表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/96

38 ジョンスティール王国(2)

 オルカスの街から馬車で南に5日ほどの距離。そこにベヘレスという街がある。普段の人口は3千人ほどだが、街の周囲、防壁の外にまで多くの天幕が張られ、鎧姿の兵士で溢れ返っていた。


 既に住民は避難を終え、街の南側に兵士が隊列を作って陣取っている。彼らが見据える先には、約2万の魔王軍がわずか数キロの距離まで迫っていた。


 街の中心部には小ぢんまりとした教会が建っていた。その前に、突然7人が姿を現す。


「ここがベヘレスかぁ」


 背の高い建物はない。腰くらいの高さまで石を積み、その上に木を組んだ造りの家が間隔を空けて建っている。屋根は明るい赤や黄色、青に塗られて可愛らしい印象だ。人影が全く見当たらないので、開園前のテーマパークに来たようだった。


「南側の地形と、敵の陣形を確認したい」

「私が兵士から情報を集めて参りましょう」

「僕は直接見れないか探って来るよ」


 オレイニーが兵士を探して街の南へ向かった。ケネスは周囲を見渡し、高台になっている場所を探す。


 敵が密集しているか、散開しているか、また平地なのか丘陵なのかで使える魔法が異なる。これまでのように、千尋と萌の極大魔法で出来る限り数を削りたいのだ。


 リアナ達勇者パーティの仕事は、魔法を放って無防備になった姉妹の護衛が主になる。千尋と萌の力を見た後なので、この役割に誰も不満はない。


 南へ移動しながら残ったメンバーで作戦を検討していた。と言っても主に千尋がぶっ放したい魔法について語って聞かせていただけだったが。


 防壁の南門近くには兵士達が犇めき合っていた。ここを最後の防衛線と考え、魔王軍を必ず討つという強い意思が伝わって来る。


「チヒロ様、モエ様。情報を集めてきましたぞ」

「チヒロー! モエー! だいたい分かったよ!」


 千尋達の元にオレイニーとケネスが合流した。


 集めてくれた情報によると、地形は起伏が少なく見通しの良い平原、所々に木が生えている程度で障害物はほとんどなし。そして魔王軍は横約500メートル、縦1キロ程度で特に陣形を作るでもなく密集しているとのこと。


地獄の業火(インフェルノ)かな」

地獄の業火(インフェルノ)だな」


 ふとオレイニーと目が合う。フルフルと小さく首を振っていた。他国の地形を変えると立場的に良くないのかも知れない。プリシアを見ると、目をキラキラさせてこくこくと頷いていた。プリシアは見てみたいらしい。


「よし。2回目だから前より制御出来るだろう。範囲を狭めて地獄の業火(インフェルノ)を撃ってみよう」

「うん!」


 アルダイン帝国では、加減が分からなくて全力で撃った。次はもう少し上手く出来そうな気がしないでもない本庄姉妹である。


 ベヘレスに集まった兵の指揮は、ジョンスティール王国第二騎士団長ブラムスが執っていた。仕事が出来るおじいちゃんことオレイニー団長が既に話を付けていたようで、すぐに防壁の上に案内される。高さはアルダインの帝都やザイオン砦と比べて若干低く、20メートルくらいだろう。


「本当に、魔王軍を一掃出来ると言うのか……?」


 ブラムス騎士団長がオレイニーに尋ねていた。それはそうだろう。王国の命運を賭けた戦いが目前に迫っているのだ。ここにいる多くの兵の命も預かる立場にある。勇者ならまだしも、見た事もない小娘二人がすんげぇ魔法を撃つよ、と言われても信じろというのが無理な話であった。


「仮に失敗したとしても、何か変わりますかな?」

「……いや、我々のやる事は変わらない」

「それなら、初撃を使徒様に任せるとお考え頂ければ結構かと。矢と魔術師の魔力を節約出来ますぞ」

「うむ、だが私もここで拝見させてもらおう」


 オレイニーが千尋と萌に目で問う。姉妹は頷きで返した。


「どうぞご覧ください。その代わり、驚き過ぎて腰を抜かさぬよう」


 何を言っているのだ、と言わんばかりにブラムスはオレイニーを睨んだ。オレイニーはニコニコと微笑んだままだ。


「萌、防壁から500メートルまで近付いたら撃つぞ」

「うん。どれくらいの範囲?」

「縦は500から1500メートル。横は500メートル。少し外れても余波で殲滅出来るだろう」

「そうだね。範囲を狭めるだけで、威力は前と同じくらい?」


 オレイニーがギョッとしてこちらを見る。


「あ、あの、チヒロ様、モエ様? 前回と同じ威力を狭い範囲に撃ち込むと、巨大なクレーターが出来てしまうのでは……」

「ちょっと待って欲しい。これまでの情報で、魔王軍は魔法障壁を使う事が分かっている。半端な魔法だと効果がない可能性もある」

「なるほど、貴重な情報感謝申し上げる。萌、威力は前回と同じで行こう」

「りょーかい!」


 あ、そうだ、と言って千尋が手をポンと叩いた。


「ブラムス騎士団長殿。王国軍の魔術師で障壁を張る事は可能ですか?」

「防御に長けた魔術師が300人ほどいるぞ」

「それならお願いがあります。我等が魔法を撃ったら直ぐに、防壁を守る魔法障壁を展開してください」

「何のために?」

「我等の極大魔法、地獄の業火(インフェルノ)の余波から防壁と兵を守る為です」

「……何人必要なのだ?」

「300人」

「なにっ!? 全員だと?」

「まあまあブラムス殿。お二人の魔法を見れば分かります。300人でも足りないかも知れませんぞ?」

「くっ、一度だけ、一度だけだぞ! 魔力を無駄には出来んのだからな」


 ブラムスは近くの兵に渋々指示を出した。


「チヒロ、モエ! 間もなく魔王軍の先頭が500メーダ圏内に入る!」


 魔王軍の様子をずっと注視していたケネスが教えてくれた。


「よし。オレイニー殿、魔法障壁は貴殿にお任せします」

「承知いたしました」

「リアナちゃん」

「うん、魔法を撃った後は任せて」


 リアナの言葉に、ブランドンとケネス、プリシアがしっかりと頷いた。


「萌」

「いつでもいけるよ」

「500メーダに入った!」


 千尋が萌に向かって頷いた。


「メテオ・インパクト・インフィニティ!」


 遥か上空に、無数の岩塊が出現し落下し始める。


万火繚乱(ばんかりょうらん)!」


 空一面が夕焼け色に染まる。オレンジから黄色、そして眩い白に変化した万に届く溶岩の塊が、彗星のように降って来る。


「魔法障壁、展開!」


 300人の魔術師が一斉に障壁を張る。その直後、目の前で火山が噴火したかのような地響きが轟き、溶けた岩塊が一斉に着弾した。


 千尋と萌はMP枯渇でその場に座り込んでいる。


「こ、これは……何と言う事だ……」


 ブラムス騎士団長は中腰になって揺れに抗いながら呆然と呟いた。プリシアは四つん這いになって蕩けたような顔で火の海を見つめている。リアナ、ブランドン、ケネスはオレイニーから地獄の業火(インフェルノ)の事を聞いていたが、聞くのと見るのとでは大違いである。防壁の外はまさに阿鼻叫喚の地獄絵図と化し、見る者にすべからく怖れを抱かせた。


「ハハハ、これはもう……勝っちゃったんじゃない?」


 ケネスが呆れたように呟いたが、千尋は思った。ケネス、それはダメだ。それはフラグという奴だ、と。


「っ!? 攻撃が来るぞっ!」


 リアナが警告の叫びを上げた。直後、今までにない揺れが防壁を襲う。


 ――ズゴォォオオオオオ!

「くっ、何だ、何に攻撃された!?」


 ブラムスが周囲を確認するが、リアナ達は既に千尋と萌を守るように構え、壁の南側を睨み付けていた。未だ立ち昇る炎の間から、一本の太い鎖が伸びている。防壁には、それに繋がった巨大な鉄球がめり込んでいた。そしてその鎖を握っているもの――。


 身長10メートル近い巨人。単眼魔人(サイクロプス)が炎を割って姿を現した。


単眼魔人(サイクロプス)だと……? 亜神と言われる生物だぞ……」


 ブラムスが絶望を含んで口にした。そして、さらに2つの巨体が炎の海から現れる。


「なっ!? 単眼魔人(サイクロプス)が3体? こいつらが魔王なのか?」


 単眼魔人(サイクロプス)とは、この世界では1体で都市を滅ぼす力があると言われている。別名「歩く災厄」。人族の力でどうこう出来る相手ではない。


「ウォオオオオオオーン!」


 単眼魔人(サイクロプス)が吼えた。それだけで、弱い者は気絶してしまう咆哮である。


「相手にとって不足なし! オレイニーさん、ブラムスさんはチヒロ達を下へ! 私達は一つ目のブサイクを迎撃するわよ!」

「「「おう!」」」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ