第83話 最終話「愛しき呪いを共に」後編
「何だって?」
「1000年!?アリエスをどうする気だ?」
口々に、妃達が叫ぶ。
―――これより、呪いをかける。アリエス。お前の体は、12の時を待たず、0の時に戻る。即ち一日に一日分、若返るのだ。1000年、体の歳は取らぬ。その器を持って、戦い続けよ。
「アリエスだけ不老不死にすると云うのか!?」
「わ、私達を、置いて?いや、私達が、アリエス様を置いていくではありませんか!?」
―――故に、選ばせてやる。妃たちよ。共に眷属となり、アリエス王を支えるならば、お前達も共に、12の時を跨げない体にしよう。
―――いや。勘違いせぬよう、言っておこう。不老は魅力的な誘いに思えようが、過ぎれば重き咎である…。
―――まして、そなた。そして、そなたと、そなた。今、命を宿しておるな。
多分、3人を指した。
キャステラと、メイフェア。そして、魔女イア。
イアとキャステラに関しては、そのお腹で誰もが知っていたが…。
「え!…わたしも??」驚いた顔の、メイフェア。
しかし、彼女は別な事で頭を抱える。
「…魔界潜っちゃったじゃん!」
周囲が慰める。いやいや、神様は命があるって言ったんだから大丈夫だって!
―――判るか。1000年、子は産まれぬ。例えその日に命を宿そうと、戻ってしまう。
誰もが、息をのんだ。じゃぁ、今いる命は、1000年、お腹の中?
生まれない!?
「それだけでは無いのでは?皆さま?」
ティアナが割って話すのは滅多に無いことだ。
「眷属になったら、私より、セティスが先に逝ってしまう…そんなこと、あっていいの?」
かと言って、子供を1000年幼子のままにする?赤子のままにする?
深い深い…沈黙。
「オイ、神さま。」
魔女が不遜に言う。
「私がどうあろうと、子供は自分自身の生を生きるものだろう?だが、この子を産み、ミルクをやるのに、1年待ってほしい。私は、それを受けよう。このオトコを一人身にして1000年解き放つなど、世の女性に申し訳ない。」
「そうだな。流石に、少し考える時間が欲しい。私は、もっと子が欲しいんだ。シルベールの弟や妹が。」
「オイオイオイ。壺の中のあたしを差し置いているみたいだけど!この可愛いあたしを差し置いてるみたいだけど!みんなを犠牲にしてまで人に戻るなんて言える訳ないだろー!あたしは人に戻りたいけど!でもそのために誰かが泣くのは嫌だぞ!嫌だぞー!」
「ね、姉さま…姉さまはどうするの?」
「ガーレル。こればかりは、自分で考えねば…かく言う私も…。」
アリエスは、言う。
「シャルロナを、そしてダッカーヴァの皇太子を人間に戻してください。」
「ありえすー!あたしは、望んでいない!」
「いや、大好きなシャルロナ。みんなが、望んでいるんだよ。僕だけじゃない。」
「…そうだ。シャルロナ。一緒に、太陽の下で、お喋りしよう。」
「そうだよ。シャルロナ。一緒に、行こう。」
シャルロナは泣き出す。何もわからなくて。嬉しくて。申し訳なくて。
神の力が、溢れる。
―――サービスだ。記憶は残してやろう―――。
壺は粉々に消え…。そこには、蒼い髪の、太陽の様に眩しい笑顔の少女。
人に戻って。シャルロナは、仲間に囲まれて。泣き続けた。
――――――――――
――1年後。
妃達は、考えて考えて、それぞれの答えを出した。
一緒に、泣きながら輪を作って話し合った。そんな夜も。
そして、決断する。
彼女たちは、再び、神の前に並んだ。
「私達は、眷属を受ける。1000年、このオトコの被害者が出ないよう見張る。」
妃達は最終的には全員が、それを選んだ。
<エレジエドの“お妃”フランジ姫>
彼女は…。エレジエドを継ぐお子を産んでから、眷属に加わると言った。それは、すぐかも知れないし、少し先かもしれない。
あの侍女たちも、お役御免にはならず。むしろ、フランジは2人に感謝して、更に親し気になったとかなんとか。そして、共に舞台を見に行くのだ。前と違うのは、フランジ姫が男装を辞めたことだ。
多くの、エレジエドの民は、彼女の婚姻を祝福した。元々、政略結婚で知られた乙女の心を、何日も何日も、花を送り続けた男が手に入れたのだ。そう思われた。
中央広場でのアリエスのピエロっぷりも無駄では無かった。ただし、アリエスはその効果を考えたわけでは無い。単に、堂々としたかっただけなのだが。
バルスタッドに戦端を開いたエレジエド。この国に対する大陸の不信は、実質上、解決へ向かうただ一つの方向に落ち着いた。エレジエドの国は、国王アリエスと妃フランジが治める国となった。
<盗賊姫、エディ>
エディは、4人位は、子を産みたい。そう言った。そのあと、眷属になるというのだ。「お前らが若いままなのは気になるカモだけど、兄弟がほしいんだ。」だそうだ。
つまるところ、エディは、盗賊ギルドマスターの兄が大好きなのだ。家族、兄妹、そんな絆が如何に素敵であるかを知っているのだ。
<侍女姫、ティアナ>
ティアナは、最初、自分だけは、自然の通りに年を取って、子より先に死のうと思った。それを説得したのは、エディとイア。
一緒に、何人か子を産んで、その先も一緒に生きよう、ティアナ。そうしないと。年老いたアンタを尻目に、私はあのバカを誘惑しまくるからね?
セティスも…いつか大人になる。大人になって、自分で決める。きっと、私なんかより、強く。
もっともこの決断に罪悪感を抱いていたティアナ。最後に、そう決めた。
<ダッカーヴァ女王、ノエル>
ノエル妃は、意外とあっさり眷属を選んだ。実はそもそも、小悪魔系だ。アリエスの傍に居られるならこれ幸い。数年後には、叔父の子が…本来の皇太子がダッカーヴァを継ぐことを願った。ただし、これはあっさり期待を裏切られることに。
ダッカーヴァの人心は既に、女王ノエルと王子アゼルのものだった。まして叔父が、それで良いと言っているのだから。
<元・吸血姫シャルロナ>
仲間もアリエスも、自分の為に取引に乗ったのだ。自分が眷属を受けずしてどうする。まだ自分は子も居ないし、1000年がなんだ。既に、300年生きて来たんだから。勿論、1000年後には、可愛いあたしは可愛いママになりたい。
シャルロナは、太陽の様に、明るく笑う。少なくとも、現在、ママになるような落ち着きは見られない。
<歌姫、アネモネ>
我が子ルピナスを思うと不安になるけど、生きてみたい。崩れ落ちる時まで、アリエスの傍で。ルピナスが望むなら、一緒に夫を支えたい。
勿論、望まれる限りは、歌姫を続けよう。意外とステージで注目を浴びるのもイヤじゃない…。
…全て、貴方のせいだけれども。
<ハーフエルフの妃、キャステラ>
彼女は元々ハーフエルフだ。しかも、今までを知る限りは、エルフ寄りのハーフエルフ。時間など関係ない。それよりも、クオーターエルフの赤ん坊がどっちよりなのか。それが彼女の最大の悩みだ。でも、それが何だと言うのだろう。自分の母は人間だ。父はエルフだ。だからこの子も、幸せになるさ。
ああ、アリエスと2人で、チェスを教えたいな。きっと強くなるに違いない。
<酒場の薔薇、メイフェア>
魔界に潜ったことを最後までびくびくしていたが、赤ん坊は無事生まれた。勿論、決まっている。女の子だ。生命の、精霊の力を知る彼女は、ティアナと共に、最期まで反対派だった。最後に決断させたのは…格好つけてもしょうがない。自分が先に、アリエスより先に老いていくのは嫌だった、一緒に死にたいと、あの日。今一度思ったのだから。
<自称大魔女、イア>
彼女はやはり魔女らしく、アリエス独占主義を貫いている。息子??愛してるけど、夫をもっと愛してる。良し悪しは別として、実に一貫している。だから、1000年を共に歩む選択肢意外、ない。最初から、無いのだ。生来妖艶な彼女は、1000年誘惑し続けるのだ。
<アテンドル皇女、アルティオラ>
自分は、戦うべき人間だ。アリエスと肩を並べ、魔を打ち砕くのは自分を置いて他にない。ああ、勿論言い訳だ。そう言うことで、罪悪感を消したいだけだ。皇女であること、母であること。両立しよう。出来る限りを。アルティオラは、女として譲れなかった選択を、そう言い聞かせる。後悔は、しない。彼女はいつもそうやって、決意を持って、凛として選択する。
<薔薇のガーレル>
ガーレルの精神構造は、イアに一番近い。眷属を受ける選択以外、やはり無かった。可愛い娘も、大事な親友も、説得して巻き込んじゃお。それでOK。悩むのは、その時だけでイイ。後の事は、後に考える!
ガーレルは、よくも悪くも子供なのだ。純粋で、前しか見ない。それでいて、世界一と言われる美貌なのだ。だから、誰しも惹かれる。
そして。
「…魔族のアタシが眷属って、本当に良いのだろうか。」
サキュバスのミルキシュ。彼女は、やはり、自分は“恋人”で良いんだ。そう言っていた。
…ら、妃達に総攻撃に在った。
<うるさい。アイツと関係切らないなら、ちゃんと妃になって。>
<テキトウにフシダラなカンケイ続けるなら別れて。>
<好きか嫌いかでハッキリしろー。オラー。>
…最早どちらが魔族か判らない。だが元来、LAWの悪魔は契約で動くモノだとか?婚姻と言う契約を、照れながら渋々、ミルキシュは交わすことになった。
彼女が真に、サキュバスだったのか、違うのか。もうそれは本人にすら分からない。運命とか言うモノが彼女を特殊にしたのか。あるいは、”死神”が造り上げた、ヒトと、魔族を繋ぐ者だったのか。
それは、いつか、死神と語るものが居れば、判るかも知れない。
最期に、虎。
「母よ。我もまた、この者と共に歩みたい。」
―――知っている。羨ましくもある。人として、生きよ。人の愛を知れ。
―――そして、時々 母に、伝えに来るがいい―――
虎は、美しい人の姿に変わる。
「妃達よ。我もまた、1000年を共にする。…その、あの、妃として…。」
妃の中で最も鍛えられた体。それでいて堂々たる美貌。戦うために作られた彼女は、事もあろうに恋を、愛を知ってしまった。3対の羽を見えぬように消し、妃達に並ぶ…。
…アリエスは10数人の瞳に睨まれたが、元気よく、答えた。
「じゃぁ、神サマ。僕らの覚悟はできた!契約しよう。1000年の、長そうな旅を!」
アリエスを、アリエスとその妃達を、光が包む。
――ねえ、アリエス。明日から何か変わるのかな?
――いや?楽しいんじゃないかなぁ。
――楽しむぞー!
――アンタはもうちょい働きなさいよ…。
――――――――――
<再び、魔術の塔。門の近くにある、広大な広場にて。>
今日も、魔術の塔には沢山の入門者が集う。
世界最大の魔術ギルドは、古代魔法王国の力まで取り入れて、勢力を広げている。
大陸、全ての国に、<魔術の塔>がそびえ立った。大陸を守る守護者として、信頼を背負っている。
きっと遠くないうちに、大陸を超え世界を覆うのだろう。
ここは魔道国ツァルト。
魔術の塔、その本部がある。世界最大の魔法都市。
ひと際巨大な、10階建ての塔がそびえる。
見上げると、空に突き抜けるようだ。
まるで、天に手を伸ばすようだ。
あの頂点には、若きアークマスターが居る。
大陸の覇者。魔術の王。只一人、<金色>の称号を持つ、アークマスターが。
大法螺を実現してしまった、魔王、アリエス・メイフィールドが。
1人の旅の少年が、塔を見上げる。
「ふふ、オレがいつかは、アンタを超える。あそこに、オレが住まうのだ。ははは!」
少年の野望が聞こえて居た、通りすがりの<緑>の魔道士。
しかし。興味なさげに、立ち止まりもせず、呟いた。
「居ない。残念だが、マスターは常に遊びまわってるので、塔に居ない。マスターに会いたきゃ、酒場に行け。すぐ会える。」
「…何!そのお手頃感!!夢をぶち壊すお手頃感!!」
<魔術の塔>のアリエス 完
拙い王道ファンタジーにお付き合いいただき、本当に、本当にありがとうございました。
アリエスの物語は此処まで。たまにたまに短編を入れるかも知れませんが。
彼の子供達の物語は、今後も、ちまちま進みます。宜しければお付き合いください。
ファンタジーが大好きなので、TRPGが大好きだったので、これからも誰かの冒険を描きたいと思います。




