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94 精霊の頼み事

「「きゃっきゃ!」」

「あったかくて」

「気持ちいいの!」


 本庄家の広めのお風呂で、空色の髪の幼女と若葉色の髪の幼女がはしゃいでいた。千尋と萌も一緒に入っている。浴槽でパシャパシャしている可愛い幼女と一緒に入るお風呂は控えめに言って至福であった。


 中庭で二人を見つけた時、体が物凄く冷たくなっており、千尋と萌は非常に慌てた。自分の体温で暖めて、お風呂が溜まったので二人の服を脱がせ、自分達も脱いで横抱きにしながら浴槽に浸かったところで二人がパチッと目覚めた。


 あまりの安堵から姉妹はその場で泣いてしまったのだが、その様子を見てディーネとシルは「どうしたの?」と小首を傾げ、「泣かないでなの」と頭を撫でてくれた。


『だ、だって、二人が死んじゃうと思ったから』


 泣きながらなんとか説明すると、精霊たちはびっくりした顔をして、その後すごく申し訳なさそうな顔で謝ってきた。


『『ごめんなさいなの』』


 二人がくれたあの不思議な球は「依り代」らしく、あの球が置いてある場所に自由に移動出来るそうだ。世界を跨いで移動するなんて、さすが精霊である。


 リムネアの湖と森には40年くらい住んでいて、そろそろ飽きてきていたらしい。そこで出会った千尋と萌のことが気に入って、姉妹の世界に遊びに行こうという話になったそうだ。


 ただ、精霊と言えども世界を渡る移動はかなり疲れるようで、不思議な球を目指して移動して来た途端、眠気に負けてそのまま眠ってしまった。精霊なので体温もなく、外気温と同じ温度になった二人を、千尋が「冷たくて死にかけてるかも!?」と勘違いしたのだった。


 千尋と萌も、あの球を中庭に置いたことを二人に謝ったが、それは気にしないでよいと言われた。


「二人がこっちに来て、あっちの世界は大丈夫なのかな?」

「それはだいじょうぶなの!」

「なの!」


 ディーネとシルは、元々リムネアの精霊ではないのだと教えてくれた。精霊として最初に召喚されたのは2000年ほど前。ワクルドラシルという世界だそうだ。


「あるじさまが、1500年くらい前に転生しちゃったの」

「また生まれてくるまでの間、好きにすごしていいって言われたの」


 なんだか物凄いスケールの大きな話をされた。え、ちょっと待って? じゃあ二人は2000年以上生きているってこと?


「「そうなの!」」


 激カワ精霊ちゃんズ、実はものすっごいおばあちゃんだった。


「あるじさまはたぶん、もう生まれ変わってるころなの」

「だからあたしたちはあるじさまの所に行くの!」


 二人は、その「主様」が大好きらしい。ちょっと、いやかなりジェラシーだ。


「その主様ってどんな人なの?」

「まおうさま!」

「とってもやさしいまおうさまなの!」

「「魔王?」」


 ほほう。魔王なら私もちょっとやったことあるけど? 普通の人より魔王には詳しいですけど? 何故かドヤる千尋であった。


 「魔王」という言葉は「悪」を連想させるが、単に「魔族の王」を指す場合もある。これだけ可愛くて純粋な精霊ちゃんズが慕っているのだから、二人が言う魔王は後者の意味であろう。


「あるじさまは世界の半分を支配してたの!」

「力で統一したの!」


 …………きっと悪い魔王じゃないはず。たぶん、きっと。


 もし、その転生した魔王とやらがワクルドラシルの人間を滅ぼそうとして、その世界の人間では手に負えない状況になったとしたら、「神々の使徒」として派遣されるかも知れない。そうなった時、ディーネとシルの二人と敵対しちゃうのだろうか……それは嫌だな、と思う千尋と萌だった。


「そ、その主様って、人間のこと嫌いだったりする?」

「「え?」」


 千尋が尋ねると、精霊たちはきゅるんと小首を傾げた。可愛すぎて鼻血が出そうである。


「あるじさまは人間のこと嫌いじゃないの!」

「むしろ好きなの!」


 世界の半分を支配したのは争いが絶えなかったから。無益な殺生を繰り返さないよう、力を示して従わせたらしい。


 良かった。悪い魔王ではないようだ。


「そっかー。……でも、二人ともこんな所にいていいの?」


 生まれ変わった主様の下に行くのだ、と本人達がさっき言った。自分達の世界に遊びに来てくれたのはとても嬉しいし、出来ればずっと居て欲しいのだが……。


 そう思って聞いたのだが、ディーネとシルはお互い顔を見合わせて困ったような顔をした。


「……帰り方が分からなくなったの」

「助けてほしいの」


 自由奔放な上、依り代さえあれば世界を渡れる精霊ちゃんズは、色んな世界を渡っているうちに迷子ちゃんズになったらしい。


「迷子かー」

「迷子だねー」

「私達が頼れるのは……」

「うーちゃん様しかいないね」


 お風呂から上がって二人の体と髪の毛をタオルで拭きながら、千尋と萌は意見の一致を見た。自分達も手早く拭いてリビングに行くと、鈴音も起きていた。


「あら? あらあら! とっても可愛いお客様ねぇ!」

「お母さん、こっちの青い髪の子がディーネちゃん。こっちの緑色の髪の子がシルちゃん。二人は精霊さんなの」

「「なの!」」

「まあまあ! まあまあまあまあー!」


 アセナと初めて会った時の順応性の高さから分かる通り、母も可愛い子は大好きである。千尋の美少女好きはこの母から遺伝した可能性が高い。


「二人も朝ごはん食べる?」

「「食べるの!」」


 ダイニングテーブルに座ると、母がすぐに色々と用意してくれた。トーストにハムエッグ(半熟)、サラダにフルーツ。ホットミルクに蜂蜜を垂らしたもの。


「どうぞ、召し上がれぇ」

「「食べていいの?」」

「もちろん!」

「「いただきますなの!」」


 ディーネとシルは目をキラキラさせながら朝食を食べ始めた。2000年も生きているらしいのに、卵の黄身が口の端に付いている。精霊とはなんとあざとい生き物なのだろうか。などと思いながらも、ティッシュで口を拭いてあげる千尋と萌であった。


 ホットミルクのマグカップを両手で持ち、ごきゅごきゅと飲む二人。そんな様子は見ているだけで幸せになる。


「はぁー。千尋ちゃんと萌ちゃんのちっさい時を思い出すわぁ」


 鈴音が頬杖をつきながら精霊たちの様子を見て呟く。


「いくらなんでもこんなに可愛くなかったでしょ?」

「いいえ、負けてなかったわぁ。あなた達は天使みたいだったもの」

「もう、お母さんったら!」


 実の親に褒められて照れる姉妹。


「チヒロとモエはとってもかわいいの!」

「やさしくて、かわいいの!」

「もー。二人までそんな」

「「あるじさまみたいなの!」」


 ん? 魔王ってかわいいの? てっきり男の人だと思ってたけど……。


「ねぇ、主様って女の人?」

「んーん、男の人なの」

「でもでも、きれいな顔だったの!」


 二人が説明してくれた転生前の魔王は、真っ白な髪を長く伸ばし、中性的な美しい顔だったらしい。さぞモテモテだった事だろう。


 と思ったら、生涯をかけてたった一人の女性を愛したのだと言う。その生涯というのは1000年以上もあって。相手の女性も魔族だったようだ。


 ところが、ワクルドラシルに突如現れた「邪神」によってその女性は殺され、魔王は仲間と共にその邪神を何とか封印した。邪神の力が強過ぎて倒す事が出来なかったらしい。


「その封印がもうすぐ解けちゃうの」

「あるじさま、次こそ邪神を倒すって張り切ってたの」


 愛する人の仇を討つため、1500年の時を超えて転生までして、その邪神を滅ぼすのだと言う。いずれにしても邪神を滅ぼさなければワクルドラシルには未来がない。


 邪神討伐を助けるため、二人は主様の下に帰るのだそうだ。


「ディーネちゃん、シルちゃん。そんな危なそうな所に行かないで、ずっとここで暮らしたらダメなの?」

「「ダメなの!」」


 こんな可愛らしい幼女二人が行っても助けにならない気がする。それでも二人はどうしても行かなければならないらしい。それは召喚された精霊の宿命なのだそうだ。


(いざとなったら私も力になりたいけど……)


 ワクルドラシルの救援に行けるかは、そこの神とそこに生きる者の願い次第。今の段階では約束は出来ない。


 朝食を食べ終え、千尋と萌、それに精霊たちは氏神(ウルスラ)に会うため神社に向かうことにした。

次回作に精霊ちゃんズが登場します。ディーネとシルの「あるじさま」が主人公のお話です。

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