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33 そこに山があるから

SIDE:魔王軍幹部、メリオローザ


 グレイブル神教国は、このザイオン砦と共に落ちる。魔王軍幹部、『蠱惑』のメリオローザはそう確信していた。騎士達と勇者一行は砦に逃げ込み出て来る様子がない。防壁の上から魔術師が魔法で攻撃しているが、距離を取れば脅威でも何でもない。魔術師どもの魔力が尽きたら一斉に攻撃を開始する。それでこの砦は終わりだ。


 変化が生じ始めたのは、北部で竜巻が発生した頃からだった。森林の奥に陣を構えていたメリオローザは、部下からの報告を聞いて最初は一顧だにしなかった。


「竜巻が収まるまで待機せよ」


 メリオローザが出した指示はそれだけ。そしてそれが魔王軍の命運を分けた。


 様子が一変したのは半刻ほど経った頃。竜巻は発生しては消えを繰り返し、徐々に南下していると言うのだ。さらに、竜巻が通った後にはそこに居た筈の魔獣や兵士達の姿がなく、地面一面に血の池が出来ていると報告された。


 竜巻など、消滅するまでどこかに退避すれば良いではないか。何故それほど右往左往するのだ。メリオローザは、自軍の不甲斐なさに苛立ちを隠せなかった。


 そして4分の3刻が経過した頃、耳を疑う報告が入った。


「砦を取り囲んでいた全軍が消滅しました!」


 信頼する部下2名を斥候に出し、それが事実であると確認するのに更に一刻かかった。


(もう勝利は目の前だった、勝ったも同然だったのに、何が起きたの!?)


 あの巨大な竜巻が魔法で、ただの竜巻ではなく内側に真空を発生し、周囲のものを吸い込みながら巻き上げ、石の破片が内部のものをズタズタに切り裂いた事を知っても、後の祭りだった。


(それほどの魔法の使い手がいると言うの? それは魔王様にとって脅威となるかも知れない……)


 壊滅的な打撃を受けたのだから、本来なら残された部下を率いて撤退し、その脅威を魔王に報告するべきだろう。


 だが、メリオローザは撤退を選択しなかった。任された軍の殆どを失うという失態、この失態を招いた者に対する怒り。そして魔王への怖れ。それらがメリオローザから理性的な判断力を奪った。


「今夜砦を襲撃する。仲間を殺したヤツは、道連れにしてでも殺してやるわ!」


 メリオローザは、残された部下100人足らずに向けて宣言した。





SIDE:プリシア(勇者パーティ)


「使徒様! お風呂の準備、整いました!」

「ありがとう! では行くぞ!」


 チヒロ様が元気な声で返事をされた。女性騎士を先頭に、チヒロ様、モエ様、リアナ、私、その後ろをまた女性騎士という並びでお風呂へと向かう。この砦でも何度かお風呂に入ったけど、こんなに物々しいのは初めてだ。みんながそれだけ使徒様に畏敬の念を抱いているという事だろう。


 私も、魔術師の端くれとしてチヒロ様とモエ様を尊敬している。宮廷魔術師団入りを断って勇者リアナのパーティに参加し、様々な局面で魔法による支援を行ってきた。魔法なら誰にも負けないという自負もあった。


 でも、それが今日、簡単に打ち砕かれた。


 チヒロ様とモエ様が放った地獄の暴風(ウラカーン)という魔法。これまで見たどんな魔法より強力で凶悪で美しかった。とても人族が再現できるような規模ではない大魔法を、続けざまに10回も放ったのだ。私は、自分が今までどれだけ天狗になっていたかを思い知らされた。


 オレイニー様の話によると、アルダイン帝国の帝都では地獄の業火(インフェルノ)という大魔法を放ち、遥か彼方まで火の海になったと言う。私もこの目で見たかった。


 使徒様の偉大さを知った今、一緒にお風呂に入るなんて畏れ多い。でもチヒロ様が「どうしても」と仰るのだ。お断りするのはもっと畏れ多い。


「こちらが風呂になります。我々が警護するからにはネズミ一匹通しません! どうぞご安心ください!」


 女性騎士の声で我に返った。


「おおー! これがこの世界のお風呂か!」

「わー! 温泉みたいだね!」


 お二人が気に入って下さったようで安心した。チヒロ様が早速服を脱いでいらっしゃる。あれも異世界の服なのだろう、こちらでは見た事のない素材とデザインだ。黒いコートの下は、紺色のテロテロしたズボン、上は……綿だろうか。左胸の辺りに異世界の言葉で書かれた何かが張り付けられている。モエ様も上は同じような服、下はワイン色のズボンだ。


 そしてお二人は一気呵成に服を脱ぎ……あれは下着なのか? あんなに面積が少なくて不安ではないのだろうか。それも躊躇なくお脱ぎになっている。


「プリシアちゃん、脱がないの? 手伝おうか?」


 チヒロ様が何やら両手をワキワキしながら仰るので、私も慌てて服を脱ぐ。隣のリアナも少し恥ずかしいようで頬を赤く染めている。


「わー、リアナちゃん綺麗……プリシアちゃんも細くてスタイルいいなー」


 チヒロ様がそんな事を言いながら観察するように私達をご覧になる。恥ずかしい……。ふとチヒロ様を見て、私は驚きを隠せなかった。私自身、胸もお尻も小さくて、正反対のリアナをいつも羨ましく思っている。しかしチヒロ様は、その、なんと言うか、お胸は私よりも慎ましやかでお尻も小さく、とても華奢だった。モエ様の方はリアナほどではないけれど、女性らしい体つきをしていらっしゃる。


 しかし、チヒロ様は全然恥ずかしそうな素振りを見せず、堂々と裸体を晒していた。それはもうあっけらかんとしていた。


 もじもじしている私は、自分が馬鹿みたいに思えてきた。


 使徒様は教えて下さっているのだ。あるがままの自分を愛しなさい、と。スタイルの優劣など些細な事、自分や周りの者をあるがまま愛せば良い、と。


 それが伝わったのか、リアナも体を隠さず堂々とし始めた。ただモエ様だけは隅っこに体を寄せていらっしゃる。きっと隅っこがお好きなのだろう。


 私達は洗い場で髪と体を洗い、4人で浴槽に浸かった。


「ふわぁー」

「あぁー」


 お二人が湯に浸かった瞬間声を上げた。これが異世界の流儀なのだろうか。そして、しばらく湯を堪能したチヒロ様が、私とリアナの方に移動してくる。


「ねぇねぇリアナちゃん。ちょっとだけおっぱい揉んでいい?」

「お、お姉ちゃん!?」

「最近萌も揉ませてくれないから……ね? ちょっとだけ」

「お姉ちゃん、自分の胸を揉みなさい!」

「無い胸を揉んでも全然楽しくない! むしろ悲しい!」

「なんでそんなに揉みたいの?」

「っ!? 分からないのか? そこに乳があるからだっ!」

「そこに山があるから、みたいに言うなっ!」


 スパーーーン! お風呂に小気味の良い音が響いた。モエ様がチヒロ様の頭を(はた)いた音だ。大丈夫なのだろうか? きっと使徒様の平手は恐ろしい威力があると思うのだが。


「モ、モエ様。私は気にしませんので! チヒロ様、良かったらどうぞ」

「わーいっ!」

「リアナさん!? あんまりお姉ちゃんを甘やかさないでください!」

「ふわぁ……柔らかいのに弾力があって……気持ちよかぁー」


 チヒロ様はとっても幸せそうなお顔だ。胸を揉む、と言ってもいやらしさはない。リアナもなんだか慈愛に満ちた顔をしている。私と同じ17歳なのに。


 なんだか二人を見ていると羨ましくなってきた……。


「チヒロ様、わ、私のも……」

「え、いいの!? わーいっ!」

「プリシアさんまで!?」

「ぜ、全然いいのです、減るもんじゃないですし」

「プリシアちゃん、話が分かるぅー! すごい、プリシアちゃんは弾力がすごいよ!」


 チヒロ様に褒めて頂いた……。私の胸を嬉しそうに揉むチヒロ様がとても愛おしく見える。リアナもきっとこんな気持ちだったんだろうな。


 チヒロ様は凄い方だけど、ちょっと怖かった。でも、こうやって一緒にお風呂に入ったことでとても身近に感じた。リアナも同じように感じてると思う。裸の付き合いってこういう事なんだ。心の距離がぐっと近くなった。誘って頂いて本当に良かった。





SIDE:本庄萌


 お風呂はカオスだった。お姉ちゃんは別に女の子が好きな訳じゃないけど、自分にないものを触りたいのだろう、たぶん。

 お姉ちゃんとリアナさん、プリシアさんが戯れている姿を見て、私もたまには触らせてあげてもいいかなーと思った。本当にたまになら。


 テンションが上がり過ぎてのぼせたお姉ちゃんを抱えながら、私達は客室に案内してもらった。リアナさん達とはそこで別れ、今はお姉ちゃんをようやくベッドに寝かしつけたところだ。


「ぐへへぇ」


 お姉ちゃんが寝ぼけている。だらしなく口を開けて手をワキワキしている。こんなお姉ちゃんだけど、私が大好きなのは変わらない。


 今日も、私がうーちゃん様に教えてもらった極大魔法を、お姉ちゃんが現実に落とし込んでアレンジしてくれて成功させた。魔法を撃った後も、真っ先に私の事を心配してくれた。異世界に来てテンションが上がってるみたいで言動がいつもよりおかしいけど、やっぱりお姉ちゃんは大好きなお姉ちゃんのままだ。頼りになって優しい。


 こんな風に、お姉ちゃんと異世界で冒険出来るなんて夢みたい。お友達も出来たし、ずっとここに居ても良いかなーなんてちょっとだけ思ってる。


 お姉ちゃんはどう思ってるのかな? やっぱり早く帰りたいのかな?


 そんな事を考えながらウトウトしていると、なんだか外が騒がしくなってきた。


――カンカンカンカン!

「敵襲―! 敵襲―!」


 えっ!? 何? 隣で寝ていた筈のお姉ちゃんがガバッと起きた。


「萌、敵だ。行けそうか?」

「うぅ……敵? ……ハッ! お姉ちゃん、敵が来たの?」

「うむ。萌は寝てても良いぞ?」

「いや、お姉ちゃんと一緒に行く」

「そうか。では準備しよう」

「うん!」


 私達は急いで着替え、装備を身に着けた。

千尋と萌が着ていたのはジャージのズボンと学校の体操服です。

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