91 異世界交流BBQ大会、開催①
リムネアの別荘で行う異世界交流バーベキュー。その開催を明後日に控え、千尋と萌は大いに燃えていた。
参加者は、以下の通りである。
■地球(日本):千尋、萌、鈴音(母)、諏訪野(税理士)、黒沢あかね、牧島司(防衛省)
■リムネア:リアナ、プリシア、ブランドン、ケネス、オレイニー(魔術師団長)
■バルケム:アセナ、アドナ
■キナジア:ヘイロン、ルーロン、ファンロン、パイロン、マリー、アイラ、『碧空の鷲獅子』からデューク、ランス、カルダン、メイベル、マリア
総勢24人。人じゃないのも含まれるが、一応24人である。なお異世界の面々には「言語の加護」が与られている。
リムネアの別荘は貴族仕様なので、24人くらい泊まるのは余裕。ちなみに千尋たっての希望で大浴場も完備している。もはや別荘ではなくホテルと言っても過言ではない。
当日はリアナの実家であるプレストン伯爵家から、10人の侍女が手伝いに来てくれる予定。侍女も合わせると34人。これだけの人数が食べる食材を確保しなければならない。
姉妹は1週間前から神社ダンジョンで食材集めをしていた。巻物の中は時間経過がないので食材が傷む心配はない。それよりも、牛肉や豚肉、エビやサザエのドロップ率が渋いので、とにかく試行回数を増やしているのである。
「お姉ちゃん! 牛! 牛そっち行ったぁー!」
「よっしゃ任せろー!」
神社ダンジョンの2層から4層を延々と周回している姉妹。二人のレベルでは、この辺りのモンスターをいくら狩ってもレベルアップは全く望めないが、そんな事は関係ない。とにかく目の前に現れたモンスターを、狩って狩って狩りまくる。低額のマグリスタルも貯まりまくりである。
牛肉のドロップ率は約0.9%。エビは0.8%。豚肉は1.1%。鶏肉も1.1%、サザエは0.7%である。
ちなみに1層のお野菜に関しては、30%くらいドロップする。野菜をたくさん食え、というダンジョンからのメッセージであろう。余計なお世話である。
正直言って、二人の財力があれば食材は買った方が断然楽だ。もちろんある程度は購入する予定だし、飲み物はダンジョンで出ないので、どっちみちお買い物は必須。
それでも、タダで手に入るモノにお金を使う事に抵抗があるのだ。だからギリギリまで食材集めに精を出すつもりであった。
姉妹が食材狩りをしている一方、母の鈴音は大量のおにぎりを握っていた。何故か分からないが、黒沢が自宅キッチンで一緒におにぎりを握っている。
黒沢あかねは探索者協会東羽台支部の支部長に昇格し、その上協会本部の部長職に就任した。その理由はお察しである。体よく本庄姉妹を押し付けられた形だ。
「あらあらぁ! 黒沢さん、もう少し優しく握らないとダメよぉ?」
「は、はい!」
力任せの黒沢を優しく窘める鈴音。おにぎり道は奥が深いのである。
防衛省の牧島は、どこかからこのバーベキュー大会の事を聞きつけ、自らの参加を捻じ込んで来た。恐らく政府から「異世界」の調査を命じられたのだろう。千尋と萌からしてみれば、防衛省から大金を受け取るため断りにくい。だが異世界に悪影響を及ぼす事は絶対に禁止、と言い渡した。
その牧島だが「飲み物担当」である。せっかくなので地球のお酒を持って行こうという話になった。巻物に入れて行けば運搬も大した手間ではない。この日も朝から牧島と数名の防衛省職員が千尋の家を出入りし、大量の酒類と清涼飲料水を運び込んでいた。
諏訪野税理士については、日頃お世話になっていることに対する感謝の印である。防衛協力費が入って来ることもあり、現在法人の設立をお願いしている。自宅新築の時も設計事務所を紹介してもらったし、本来の業務以外でも色々とお世話になっているのだ。異世界に招待してお腹一杯お肉を食べていただきたい。
こうして地球側の人員は各自着々と準備を整え、遂に当日を迎えた。
年の瀬も押し迫ったその年最後の土曜日。朝から千尋と萌は大忙しであった。
まずリムネアに行き、お世話になったオレイニー魔術師団長を迎えにグレイブル神教国の首都に転移で飛んだ。事前に伝えておいたので、オレイニーおじいちゃんは準備万端、張り切って待ち構えていた。
「チヒロ様、モエ様! この歳になってお二人とはまた別の異世界人と会えるとは、胸が高鳴りますぞ!」
ハイテンション過ぎて心配になるが、そのまま別荘に連れて行った。そこには既にリアナ達勇者パーティ4人と、リアナの実家プレストン伯爵家からお手伝いをしてくれる侍女10人が集まっていた。
「チヒロー、これはこっちでいいのか?」
「いいよ!」
「チヒロ、まだ火はおこさなくていい?」
「後でいい!」
リアナ達にオレイニーを押し付けて神社ダンジョンに戻り、今度はアセナとアドナの兄妹を迎えにムムド村へ。
村の入り口に兄妹が立っていた。アセナの耳はピコピコ動き、尻尾はブンブン揺れている。アドナはつまらなそうな顔をしているが、尻尾がユラユラ揺れているので多分楽しみなのだろう。
「チヒロ! モエ! 待ってたのじゃ!」
「……腹が減ったぞ」
「お待たせ! じゃあ早速行こうか!」
バーベキューの会場に到着した兄妹は目を丸くする。
「相変わらず綺麗な所じゃな!」
「ふん。食い物はないのか?」
アセナは以前この世界に連れて来ているのでリアナとは面識がある。初めて来たアドナをリアナ達に紹介した。アドナが食い物食い物とうるさいので、巻物から適当に出した菓子パンを与えておく。
「萌、ヘイロン達を迎えに行くから、萌にはここをお願いしてもいい?」
「うん、いいよ!」
既にアセナのケモ耳とケモ尻尾をモフモフしていた萌が笑顔で答えた。うーっ、私もモフりたい……。
また神社ダンジョンに戻り、今度はキナジアへ。ゲートの出入口はヘイロンの神殿(仮)の前に設定している。
「チヒロ様!」
「マリー! 迎えに来たよ!」
「はい!」
千尋大好きっ子マリーが出迎えてくれた。
「おう、チヒロ。来たか」
「…………こ、こんにちは」
ヘイロンと、その隣には真っ白な髪を長く伸ばしたパイロンが――パイロン!? なぜ氷竜帝が? あれ、ヘイロンってルーロンといい感じじゃなかったっけ!?
「ハーイ、チヒロちゃん!」
「チヒロさん、こんにちは」
そこへルーロンと『碧空の鷲獅子』5人がやって来た。千尋はルーロンとヘイロン、パイロンを交互に見てあたふたする。恋愛の機微に疎い千尋は、ルーロンとヘイロンが恋仲なのではと思っていた。
(修羅場!?)
竜帝同士で修羅場になれば地形が変わる。これは力づくで止めなければ――。
「あらパイロン。だいぶ元気になったみたいね」
「ええ、お陰様で」
ん? んんー? 仲良さそう。
「パイロンさんはヘイロン様の所で療養してたっすよ」
「へーそうなんだ」
いつの間にか後ろに立っていたアイラが教えてくれた。髪を男の子のように短く切っている。
でも私は騙されないよ。脱いだらすんごいって知ってるんだからね!
その時、黒い影が差した。
「おー、チヒロ! 美味そうなボア獲ってきたぜ!」
竜形態のファンロンだった。前足で巨大なボアを掴んでいる。ファンロンは相変わらず野生児っぽい。
「みんな揃ったね……ってかファンロンは人化して。じゃあ行こうか!」
神社ダンジョンを経由して、千尋を含めた12人でリムネアに向かった。




