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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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第9話 「北方の準男爵」前編

謎の強敵の正体を探るべく、北方のダッカーヴァ公爵領に再び赴くアリエス。貴族達の謀略が思わぬ方向へアリエスを向かわせます。


第9話、前編です。

 ―――ツァルトの北にあるダッカーヴァ公爵領。


アリエスとしては、ノエル姫に事の顛末を。やがて来る脅威を伝えないわけには行かなかった。


「…何故、いきなり現れるのでしょう。レディーの部屋に。わたくしが着替えていたらどうするのでしょう。」


「―――――――――――」

「それは只の変質者です。大声出します。」


「――――――――」

「まぁ、あなたがそんな人だとは思っていません。只の女好きとは思っています。取り合えず、お座りになれば?紅茶を入れますわよ?わたくし、上手ですのよ?」



「――――――――」

「パステイル湖の件ですね?噂は聞いておりましたが、貴方が退治を。ふうん。」


「―――――――」

「いや、驚かないのはそんな気がしていたからです。国民に変わってお礼を。おじいさまに変わってお礼を。」


「―――――」

「首謀者を逃がした…貴方が逃げた。それは…怖ろしい事なのではないでしょうか…。」


「―――――――――――――――」

「ええ、判りました。ダッカーヴァの為ですもの。調べます。竜の…丸薬。でもアリエス様。我が従弟のお披露目に嫌々来た貴方が、何故ダッカーヴァの為に?」


この時ノエル姫は、この軽い王子はきっと、「貴女のために」と言うのではないかと、思っていた。


「僕はいつか、皇帝にでもなろうかと思うんですよー!その方が世界守りやすいじゃないですかー。だからダッカーヴァも大切です。勿論、キミの事も。」


16年。高貴な人生を過ごして来たノエル姫は、生まれて初めて、あんっぐり口を開けた…。


「馬鹿だこの人…!」

「えーーー。」


姫は、先日、ついついついつい唇を許してしまったことを、後悔しようかどうか。迷い始めていた。



――――――――――

 数日後。アリエスは城に呼び出され。王たる父と、母ネジーナの前に居た。尚、父は元<銅>の称号を持つ魔術師。同じく、母も、元<黒>の称号を持っていた。


この国は魔道国ツアルト。王家の中で、継承権に加え魔術に優れた者が王位に就く。


母が口を開いた。

「アリエス。勝手な動きが目に余りますよ。人道的には褒めるべきではありますが、お前は王子。わきまえて行動しなさい。」

「母上、別にダッカーヴァに僕の事は伝えてませんよ~。放っておいて良いではないですか。」

「いいえ。ダッカーヴァ公爵領から、貴方を再び客人に招きたいって。砦を襲った魔物を退治したことに対する謝礼の儀を執り行いたいって…。」


思い当たるフシは、ノエル姫だけ。

恐らく、姫が正直に話したのだろう。アークマスターの件は内密の筈だが。


…ダッカーヴァの王家が何を思ったかは判らないが…いや、判るような気もする。

公式に武勲を称えれば、この先訪れる災厄にも、体よく助力を望めようと言うものだ…。民の反感も呼ぶだろうが…、天秤にかけた結果だろう。それ以上の要素までは判らない。


王が口を開いた。王は当然、アークマスターの件は知っている。また、真祖とも会ったことが有る数少ない人物でもある。


「アリエス。お前は、他の王子たちとは違う。もっと大きなものの為に身を尽くせ。故に、此度の事は全て、お前に委ねる。友好を築くもよし。滅ぼすもよし。治めるもよし。」

「王様、あなた、それは流石に…。」

「良い。レオにも伝えよ。」

「はい…。」


<…アリエス。我らツァルトが領地を広げないのは、全て守り切る覚悟故。お前が手を伸ばすならば、それだけ抱える物が増える事。その上で、行動せよ。アークマスターならば。>

<ハイ、父上。僕も少しはわかってきましたよー。>

<…恋もな…聞いているぞ。>

<それは父上には言われたくないデス…>

<…言っておくが、苦労するからな?>


テレパシーによる会話は、父と子だけのものだった。


――――――――――


 今、ダッカーヴァでは、このような噂でもちきりになっている。

…砦を占拠してた化け物を倒したのは、城に悪魔を串刺しにしたヤツだってよ…。

…アリエス王子か…魔術師は怖ろしい…しかも何と野蛮な…。

…だが、2回も救ってくれたことは事実だ。受け入れねばな。

…我が国の軍はどうなっている?2回も他国に救われるとは。しかも、ツァルトに!


城下を賑わす噂と、城の中の貴族たちの話題はほぼ一致している。

反発もある。賞賛もある。羨望もある。やっかみもある。



 ―――ダッカーヴァの城。迎賓庭園。ここで、多くの者を招き、アリエスの為に宴が開かれている。


だが、と言うより当然、アリエスを称える言葉は空虚だったし、アリエスも期待していなかった。


宴の終盤で。引退近いと目されている公爵が、豪華な装飾付きの剣を持った。


「この者は2度に渡り、ダッカーヴァの栄誉と魂を守った英雄である。」


ここまでは、良かった。


大きな動揺が宮殿前の迎賓庭園に走ったのは、その後だ。


「ツァルト王子アリエス殿を、我ら貴族に並べる。準男爵の地位を与えるものである。」


「…は!?」これは、公爵の近くにいた麗しき姫の言葉。

笑いが響く。嘲りともとれる笑いが。庭園中に響き渡る。


準男爵はまごうこと無き、栄誉だ。しかし。アリエスは一国の王子。肩書だけならば、伯爵・子爵に匹敵するはず。


それを、男爵の下、準男爵に任じる。礼どころか、非礼。無礼。ツァルトを遥か下に見ているという事だ。アリエスが怒りだしても可笑しくない程の無礼。


「それはあまりではありませんか!」

姫は叫んだ。アリエスの為に叫んだ。


「姫、黙っておれ。公爵様のお考えに口を出すな。」

これは、公爵次男。侯爵ウォルマの言葉。ノエルの父。



アリエスは、微笑んで言った。


「その栄誉を頂くにあたり、僕からも提案が御座います。公爵様。」

アリエスはノエルを見た。


「美しいノエル姫を、やがて妃の1人にお迎えしたく。」


迎賓庭園は騒然となった。


「ダッカーヴァの爵位を頂けるならば、大手を振ってノエル姫を愛せようというものです。」


ふざけるな!ツァルト風情が! 

爵位だけでもありがたく思え!

しかも、妃の1人、だと!?


「お受けします!!」


ノエルは大声で言った。周視の中で、言って見せた。すなわち、公約。

父たる侯爵が慌てふためいて否定したが、ノエルは、アリエスの前に立ち、つま先を伸ばして、口付けした。


準男爵?? ノエル姫を娶るという事は、侯爵だ。自動的に引きあがる。


「わたくし、悪魔からお救い頂いた時から、お慕いしておりました!これは政略結婚ではありません。ツァルトもダッカーヴァも関係ありません。わたくしの意思です!」



「良い!!」

公爵ヴォンベルゼンが、騒然とする皆を止めた。


「大したもの。ツァルトの王子。良かろう、姫との婚約を許す。受け取るがよい。宝剣を授ける。」


アリエスは、驚いた顔でノエルを見て、それから膝をつき剣を受け取った。


公爵は小声で言った。

「面白い。この場はお前の勝ち。だが、全てたくらみ通りに行くと思うなよ…。」

「御意。」アリエスは不敵に微笑んだ。


―――治めるも滅ぼすも友好も自由。でしたよね、父上――。


公爵は、執事に目配りし、頷く。

「宮殿内にアリエス殿の部屋を用意せよ。何処の時間に訪れるも可である。侍女をつける。アリエス王子の世話をせよ。馬を与える。されど、準男爵故、領地は与えられない。以上である。いずれ婚姻が定められしときは民に伝え、国を挙げて祝うものである!」


再び騒然となる中、アリエスはノエル姫の手を取った。


「さて、キミは慌てて否定すると思っていたんだけどー。」

「つまりは、わたくしが、貴方の予想を超える女という事です。」


今度はアリエスから、姫に口付けした。


ノエル姫の表情を見て、幾人かの夫人やご令嬢はやむなし、と覚悟した。若きものは、ノエル様の純粋なるご意思を応援せねばなりません、そう思った。


だが…多くの貴族は、違った。

「婚約、だからな…。婚姻までの時間があるな…命があるかどうか。」

許せるわけがない、まして年頃の令息を抱える貴族は。そも、魔法でノエル姫を操っているのではないか?そんな言葉すら出る。


う~ん、失敗したかな。僕。

憎しみの視線の中、ノエル姫の微笑みだけ清らかに見えた。


――――――――――


 ダッカーヴァ公爵領。夜。


与えられた部屋は、ノエル姫の部屋からは随分離れた場所。離れと言ってもよい飛び出した尖塔にある。


作りは立派だ。半分軟禁と言ってもいいが、そんなことが出来ないだろうことは、流石に連中も知っているだろう。悪魔を瞬殺した魔術師を軟禁など。


侍女が、食事を持ってきた。この国で作られた歴史あるワインやチーズと共に。


これもまた、綺麗な女性だった。少し年上か。金の髪の片側が長く前に。片側は後ろへ流しており、洗練された動き。優雅さがある。色香がある。


「リリュジュと申します、アリエス様。何時でもお呼びください。この銀の鈴で。」


侍女は立ち去って行った。ちなみに、アリエスの本来の侍女は只一人。

この国の侍女は、ツァルトと似たような役目あるのかな?まぁ、いいや。



…さて、この食事には?

多分、毒はない…入れるとしたらもっと後日。気を許して食べるとき。


ぱく。へえ、さすが歴史ある国。美味しいや。ぱくぱく。


…さて、寝るか。明日の事は明日考えよう。それとも。ノエルのとこ行っちゃおうかな~。



 ―――ノック。


「どうぞ?」アリエスは、魔法で開けた。

「失礼いたします。」先程の、リリュジュ。


「…今のは、魔法で?すごいですね、ツァルトの力は。」

「いえいえ、それほどでも。で、何か?」

「…夜伽に参りました、王子。」

アリエスは、侍女の頬を撫でて、でも言った。

「女性に恥をかかせるのは忍びないけど、お役目で来ているのでしょうから、気にしないで戻って良いよ。愛し合うなら、ノエルと。あ、キミが僕に恋をした時には別でー。」


「ふふ、そう言うことなら。ノエル様も浮気を心配しないで済みそうですね。」

リリュジュは戻って行った。


うーん、やっぱ、ノエルんとこ行こっと。


――――――――――


 …ノエル姫の部屋。

「…だから。何故、突然現れるのでしょう。」

「婚約した仲じゃないですかー。」

「いいえ?あの場はああしないと、貴方が余りにも惨めではないですか?」

「えーー?」

「助けたのです!」

「えーーー!?」

「事態が落ち着いたら折を見て婚約を解消するので。」

「えー――!」


「では、お帰りを。」

「リリュジュ呼ぼうかな…。」アリエスは小声で言った。

「何か?」

「いえー。」


「とはいえ、当面は婚約者ですので、貴方の立場も活躍に応じ上がっていくのではないでしょうか?」

「それが狙いだとすると、キミはスゴイ悪女だなぁ~。」


「わたくしを口説ける時間だけは差し上げましてよ?」

「こわ。」


「…アリエス様、パステイル湖の奥で、遺跡が見つかったそうです…。扉に竜の紋章が彫られているそうですわ。吉報かしら。」

「…悪女。」

アリエスは唇を寄せる。ノエル姫は、これは避けなかった。

そのまますっと、その身に触れようとすると。手をつままれた。


ノエル姫は、寝室の扉を開け、中に消えようとする。

そして、こともあろうに。ネグリジェを一瞬まくりあげ、アリエスの目線を奪ってから、扉を閉める。

「…おやすみなさーい。良い夢を。わたくしの夢を。アリエス様。」


「もしかして、すっごい小悪魔だった…?」

アリエスは、仕方ないので夢を見ることにした。




―――後編に続く。

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