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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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第77話 「神々のシモベ」

 此処は、修行僧が打たれる滝である。


険しい山の奥に在り、人目に付かず。


此処に来るだけで、人並み外れた意志力が必要であろうし、人並み外れた体力が必要であろうし。


その滝の上に、僅かだが直径5m程の平らな岩があり、小さな祠がある。


誰も知らぬような祠だ。



 虎に導かれ、アリエスは、初めて、此処に辿り着いた。


辿り着いたそこは、突然、白く光る草花に覆われた、地平も見えない草原に変わった。


あれ?もしかして、僕、死んだ?



 その思いを察してか。くすくすと、笑い声が響いた。


遠くに、女性の姿が見えた。見えたと言っても、随分遠い。白く淡く輝く美しい人。羽のような光の広がりが何対もある…以外は定かでない。



 …ディヴァに、似ているような…居ない様な。


<その通り、私がディヴァを創りし者、マテリア。其方の国に祀られし、慈愛の神マグリテアの姉にして、生命の女神。>


えー。やっぱ僕死んだ?それとも夢!?


<ディヴァは、私の娘。いや、正しく言えば私の力の欠片。>


なんだってえ!?


<…ディヴァの事はうまくやったわね…>


なんか一気に神々しさ消えた!


「か、母さま!なななんという…!」


ディヴァが抗議している。当たり前。



<さて、冗談は此処までにしよう。>


冗談言うんだ…。


<ディヴァには伝えたが。時の転輪は、巨神の女王、“タイム”の額にある。>


タイム…時、か。


<かの者を破壊せよ。”時の転輪”を取り戻し、神界に捧げ封じよ。これを持って、其方の願いを只1つ、叶えるものとする。>


出来るんだね。吸血姫を、人間に。シャルロナの呪いを解くことが。


<出来る>


でもね、女神マテリア。アレが人の手で何とかできるモノかね?それこそ、何故、神々が動かない?


ずっと前から、思ってたことを。出来れば聞かせてほしい。



 何故、神々は居るのに、人の世では悲しいことが起こり、悪魔が跋扈し、不幸をまき散らす?


神々は、心清い少女が誘拐されるのを何故、黙って見逃す?


忘れられない。今も脳裏に刻まれた、大事な大事な、ティアナの涙。


オークションに立たされていた、幼いティアナの悲しい顔を!



<これ以上知っては、其方は人では無くなるかも知れぬが、それでも聞きたいか?これは、脅しでも何でもない。>


聞かせてもらいたい。僕の行動原理は、女性への愛なもんで。



<・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・>


<・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・>



 アリエスは激怒した。


思い出した。銀のハイメルの言葉を。


“大陸を支配した真祖が、ある時、奈落を封じる為に東へ単身赴きました。しかし、封じることは出来ず。いや、しなかったのか。納得いかぬ顔で帰って来たのですよ”



 どうやら、呪いともいえる何かが発動したらしい。頭の中に、霧がかかる。


…そうだろうな。神にも魔にも隠すのだろう。


良く受け取れば、僕が人で居られるための慈悲なのだろう。


目覚めた時、どこまで覚えているのか。



 この怒りを。


――――――――――


 女王の首は、バルスタッド北の砂漠に向かっている。


やはり合流しようとしているのか。だがそれを待つ義理は、人間側には無いだろう。



 黒い人形たちが動きを止めているとはいえ、退治することは現在不可能。


倒しても倒しても復活するのでは。こちらの被害が増すばかり。



 では、先に女王の首に。ご退場願おう。


「アリエス様。」


「いえす。」


アリエス付きの賢者ローファ。42才。男性(重要)。


「かの首が出てきたアタリ、遺跡ですが。」


「どう?」


「ご想像のとおり。生命であれば、枯渇と言う表現で宜しいかと。」


「…やっぱ時を操るか。キッツいなぁ。問題は、影響を受けるのが生命だけなのか。否か。」


「試されますか?」


「やってみようか。」



「“ロングビジョン・ブースト” “サモン・マテリアル・カノン”」


目の前に躍り出たのは、最新鋭の大砲。有効射程1km。


「せっかくだから、ブーストするか…」


「“アニマライズ” “ブースト”」


射手が居ないので、疑似生命で対応。威力も射程も伸びただろう。


「撃て!」


爆音。轟音。


「うわ!うるさ!」


完璧な命中率。


砲弾は、女王の首の手前に迫ると、時が静止したようにピタリと宙に止まり、赤黒い粉になって降り落ちる。


「連弾!撃て!」


再び、爆音。


しかし、結果は同じだった。


「皆さん、見てくれたかな?」


<レオだ。やはり“時”を纏っているな。引き揚げろ、アリエス。>


<私です。現状最悪ですね。策を練りましょう。アテンドルの賢者たちも合議中です。>


<ご苦労様でした、マスター。いや、まさに御足労。戻りなされ。>



「“送還”」


アリエスは、従兄のジャガーノートから拝借した大砲を返した。


「約30m以内に入りますと、時が進む。人も物も、ですねえ。バルスタッドが砂漠になった理由は、もしやこれでしょうかね。」


「だろうねえ。メテオが降り注いだせいかと思っていたけど。または、その両方。」


「一度戻りましょう。かの首が合流するにはもう少し日があります。」



――――――――――


 …エレジエド。皇太子妃の部屋。


実は、先だって。アリエスは不安定なエレジエドの城下にて、ひと演説かまして来た。


いや、演説などと云う高尚なモノではないけれど。



 「世の中大変なんですけど!僕は今日、フランジ姫にこの花束を届けに来ました~!皆さーん。応援よろしく!」


<新しき王は真にバカらしいな…>


<花束!?皇太子さまを失ったフランジ様を、無理やり妃にしようと…!?それでエレジエドの支配を完了か!?姑息な!恥知らずが!>


<いや、良い方に取れ。フランジ様が身売りしてくれれば、エレジエドは滅びぬではないか…いや、良い。その程度の犠牲。所詮、エレジエド王家が大事なのは王家だけであったのだから。>



 それから、アリエスは、フランジの部屋の前に立った。花束を持って。


マリッサは、意外にも軽く、ドラマでも見るように部屋の扉を眺める。


<扉が開いたら、きっと、抱かれる。かな。どきどき。>



 ネリオは、もう少し別なことを考えているらしい。


ねえ、あの花、これかな。そんなことを、マリッサに聞いた。


ネリオがつい先日、ファルトラントの大きな大きな街で買って来た本だ。魔法で解読し、読んでいる。


「ああ、こっちじゃない?」マリッサはそちらにはあまり興味ないようだ。



 「フランジ姫。花束を受け取ってほしくて来ました。」


沈黙…扉は開かない。


知ってる。簡単に塞がる傷じゃない。



 「また来ます。西の問題を片付けて、また。“透過”」


アリエスは、花を壁の向こうに送る。


この転移は向こうを知らない、予想で飛ばしているので正確にはテレポートではなく、“スルー・ウォール”。



 アリエスは、もう一度、通りの中央に現れて、道行く人々に叫んだ。


「…ダメでしたぁー!また来まーす!」


<…ダメでしたって…馬鹿?恥ずかしくないのかね?>


<はぁ。ダメでしたって。良くとると、無理やりじゃないってことねぇ。>


<はは。そう簡単にフランジ様の御心が動くはずなかろう。>


…とは言え、あの王は何故、恥ともいえる事を伝えて行くのかね…?


誰かが言ったが、周囲はあまり、同じように考えてはくれなかったらしい。


――――――――――


 2日後。<首>を遠くから見張る何匹もの使い魔から、怖ろしい情報が伝えられた。


女王の首、が、機械的な叫びをあげたのだと。


その場で、何が起きたわけでもない。だが、直後に、それは別の場所で起こったのだ。



 バルスタッド北西。つまり、エレゲート領の小さな砂漠の地下から。巨大な黒い物体が現れたと。それは、バルスタッドの人形たちより更に大きく。目算200mだという。


バルスタッド南方。海。入り組んだ海岸線に。1ヶ所なだらかな砂浜が続く地域があった。

故に、港を造りやすく、今も活況である…。


その海の中からも、同じく200m級の巨神が現れた。そう言うのだ。


彼ら?男性的なフォルム故、そう呼ぼう。彼らは宙に浮き。空を進み始めた。



 彼らの近くに在ったモノは皆、燃え、粉になり。腐りゆき、さび付き。黒い粉に帰る。


目指す場所は、1つであった。女王の許へ。当然。それだけだ。


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