」

「静寂は美しい。君の演奏も美しい。読書がはかどるよ。」綺麗エルフが言った。

「………」ぼさぼさ男子は答えてくれなかった。


「キャステリオは何を求めて砦に来たの?」

「強いて言えば、森には無い何かを求めて来たのさ。遊びではない何かを。」

「…詩的な言い回し。言葉使い。やっぱ洗練されているのかな?エルフの文化は?」

「その物差しは辞めてくれないか?お互い型にはめて見合っても面白くないだろう?」

「はは、悪くないね。キャステリオ。綺麗なだけはある。」

「外見以外を褒めてくれたら、もっと親しくなれると思うよ。王子。」

アリエスは笑った。


このような軽い話題の中でも、もう一人の男は何も話さなかった。


そして、城塞に、第2王子の声が響いた。当然、魔法を利用した機能だ。


「ジャガーノート部隊の兵へ。暴れるときが来た。存分に楽しめ。出城へ集合せよ。アリエス王子の部隊も来い。」


「あー、面倒だなぁ…仕方ないけど。」

「王子、キミは名を上げに来たのではないのかな?」

「いや全然。」

「掴みどころのない人だな、キミは。」


ぼさぼさ男、ボアドは黙って準備を始めた。やる気はありそうだ。が。

「2人とも、じゃ、行こうか。」


城塞通路を端まで進み、出城に入る。不思議なことに、吊り橋を渡って出城にまたぐ。



 入ってすぐに、タダの出城ではないことが判る。救護室や、簡易ベットや、食糧庫、武器庫等の小部屋が連なる区域を抜け、巨大なホールに出る。高さもあり、広い。アーチ状の無骨に太い、鉄で補強された柱。両側で不気味に回る歯車。2階層目への階段。キャステリオは目を丸くして、初めて見る全てを見分していた。勿論、アリエスもこのようなモノを見るのは初めてだ。


アリエス達は、大ホールに待機する兵士達を尻目に、2階へ上がった。

外の光が見える。小さなスリットが幾つも並び、窓の様に外の風景を見せる。ああ、勿論、そこから弓を打てるだろう。


さらに上がある。上がってみる。そこは、まるで甲板だ。最新鋭の大砲2門。バリスタ8基。投石カタパルト2基。そして、少し移動した先に、船で言う艦橋がある。


甲板に居た兄にアリエスが問う。

「兄上、これは!?」

「驚いたか?これがジャガーノート。ツァルトとファルトラントが作り上げた動く城塞。これ自体が、石の車輪で動く一種のゴーレムだ。兵たちが出入りでき、甲板には攻城兵器がある。」


「これは見事なものだ…」キャステリオが思わず声を上げる。

「お前達も甲板で戦ってもらおう。魔法ならば、バリスタ部隊と共に遠距離から魔物どもを蹂躙できよう?飛行する魔物からバリスタ部隊を守ることも頼みたい。できるな?アリエス。」


「兄上…今回は、試し出陣ですか?」

「そうだ。だが、敵にこの姿を見せる以上は戦果が必要だ。味方の士気を上げる意味もある。何より、<奈落>に近づく希望が持てよう。」


動く、要塞。移動する、城塞。

今でいう空母の、中心近辺だけを切り取ったような四角い陸上戦艦。


はぁ。<銀>の皆さん、色々手を伸ばしてるんだなぁ~。僕の知らないところで…。


第2王子の号令で、威勢よく、轟音を立てて、ジャガーノートが動き出す。


兄は風を浴びて、大航海に旅立つ船長のように輝いていた。


――――――――――


 巨大な陸上戦艦が荒野を進む。

決して高速とは言えないが、それでも徒歩よりは遥かに早かろう。


多くの歯車で動く、石と鉄の車輪は多少の岩など踏みつぶし、南東へ進む。

うるさい音だけは消しようも無かったが、それでも多少は慣れて来た。


 ―――荒野に、スケルトンの兵がうろつくようになって来た。

ジャガーノートは止まらなかった。ただ、踏みつぶす。兵たちも歯牙にもかけない。


兄トーラス王子とアリエスは、艦橋から外を見ていた。

荒野は、時折不気味な色合いの地面が混ざるようになっていたし、毒のような色の沼も増えて来た。


「兄上…。」

「なんだ?」

「毒素を出すような土地であれば、空気そのものが危険では無いでしょうか。」

「そこまで愚かではない。黙って見ていろ。」


この戦艦の建造には、間違いなくツァルトのギルドが嚙んで居る。幾ばくかの魔法的な対処はされているのかも知れない。


「…どこまで行き、戻るのでしょうか。」

「我らツァルトは臆病者ではない。行ける処までは行くさ。引くべきは引く。」


そうだろうか。

<魔術師は、戦い始めた時には勝っていなければならない。>

ツァルト魔法ギルド、真祖の教え。1部 1章 3項。


「兄上、僕は甲板に出ましょう。そろそろ戦いの準備をしまーす。」

「ふ、気楽なものだ。」

「行くよ、2人とも。宜しく。」


アリエスは再び甲板に出た。甲板では、それぞれの攻城兵器を操る兵たちが居る。各基に4~10名。


なるほど、甲板は全体に薄い魔法障壁が張られている。これなら、天候や毒、瘴気を防げるだろう。しかし、敵襲を防ぐものではない。そうであれば、此方から砲撃など出来はしない。



 徐々に、地面は沼地ばかりになって来た。

ジャガーノートの速度は目に見えて落ちた。


「…キャステリオ、ボアド、そろそろ来る。防御魔法を。」

「何故君はそう言い切れるのかな?」

「勘。」

「ふむ、時に勘は有効だけど、ハーフナーの特権かと思って居たよ。君の勘が弓の弦の様に美しく張られたものか、見せてもらおうかな。」

この言い回しはキャステリオ。

「従おう…。」これはボアド。


「自然魔法、<蒼穹の風刃>」

キャステリオが不思議な呪文を唱えると、身の回りに鋭い風のバリアが張られた。

「<ボール・バリア>」

ボアドは、ソードバリアの鉄球版を唱えた。ソードバリアより攻撃力に劣るが防御には適している。

かくいうアリエスは唱えていない。パッシブがある。


「オイ!沼から何か出てくる!!」

甲板前方に居た兵士たちが騒ぎ出した。

艦橋でも気が付いたのだろう。トーラスの命が聞こえて来た。


「まともな敵のお出ましだ。野郎ども、砲撃だ。」

「おおおー!!」

兵士たちは、バリスタや大砲の準備を始めた。


 沼から出て来たのは、2匹の巨大な亀だった。同時に、空に歪んだ魔方陣が現れ、空を飛ぶガーゴイルの群れが現れた。3~40匹は居るだろう。


カメと言っても、そんな可愛いものではない。ワニガメに似ているが、もっと禍々しく、呪われた存在なのに違いない。足は蜘蛛の様な形をしていた。


カメが、口から、炎の球を吐き出してくる。

…ジャガーノートの真ん中近くに直撃する。しかし、巨石のゴーレムは少し石を焦がしただけでビクともしない。お返しに、兵士たちの攻城兵器が次々と打ち出される。


大砲の砲撃に、禍々しいカメの甲羅が砕かれた。

次々打ち出されるバリスタが、ガーゴイルを打ち抜くと言うより粉砕する。

それでも抜け出て甲板に取り付こうとするものはキャステリオとボアドの呪文に砕かれた。


ファーストコンタクトは、見事にこちらに軍配が上がった。


だが。


「オイ!さらに沼から何か出て来たぞ!遠くて良く見えん!」


4、5体の浮遊する何かが、高い空を飛んでいた。良く見えないが、形状的に、蜂に見える。

おそらく大きい。体長4、5mは在るだろう。近づいては来ず、ジャガーノートと一定の距離を後退しながら飛んでいる。


バリスタが飛んだ。届く距離だが、相手が飛んでいるのと、距離と、速さでまるで当たらない。


次の瞬間だ。

その巨大な蜂から、見えないような黒い点が無数に飛び出してきたのは。


アリエスは叫んだ。


「甲板に居る者はすぐに下へ!一階まで降りて全ての隙間を閉じろ!!」


兵たちは混乱した。今まで指示1つしていない、お荷物の王子の叫びに。


だが、すぐに理解した。黒い点が向かってきた。距離が近づくにつれ、虫だと判った。


巨大な、20cmはあろうかという、蜂の群れ。勿論、ただの蜂ではない。その上半身は醜いインプのような姿だった。


「逃げろ!」甲板に居た兵士たちに魔の蜂が群れ為す。


「<ライトニング・ストーム!>」


甲板に取り付く寸前の蜂を、アリエスの雷が焼き尽くす。

兵士たちは、何とか甲板から下へ潜った。


「キャステリオ、ボアド、僕らの出番だ。」

「君の勘とやらに祝福を。王子。」


「<ファイアボール>!」

「自然魔法<風刃乱舞>!」

「<ライトニング・バリア・マスレンジ!>」


2階層には、多数のスリットがあった。弓の為に。だが、今はそれが仇になる。

だから、船ごと。ジャガーノートごと、雷で包んだ。


「お見事、雷の鎧か。美しい。君は雷帝だね。」

「褒めるより先に、虫退治を頼むよ!」


風の魔法と炎の魔法が、次々に虫の群れを打ち砕いた。船に飛び込もうとした虫は雷で次々焼かれた。


船のスリットから外を見る兵士たちは、船…動く城塞を包む雷などという、馬鹿げた魔法の生き証人となった。


虫たちの群れは、親の元へ戻り始めた。巨大な蜂の体内へ。


「今だ!ここは、大砲に活躍してもらおう!」

「何をするんだい?」

「<疑似生命付与!大砲よバリスタよ、自分で動け!>」


ごつごつと、不自然に生命感を持った大砲が、鳥のような眼をぎょろりと見開いて虫を見た。

発射の命令も何もない。大砲を込める兵もいないが。

弾丸は発射された。バリスタも同様に。


そして、遠くに居る、巨大な蜂を、爆裂させた。


雷のバリアが消える。

王子は艦橋を振り返り、兄に言う。


「兄上。撤退のご指示を。この先も沼地が続いて見えます。対策を―――」

「言わなくていい。ここで引かねば死人が出る。ジャガーノート、旋回せよ。」


ジャガーノートが遅い旋回を始める。


「キャステリオ、キミの自然魔法、面白いね。その魔法で、一時的にでも、沼地を固く出来ないだろうか?」

「そうだね、真下の土ぐらいは出来るだろう。自然魔法、<沼を砂へ、砂を土へ>」


「…へえ…すごいな」

「君ほど詩になる魔法ではない。王子。」


「兄上、キャステリオの呪文で固くなった地面を走らせて下さい。沼地を抜けられるでしょう!」


ジャガーノートは速度を取り戻し。一目散に撤退した。


遠くに、遥か遠くに無数の黒い点が見えたが、追っては来なかった。



――――――――――


 ―――後日。


 先遣隊を成し遂げたとして、第2王子トーラスは大きな武勲を残した。ジャガーノートは防御的な検討の為、一度戦線を離れる。もしこれが、複数作られたなら、<奈落>迫る大きな力となるだろうが、短期間で出来るものではない。


魔の中枢近くに行って、偵察を成し遂げた王子の名は当然のように高まった。全てに納得していない、本人を除いての話だが。


「アリエスにお膳立てされた手柄など要らん!」


第1皇子レオや母の説得で褒賞には応じたものの、プライド高い第2王子の気持ちとしては当然だ。


「…オレは、アイツの生き方が気に入らんのだ! 何故、そう、何故、優れた自分を表に出さん!?責ある地位に就き、皆を導こうとせず遊び惚ける!オレはアイツの力を認めないのではない!生き方が気に入らんのだ!!」



 ―――アリエスの離宮。


ボアドは、アリエスの要望には応えず、「いづれ」といって去って行った。


キャステリオは、アリエスの離宮に数日滞在したが、出て行った。


離宮では彼の美貌にメイドたちが舞い上がっていたが、出て行った。

ティアナも、綺麗なお方ですね!と言ってアリエスをハラハラさせた。

エディは、お前より綺麗な男だな!と言って、密かにアリエスを誘惑した。


当のキャステリオは、何を思ったか。

「この離宮、君の奥方たちの離宮か…俺が長居する所じゃない」

と言って去った。だが、彼は暫し街に滞在するらしい。人間の暮らしと魔法の入り混じったこのツァルトに興味を持ったとのことだ。


「また会おう、才気ある魔術師よ」



その言葉は、ただの偶然だったかも知れないが、アリエスにとって嬉しい言葉ではなかった。


テレポートで敗走する瞬間に聞こえて来た、苦い言葉だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ