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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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<皇太子セティス編>第9話「砂塵に帰す」

優しく”可憐な”皇太子セティスの恋と冒険。今回の冒険は少し、苦い。

 ファルトラントの北。大きな国を渡るには、それなりに日数を要する。


旅の最終地点は定まっていない。北に行くことが目的ではないのだが、それでも北に向かっているのは、自分を誰も知らないであろう大陸へ向かうためだ。


自意識過剰。普通ならそう嘲られるところ。


しかし、一国の皇太子となれば、身を隠す必要はある。


1000人の内1人にでも気付かれてはいけない。



 そんな旅の途中。可憐な2人の乙女を旅の共にしながらたどり着いた。ファルトラントの北方。


街と街を繋ぐ、ただの街道に過ぎない此処で、セティスたち3人娘(仮)は宿に入った。


街道沿いの、ほんの小さな集落だ。2件の宿を中心に数件の家が立ち並ぶ。


北の3連砦や城塞都市群エリゴールに向かうには必ず通るであろう街道なので、どうやらそれなりに繁盛しているらしい。


商人、キャラバン、旅人に冒険者。悪いヤツ。皆、此処を通る。



 3人は小さい方へ入った。どうせ長居しない。ゆっくりするなら大きな街の宿で。


1階が酒場になっている、よくある作り。


3人が入ると、入った瞬間に口笛がなる。


それはそうだ。突然の美姫3人がご来訪。衆目を集めずにはいられない。


…それ自体は慣れっこなので、特にユシカとウィッグは絶えず片手を剣に添えている。



 一番背の小さな、可愛らしい盗賊が宿の主人に声を掛ける。


「3人。2人部屋1つと、1人部屋1つ。あと、テーブルにエール2杯とミルク酒1杯と、適当に肉料理みつくろって3人分な。」


「ああ。あー、8G。」


「6Gで。」


「可愛いから、7Gにしてやろう。」


「ありがと。それで。」



 3人が、疲れた体を休め、のどを潤し、削り落とした肉を腹に入れていた折。


セティスは、近くのテーブルから、こちらへ向かう男に気付いた。


恰好からすれば、この集落に住んでいる男だろう。35から40歳という所。


「アンタら、冒険者か…?」


ナンパでは無さそうだが、男は酔っているのか、妙に目線が定まらない。


美貌の剣士ユシカはそっと右手を剣に添えた。


可憐な盗賊ウィッグも同様にナイフに触れている。


そして、珍しい事に、セティスは嫌悪感のある表情で男を見ていた。


「南西に、此処から南西に3kmも行けば、捨てられた洞窟がある。300年前ほどの、魔術師の洞窟だ。そこには、素晴らしいモノがある、行ってみろ、輝いている。」


「…輝いている?」ついウィッグは反応してしまう。


男が座っていたテーブルからは、別の男が声を掛ける。


「嬢ちゃんたち、悪い悪い、ソイツは酔うとすぐそれだ。そのダンジョンは確かにあるが、何もねえ。居てもアンデッドだ。行くだけ無駄だ。隠し扉でもあれば知らんが。」


「ふうん。」


セティスは珍しく不満げだったので、ウィッグは軽口で誘うのを辞めた。



―――――――――――


 翌朝。セティスは、2人の部屋をノックしてこう言った。


「ユシカ。ウィッグ。昨日の人が言っていたダンジョンに行ってみようよ。」


部屋の中の2人は、顔を見合わせた。


それは、セティスの言葉から、強い意志というか、押しというかを感じたからだ。


セティスが。あたしらに。


ユシカはガチャっと半分扉を開けた。


寝着だったので、セティス以外に見られるわけに行かなかったからだが。


一瞬、本当にセティスなのか、そんな思いもあったからだ。


「ゆ、ユシカ、ちょっ…」


セティスは慌てて後ろを向いた。


ユシカは戸を閉め、ウィッグに、「本物だな。」と言った。


「…なんでワザワザそういう確かめ方するワケ?ちょっとアタシより大きいと思って図に乗んなよ?」


この後10分ほど言い合いがあったが、いつもの事なので割愛する。




 南西へ、3km。この辺は、低い灌木しかない荒野だ。


この辺りから北にかけては、何度ともなく魔族の侵攻を受けた地域であり、肥沃な土地や森は少ない。


その魔族の拠点である“奈落”は、今もファルトラント北西、その遠くに存在する。


大規模な侵攻が無いのは、一説にはセティスの父、ツァルト国王アリエスの力に寄るもの。そう言われている。そうだとしても、子供達に詳しい事は知らされていない。



 さて、3人は程なくして目的地にたどり着いた。


切り立った崖の30m位手前。打ち捨てられた。いや、既に崩れ落ちて屋根も壁も無く、石組みがかつて館であったことを想像させるに過ぎない廃墟。


そこから30mほど先に、崖に穿かれた洞穴。天然とは思えない。ここだ。


3人は武器を取り出し、静かに近づく。


洞窟の前には、それほど大きくないが、邪魔くさい細長い岩があったが、当然、迂回。



 さて、3人は入口へ。


セティスは盾と明かりを持った。武器は無い。背中にメイスはあるが。


入ってすぐにホールの様に広くなっている。足元は、大きな石くずだらけ。


見渡す。敵は…いない。宝…ない。


進む。



 幅広い通路。


左右に、陳列棚のように、削られた岩。


だが、置いてあるものは、どれもゴミの様だ。汚い壺。煤汚れた花瓶。丸い石。壊れた人形。カラの瓶。


ウィッグを見る。


首を振る。お宝と呼べるものはなさそうだ。いや、誰も一目でわかる。ゴミだ。



 …奥へ。再び、ホールの様に広い。


「まって!何か居る!」


目の前に、亡霊が居る。恐ろしい表情で、悲しみに叫ぶ。


3人に迫ってきた亡霊のその男性は、激しく悲鳴を上げて、その部屋の一角を指さした。


ホリーブースト。セティスは恐らく亡霊にとって致命的なエンチャントを掛けることが出来る。しかし、しなかった。


「セティス!何やって…」


セティスは武器を構える2人を制して、前に出た。


「貴方は、何を悲しんでいるのです。僕に示してください。霊よ。」


亡霊は叫びながら、泣きながら、部屋の一角の、転げ、欠けた壺を指さす。中は見えている。空だ。



 セティスがその壺を手に取ると、その亡霊は消えて行った。


「うひゃあ、セティスよく普通に持てるね!?呪われない?」


「…違う…この中に居るのは、さっきの霊ではなくて…。」


「へ?」


セティスは、壺を、壺に書かれた顔料の殴り書きを呼んだ。古い標準語のようだった。


「生意気な女僧侶、しかし蒼い服は似合っていた。」



セティスは、このホールを眺める。


砕かれた、朽ち果てた木の机。欠片しかないフラスコ。既に削り取られ効力の無い魔方陣。


「…実験室。」



 ユシカは、自分の前に転がっていた、空の酒瓶を手に取った。


「背の高い剣士。意外と筋力はない。アメリアという嫁が居たらしい。」


「”ホリー・ブースト”」


 セティスは、2人に今、エンチャントを掛ける。


「ゴメンね、2人とも。力を、かしてほしい。叩き割って。全て、全て。僕もやるから。」



3人は、静かに、ことごとくを破壊する。


1つ破壊するたびに、何かが、青い何かが煙の様に天に上る。


破壊する。破壊する。破壊する。


「さっきの通路のヤツも…全部!全部!」


「きっとさっきの亡霊は、何らかの理由で壊れて!”逃げることが出来た”魂!酷いことを!酷いことを!」



 3人は、無口になって、入り口のホールに戻った。


「こなきゃ良かったよ。」ウィッグの呟きは当然だった。


入口の、石だらけの、空間。


セティスは大きな平べったい岩を見て、見ないふりをしたかったけど、吸い寄せられるようにその岩を見た。


「ゴーレム?ゴーレムの、破片?」


その背にも文字がある。


「最後まで、母親の所に帰りたいと喚いていたガキ。どこぞの村人の息子。」


このゴーレムは砕けているけど…何か違和感がある。


「…救えって。誰かが僕に言っている…。救えって。」



セティスは、入り口から、外へ出た。


そして。邪魔くさく入口に横たわっている岩を見た。


岩は、よく見れば、砕け、崩れているが、手のようだった。


その岩は、セティスの目の前で、ほんの少し。


ほんの少し。1cmにも満たないくらいに。


荒野の土を必死につかみ、ずりっと、前に進んだ。


「嘘だろ…」


「最後まで帰りたがった…子ども…」


「あああああ!」


セティスは、ブーストを自分に宿し、渾身の力で岩に向け、メイスを構える。


目を瞑り、その可愛らしい顔を歪めて、歯を食いしばって。


振り下ろす。


岩は砕けて、崩れ削られかけていた岩は砕けて、青い煙を立ち上がらせる。


空に消えていく青い煙を、途中で別の白い煙が迎えたような気がした。


だから、セティスは祈った。


泣きながら祈り続けた。


――――――――――


 雨が降って来た。小さな宿の一階、酒場を兼ねた此処には、今日も客が居る。


酒に酔った男が、今日ここに流れ着いた若い冒険者達にむかってフラフラと近づいていく。


「アンタら、冒険者か?ここから南西に…」


「…昔、邪悪な魔術師が住んでいて、やがて退治された。でも、その魔術師の魂は、未だに彷徨っている。ソイツは、まだダンジョンに取り残されていた自分の“作品”を自慢したくて、夜な夜な誰かに乗り移って、ダンジョンへ誘っているんだ。」


冒険者たちが目を向けた先には、蝶の髪飾りと銀のイヤリングをした可憐な少女が…怒りと悲しみを溢れんばかりに宿した表情の娘が居た。


「許せない…許せない…お前のせいで、300年も天に還れない魂が!!」


セティスは、男の腕をガッと取った。


「素晴らしかっただろ?」男はニヤッと笑った。



「“ネメシス!”」


首元の、聖なる首輪が、否、ネックレスが白く白く光る。


死するまで決して外れぬ、慈愛の神マグリテア、その眷属の証が。



雨の、小さな宿だ。


屋根?当然、ある。何なら、2階建ての建物だ。



しかし人々は見た。真っ白な、輝く雷が、男に落ちる瞬間を。


周囲の者に影響は何一つない。腕を取っていたセティスにも何もない。


ただ、目の前の男に、白い雷が落ちるのを見た。


―――そんな奇跡を見た。



「ぎいやあああぁぁー!」


男の体から、黒い何かが抜け出して、霧散する。


天でも、地でもない何処かへ向けて、霧散する。



「…あ?オレは…あれえ?」


男は、周囲を無渡して。自分に視線が集まっていることに何やら恥じ入って。


「オレ、なんかした?酔ってたんだ。わりぃ。なんかした。あ!女の子に絡んじまったのか?すまねえ、すまねえ。」


男はすごすごと、元の席に着いた。


セティスは、くるりと男に背を向け。


何故か、ユシカとウィッグに申し訳け無さそうな、悲しそうな目を向けて、自分の部屋に向かった。


――――――――――


 翌日。晴れ。


セティスは、2人の部屋をノックした。



嫌われたかな。嫌な思いをさせちゃったし。


あの時のボクは、まるで自分じゃ無いような…そう、誰かの意志で行かなきゃいけないと…思っていたような。


…取り付かれていたのは、僕もなのかも知れない。それも。悪霊なんかより遥かに大きな存在に。



 ガチャっと音がして、半分扉が開いた。


やはり、薄着のユシカが居て、セティスは目を逸らした。


もしかしてワザと?やめてほしいなぁ。僕だって男の子なんだから。


セティスは、手を掴まれて、中に入らされた。


「え?」


2人が、両側に居た。


「アタシらがオバケ如きでビビってると思たんか?ん?」


「そうそう。それより。珍しくカッコ良かったよ。セティス。」


申し合わせてたんだろう。あるいは、セティスの心なんかとっくにお見通して、元気づけようとしたのかも知れない。


2人は、同時に左右から抱き着いた。勿論ワザとの薄着。


「ちょっと…やめ…!」



逃げ去って行く小動物を、2人はニヤニヤと笑って見ていた。


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