第10話 「ジャガーノート」前編
何もしたくないけど、恋多き自分のせいで仕事が増える魔法使いの第3王子。ついに、最前線へ。
ハイファンタジーです、TPRG好きの方など是非…。前編。
さて。嵐が吹き荒れたのは自分の国も同様。
「……………私の場所は、アリエス様の居る所です。それだけ……いいですよね。……怒ってません。怒ってません!」
アリエスは、北の国の顛末を少女たちに言わないわけには行かなかった。真っ先に白状したのは侍女ティアナ。恋人であり、従者であり、侍女であり、妹であるティアナ。
「怒ってる。」
「怒ってません!」
「残念ながら、後々婚約破棄される可能性あるんだけど、こうなった以上はティアナにも覚悟をしてほしいんだ。」
「何の覚悟をですか?」
「可愛いティアナ、キミも僕の妃になって。」
「…いつもの冗談では?」
「いや~全然本気だよ~?」
「なぜそんな大事なことをそんな軽く言えるのでしょう?もっと場所とかムードとか考えるべきなのでは?」
「えー?僕の部屋じゃダメだった?」
ティアナは、大声で泣きだしてしまった。アリエスはこの後、不埒な流れも考えていたが、そんなことより、<妹>に戻ってしまった彼女を慰めることに必死になった。泣き止むまで、ずっと頭を撫でていたが、最期には怒られた。
―――頭を撫でるのは、もう、時々で良いのです。それより…。
―――はは、時々は要るんだ。
2人目の妃の約束は、このように交わされた。
――――――――――
次は面倒な人たちへ…。だが、案の定、こうなった。
「王に断りもなく、王子が勝手に婚約して帰ってくるとは言語道断!国家建国以来の大問題!行動が軽率過ぎる!」
重鎮たちにこっぴどく小言を言われ。
母、第1王妃リニャッドには白い目で見られ…
母、第2王妃フェリオには長く責められ。
実母、第3王妃ネジーナには苦笑いされ。
父、国王サウズには任したからには任せると言われ。
以下。一言ずつ列挙する。
皇太子レオ。
「お前が都合よく進んで政略結婚をするはずもないが…。驚いたが祝福する、弟よ。ただし、アークマスターとしての義務は必ず果たせ。」
<魔術の塔>銀のハイメル。
「何の不都合も御座いません?何処が根城であろうと、貴方様の居る場所は魔術の塔。それだけの事。」
流石にやっつけられたアリエスだが、気を取り直して、また大切な人の所へ向かう。
先に、妃の約束を交わしたエディ。元盗賊の少女。盗賊ギルドマスターの妹。
「……ふうん。へえ。判ってたけど。私のことは?…ふうん、へえ。で、どっちが第2夫人?」
タジタジになったが何とか逃げだす。
次は、メイフェアの所に行かなくちゃ!
酒場の薔薇、メイフェア。精霊術師。冒険の仲間。幼馴染で、一番古い付き合いの少女。
メイフェアは今日も一生懸命、笑顔で働いていた。
「はい、僕参上です…メイフェア~!!」
「なにー!?忙しいんだけど!」
アリエスはずんずんメイフェアに近づいて行って。
周視の中、両手にトレーを持ち3杯ずつエールを運んでいたメイフェアに、事もあろうか真正面からキスを奪い。足元をエールの海にして、酒場に大狂乱と大混乱を引き起こした。
「メイフェア!僕、今度、ダッカーヴァのノエル姫と婚約した!実は婚約破棄される可能性高いんだけど!キミも僕の妃になってほしい!!」
―――酒場、沸騰。メイフェア、別な意味で大沸騰。
「わー、アホってホントにいるんだ~」
これは、店に居合わせた冒険仲間、神官戦士シャリーの言葉。
――――――――――
―――それから、数日後。
第3王子アリエスが兵士たちの前に立っている。
…立たされている。
「…本国より、我が弟、第3王子アリエスが加勢に来た。未だ<白の魔術師>の若輩者ではあるが、十分優れた魔力を持っている。遊撃隊として諸君らの戦いを補助する。我が弟の声を聞けい。」
蒼い髪、背が高く、兄弟の中で最も筋骨隆々な第2王子トーラスが、兵たちに伝えた。
ツァルトの東、ファルトラント国の更に南東。両国の協力により作られた強固な3連城塞。その最前線を取り仕切る魔法戦士。それがトーラス王子だ。アリエスの3つ上、気が強く、アリエスはやや苦手としている。
…そこに送り込まれたアリエス。
王と王妃たちの令で渋々来た。曰く、「兄の下で魔物の討伐遠征に付き添い、武勲を上げよ!!」
アリエスの婚約報告に際し、王と王妃たちはそのような課題を与えた。端的に言えば、国民を納得させるような名を上げよ。もっと端的に言えば、何の肩書も持たぬ第3王子では、ダッカーヴァの姫を迎えられぬ。
とまぁ、そう言うことだ。
兵たちの呟きが聞こえる。
階級<白>の魔術師なのか…役に立つのか…?
お守りは御免だ。17歳?年齢より子供に見えるな…。
王子に手柄を立てさせたいのだろう?死ななければ良いが?
「はい。僕がアリエスでーす!長くは居りませんが、その間に魔物減らしちゃいましょー!」
アホだな。
役立ちそうにないな…。
トーラス様も大変だな…。
「アリエス。少し真面目にやれ。」
「ハイ!では皆さん、ここで一興。」
アリエスはリュートを取り出し、大きく元気よく演奏を始めた。
はは、吟遊詩人としては良い腕だ。
こっちでの活躍だったか。これは参った。
「ふぅ。」兄トーラスはため息をついた。
アリエスは演奏を終えると一礼し、壇を降りる。
「…なぜ、いつも馬鹿のふりをするのか。お前は。それによって何が得られるというのか。女たちの尻ばかり追うお前に、兄上も父上も何を期待しているのか…。」
アリエスは、兄の前も、一礼して通り過ぎる。
――――――――――
アリエスには、2人の部下が与えられた。
兄曰く、「助力を申し出た2人の旅人をお前につける。上手く差配してみせよ。」
この世界では、このような軍や国に一宿一飯、何らかの恩義を受けた旅人は、それが冒険者であれば数日力を貸し、商人であれば何かを融通するのが礼儀だった。
1人は、恐らくハーフエルフだ。アリエスと同じくらいの身長だが、それは珍しい。エルフの血を持つ者は一般には少し小柄で華奢だ。緑の髪。髪の先を束に選り分け、綺麗に縛っている。髪に幾つも付いた銀色の小さな装飾はエルフのものだろう。
「宜しく。アリエス王子。俺はエルフのキャステリオ=ニフラ。剣と森の魔法を使う。」
「宜しくねー!綺麗男子!」
確かに綺麗な少年だった。少年に見えるが、アリエスよりきっと数十年は年上なのだろう。
2人目は、人間だ。比較的がっちりした体系、ワイルドな感じがする。髪もボサボサで、今一つ清潔感に欠ける気がする。顔のパーツが大きく、頼もしさを感じる。魔力は高い。そして、他国の魔術師と思われ。ツァルトのギルド章を着けていない。
「宜しく…。ボアド・メリコフ…。」
「宜しくねー!無口なお兄さん!」
アリエスは2人に元気よく挨拶したが、実際の所、それほど当てにしてはいなかった…。
翌々日。
アリエスは、兄に呼び出された。
「手柄とか活躍と言っても、敵が攻めて来ねば何もない。暇だろう?」
アリエスは笑って言った。
「それは良い事でしょう~!戦いは無い方が良いですよ~!」
「ふ、それはそうだ。だが、奴らを追い返し、<奈落>を消すか封印でもせぬ限りは、この陣が常に必要となる。それは不幸ではないのか?」
「まぁそれはそうですが~。」
「数日後。魔族の勢力圏内に先遣隊を送る。それが我らだ。お前も来るがいい。それなりに活躍の場は在ろうというもの。」
「先遣隊?」
「王もレオも知っている筈。だからお前を寄越したのだろう…楽しみにしていろ。驚くぞ。」
「何をです?」
「ジャガーノート。大陸の明日を占う、最新の兵器。」
「ジャガーノート…?」
なるほど。納得した。
僕に武勲を立てろ、だけじゃない。
兄上の、先遣隊としての名誉も同時に守れと。
はぁ。
アリエスはため息しか出なかった。




