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<魔術の塔>のアリエス   作者: なぎさん
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第1話 「働け!」

王道の?ハイファンタジー作品です。

魔法ギルドマスターを強制的に継承させられた、だらだら好き、女の子好き王子様の物語。

お気楽に、お暇な方どうそ…。

(R15)


 「働け。」


 可愛らしいサーバーの服を着た少女が、目の前の椅子に座り、一言。


しかし、店内の8つあるテーブルの1つを、ほぼ毎日占拠している若者はまるで言う事を聞く気が無い。


「メイフェア、ミルク酒もう一杯。」


「5杯目ですけど。」


「せっかく売り上げに貢献してんだから。もっと可愛い笑顔で接客しましょう。」


「くっ…。」


メイフェアは、銀色に紫のラインの入った珍しい長い髪を翻しながら、カウンターの父親に文句を言う。


「パパ。パパからもなんか言って。あのグータラ王子を働かせて。」


「うーん、王子、働けとまでは言わないが、ギルドの称号試験は今年も受けないのかい?称号で給付金が上がるんだろう?」


「え、受けないけど?」


「パパ、アリエスは未だに<白>よ、<白>!?」


「称号の為の勉強はごめんだよ~僕は楽にいきるんだ~。」


話を聞いていた常連たちが、笑いながら話に入ってくる。


「良いじゃねえか、継承権第7位の王子が国の事を気にするこたぁねえ。楽しくやればいい。」


「たまに魔術師ギルドの指令で働いてるんだろ?十分働いてるじゃねえの。飲め飲め。」



「よーし、じゃぁ、そろそろ演奏入れようか~!」


「おー、頼むぜ王子~!」


 アリエスは机の上のリュートを取り出して元気の良い曲を奏で始める。


これだけで食っていける程度の腕は十分あるのだが、あくまで趣味だった。



やれやれ、また始まった。こうなると客もたくさん飲むから良いんだけどさ~。


メイフェアはため息をついて、エールの追加準備を始めた。


――――――――――


 テーブルでミルク酒を軽く流しながら、メイフェアと下らない話をしていた時だ。


白い襟章から声が聞こえて来た。通信機の様な役目を果たしている襟章だ。上の階級から指示が来るのだ。


あぁ、面倒だなぁ~。何だろう。


「赤の魔術師ブランから、白の魔術師、第12部隊へ。明朝、8の刻に首都ディムの南門へ。2、3日の遠出になる。馬と食料は用意する。戦闘の可能性は低い。騎士団先遣隊が掃討済みの遺跡内部より、魔術に関するものを調査回収せよ。」


「良かったねー。仕事ですわね。ホホホ。行ってらっしゃいませ王子様~。」


「あー、面倒くさい…。」


「その内容じゃ、わたし達の出番無さそうだしねー。」


メイフェアは精霊術使。アリエスの冒険グループの一員でもある。


「ちぇー。お土産は無いからな!」


「良いのよ?遺跡で宝石の付いたブローチの1つも見つけてくれれば?」


メイフェアはにっこり笑った。



 ―翌朝。


5人の白の魔術師が、南門に集まり、青の魔術師の下に集う。


「白の魔術師、ハルト参上しました」背の高いエルフの若者。実年齢は不明。


「白の魔術師、アンナ参上しました」三つ編み青い髪の少女。


「白の魔術師、タンビオ参上しました」東方系に見える赤髪の若者。


「白の魔術師、ロハス参上しました」髪を短く切り、もみ上げが長く、髭を生やす若者。


はぁ、多いよ。名前覚えきれん。


面倒だから、背高さん、三つ編みさん、赤髪さん、モミアゲさんだ。これでいいや。


「オイ、貴様は?」


「あ、ハイ、アリエスでーす。」


「…噂の万年<白>の王子様か…勿論、この場において王族への特別待遇はない。承知して貰おう。」


4人がクスクス笑う。


「出発!遺跡の安全確保は重要なミッションとなる。魔道国ツァルトの<武>は我ら魔道師団。きちんと成果を見せろ!」


 白の魔術師達は、魔法の指輪を口の前にすっと構える。ツァルトの魔術師は魔法の杖を持たないことで知られる。ギルドの者には、魔法の触媒となる指輪が与えられる。「杖を構えるより、その空いた手で何を掴めるか考えろ。」ツァルト・ギルドの特殊な教えの1つ。



 ただ一人、アリエスの指にだけは、4つの指輪が填められていた。


青の魔術師ザイフンはそれに気付く。


ただの王族の貴金属指輪か。魔法の品か。何にせよ、生意気なことだ。白が。



 6頭の馬が、遺跡に向かう。こんな近くで遺跡とは珍しい。何に埋もれていたやら。魔道国ツァルトは天候もある程度コントロールされるため、大きな嵐は少ない。あるとすれば地震の影響か。


アリエスはずっと、他の5人に言いたいことが有ったが耐え忍んだ。仕方ない。白の魔道士たちは簡単に言えば初心者たちだから。


――――――――――


 遺跡の入り口と思わしき石柱の門。先遣隊の兵らしき5名ほどが、青の魔術師ザイフンと話を通している。手を挙げ、白の5人を招く。


「行くぞ!」


「ハイ!どんな邪魔がありましたか!?」


アリエスは先生を困らせる生徒のごとく、元気よく手を挙げた。


「…何も無いらしい。埃だらけ、砂だらけの廃墟だ。」


「どの時代のどの種族が作った遺跡ですか?」


「このあたりじゃ、多種族いただろう。何の関係がある?行くぞ」


「………」



 馬を降り、青のザイフンを先頭に遺跡を進む。すでに、後から付けたと思われる燭台が随所にあり、明るさは確保されている。


「全員、<魔法の目>で進め。見落とすなよ?」



 シンプルな遺跡だった。見た限りでは。


下った後は、通路の左右に生活空間を備えた部屋があり、その奥に、朽ち果てた格子がある。


中心をけ破られ、既にただの通路と変わりない。左右に並ぶ、朽ち果てた格子の小部屋。


(古代の地下牢じゃないか…。)


突き当りまで、左右に8程の小さな部屋を確認した後で、さらに地下に降りる階段。


(石がかなり美しく加工されている。時折見える文字から考えれば古代の魔法王国…)


階段を降り切った後は、先程の真下に当たる様に折り返し、再び左右に部屋があるが、先程より広い。


(階級によって部屋の大きさを変えている。敵を捕らえた中でも差が付けられているな…。この大きさなら、部屋と言っていい。軟禁と言うところか。)


「何も…見当たらんな…。」


「そうですね、魔法の反応は無いようです。」


「目に見える宝物なら、先遣隊が持って行っただろう。我々は魔法の遺物に専念するぞ!」



 アリエスは、一向に付いて行かず、部屋の端に転がっていた数枚の羊皮紙を手に取る。ふーっと息を吹きかけ、舞い上がったほこりが舞のを嫌そうに手を振った。すっかりボロボロだが、一部は読めそうだ。古代言語か。


「”デコード!”」解読の呪文。


(多種族の者たちを…捕らえた…最低限の生活…働かせる…下に族長一族の間…)


(恨み…魔法が使えないからと言って…)


(長は 奥の間に閉じこもり 自決 呪い 滅び 願い)


「この遺跡は、埋められたんだ。無駄に犠牲を出さぬよう、対処もせず放り出したんだ…。」



 アリエスは、走り出した。罠があるはずはない。


ただ、奥の間はきっと<魔法の反応>があるだろう。閉じ込めたのだろうから!


地下3階には、ほんの少し広くなった通路があり、左右の部屋は扉もなく格子もなく、恐らくは樽や瓶であったものが散乱していた。


そして突き当り。ただの岩に見えるが、魔法で見れば間違いなく扉。


「おお、これは素晴らしいぞ。”オープン!”」


「辞めろ!あけるな!」


アリエスの言葉は届かなかった。


「”マジック・ロープ!”捕縛!」


白の4人を強引に引きずり戻した。


「うわ!?」


「な、何をするこの白王子!」


「邪魔するな!」


「いった!何すんのよ!」


彼らは、痛みと文句で、アリエスの呪文に何一つ抵抗できず連れ戻されたという事実を見落としていた。

アリエスは、彼らを置いて再び走り出す。



 姿を現した魔法の扉は静かに両側に開く。中は暗闇の空間。


緑のザイフンは、中に向けて明かりの魔法を放った。「”ワイド・ライト!”」


そして次の瞬間、大きく悲鳴を上げた。


「”テレキネシス!”」


アリエスは魔法で緑のザイフンを横へ弾き飛ばす。


ザイフンが居たあたりに、白い煙のような腕が伸びて来ていた。


「”プロテクト・サークル!”」


唱えながら、アリエスは部屋に入った。


周りを、呪いが囲む。悪意が取り囲む。



<魔法の…匂いがする…憎い…魔法の…強い…魔法の…魔法の…匂い…>


白い煙で出来た、人型の異形。


部屋にあった 剣、 ナイフ、 巨石、 槍 …相手を傷つける為に使える全てが、宙に浮かび上がってアリエスに狙いを付けた。


「あなたたちを、開放する。天に還らんことを願う。」


一斉に飛んできた剣や槍は防護円に全て阻まれた。


「”マス・ライティング・エナジーブロア!”」


アリエスの体を中心に、白い光の筋が幾つも走り、ゴーストたちを消し去っていく。


奥に居た一人を除いて。


それは、一番奥で一番呪いを発していた女性のゴーストだった。



<憎い…恨めしい…魔法の…王国!>


「古代の魔法王国は、2000年前に滅びました。」


何だ…と?…


「貴女の一族を蔑ろにしたことを、その血を引く僕が心より謝罪します。どうか、眠り給え、古代の犠牲者よ」


<滅んだ?…滅んだ…滅んだのか…同胞よ…日の当たらぬ地下で我が生んだ子らよ…呪いは叶った…>


「”ボール・ライトブロア!”」


アリエスの放った魔法は、大きな光の球だった。光属性の、殲滅呪文。


ゴーストは、向かってくる光を避けようとはしなかった。


そして、消えゆく…。



「この部屋にあるものは。全てあなたたちに返すべきものだ。それも、今、送ろう。”ストーム・ファイア!”」


部屋の中に炎の嵐が吹き荒れる。何一つ、残さず燃やし尽くす。その中には、貴金属の品々も硬貨もあったかも知れない。


「お、お前は何故、上級スペルが使えるんだ!?」


後ろから、ザイフンの声がした。


アリエスは、人差し指を口に当てて、内緒のジェスチャーをする。


「帰りましょう。ここにはもう、何一つ価値のあるモノは無いですよー?」


…メイフェアへのお土産もね。



――――――――――

 アリエス達は、再び2日かけて首都の南門に着くと、そこで解散を命じられた。


バラバラに帰路へ着く。


物陰に入った瞬間に、アリエスは呪文を唱えて消えた。


(最初っからテレポートか飛行で行けば楽だったのに!)


ずっと言いたかった一言はそれだった。



 そして、アリエスは塔の最上階に入る。


すぐに、扉の外から、声が聞こえて来た。


「お帰りですか、アークマスター。」


「まだ慣れないなぁ、その呼び方。ハイメルさん。」


「そうは行きませんな。この塔を継いだ以上は、役目を果たしていただかないと。それに、ここに帰って来たという事は、報告が何かあるわけですな? では、それを聞いた後は、いつも通り新しい呪文の習得に励んで頂きましょう。マスターの名に相応しい知識と研鑽を積むことこそが貴方の仕事でございます。」


「あぁ…面倒だなぁ…」


「レテネージ様は、あなたの10倍速く、10倍多彩に、10倍強く魔法を使えましたぞ?」


「300歳の真祖と比較はやめてほしい…。僕は出来るだけ、楽したいんだよお~!」



 魔術の塔。この10階建ての魔法の塔は、魔術師ギルドの居城で在り、養成機関であり、魔道国ツァルトを守る最強の兵団でもある。


最近、この塔の主が変わったことは、国王と、ごく一部の人間だけが知っている。


塔を継いだ若者の名は、アリエス。17歳。パープルをベースに金の色が所々に差し込む髪、氷の様に薄い青の瞳を持つ華奢で美しい王族。



極めて稀な、膨大な魔力を有し。


…楽することと、女の子が大好きな奴だった。



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