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95 精霊、居候になる

「へえー、地球(テルラ)で精霊とは珍しいね」


 神社ダンジョンの大岩内、セーフティゾーンで千尋と萌、精霊のディーネとシル、そして氏神(ウルスラ)、神使ケルニアが車座になっていた。ケルニアはバカでかい鹿の姿なのでかなりこの場を圧迫している。


 精霊たちには、氏神とケルニアの姿が普通に見えているそうだ。


「それで精霊ちゃん達は何回くらい世界を渡ったのかな?」

「んーと、30回くらいなの?」

「40回くらいなの?」

「…………」


 二人で回数が異なる上に疑問形であった。全く当てにならない事だけは分かった。


「ねえケルニア。二人の軌跡を追えそう?」

「ふむ……その『依り代』とやらは、それぞれの世界にまだ存在するのであるか?」

「依り代は1個しか出せないの!」

「なの!」


 精霊ちゃん達はケルニアの問いに元気いっぱい満面の笑みで答えた。尊い。だが前途多難である。


「うーちゃん様、この子たちを帰してあげるのは難しいでしょうか……?」

「うーん……まず世界を特定して……これは『ワクルドラシル』っていう名前も参考にして探すけど、見つかったらその世界の神と交渉して……そうだねぇ、結構時間がかかるかも」


 時間がかかる、という氏神の話を聞いて、精霊ちゃんズが「ガーン!」とショックを受けた顔をする。


「じ、時間って、どれくらいなの?」

「なの?」

「そうだなあ。早くて2ヵ月くらい、長ければ半年くらいかな?」


 思ったより早いかも。千尋は数年単位でかかるのかと身構えていたので少し安心した。

 ディーネとシルはお互いを見て頷き合う。


「分かったの。お願いするの!」

「お願いなの!」

「うーちゃん様、ケルちゃん様、私達からもお願いします」

「お願いします」


 千尋と萌がペコリと頭を下げ、それを見た精霊たちも姉妹に倣ってペコリと礼をした。


「(か、かわいすぎる……)う、うん、やってみるね」

「我も主と共に探すのである」


 頭を下げていた4人がパーッと笑顔になる。


「で、その代わりと言ってはなんだけど、千尋ちゃんと萌ちゃんにお願いしたい事があるんだ」

「「なんでしょう?」」


 氏神からの頼みと言えば、異世界の人々を救う事。また新しい異世界に行って魔王とかをぶっ飛ばすのかな? 腕が鳴るぜ。


「遺跡の調査に行って欲しいんだ」

「遺跡?」

「異世界の?」

「いや、この地球(テルラ)の」


 姉妹はお互いに顔を見合わせる。遺跡の調査とかって、考古学者とか大学とか、そういう所の領分ではないだろうか。自分達に出来ることは調査というより破壊なのだが。

 姉妹の思いをよそに、ディーネとシルは千尋が巻物から出してあげたメロンパンをもぐもぐと幸せそうに食べている。


 それに遺跡と言ったら、地球でも結構秘境にあるのではないだろうか?


「えっと、私達パスポートとか持ってないんですけど」

「ああ問題ない。千葉だから」

「千葉」

「うん。正確に言うと千葉の沖合。海底だね」


 なんと。そんな近場に遺跡があるとは。千葉恐るべし。


「この前、千尋ちゃんが魔法をぶっ放したでしょ? あれで海底の地形が変わって」

「地形が」

「今まで隠されてた遺跡がひょっこり出て来たの」

「ひょっこり」


 氏神によると、自分より前に地球を管理していた神がその遺跡に何か隠している可能性があるらしい。危険かも知れないので、他の誰かが見つける前に回収したいのだそうだ。


 千尋にも責任の一端がないとは言えないので引き受ける事にする。だが――。


「うーちゃん様。恥ずかしながら、私と萌は泳げません」

「……カナヅチなんです」

「それならだいじょ――」

「あたしたちに!」

「おまかせなの!」


 氏神の言葉を遮って精霊ちゃんズが立ち上がった。二人とも口の端にメロンパンのカスが付いている。メロンパンを食べながらも、ちゃんと話を聞いていたようだ。


「チヒロとモエは、海の中に行くの?」

「「うん」」

「ならあたしが道を作るの!」

「あたしもお手伝いするの!」


 ディーネとシルが腰に手を当てて胸を張り、「ふんす!」と鼻息を荒くする。


「えっと、ディーネちゃんが道を作ってくれるの? 海の中に?」

「そうなの!」

「で、あたしが足場を作るの!」

「「おお! すごい!」」


 さすがは精霊。ただ可愛いだけではなかった。千尋と萌にしてみれば、ただ可愛いだけで十分なのだが。

 しかし、氏神が言いかけた事も気になる。


「あの、うーちゃん様? 何かおっしゃりかけたような……」

「……え? 何でもないよ? 精霊ちゃん達が居て、よ、良かったなー」


 うーちゃん様は、きっとまた何かの加護を授けてくれようとしてたんだろう。水中呼吸の加護とか。エラとか生えたらちょっと嫌だ。精霊ちゃん達がいてくれて助かった。


「じゃあそういうわけで。詳しい場所は千尋ちゃんのスマホに送っておくからね」


 最近の神様はスマホも使いこなしている。便利な世の中になったものである。


「うーちゃん様、遺跡の調査って急ぎですか?」

「いや、時間に余裕のある時で大丈夫だよ」


 冬休みも残り3日。遺跡調査にどれくらい時間がかかるか分からないため、出来れば長期休みのときに行きたい。その前に、千尋は受験生である。


「あの、受験が終わってからでも大丈夫でしょうか」

「ああ、そうか! 千尋ちゃんは受験生だったね。うん、あの辺りは早々見つからないと思うし、春休みとかでも全然大丈夫だよ」

「それではそうさせていただきます」


 こうして、千尋達は次の春休みに海底遺跡の調査をすることになった。





 冬休みも終わり、千尋と萌はそれぞれ学校に通い始めた。そして期間限定ではあるが、千尋達の家にディーネとシル、二人の精霊が居候する事になった。

 激カワ精霊ちゃんズが一緒に暮らす事になって、千尋はもちろん萌のテンションもうなぎ上りである。そして母の鈴音に至っては、姉妹が引くほど張り切っていた。


「さあディーネちゃん、シルちゃん! お昼ご飯が出来たわよー」

「わーい! ママさんいつもありがとうなの!」

「ママさんありがとうなの!」


 今日のお昼は具だくさんの鍋焼きうどん。ふーふーと息を吹きかけて冷ましながら麵を頬張る二人の姿を、鈴音は目を細めてうっとりしながら見つめていた。


 千尋と萌は、ディーネとシルの事情を母に詳しく伝えている。二人は主様のいる世界に帰りたがっていて、今はその準備が出来るのを待っている段階。あまり二人に情が移ると別れが辛くなってしまう。

 鈴音もそれは十分理解している。だが目の前にいる可愛らしい子達を愛でずにはいられないのである。


「「ごちそうさまなの!」」

「はい、お粗末様でした」


 ディーネとシルは食べ終わった食器をキッチンに持って行く。中身は2000歳超えだからこれくらいは当たり前なのだが、見た目が5~6歳なのでお手伝いの出来るとっても良い子に見えるのだ。精霊ってあざとい。


 昼食の後は特にする事がない。


 千尋の家では現在ハウスキーパーさんを雇っている。平日はほぼ毎日やって来て掃除をしてくれるのだ。洗濯と料理は鈴音がやっている。あと、買い出しは千尋か萌のどちらかが必ず一緒に行く事にしていた。また誘拐されたら困るからだ。


 そういうわけで、千尋か萌が学校から帰って来るまでは、探索者(マイナー)業関係で領収書を整理したり、帳簿を付けたりするくらいで、それも大した量ではなくすぐに終わる。


「うーん……暇だわ」

「ママさん、ひまなの?」

「なの?」

「うん。お散歩にでも行きましょうか」

「行きたいの!」

「行くの!」


(あんまり出歩かないように言われてるけど……ちょっとくらい良いわよね?)


 1月の午後、天気も良いので鈴音は精霊たちを連れて散歩に出掛けることにしたのだった。

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