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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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<魔剣士シルベール編>第6話「大口を開けて」

本編主人公アリエスと盗賊姫エディの子、王子シルベールの恋と冒険。

 道が合流することは、ある。


この先には村があるが、その村へ行くにあたり山道が合流したのだ。


合流がどうって、勿論どうと言うことは無い。普通の事。


ただ、2組の冒険者がたまたま同時に通ったのは、稀と言っていい。



 互いを見る。善か悪かも知れない。組織も出自も不明。


細身に片手剣。バックラー。軽戦士か。えらくイケメンだ。女連れか。良い身分だな。僧侶風だが、幽霊みたいな女だな。髪で顔が見えにくい。


身長190程、筋骨隆々、両手ハンマーに部分鎧の男。盗賊らしきレイピアの女。魔術師らしい男…青の称号…か、そうか…。


互いを見て、特に会話は無い。横並びに歩くのも可笑しい。


シルベールとフェイトはやや下がって、3人組の冒険者の後ろへ着いた。



 ただ、このような偶然も、そこで待っていた男にとっては何の関係もない。


男は、すがる様に、5人に向かって声を掛けた。必死さが伝わる。


「冒険者か?そうなら、お願いだ。俺に雇われてくれ!カミさんを救ってくれ。生贄にされるんだ!洞窟のマモノを倒してくれ!頼む!頼む!!」


 

 驚き、面食らった、このたまたま居合わせた5人の中で、フェイトという女だけはその言葉を噛み砕いて、理解し、疑念を持った。


…3人の冒険者のリーダーらしき大男は、「何だ?依頼ならこの先の村で聞こう。本気で頼むなら来い。」そう言った。無下にはしなかったが、そう言った。それは正当であっただろうし、普通の対応だ。


だが、フェイトは言った。


「アナタは、村の仲間に聞かれたくない依頼をするという事ですか?」


その言葉に、シルベールは当然のように足を止めた。


先を進もうとした3人も。一瞬足を止めて耳を傾けた。


「…生贄を断ることが禁忌なのですか?それとも魔物を倒すことが?」


シルベールが続ける。


「聞かせてもらおう。」


少し、先で、戦士たちも足を止めた。「ほう…。」と一言付け加えた。



「聞いてくれ、村では、3年に1人生贄を出す…普段は年老いたものから出し…涙をのみ込んで来た…。だが、今年は!オレの女房が当たってしまった。いざ、自分の家族となると、そうだ、身勝手だ、今までも犠牲になった者は居たのに、オレは自分の番になったら嫌なんだ!それでも、汚くても、醜くても、嫌なんだ!頼む!魔物を倒してくれ!!お、オレの全財産、600Gある!すべてやる!お願いだ、女房を救ってくれ!」


「…あなたはその為に、この道の合流地点で旅人をずっと待っていたのですか…?」


フェイトが念を押す。


「引き受けよう。その魔物、何処に居る?」


静かに、シルベールが言った。


「ま、魔物は、大口の洞窟に居るらしい。中に入った者は誰も帰って来ない。入口は、骨だらけで…」


「俺たちも行こう。山分けでどうだ。」


両手ハンマーの大男が口を挟んだ。


「その話なら、確かに化け物が居そうだ。戦闘力、お前ら2人じゃ足りないだろう。そこの幽霊女、なかなか切れ者と見た。悪くない。組もうじゃねえか。」


「ゆ、幽霊女…って」


フェイトは不満げだが。横に居たシルベールは不謹慎にもプッと笑い、フェイトに睨まれた。



 確かに、敵が居る可能性が高いミッションだ。しかも、長く生きた何か、の可能性が高い。知能もあるかも知れない。では、この腕の立ちそうな3人組の力は必要かもしれない。


「兄貴。受けるのかい?そこの男のコ、なかなかの美形だし。良いんじゃない?」


盗賊らしき、茶色い髪、三つ編みの女が言った。悪戯っぽい猫のような瞳の女だ。


「キミはいつもそれだな…」


言葉少なに、うねりの強い黒髪の魔術師が言った。理知的な瞳だが、顔のつくりは鋭く、むしろ盗賊に見える。



「…前金とは言わん、アンタらに賭ける…これがオレの全財産だ…。しかし、村の中でこの話は一切しないでくれ。洞窟は、此処からなら、村に入る直前に右へ進むけもの道がある。1時間も進めば、大きな洞窟に当たる。本当に、生きて帰って来たものは居ない。入口も骨だらけだ。気を付けてくれ…ブッ倒したら。村人はきっと…本心では賛成してくれるはずだ…歓迎してくれるはずだ!」



 なし崩し的に、5人で動くことになってしまった。


やむを得ない。


冒険者たちは歩き出す。


「戦士、ガデュエルだ。」


「可憐な妹、シーフのイルマ。」


「青の魔術師、フーマー。」


「魔剣士、シルベールだ。」


「僧侶の、フェイトです。」



「…初耳だな。魔剣士か。どう戦うんだ。」ガデュエルが問う。


「剣に魔力を宿す。そんなとこだ。」


魔術師が首をかしげる。何か、言いたげだった。いや、記憶を呼び起こしているようだった。


…ツァルトの、魔剣士…魔剣士…。


我らがアークマスターの子息が…確か…魔法と剣を融合した技を使うとか…。まさかな。王子がこんな所にな…。




 一行はやがて、洞窟の前に辿り着いた。確かに、骨の山だった。


「待って。邪悪な何か…。」


フェイトが言うやいなや、骨の山から数体の骨が立ち上がる。スケルトン。


下級アンデッド。恨み残る死に方でもしたのだろうか。


剣を持っているでもなく、ただ、腕を振り上げて襲って来る。



 先頭のガデュエルが巨大なハンマーを構えた。どうやら、先頭に2人立つのは得策では無いようだ。


シーフのイルマがレイピアを構えつつ後方へ下がる。


魔術師フーマーが炎の呪文を唱える。


さすがは一流どころだ。動きに淀みない。


シルベールは、バックラーを構え、剣に魔力を流した。だが、それしかしなかった。


フェイトは短い杖を構える。



 スケルトンは5体動き出したが、戦士ガデュエルの一撃で粉々に砕け、フーマーの炎で焼かれ、後方の出る幕は無かった。


「…よお。魔剣士。何もできないような技量でないことは見りゃ判るが、何もしねえたあどういうこった?」


「悪いな。オレは、1トップ型なんだ。アンタと場所を代わるなら動ける。」


フェイトは、シルベールの意図するところを知っている。彼の技は、飛ぶ斬撃なのだ。


自分でも前に言っていた。パーティーとしての相性はとても悪い。


「わかった。次は見せてもらおう。とは言え、オレはトップが好きでね。手ごわい敵の時は出て来てもらおう。」


「…判った。」


ガデュエルは怒った訳では無いようだ。彼もまた、実力者である。シルベールが本物か偽物かぐらい、判る。



 骨を踏み砕き、洞窟の入り口に立つ。


確かに、人の口のような入口だ。大口の洞窟と言ったか。なるほどな。


「…少し、甘い匂いがするね。」嗅覚鋭いシーフのイルマ。


匂いは中からする。毒の匂いでは無さそうだが…。



 一歩を踏み入れる。気配を探る。


「音に気を配れ…」戦士が言う。


しかし、足音を消すのが難しい。


何故なら、洞窟に入ってすぐのあたり。先ほど以上に。


骨。骨。骨。骨。骨。踏まずに居られない。


「なんだこりゃ…。」と、魔術師。


「…入口に何故こんなに骨が…。」フェイトの呟き。


「食った骨が奥に在るのは嫌なんだろうかねえ?」盗賊イルマ。



 それでも、一行は奥に進む。


甘に匂いのする洞窟だ。


円形に彫られた洞窟は、緩やかにうねったカーブで奥へ続く。今のところは一本道だ。


平べったい岩が敷き詰められている。まるで石畳のようだ。


…人工なのか?それとも天然なのか…?



 少しずつ、進む。


うねりは続くが、部屋がない。部屋のようなホールもない。


「どういう洞窟なんだ?」シルベールが呟く。


「何にせよ、奥には敵が居るんだろ。その剣、見せてもらうぞ色男。」



 ズ、ズズズ、ズ。


その時。地面が横に動く感覚。


…地震だ!!


マズイ!


フェイトが悲鳴を上げる。


シルベールは、すぐさまフェイトを抱え、シールドを上に掲げる。


「シールド!ブースト!」


小さなバックラーは光を放ち、天を支える大きな円盤に。


「…こっちへ来い!!」


皆、慌てて、シルベールの作った大きな円盤に逃げ込む。



洞窟の中の地震は、死に直結する。


いや、死だ。崩れ落ちれば、最早終わりだ。


………


「助かったぜ。なるほど、魔剣士か。」


揺れが収まると、再び一行は前を向いた。


しかし。


フェイトは立ち止まる。


「どうした。フェイト。」


「おい。行くぜ、お2人さん。またさっきみたいな地震が来る前にカタを付けようぜ。」



フェイトは、叫んだ。


「に、逃げよう!入口へ戻ろう!!」


シルベールは、何のことか判らなかったが、信じた。


「おい!みんな!逃げるぞ!」


避難誘導の鉄則は、まず自分が逃げて見せる事だそうだが…。



「どうしてだよ!」戦士は叫んだ。


フェイトも叫び返した。


「どうして岩が落ちて来なかったの!?」


「そ、そりゃ頑丈な造りだからじゃねえのか?」


「あれだけ揺れたのに一かけらも!?」


「そりゃあ・・」


「シルベール!岩の隙間に、剣を刺して見て!」


シルベールは、惑わず従った。側面の壁に、岩の隙間に突き刺した。


深々と、刺さって行く。岩なら、有り得ない…。まるで、固い、肉。


壁は僅かに揺れ動いたように見えた。



「ちょ、ちょっと!岩の隙間から、甘い汁が…。」


沸き出して来た液体が、少し皮のブーツに触れた。


嫌なニオイを出して、溶けだす。


「酸!?」



「逃げてー!」


一行は走り出した。


酸を避け、平らな岩の上だけを走る様に、入り口を目指した。


「この洞窟!生きてる!!」


フェイトの結論は、皆を凍り付かせた。


「この甘い匂いは、獲物を溶かす体液!入口に骨が多かったのは!多かったのは!」


走る一行の前に、入り口の光。僅かな、光。


…閉じて行く。


「…!く、口だから!脱出しようとした生き物が出られない、口だから!」


「冗談じゃねえ!!」


戦死は、両手ハンマーを振りかざす。


そして、渾身の一撃を、閉じた入り口に叩きこむ!


だが、相手は岩である。確かに一部砕けたが、それだけだ。



徐々に、岩の隙間から、酸の液体が上がってくる。


「下がってくれ。」


静かに、シルベールが言う。


居合の姿勢で、魔力を溜めて行く…。



「衝斬撃!!」


光の斬撃が、入り口に向けて飛んでいく。


“インパクト”の威力を込めた、斬撃。



…シルベールの魔力の才は、本物である。


魔術ギルドの頂点、アークマスターの血を引く魔力の才である。



 その魔力は岩を吹き飛ばした。


繰り返し、斬撃を放つ。それは、岩の”口”を完膚なきまで砕き、まるで爆裂したようにぽっかり穴をあけた。


「走れ!」


洞窟が、のたうち回る。


洞窟を宿していた岩山が、揺れる。本当の地震となって。


一行は転げるように、いや、転げながら、洞窟を離れた。



 …やがて、古き生命の終わりと共に。大地は眠りにつく。再び、静けさを取り戻す。


それが、その巨大な洞窟が、魔造の生命だったのか。魔物の一かけらであったのか。…太古を生きた生物だったのか。


もはやそれを確かめるすべはない。



――――――――――


 村は、やって来た旅人達の冒険譚に対し、大いに困惑した。


だが、シルベールはポーカーフェイスで続ける。


「俺たちが乗り込んだ洞窟は、巨大なヘビだった。いや、蛇か魔物かは知らないが、迷い込んだ奴を閉じ込め、溶かし殺す化け物だった。俺たちが倒した。何か問題があるのか?」


生贄の話は、知らぬ存ぜぬだ。



 だが、生贄の慣習など、村にとっても誇らしい話ではない。


もしかしたら、大昔に、生贄を捧げたことで巨大なヘビが暴れなかったのかも知れないし、存在を知った祈祷師や村長がそう占ったのかも知れない。


だが、何であれ、結果として、村は生贄を納めることを選んで来たのだ…。



命を捧げる連鎖は、村に横たわっていた長き悲しみは、今日、突如終わった。




 村人は、静かに泣いて、静かに喜んで、冒険者の為に小さな宴を開いた。


冒険者たちは、その小さな宴を受け入れる事にした。


円座になって、酒を注いだ。シルベールは飲まないのだが。



――そして、翌朝。


「よお。お2人さん。提案だ。俺たちの仲間になる気は無いか?」


大柄で有能な戦士、ガデュエルの誘いだ。


「フェイト。確かにお前は切れ者だ。もし洞窟の奥まで行っていたら、入り口に戻る前に溶けていたかも知れねえ。シルベール。魔剣士の力も、見せてもらった。確かに強大な力だ。オレはお前らを認める。どうだ?」


「そうだよ。シルベール、カッコいいし。」


「そうだ。俺たちは職業も被ってないしな。シルベール…殿。」


何故か、魔術師は年下のシルベールに敬語だ。



「仲間か…そう言ってくれるのは有難いがそれはフェ…」


シルベールは、少し後ろに立つ少女の指先が、自分の腕を、服を固く掴んでいるのに気が付いた。



それは、精一杯の、フェイトの意思表示。


伝わる筈もない、こころ。



例え、いつか、わたしの心がぼろぼろになっちゃっても―――


あなたの旅が終わるまでは、一緒に居るのはわたしでありたい


その時間を共にするのは、………だけで……ありたい…。



シルベールは、しっかりと3人を見て、言った。


「仲間とは嬉しい誘いだ。オレには理解者も少ない。だけど、オレの旅に必要なのは、仲間じゃなくて相棒だ。相棒は、1人でいい。」



「…ちぇ。兄貴、野暮ってもんだ。行こう。シルベール、フェイト、またね!」


盗賊イルマは手を振る。


「そうだな。機会があったら、また会おう。」


3人は、2人を置いて旅立っていった。




「これで、良かったのか?フェイト?」


フェイトは答えなかった。


ただ、後ろから、シルベールに抱きついた。



互いの心を測れなくて、時が止まる。


少しの沈黙の後、シルベールは言葉を選んだ。


「…なにやってんだよ。俺たちも行くぞ。」



シルベールが歩き出す。横にフェイトが並ぶ。



連れ立って歩く、相棒の顔を覗き見る。


見上げた美しい少年の顔は、少しだけ、ほんの少しだけ、照れくさそうに見えた。

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