第8話 「北へ。二度目の敗北と。」その①
魔術師ギルドを嫌々継いだ、怠惰と女の子を愛する、評判悪い第3王子アリエス。
彼を信頼する女性たちによって、少しづつ、大切なものを背負い始めます。
アリエスが興味を持った北の国の姫。彼女が住む王国に破滅的な邪悪が忍び寄る。
第8話、その①です。(その②で第8話終了)
アリエスは王宮に居た。母に呼び出されたからだ。
母の名はネジーナ。王の3人目の妃であり、子はアリエス一人。故に溺愛されている。
用件はシンプルなもの。
「東方のファルトラントから妃を貰ってはどう?アリエス。どうも、噂によるとお前は仲良くしている女の子が多々いるらしいし…。落ち着いた方が良いかも知れません。母が何も知らないとでも思いますか?」
「いーえー。」
「好きで入った魔術師ギルドも。未だに白から昇格試練を受けていないとか…。」
母親は、自分の息子がギルドの長となったことを知らない。知れば即辞めさせるだろう。
「それも、遊び歩いているが故でしょう。もうすぐ18ですものね。もう、お前を一人前の男の子と認める時期でしょう。アリエス。一度、ファルトラントの姫たちとお会いしてきなさい?」
母ヨ。オトコノコと言う言葉は一人前の者を評する言葉でありましょうか…。
アリエスは、それは言わなかったが、代わりの言葉は咄嗟に思いついた。
「母上。東方ではなく北方。ダッカーヴァ公爵領の姫は如何でしょう。」
「何を言うのです?いつ攻めてくるかもしれぬ仲の悪い国ですよ?」
「それです。実際には攻めてこないでしょうが。どうでしょう、僕があちらの方の姫を貰えばダッカーヴァは家族ですよー。平和ですよー。」
「それは理想論ですけどねえ。不可能に近そうですねえ。」
「いえいえ、出来ると思うんですよ。」
「…アリエス。オマエ。」
「ハイ。」
「…そっちに、気になる姫がいるのではないでしょうね?」
「ギクリ」
世の中、母に隠し事できる息子はあまり居ない。
――――――――――
もう一人のお妃候補、見に行こ―。
アリエスは冒険者の酒場へ飛ぶ。幼馴染、メイフェアの所へ。
…まだ早かったのか。メイフェアは酒場に出ていなかった。
「おう、アリエス王子。メイフェアなら、ちょっと風邪ひいて家だ。」
「おじさん、家に上がっても?ちょっと揶揄ってくるよ。」
「ああ、かわりと言っちゃぁ何だが、その帰りにちょっと重たいの運んでくれるかい?魔法で。」
「OK~。あとでね。」
アリエスは手を振って、裏手屋敷に向かった。
ノックし、メイドたちに今日も可愛いねと挨拶し、中へ入る。
メイフェアの部屋へ。ノック。
「…誰?」
「僕。もう心配で心配で酒も喉を通らず」
「嘘つけ。まあ。襲い掛からないなら入っていいよ。」
「…信用ないなあ。」
アリエスは中へ入った。
「どう?具合?」
「まぁ普通に風邪。ちょい熱」
「何で、シャリーに呪文で治してもらわないの?」
「パパが、呪文バッカ頼ると本来の体のマナが落ちるって。まー一理あるじゃない?ケホ。」
「ふううん、じゃぁいっつも魔法に頼る僕は?」
「だからナヨなよなんじゃない?少しは鍛えなさいよ。」
「嫌だねー。」
「でしょうねー。」
2人は、他愛無い話を20分ほどして。
「じゃぁ。今日の所は退散します。お早いお帰りを。」
「酒場が家はいやだなぁ。」
「じゃぁ、帰るけど。そうそう、風邪、うつすと早く治るそうだよ?」
アリエスは、軽く、メイフェアにキス。
「はぁ。もっと真面目なオトコに出会いたかったよ…。」
「ごめんねー。諦めてお嫁さんなってねー。」
「だれがなるって言ったかなぁ?」
「言った。5歳の時。」
「……6歳だよ。」
―――酒場の裏手。
「はぁ、コレを全部移動はきついよネおじさん。」
山積みの酒樽を見て、アリエスが言う。
「地下の酒蔵まで頼むよ。王子。」
冒険者の宿に併設された酒場。ここは非常に古い歴史を持つ。
石組みの地下、この酒蔵もほぼ歴史的建造物。しかし、ノームの力を借りて作り上げたこの建物は異様に頑丈だった。
「ここ、すごい歴史感じる部屋だね。おじさん。」
「そうだね、城と同じ時期に作られたんだ。ご先祖にね。」
「真祖のお兄さんなんでしょ?」
「血のつながりはないらしいけどね。真祖王が非常に感情的な人だったそうで、王家の理性と呼ばれていたらしい。」
アリエスは神祖の顔を思い出したが、むしろ理性的な人物に見えて意外だった。
「へええ…そうなんだ…」
「アリエス王子。折り入って聞きたいことが一つあるんだがね。」
「はいなんでしょう。」
「メイフェア、好きかい?」
「それは勿論。」
「…聞き方が悪かった。愛しているのかな?ウチの娘。」
「う~ん。バレてた?」
「はは、一応、親だよ。」
「うん。妃にしていい?」
「それはどうだろうね。何ていうかね。アイツが。」
「どういう事?」
「うちの一族には、解けない呪いが掛かっている。」
「は?」
「私は婿入りでね。そして、私の父も婿入りだ。その父もだ。」
「…?」
「ストレイン家は、代々女性しか生まれない。」
「…平気だよ、そんなの~。」
「王子はそうかもな、でも、王子は、王族だ。王家に呪いの血が混じる。さてどうかね。」
「…呪い、解くよ。僕が。」
「出来ない。王子、何代もの血筋をさかのぼる呪いなのだ。そうだな…最初の犠牲者…あるいはその子ぐらいで、王子のように、強大な魔力の保持者に逢っていたら。」
「…その時点で呪いを解いていたら、終わっていただろう。でも、もう遅い。何代も、呪いは積み重なった。歴史ごと変えないと消えないんだよ。王子。それは、家族すら居なかったことにすることなんだよ。」
「消せないんじゃなくて、消しちゃいけない…呪い…。」
「そうとも言えるな…王子。世の中には、あるんだよ。どんな力でも、取り戻せないものが。悲しいことに、あるんだよ。」
「………」
でも、何かが、あるはず。どんな事にも、奇跡が。方法が。異業が。だって、何かを叶えるから、魔法って言う。
「…それでも、メイフェアがほしいか?」
「うん。王家ったって、継承権7番目。血筋も何もないよ、おじさん。」
「…アイツが良いと言ったらな。」
「うんうん。」
「…うちの奥様も説得出来たらな。」
「………」
「頑張んな。」
「ハイ…。」
――――――――――
後日、ダッカーヴァでは、このような騒動が持ちあがっていた。
「盗賊団の奴ら、なんのつもりだ!上流の湖を占拠しやがった!」
「ダムを破壊するつもりらしいぞ!」
「冗談じゃねえ。だがあそこには第二正規軍が居た筈だ!!何をやっている!?」
地形的に、ダッカーヴァ首都ヘイメルクの上流、パステイル湖はこの国の生命線と言える。豊富な水量、豊かな淡水資源。パステイル湖に繋がる、石組み3段の貯水湖で水量を調節している。
当然、首都に継ぐ第2戦力が常駐している。パステイルの語源通り四季で色鮮やかに変化する美しい湖に、強固な砦を作り厳重に守っている。仮に火竜が飛来しても撃退できる程の戦力。
だが、噂ではその砦をダッカーヴァ盗賊団の残党が占拠したという。
あり得ないことだ。あり得るはずがない。最近壊滅したという盗賊団の残党なのだから。
―――さて、アリエスの元に、「喰いあうヘビと竜」の印が押された手紙が届く。
正確に言えば、使い魔のフーゴがテレポートで飛んで持ってきた。当然だが、テレポートが使える使い魔はごく僅かだ。その魔力は召喚者に由来する。
「誰からだ?」
「君の兄さんから。」
此処は、魔術の塔、真。幽玄なる魔術書の保管庫。
…の筈だが、現在は盗賊の少女エディとアリエスの密会場所になっている。真祖が聞いたら激怒するかも知れない使われ方だ。
最近では、エディは昼にアリエスの離宮でティアナと過ごし、夜になるとここに来る。エディにとっては、此処からの眺めも気に入ったし、2人だけの塔という状態も意味合いも悪くなかった。
「見せて。」
薄いタオル生地で体を隠しながら手紙を読む。
「裏の仕事だな…。私も一緒に行こう。良いだろう?」
「ダメ―。」
「それは約束が違う。」
「今回の敵は盗賊団。生き残りに君の顔を見られると面倒。」
「そんなことは…」
「そんなことは僕が許さない。」
「一緒に戦わせろ!」
「ギルドマスター、<金>のアリエスより、<灰色>のエディへ。この魔導書を読んで、池に向かって500回<ブラスト>撃つ練習ね。」
「くっ!卑怯者!」
「それにねー。」
「何だ嘘つき。」
「僕の妃候補を、危害の及ぶ可能性を高める所には連れて行きません。」
「な!…ん…て…」
アリエスは服を着ると、決まった!と言う感じで、ばっと背中を向ける。
「…それは、ティアナにも言ったのか?」
…アリエスは、ギクッと固まった。
「…メイフェアにも言ったのか?」
アリエスは、即座にテレポートして消えた。
…エディの夢見るような表情は、あっと言う間に、普段の冷徹な顔に戻っていった。
と言うか、もっと低いテンションに下がって行った。
その②へ続く…




