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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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<皇太子セティス編>第8話「箱の中」

本編外伝 アリエス王と侍女姫ティアナの子、皇太子セティスの柔らかい冒険。

今回はタダのドキドキ回。戦いなど無用。

バザールで、ウィッグとユシカはアクセを見ている。


異国の物もあるらしいし、ドワーフ職人の細かな技巧が映えるものもあるとか。


…僕には判らないけど。



ユシカは、細かな細工の金と赤の…ルビーかな?耳飾りを手に取る。


ほぼ同時、ウィッグは、銀色の小さな髪飾り…花の形をしている…を手に取る。



ああ、2人とも似合うと思う。背の高い薔薇のようなユシカの耳に赤い耳飾りはとても綺麗だろう。


可愛いウィッグの髪に銀の花は、たとえそれがどの変装用の髪であろうと、似合うと思う。


2人は、綺麗だと思う…。もしかしたら、僕に…その…思いを持ってくれているのかも知れない2人………いや。違うかも。遊ばれてるのかも。オモチャかも。


でも、ユシカは僕に………いや、僕が世間知らずなだけなのかな。良くあることなのかな。



 などと、セティスが珍しく男のコ心に揺れていると、2人の声が聞こえる。


「…200!?高っ!そんなすんの!?」


「まじかよー!300!?どこの姫様相手だよ!バザーだぞココ!100にしろよー!」


…2人共、高くて買えなかったのか。


ゴメン、僕、手持ち20G。


プレゼント、してあげたいな、2人に。



セティスは皇太子だ。お金のありがたみというものを、日銭を渇望する心というものを実感する機会は無かった。


そうだよ、お金というもののありがたみを、重さを。僕は知らなかった…。



「嬢ちゃんたち、冒険者なんだろ?じゃぁ、ここらでは有名な“トッド家の迷宮”に……すまん。今のはナシだ。」


2人の目が光った。


「…教えろ、オヤジ。」


「いや、だから…オヤゴコロだ。やめとけ。アンタらみたいな綺麗どころが行くとこじゃねえ。山賊が住み着いてるかもしれねえんだ。とっ捕まったら、逆に売られて終わるぜ。やめとけ。」


「ふうん。じゃぁ辞めとくか。確かに、アタシらはびゅーちーだから狙われやすいんだ。」


「まぁしゃーねーな。アタシら嫁入り前だからな。」


「…誰の嫁よ。」


「…さぁ。」



 バザーのオヤジは、まぁとにかく、自分から2人の話題がそれた事に安心した。


…早く向こう行けよ。買わねえんなら。


と、思ったら、盗賊風の娘の方はまだ食いついて来た。


「…有名って言ったな。オヤジ。どう有名なのさ。普通のダンジョンが有名になんかならないだろ?」


「いや、だから」


「あんだよー。言えよー。」


あー、メンドクサイのに捕まったー!


「開かずのチェスト、ってのが有るんだってよ!誰も開けられねえ宝箱だってよ!ただの噂だ!嘘に決まってんだろ!一流の魔法使いがぶっ壊せば開かない訳ないだろ!」


「そりゃそうだ…チェストね…ふうん。宝箱…。ふうん。」



ウィッグは、立ち去り際、もう一度髪飾りをチラ見する。



その様子を見ていたセティスは、益々、買ってあげたくなったが…。


今の自分が皇太子でも何でもなく、所持金20Gの下っ端冒険者であることを痛感した。


…今日のセティスは、少しオトコノコだった。



―――夜。宿で食事をする3人娘(仮)。


「明日さぁ、トッド家の迷宮ってヤツ行ってみない?」


「はぁ?山賊とかいたらうぜえし…。」


「………」


「開かずのチェストってのがもし本物ならさぁ。名も上がるし、お宝ゲットよ?」


「…なんだ?盗賊ダマシイに火でもついたか?」


「デカ女にも戦士ダマシイってのが有るんだろオイ?どよ?」


「…ユシカ。ウィッグ。条件付きで、行ってみようか…?」


「あ、リーダーが何か言ってる。」


「ホントだ。リーダーだった。」


「…うう。」


「セティスは絶対反対すると思ってたけど。こりゃラッキーだね!」


「条件てなんだよ?」


「もし、山賊や野党が居るようなら、即逃げよう。僕は2人を危険には…」


ウィッグが肘でセティスをつつく。


「あー、心配なのね?僕の大切なウィッグが野党に捕まりでもしたら!ああ!」


「一人で妄想してろ。」


「もしもの時は僕がまも…頑張るから。行ってみようか。」


ユシカはウィッグと2人、目を合わせた。


「…セティスがいざという時に勇敢なのは認めるけどね。」


珍しく、バカにされなかった。


僕が守るから。それは、旅立ちの時に誓った言葉だ。



 ウィッグが小さな小さな声で言う。


「あー、とうとうアタシ達の魅力に気が付いた?女装やめたくなった?」


「そ、そそ、そんなんじゃ、ないけど…そろそろ辞めるのは、アリかな、僕…。」



その時。3人の横を、ウワサ好きな冒険者たちが通り過ぎる。


「聞いたか?何でも、ツァルトの皇太子がお忍びで旅をしてるらしいぜ?」


「こっちへか?何と言うか、世間知らずと言うか…。誘拐とか考えないのかね…。」


「アークマスターの息子だぞ?おっそろしい魔術師団が影から見てるに決まってるぜ。」



セティスは、下を向いた。


「お化粧取ってみる?セリスちゃん?」


「………」


まだ、女装は続きそうだった。


――――――――――


 さて、隠し扉の向こうに巨大な、アホみたいに巨大な宝箱があった。


隠し扉を見つけた時のウィッグのドヤ顔は、過去最高の出来だった。


迷宮はほぼ空だった。



 最近まで何かが居た形跡はあったが、世間に場所の知れ渡っている洞穴迷宮など、特に知恵ある者にとっては、長居する場所では無い。


空だったのは、ラッキーだし。


それでも丁寧な探索で、ついに隠し扉を見つけたウィッグは流石としか言いようがない。



 だが、狙いの宝箱。その鍵穴は非常に難解だった。


余りに時間がかかり、遂に、ユシカはマントを敷いて寝始めた。



しかし、盗賊の意地。ウイッグは格闘の末、答えに辿り着く。


そして。となると、寝てる女よりも、オモチャの男のコにイイ所を見せたかった。



だから、ふざけ半分、だったのだ。ウィッグに“そんなつもり”は無かった。


この大きな、大きな宝箱。よく、誰にも開けられず残っていた感謝の宝箱。ありがとう迷宮。


感触からすれば、多分そろそろ開く。



「セティス。手伝って。」


セティスを呼び、自分の手にセティスの手を添えさせる。


聞いた話で、どこの国かも知らないが、在るのだそうだ。


結婚式で、小麦とタマゴを混ぜたパンケーキ生地を、何故か新郎新婦2人で切り刻むのだそうだ。ワイルドな国だ。


「ふふふ、じゃぁ一緒に右にまわーす。ご夫婦初めての共同作業でーす。」


セティスはドキっとしながら、手を添えていた。



カチっと、音がした。


罠の起動する音が。


2人の姿は、瞬時に消えた。


…ユシカは、何も気付かず寝ていた。


――――――――――


 そして、この真っ暗な空間に居る。ほぼ、真っ暗だ。


よわーい明かりが、この小さな鍵穴から、ほんの僅かに差し込む。


―――この、巨大な宝箱の中に。



 形状で判る。さっき格闘していた、横180、奥行100、高さ80の、見たことも無いくらい大きなチェスト。宝箱だ。


ああ、残っているワケだよ。開けようとしたヤツみんなこの中に閉じ込められたわけだ。


次の盗賊が仲間入りするのを、骨になって見てるしかなかった訳だ。


突然消えた仲間を、メンバーも探したことだろう。宝箱はデカすぎる故に持って行くことも出来ず、少なくとも一緒に居た魔法使いでは開かなかった、と。


いや、もしかしたら何度かは開いて…また閉まって、同じことを繰り返しているのかも。



と、いう訳で。そう、暗くて見えないのが幸いだが、先輩たちの骨が転がっている。


間違いなく、飢え死に。



 ああ。終わった。かもしれない。


ゴメンね、セティス。巻き込んじゃった。



ユシカが、誰か超強力な魔法使いでも連れてきてくれたら、可能性はある。セティスパパみたいな。


しかし、アイツがそんな気の利く奴だろうか。いや、それ以前に、宝箱の中に居るなんて思うだろうか。


思うわけない。


…とは言え、ユシカがあたし等を放って帰るわけもない。アタシだけならともかく、セティスも居るのに。


きっと、あたしがセティスをどっか連れ込んだと思って探すだろう。


バカだから、この宝箱の中とは思わないだろう。



 宝箱は、物音ひとつしない。


…そうだ。この中には、“沈黙”の呪文が掛かっている。最悪だ。


助けを呼べない理由だ。


横に居るのは間違いなくセティス。この柔らかさ。にぎにぎ。間違いない。



 さすがのウィッグも、この状態でふざけてはいられない。この骨の仲間入りなんて冗談じゃない。


しかし…。


この暗い宝箱の中で、助けも呼べず。盗賊道具は、表にささったまま。


何とまあ、陰湿な罠だ。


いや。宝箱の中に、酸性のプディングがウネウネ居なかっただけ、良心的か。


後悔しながら死ねる。



…だめだ。ユシカが気付くことに賭けよう。


―――先輩たちには、取り合えず端に寄ってもらって、セティスとウィッグは横になった。


無駄な体力の消耗は辞めよう。


お互い話が出来ないので、それしかなかった。



この絶望的な状況だ。ユシカ頼む。


…ユシカはきっと大声で呼んでるだろう。聞こえないけど。


…段々、ダメに思えて来た。


…最後の最後には、ユシカはツァルトへ戻って、あたし等が行方不明と伝えるかもしれない。


そうしたらきっと、王家が探索に乗り出して。



そう。天下のアークマスター様がきっとアタシらを発見する。


…ひと月くらい後に。



死んでるって。


ああ。マジか。終わりか。



………。


こんな時でも、セティスは優しい。時々、つないだ手をぎゅっとしてくれる。


…勿論責めたりしない。



自分だって怖いクセに。いや、僧侶は神の許に行くから怖くないのかなぁ。


泣き出したい。沈黙だけど。恐怖に叫びたい。聞こえないけど。


でも、冷静で居られるのは、まだ冷静で居られるのは、セティスと一緒だから。


…嫌だけど。死にたくない。でも。最悪な場面でも。まだ、マシかな。セティスと一緒なら。


…カワイくて、命の恩人で、アタシのオモチャ。アタシの罪も飲み込める男のコ。ついでに皇太子。



…さいごに、ねえ。


暗がりの中、ウィッグは手を動かして、セティスの唇を探し当てた。


…アタシにもする約束ダヨネ。



横向きだから手が潰されて上手く行かないけど。


えい。


…なんか言って欲しいな。いや、何か言ってるみたいだけど、わかんない。


…えい。




…まずいなぁ、妙な雰囲気になってしまったぞ。


…いっか。


セティス。死ぬ前に、男の子に戻ってプロポーズして。


ケッコン式ごっこから始まったトラブルに相応しいエンディングでしょ?


…伝わった?セティスの手がなんかモゾモゾ動いてる。


…これが、アタシの返事だよ…セティス…。


…気のせいだったらしい。このピュアピュア草食小動物がそんなこと考えるハズが無かったぞ。


あ、セティスがなんかアタシの手を取って…。


何か持たせたぞ。何これ。袋。まさか!


ごそごそ。



やっぱシーフツールだ!予備持ってた先輩が居たのか!


セティス見っけたのね!?


何々、内側からやってみようって?


そ、そう。イイのね?これでもし開いちゃうと、2人っきりタイム終わるけど、イイのね?


あ、そう…。



 音は無いけど、ガチャガチャと、鍵穴と格闘。


表から挑んだ時の構造を考えて…逆を見る。


表は、開けたと思ったら、飛んでしまった。もともと、ゴールが罠と。


逆だから…んと、こうやって、こうやって…。


あ、開くかも!


…開けて良いモノか。



ね、もう少し2人の時間つくる?


は~ああ。



(カチッ。)


大きなチェストが当然音もなく、大きな口を開けた。



セティスが、アタシの手を取って喜んでる。


いや、そりゃ命が助かったんだから嬉しいけどさ。


…この小動物が!



 宝箱をよじ登り、外へでる。


「無事か―!!セティス!ウィッグ!」


ユシカがアタシ達を見つける。一応アタシの名も呼んだか。許す。


「良かった…2人とも…!」


ちぇ。ユシカ、涙ぐんでやがる。マジ心配かけたか…。ちぇ、ゴメン。



「ん?………セティス、シャツのボタン随分外れてセクシーだな…。」


ギク。さっきカンチガイした時にアタシが外した…。


ユシカが、わなわなと、震える声で…。


「あ、あのまさかアンタたちまさか…。」


「ち、違う!」当然の様に叫ぶセティス。


「…ゴメン、ユシカ。セティスが欲しがるから…。」


「はああああああ!?」


「ね?」


「ち、違うー!」


ユシカがセティスの首を絞めて揺さぶっている。



まぁせめて、セティスにはこのくらいの罰を与えようと思う。


何の罰かって…秘密だけど。


――――――――――


 3人は、再び、バザールへ戻って来た。


この間の行商はまだ店を構えている。


まぁ、お高い目玉商品がそんな簡単に売れたら苦労しない。



「オヤジ。待たせたな。例のチェストはアタシが開けてやったぞ。ホイ、金。250Gな。」


「驚いた。本当か!スゲエじゃねえか。名を聞こう。」


「ウィッグ。セクシーな名前だろ?」


「ああ、盗賊のウィッグ。大した嬢ちゃんだ。ところで、この髪飾りは300Gだ。」


「負けろよ!!」



 あの宝箱の中には、不幸な盗賊の物か、元々入って居たのか判らない金貨と宝石があった。


換金し、1500G。一行にとっては初の大金。1人500Gだ。


尚、これは冒険者のルールとしては、正当な報酬だ。


拾った金は、冒険者の物だ。ロケットなど思い出を形作る遺品に手を出すのは悪徳とみなされるが、他のモノは全て、生き延びた者に権利がある。


中には、先達の剣や鎧まで剥ぎ取るツワモノもいる程だ…嫌われるが。


多くの名誉と報酬。その引き換えに。冒険者にとって死は常に隣り合わせだ。


故に、多くの冒険者が家庭を持ったり、年を取ると引退する。実に自然なことだ。



 さて、セティスは、2人にこのアクセを手に入れさせてあげたかった。


大好きな2人に、笑顔を。


「ねえ、2人とも。僕が出すよ。買っちゃおう?」


セリスは、2人にそう声を掛ける。全額で500G。届く。自分の金なんて、意味ないから。



でも2人は、首を振った。


そして、自分たちで値切り交渉の末、手に入れた。



…セティスは、少しがっかりする。


女の子の為に何かをプレゼントなんて、母や姉妹の誕生日くらい。


気を引きたいんじゃない。何故だろう、ただ、ユシカとウィッグに、喜んでほしくて。



 何故か少し元気をなくしたセリスに、2人が近づいて。


何やら、勝手に顔を…いじる。


セリスの柔らかい金色の髪に、銀の花細工が咲いた。


セリスの小さな耳に、赤いイヤリングが揺れた。


「え…?」


「…ぷぷぷ、やっぱ似合う!」


「うはー。更にグレードアップ。絶対バレないぞセリスちゃん。」



…当然付けたことも無い華やかな女性用アクセは、セティスの美少女感を最大級に高めた。


2人は大笑いしている。



ぼぼぼ、僕の為に買ったのー!?


女装を辞めようかなんて…思ってた僕にー!



…2人の前では、少し男らしくいたい…なんて…思い始めてた僕に。


「あ、ありがとう…。フクザツだけど…。」


セティスの答えに、2人は更に笑い出す。



…やっぱりもう少し、女装は続くらしい。


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