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92 異世界交流BBQ大会、開催②

「今日はみんな集まってくれてありがとう! 初めての人もいると思うけど仲良くしてね。大いに食べて飲んで楽しんで!」


 全員に飲み物が行き渡った事を確認し、千尋が異世界交流BBQ大会の開催を宣言した。


 用意したバーベキューコンロは6台。椅子やテーブルは面倒なので準備していない。地面にブルーシートを広げ、そのまま座ってもらうスタイルだ。


 神社ダンジョン産の牛肉は10キロ確保出来た。豚肉と鶏肉も10キロずつある。千尋と萌の大好物であるエビは100尾獲った。サザエが50個、ホタテも50枚ある。野菜は玉ねぎ、パプリカ、ナス、キャベツ。これらはスーパーで買って来たものである。


 ファンロンが獲ってきた巨大ボアは『碧空の鷲獅子』の男性3人が血抜きして解体中。


 お酒はウイスキーや焼酎の他、缶酎ハイ、ワイン、さらにビールサーバーまで用意した。ノンアルコールは緑茶、ウーロン茶、その他炭酸飲料のペットボトルを大量に準備している。


 焼肉のタレは甘口・中辛・辛口の3種類。もちろん世界に誇る日本の食品会社製。そして鈴音と黒沢が丹精込めて握った大量のおにぎり。お米に馴染みにない人が殆どなので、大量の食パン・フランスパンも用意した。


 すぐそばに澄んだ湖があり、湖を挟んで別荘の反対側はちょっとした森になっている。こちら側には木が疎らに生えており、それらが丁度良い木陰を作ってくれる。そんな美しく長閑な場所であるが、今は各種食材を炭火で焼く香ばしい匂いが立ち込めていた。


 元々は貴族の別荘地だが、今はどんちゃん騒ぎの会場である。


 各世界で偏ることなく、いい感じで混ざっている。異世界人達のコミュ力は侮れなかった。千尋と萌は各コンロを周っていく。姉妹以外はマリーや幼女に見えるアセナまでお酒を飲んでおり、円滑なコミュニケーションに一役買っているようだ。


「お姉ちゃん、みんな楽しそうだね!」

「うん! やって良かった!」


 バーベキューなど焚火料理の延長で物珍しくもない、みんな喜ばないんじゃないか――そう思って一時は諦めかけたが、実際炭火で調理するというのはあまり馴染みがなく、食材も神社ダンジョン産と日本産なのでかなり喜ばれていた。千尋としてはちょっと涙ぐむくらい嬉しかった。


 順番に周ってアセナが居るコンロ近くにやって来た。


「アセナちゃん、楽しんでる?」

「チヒロ! めちゃくちゃ楽しいのじゃ!」


 お酒が回っているのか、ほんのりと頬を赤く染めたアセナが上機嫌で答える。アセナの隣では、空色の髪と若葉色の髪をした二人の幼女がニコニコしながら美味しそうにお肉を食べている。


「そっかー! 喜んでもらえて何より――って、誰!?」

「え? チヒロの友達ではないのか?」


 そう言われて改めて二人の幼女をよく見てみる。見た目は5~6歳くらい。袖なしの白いワンピースに素足。そしてとびっきり可愛い。これだけ可愛ければ覚えている筈なのだが……。


 どこかの貴族のお子様が迷い込んだのだろうか? 一番近いお隣さんでも5キロ以上離れているが。それとも、招待した誰かの子供かな? いや、誰にも子供はいなかったと思うけど。


「ねえねえ、君たち。お父さんかお母さんは近くにいるの?」


 千尋が問い掛けると、二人がくるりと振り向いた。くっ、可愛い! 二人とも口の端に焼肉のタレがついている。思わず持っていたハンカチで拭ってあげた。


「ありがとうなの、お姉ちゃん!」

「ありがとうなの!」

「お父さんもお母さんもいないの」

「いないの!」

「そ、そうなんだ……どこから来たの?」


 父母がいないという二人の言い方に悲壮感はない。それは近くにいない、という意味か、それとも親そのものがいないという意味なのか……。


「あたしはそこなの!」

「あたしはあそこなの!」


 空色の髪の子は湖を、若葉色の髪の子は湖の向こうに広がる森を指差した。

千尋と萌はその方向を見て、小首を傾げながらお互い「?」と見つめ合った。


「あたしは水の精霊、ウインディーネなの!」

「あたしは森の精霊、シルワァーヌスなの!」

「「精霊……」」

「「なの!!」」

「「はわわわわわわ」」


 精霊なるものと初めて遭遇して「はわわ」となる千尋と萌。これまでも魔物やら魔獣やら魔王やら、獣人やら竜やら悪魔やらと遭遇したのだが、その存在感たるや文句なしのナンバーワンである。主に可愛さで。


「そ、その、ウインディーネちゃんとシルワァーヌスちゃんは、どうしてこちらに?」

「だって、すごく美味しそうな匂いがして……」

「すごく楽しそうで……」


 ちょっと伏し目がちになってしまった二人の精霊幼女。


「あっ! 全然いいの! むしろ来てくれて嬉しいよ!」

「「ほんとなの?」」

「ほんとだよ!」

「「よかったの!」」


 精霊たちがニッコリと微笑んだ。千尋と萌はキュン死しそうになった。


「す、好きなだけ食べてね!」

「「ありがとうなの!!」」


 焼けたお肉を取り皿に取ってあげたり飲み物を渡したりと一頻りお世話して、ほわわわんと癒される姉妹。


 ふにゃふにゃになった膝を叱咤激励し、リアナ達に精霊について聞きに行ってみた。


「リ、リアナちゃん? あの、精霊ちゃんが来てるんだけど」

「精霊? チヒロ、何言ってるの? 精霊なんておとぎ話の存在よ?」

「そうですよ、チヒロ様。伝承では物凄い幸運か、物凄い不幸を運んで来るって言われてますけど、実際に見た人なんて――」

「だって! いるんだもん! お肉食べてるもん!」


 千尋が駄々っ子になってしまった。どうやらリアナ達にとっても精霊は馴染みがないようだ。


 証拠を見せるため、リアナとプリシアの手を引っ張って精霊たちが居た所に戻ってみると――。


「あれ!? 居ない! アセナちゃん、さっきの二人は?」

「ん? そう言えば居らんようじゃの」

「ええっ!?」


 リアナとプリシアに残念な子を見るような目を向けられる千尋。しかし萌もしっかり目撃したので、そこはちゃんと姉を擁護する。


「私も見ましたし、少し話もしました! 二人ともすっごく可愛くて、綺麗な青と緑の髪色でしたよ?」

「だよね!? 居たよね、萌!」

「うん!」


 だが現実として居なくなったのは間違いない。


 メンバーの中で一番長く生きていそうなヘイロンにも精霊について尋ねてみた。


「我等の世界では、精霊はあちこちに居るぞ?」

「そうなんだ!」

「だが、気に入った相手にしか姿を見せんと言われているな」

「ほほぅ」


 キナジアとリムネアの精霊が同じ性質を持っているとしたら、千尋と萌はあの激カワ精霊ちゃんズに気に入られたのかも知れない。あとアセナも。そう考えるとかなり嬉しい姉妹だった。


「また会えるといいなぁ」

「そうだね、お姉ちゃん!」


 精霊に会うというイベントを挟みつつ、異世界交流BBQ大会は時間の経過に伴い混沌の様相を呈していく。


 日本から持ち込んだ酒が原因である。異世界の酒より美味しくて飲みやすいと大好評で、みんなかなりのペースで飲んでいる。


 日頃ストレスを溜め込んでいるのであろう、黒沢がファンロンに絡んでいた。


「だーかーらー! 私達の世界では上には逆らえないのー!」

「そんなもの、ぶっ飛ばしてしまえ! がーっはっはっはー!」

「あはははー! ぶっ飛ばーす!」


 胡坐をかいて肩を組み意気投合している姿は仲が良さそうだ。黒沢が若干おじさんっぽいのが気にはなるが。


 そして防衛省の牧島は、諜報員のアイラと話し込んでいる。


「狭い所に長期間潜んで情報集めるのはやっぱキツイっすねー」

「我々の世界では盗聴や盗撮という手段があるので」

「何それ! マジ羨ましいっす!」


 盗聴も盗撮も勘弁して欲しいと思う姉妹。『碧空の鷲獅子』のデュークは相変わらずルーロンに捕まっているが、メイベルとマリアの女性コンビはリアナとプリシアの二人とぶっちゃけ話をしていた。


「やっぱり男と野営とか、本音では嫌よねー!」

「トイレとかお風呂とか苦労しますもんね!」

「着替えも! もう慣れちゃって男として見れないけどー!」


 ……楽しそうで何よりである。


 母の鈴音はヘイロン、パイロンと盛り上がっていた。


「あらあら、ヘイロンさんったら!」

「冗談ではないぞ? 寝ぼけてくしゃみしたら森が全部焼けたのだ」

「その後私が氷で延焼を防いだ。ついでに罰としてヘイロンも氷漬けにした」

「いや、あれは参ったな!」

「二人ともダイナミックねー!」


 アセナの兄、アドナはリアナのパーティメンバー、ブランドンとケネスの二人と意気投合したようだし、マリーはアセナと仲良くデザートのケーキを食べている。


 諏訪野税理士は『碧空の鷲獅子』の男子メンバーと飲んでいた。


「Sランクになって経費が嵩むんですよね」

「ふむふむ。税はどのように納めるっすか?」

「冒険者ギルドで報酬から天引きされます」

「なるほど。でしたら経費を――」


 なにやら節税について話していた。なんだか世知辛い。


 オレイニーおじいちゃんは右手にワインボトルを握り、全ての人と語り合っていた。この人が多分一番コミュ力が高いようだ。さすが年の功である。


 去年の夏。近所の神社でダンジョンを見つける前。こんな光景は想像すらしていなかった。今ではお金も十分以上にあるし、家も新しくなって、母は掛け持ちの仕事から解放され、新しい友達がこんなにたくさん出来た。萌とは前より仲良しだ。一緒にお風呂に入るのも嫌がられないし。


 千尋はうんうんと頷きながら、分厚く切ったダンジョン産牛肉を口に放り込む。炭火で丁度良い塩梅に焼けたお肉は、甘辛いタレと絡まって至高の味である。隣では萌も幸せそうな顔でお肉を食べている。


「萌、美味しい?」

「うん!」

「萌、楽しい?」

「うん! またやろうね?」

「そうだね! またやろう!」

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