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30 ザイオン砦(1)

SIDE:勇者リアナ


 砦まで撤退し、救援を要請したのが昨日。しかし、リアナには分かっていた。救援など来ない事を。


 ザイオン砦はグレイブル神教国を魔王軍の侵攻から守る、文字通り最後の砦なのだ。神教国は全兵力をここに差し向けた。残りの兵力は、街を守る警備兵や巡回兵くらいしかいないのだ。そして他国からの救援も絶望的である。こうなるように、魔王軍は3国を同時に攻撃したのだから。


 微かな希望は「稀人(マレビト)」テツヤの存在だが、彼はまだ力に覚醒する気配さえない。もしかしたら、ブランドン達が言うように、彼は稀人ではないのかも知れない。


 いくらリアナ達でも、100万を超える魔王軍を相手に4人だけでは戦えない。神教国騎士団は15万人を擁するが、昨日までに3万を失い、彼我の力の差に士気は低迷している。


今は3000人の魔術師団が交代しながら、防壁の上から魔王軍に向けて魔法攻撃を行っているが、彼らの魔力が尽きたらこの砦は落とされるだろう。


「騎士団の再編成はまだか?」

「はい、怪我を負った者が多く、回復魔術師が足りません」

「魔術師団の方はまだ大丈夫か?」

「魔力枯渇で意識不明の者が1割。現在は3交代制で攻撃しております」

「救援の方は?」

「要請は行いましたが、いつ来れるか……」


 リアナ達勇者パーティは、騎士団副団長、魔術師団副団長、各大隊の隊長が出席する軍議に参加していた。


「非戦闘員を避難させましょう」


 リアナが一言意見を述べた。


「そうだな……だが、どこへ? 誰が護衛を?」

「護衛はなし、馬車だけ貸してもらい、取り敢えず首都を目指してもらう、というのは?」

「うーむ……それでは我々が使えない者達を放り出したように見えないだろうか」

「それでも、ここで戦闘に巻き込まれるよりマシではないでしょうか?」

「そんな事より、現状をどう打開するか考えるのが先だろう!」

「確かに、ここが落とされればどこに避難しても同じだ」

「とにかく騎士団の再編成だ。明日までに戦える者で小隊を組み直せ」


 全員が絶望に圧し潰されそうだった。命を懸けてこの砦を守らなければ国が滅ぶ。遠く離れた地で自分の帰りを待つ誰かの顔を思い浮かべる。ここを死守しなければ大切な者が失われるのだ。


 それぞれが何とかして絶望を打ち破り、心を奮い立たせようとしていた時――。


「伝令! 伝令!」


 軽装の革鎧を着けた兵士が叫びながら走って来た。


「何事だ!?」

「お伝えします! オレイニー宮廷魔術師団長がお出でになり、至急副団長と面会したいとの事です!」

「なに? オレイニー殿が? 救援が来たのか!?」

「それが……オレイニー様は二人の少女を伴って『使徒様をお連れした』と」

「訳が分からんな。分かった、至急お会いしよう。ここにお連れしろ」

「はっ!」


 使徒……リアナはその言葉に聞き覚えがあった。「稀人」と同じ勇者の伝承で見かけたような気がする……使徒……神……神々の……使徒。


「っ! 副団長、私も同席してよろしいですか?」

「ああ、リアナ殿も同席をお願いします。各大隊長は持ち場に戻って再編成を始めてくれ」


 かくして、この部屋には騎士団副団長、魔術師団副団長、勇者パーティの計6人が残った。


「使徒、というのが伝承で読んだ『神々の使徒』であれば、戦況が好転するかも知れません」


 リアナが残ったメンバーに向かって口を開いた。


「その『神々の使徒』というのは?」

「かつてこの世界に一度だけ現れたと書いてありました。その力は、勇者はもちろん『稀人』や魔王も遥かに凌ぎ、想像を絶するものだと」

「それは些か眉唾物では?」

「私もそう思います。ですがもし、それほどの力を持つとしたら……危険である可能性も考えなければ」





SIDE:本庄千尋


 時間は僅かに遡る。


 アルダイン帝国からザイオン砦の東にある高台に転移した千尋達。そこから西側を眺めながら、砦と周囲の地形についてオレイニーに尋ねる。


「ザイオン砦は、北の山地と南のカルフ大河を繋ぐように作られた砦でございます」


 北は山地と言っても急峻な崖のようになっている。南の大河は川幅が3キロ近くあり、流れも急。山と河の間に5キロ程の長さの防壁が作られ、それに添うように砦が作られたらしい。西側は広大な森林地帯で、そこから魔王軍が押し寄せたとのこと。


「防壁の高さは?」

「30メーダほどでございます」


 メーダは地球のメートルにほぼ等しい。ここの防壁もアルダインで見た防壁と同じくらいの高さということだ。この世界では30メートルがデフォルトなのかも知れない。


「森は燃えても大丈夫だろうか?」

「はぁ……国の存亡には代えられますまい」


 つまり燃やさない方が良い、ということだ。


「お姉ちゃん、地獄の業火(インフェルノ)禁止ね」

「むぅ。それは残念」


 千尋、15歳。ド派手な魔法が好きなお年頃であった。


 ここにも、アルダインに攻め込んで来ていたのと同じくらいの軍勢がいる。森を燃やさずにどうやって一気に数を削るか。


 腕組みをして考えていた千尋の目が、地面の一点を捉えた。腰を折ってそれを拾い上げる。


「萌、土魔法でこういうのを作れるか?」


 それは、直径3センチ大の石の薄片。刃物のように尖っている。


「ん? ちょっとやってみる……お、出来た!」

「おお。これをたくさん作れるか?」

「たくさんってどれくらい?」

「うーむ……100万くらい?」

「ひゃっ!? マジか……たぶん出来ると思うけど」

「それなら森を燃やさなくて済みそうだな」

「ほんと?」

「うむ! 作戦はこうだ――」


 そこで千尋と萌は魔王軍殲滅作戦を話し合う。ちなみにオレイニー団長は傍に立ってニコニコしながら聞いているだけだ。地獄の業火(インフェルノ)を見た後だから、魔法攻撃について自分の意見など役に立たないと思っている。宮廷魔術師団長なのに。


「よし、ではそれで行こう!」

「了解だよ! オレイニーさん、お待たせしました。砦に行きましょう」

「仰せのままに」


 防壁の上には等間隔に人が配置され、外側に向けて魔法を放っているようだ。砦に近付くと兵士の姿も増えてきた。皆一様に疲れが顔に張り付いている。


 白いローブ姿の男性がオレイニーに気付き、伝令役の別の兵士に「指揮官と話がしたい」と伝えてくれた。しばらく待っていると伝令が戻って来て案内してくれることになった。


「そう言えば、ここに『勇者』がいるとか」

「おお、そうでした。今代の勇者はリアナ殿、今たしか……17歳でしたか」

「お若いんですね。名前からして女性ですか?」

「仰る通りです。リアナ殿は4人パーティ……いや、5人だったかな? で行動していた筈です」


 勇者と言われるくらいだからきっと強いんだろうな……これまでこの世界を守るために頑張ってきたんだろう。千尋は魔王に偏った中二病だが、勇者が嫌いなわけでない。むしろ興味の対象である。俄然勇者に会いたくなってきた。


「こちらの部屋です」


 案内されて入った部屋には、軍服姿と白いローブ姿の二人の男性、そしてアニメや漫画で見た冒険者風の恰好をした4人。その中に、プラチナブロンドの髪を長く伸ばした碧眼の美女がいた。


(金髪碧眼! しかもメチャクチャきれい! お人形さんみたい)


千尋の目はその美女に釘付けであった。


「オレイニー殿」

「マルガ殿にページア殿。それに勇者ご一行も」


 オレイニーが各自と挨拶を交わす。そして千尋と萌を皆に紹介してくれた。


「このお二人が『使徒様』でいらっしゃる。チヒロ様、モエ様だ」


 いつの間にか、オレイニーは二人を「殿」呼びから「様」呼びに変えていた。姉妹はペコリと頭を下げた。


「たったお二人で、アルダイン帝都に攻め入らんとしていた魔王軍、100万あまりを殲滅された」

「はあ!?」

「まさか!」

「……」

「私自身がこの目で見たのだ。お二人の力は筆舌に尽くし難い。『不滅』のバイロケースも討ち取られた」

「とても信じられん……いや、オレイニー殿を疑う訳ではないのだが」


 ローブ姿の男性もうんうん頷いている。


「気持ちは分かる。私も最初は全く同じだったから。だが一度でも目にすればそれが真実だと嫌でも分かる――」

「一つお聞きしても?」


 リアナがオレイニーの言葉を遮った。


「どうしましたか、勇者殿?」

「使徒のお二人の口から直接お聞きしたい。この世界に来た目的は何ですか?」


 萌は千尋を見る。さっきからお姉ちゃんの様子がおかしい。あのリアナとか言う人をじっと見つめてる……千尋が答えないので萌が口を開く。


「私達はこの世界を救うように神様から依頼されてやって来ました」

「……もう一人の方は?」


 萌がもう一度千尋を見る。何かブツブツ呟いている。


(金髪碧眼……髪さらさら……17歳……美しさの中に幼さが残って……体は細いのにおっぱいがデカい……綺麗なのに気が強そう……ああ触りたい、会話したい、微笑まれたい……)


萌が千尋の頭をスパーンと(はた)いた。


「お姉ちゃん!?」

「あいたっ!? なんだ、敵か!?」

「…………リアナさんが、何でこの世界に来たのか、って」

「何で? そんなの決まっているだろう」


 千尋は数歩前に出て、リアナの前に跪いた。


「もちろん、貴女に会うためです」


 千尋が魔王から王子にジョブチェンジした。

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