45 システムさん
ゲートから出て来ようとする巨人達。だが、その巨体のせいで一度に1体しか出て来ることが出来ない。
――ザシュッ。
頭部が現れると同時に、千尋が首を斬り落とす。胴体と分かれた頭部がゲートの前で転がる。体ごと両断した巨人と合わせて、倒した数は既に8体。
「お姉ちゃん、キリがないね?」
最初の巨人が萌に攻撃した時点で、千尋の中では巨人は問答無用で敵認定している。倒すことに躊躇いはないし、ゲートから出て来る瞬間に斬っているので楽なのだが、まだまだ出て来る気配がある。たしかにキリがない。
「うーん……あのゲート、壊せるのだろうか?」
「その前に、壊しちゃっていいのかな?」
倒した巨人がダンジョン・モンスターでない以上、異世界から来たと考えられる。一度異世界を訪れた千尋と萌にとっては、それはすんなりと受け入れられる考えだが、異世界間ゲートがどういう仕組みなのか知る由もない。破壊出来たとしても、どんな影響があるか分かったものではない。
「萌の言う通りだな。これは困った」
「千尋ちゃん、萌ちゃん、これはどういう状況なの?」
それまで黙って様子を窺っていた黒沢が、堪らず尋ねてくる。
「黒沢さん。あれは異世界に繋がるゲートです」
「イセカイ……ってあの異世界? そんなのが本当にあるの?」
「ええ。あのゲートから次々とモンスターが湧いてきます。恐らくこのダンジョンは異世界のモンスターで溢れているでしょう」
「つまり、行方不明の探索者達は……」
異世界のモンスターに殺されてしまった可能性が高いだろう。
「……とにかく、あのモンスターがダンジョンの外に出たらマズいです」
「そ、そうね……あんなの、自衛隊でも対応出来るかどうか……」
千尋達でも、ダンジョンの外では力が制限されてしまう為、本来の能力を発揮出来ない。
「いずれにせよ、あのゲートをどうにかしないと――」
言いかけた千尋の耳に、お馴染みの声が届く。
『本庄千尋および本庄萌に、本ダンジョン・コアから要請があります』
千尋と萌はお互いの顔を見合った。コアの近くまで近付く。黒沢はポカンとしている。どうやら姉妹にしか聞こえていないようだ。
『本ダンジョンにおいて、異界からの不正なアクセスを確認。管理者によって許可された入場者が存在しないフロアでは、排除シークエンスを発動。異界の生物は殲滅しました。現在、殲滅が完了していないフロアは29層と40層です。本庄千尋および本庄萌には、これらのフロアに残っている入場許可者を速やかにダンジョン外へ避難させる事を要請します。要請を受諾しますか?』
千尋と萌は知らなかったが、ダンジョンは異物を検知すると自浄作用として排除シークエンスを発動し、異物を殲滅する。ただし仮所有者や管理者が許可した者が居ると、巻き添えを防ぐためにシークエンスを発動出来ないのだ。
「避難対象者は何名いますか?」
『……本庄千尋および本庄萌を含めて現在13名です。要請を受諾しますか?』
「萌、話は理解出来た?」
「うん、排除シークエンスっていうのはよく分からないけど、行方不明の人達は全員生きていて、避難させれば異世界のモンスターはダンジョン自体が何とかしてくれるんだよね?」
「え、えぇ!? 全員生きてるの!?」
「ダンジョン・システムさん(?)によればそういう事みたいです。それを信じれば、私達がやるべきなのは探索者を見つけて避難させる事ですね」
「やりましょう! 千尋ちゃん、萌ちゃん、お願い!」
千尋は再度萌と目を合わせる。萌は力強く頷いた。
『要請を受諾しますか?』
「YES / NO」
目の前に光る青い板に表示された「YES」の文字を、姉妹は同時にタップした。
『要請が受諾されました。成功の暁には、本ダンジョンから本庄千尋および本庄萌にギフトが提供されます』
排除シークエンスがどのように機能するのか気になるし、「ギフト」というのはもっと気になるが、それより探索者を避難させよう。
「シークエンスを発動できないフロアで、40層というのは私達がいるからだと思います。あとは29層と言っていたので、30層に転移しましょう」
「分かった!」
「分かったわ」
転移陣に入ると、一瞬で30層に移動する。
「29層に上がる階段は……えーっと、向こうね」
「黒沢さん。私が背負って走るので、案内をお願いしていいですか?」
「え? 千尋ちゃんがおんぶしてくれるの?」
「はい、その方が早いので」
「わ、分かったわ」
黒沢あかね、42歳、身長168cm。この歳になって、15cm以上小さい15歳の華奢な少女におんぶされるとは思ってもみなかった。
「舌を噛むので、喋らずに進む方向を指差してください」
「……はい」
「お姉ちゃん、私が周りを警戒するから」
「うん、任せた。では行きます」
千尋が走り出し、黒沢はいきなり首がもげるかと思った。慌てて両腕を千尋の首に回し、千尋の首の横に自分の顎を乗せ、全力でしがみつく。タブレットを見ながら道を指し示すが、これまで乗ったどんな絶叫マシンより怖かった。
黒沢は知らなかったが、これでも千尋は力を8割セーブし、2割ほどしかスピードを出していない。それでも、普通に走ったらどんなに急いでも30分はかかるところ、5分弱で29層に上がる階段の手前に到着した。
「はぁ、はぁ、こ、この上が29層よ」
千尋の背から降りた黒沢は5分前より老けて見えるが、そんな事は口にしないだけのデリカシーを姉妹は持っている。
「では行きましょう。ここからは異世界のモンスターがいるから気を付けて」
先頭に千尋、真ん中に黒沢、殿に萌と縦列になって階段を上り、29層へ。陣形を崩さず慎重に歩を進める。
「黒沢さん、マップを」
「はい」
「この層のどこかに探索者達が必ず居ます。虱潰しに探しましょう」
「お姉ちゃん……戦闘音が聞こえる」
「…………確かに。でかした萌。マップだと……この辺が広くなってる」
戦闘音とマップを頼りに数分進むと、異様な光景に出くわした。
「これは……」
学校の体育館くらいのスペースに、異世界のモンスターがこちらに背を向けて集まっている。そいつらの前には死骸が積み上がって壁が出来ており、モンスター達は壁の向こう側へ行こうと死骸の山を登っていた。まだこちらには気付いていない。
千尋達は元来た道を少し引き返し、今見た光景について声を抑えて話し合う。
(一か所に集まってるね)
(たぶん、あの壁の向こう側に探索者達がいるのね)
(でも……それほどの強者がいるなら、なぜ突破して30層の転移陣に向かわないんでしょうか?)
死骸には、40層で千尋と萌が対峙した巨人も何体か含まれていた。壁を越えようとしている奴らは巨人とは別のモンスター。6本足や8本足のかなり大きな獣っぽい姿をしているが、あの巨人より強いのだろうか?
(怪我した探索者を庇ってるとか?)
(なるほど。怪我人が複数いれば移動出来ないかも知れない)
千尋達が40層から移動した事で、今頃40層では排除シークエンスが発動されているだろう。それで、この29層のモンスターがこれ以上増えなければ、壁の向こう側に居る強者が残りを全て片付けてくれるかも知れない。
そう思って忍び足で現場に戻ると、萌がある事に気付いた。千尋と黒沢の手を引っ張ってまた見えない場所まで引っ込む。
(なんか、ゲートみたいなのがあった)
(なんと)
異世界間ゲートがあるならいくら倒してもモンスターは減らないかも知れない。それどころかもっと増える可能性もある。
(仕方ない。突入して探索者達を速やかに連れ出そう)
(りょーかい!)
(黒沢さんはここに居てください。魔法を使うので壁から出ないように)
(わ、分かったわ)
(萌、奴らの気を引いてくれ。私は横から天牙雷命で一気に薙ぎ払う。巻き込まれないように注意して)
(わかった!)
すぐに萌が飛び出して行った。
「うりゃぁあああ!」
背を向けた6本足の狼のようなモンスターに、萌が飛び蹴りを喰らわす。モンスター達の注意が萌に向いた一瞬で、千尋は死骸の壁の右端まで移動した。
「天牙雷命!」
そこからやや左を狙うように天牙雷命を放つ。千尋から見て右には探索者達がいる筈だからだ。刀身に凝縮された雷の魔法が一気に解放され、死骸の壁と群がっていたモンスターの殆どが一瞬で消滅した。
萌は既に千尋の左後ろに移動している。壁がなくなったので状況がよく見えた。
「お姉ちゃん、あれって……?」
「っ!?」
ダンジョンの壁に寄り掛かるように一塊になっている10人ほどの男女。彼らを守るように展開された青白く光る障壁。
その障壁の前に、年の頃7~8歳に見える少女が居た。両手で大きな槍を持ち、立っているのが不思議なくらいあちこちから血を流している。背中の中程まで伸びた銀髪も血でごわついていた。
そして、その少女の頭には犬のようなケモ耳が付いていた。
次回、千尋がケモ耳に歓喜します。




