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15 3層

SIDE:本庄千尋


 千尋と萌は順調にレベルを上げていた。2層のモンスターを、毎日それぞれ100体ずつほど倒す。経験値は1日に25000前後ずつ稼いだ。二人で約5万円分のマグリスタルを毎日獲得している。


 また、2層のモンスターは稀にアイテムをドロップする事も分かった。確率的には1%あるかないかくらい。黒牛からはいかにも高級そうな牛肉のブロック(1キロ)。黒豚からは豚肉、黒鶏からは鶏肉。毎日何かしら1キロくらいのお肉をゲットした。これに1層のお野菜も回収することで、本庄家の食卓は以前と比べて大変豪華になった。


 2層に下りて11日後。夏休みに入って15日経った頃、千尋のレベルが20に達した。


====================

本庄千尋 女 14

Lv20

経験値:520600/625000

種族:人

属性:光

HP:336(+146)

MP:404(+176)

STR(腕力):61(+27)

DEF(防御):54(+24)

AGI(敏捷):81(+35)

DEX(器用):108(+47)

INT(知力):101(+44)

LUC(運):94(+41)

スキル:治癒

EXスキル:魔王礼賛

====================


 レベル20でスキル「治癒」を覚え、属性が「光」となった。千尋としては「魔王ならやはり爆炎魔法一択だ」などと思っていたが、まるで聖女のようなスキルと属性であった。


 また、EXスキルにレベル2が出現した。


====================

EXスキル:魔王礼賛

魔王のように振舞えるスキル。

Lv1:感情が昂ると目が赤く光る。相手を一定確率で威圧。

Lv2:右目が疼く。

====================


 疼いたから何だと言うのだ? 眼精疲労か?

 目や腕が疼くのは中二病に最も顕著な症状であり、わざわざスキルにするまでもないと思うのだが。これはまた説明が詳細になるのを待たねばならないだろう。


 そして、萌の方はあと少しでレベル17という所である。


====================

本庄萌 女 11

Lv16

経験値:342000/349000

種族:人

属性:―

HP:211(+92)

MP:184(+80)

STR(腕力):83(+36)

DEF(防御):69(+30)

AGI(敏捷):64(+28)

DEX(器用):74(+33)

INT(知力):26(+26)

LUC(運):51(+22)

スキル:なし

EXスキル:怒髪天衝

====================

■収支:+86万2600円+?

※収支は千尋と萌の合計です。

※「?」はイレギュラーのマグリスタルです。


 やはりSTRの伸びが突出していた。見た目は可愛らしい小5女子なのに、ステータスは筋肉ゴリラに向かっている。見た目は可愛いので安心して欲しい。


 二人が獲得したマグリスタルの買い取り価格は80万円を大きく超えているが、これについてはまだ売却出来ないのであまり意識していなかった。


「明日から3層へ行ってみようと思うが」

「うん、いいと思うよ!」


 地道にレベル上げを行っている本庄姉妹だが、他の探索者(マイナー)と比べるとかなり早いペースでレベルが上がっていた。本人達は気付いていないが、氏神から貰った装備はレアアイテムで、かなり強い。その上ダンジョン内の時間経過が外の5分の1になる特殊な環境が大きく寄与しているのは言うまでもない。


「3層は何がゲット出来るかなー!」

「萌、食材はあくまで副産物。あまり期待し過ぎるのは良くない」

「でもっ! お野菜もお肉も美味しいし、期待しちゃうよ」

「まあ気持ちは分かる」

「美味しいのが出なかったら2層に戻るかも」

「ふふっ、それも良いかも知れんな。だが我は先に進むぞ」

「えぇ……じゃあお姉ちゃんについて行く」

「萌なら一人でも十分2層を回れるだろう?」

「そういうんじゃないの! お姉ちゃんと一緒だからいいの!」


(妹が我を萌え死にさせようとする件について)


 妹の可愛さを全人類に語って聞かせたい千尋である。


「う、うむ、とにかく一緒に3層に行こう」

「うん!」


 翌日からの3層攻略を決め、期待に胸を膨らませながら眠りに就く姉妹だった。





SIDE:神社ダンジョン5層


 大神哲也と弘樹の兄弟がダンジョン・コアの権限で制裁を科され異世界に飛ばされた時。地球と異世界がほんの一瞬繋がったのだが、その繋がりは双方向だった。つまり、神社から異世界のシュライザー大森林に兄弟が転移したのと同じタイミングで、シュライザー大森林から神社ダンジョンの中に転移した者がいた。


 これはダンジョン・コアである氏神も気付かなかった事態。そして、正規ルートである大岩の穴からの侵入でなかった為、ダンジョン・システムにも察知されなかった事態であった。


 それは、このダンジョンの最奥に転移し、ダンジョン内のモンスターと戦いながら上へ上へと進んでいた。上方向しか道が繋がっていなかったからだ。


 その者の名はペギストリギアン。異世界で、勇者リアナ一行が大森林を捜索していた目的の魔王軍幹部である。リアナ達がいくら探しても成果を上げられなかったのは他でもない。ペギストリギアンはもう大森林に居なかったのだ。


 彼にはここがどこか分からなかったし、あとどれくらい上に行けば外に出られるかも分からなかった。ただ、生存本能に従って上に向かっていた。


「ギシャァァアアアー!」

「フン!」


 大斧を振るい、目の前のモンスターを倒す。2メートルを超える筋骨隆々の体躯は濃い灰色。額から1本の長く鋭い角が生え、耳は尖っている。赤い眼球と黒い瞳は、まるで地球で想像される悪魔のようだった。


 知らない世界に放り出されたと同時に強大なモンスターに襲い掛かられ、それから不眠不休で戦い続けている。ダンジョン内は時間経過が5分の1になっているため、彼は既に70日以上戦っていた。


 そんな彼の前に4層に上がる階段が現れた。異世界の魔王軍幹部、ペギストリギアンの力を以てすれば、4層を抜けるのに大して時間はかからないだろう。





SIDE:本庄千尋


 ダンジョン3層に初めて降り立った千尋と萌。1~2層を最短距離で走り抜けたが、ここまで1時間ほどかかった。


「ほぇ~。景色が全然違うね」

「うむ、何と言うか……不思議な光景だ」


 降り立った場所は砂浜、天井はなく青空が広がっている。1~2層は洞窟の様相だったが、3層は閉塞感がなく開放的な印象だ。頬を擽る風には潮の香まで含んでいる。気温はこれまでと同じで適温だった。


 砂浜から木を組んで作ったように見える桟橋が伸びている。幅は5メートルくらい。かなり先の方で丁字路になっているが、壁がないのでずっと先まで見通せる。


 桟橋を支える支柱に波が当たってチャプチャプと音が聞こえる。まるで初夏の海に遊びに来たかのような錯覚を覚えた。


 この桟橋を通って行け、という事なのだろう。千尋は少し前を歩き、萌はその右後ろからついて行く。


 しばらく進むと、「バッシャーン!」と派手な音と水飛沫を上げながら、海中から何かが現れた。


「お姉ちゃん!」

「むっ! まず我が行く。いつも通り周りの警戒を任せた!」

「はいっ!」


 初見の敵に対する姉妹のルーティーン。敵の力量を計るため、まずは千尋が先行する。


「これは…………エビだな」


 僅かに透明感のあるグレーの甲殻。それはスーパーでよく見かける「バナメイエビ」にそっくりだ。ただ全長が4メートルくらいある。睨みあう千尋とエビ。すると突然、エビが千尋に向かってビョーンと跳ねた。見た目の大きさからは想像出来ない素早い動きだ。両目の間に伸びる固く鋭い「額角(がっかく)」が千尋の顔面を狙う。


「ふっ」


 千尋は頭を下げて額角を避けると、そのままエビの下に滑り込んだ。刀を左肩に担ぐように持ち、通り過ぎざまにエビの腹を掻っ捌く。そこから濃い青色の靄が噴出し、すぐにエビ全体が靄になって消えた。


「お姉ちゃん、どうだった?」

「うむ、動きは素早いが反応出来ない程ではない。腹側は容易く切り裂けたが、背中側はもっと固いかも知れん」


 足元に落ちた青いマグリスタルを拾いながら、千尋が答える。少し離れた所で何かがピチピチと音を立てていた。


「エビっ!」

「3層もドロップがあるようだな」


 20センチくらいありそうな、丸々と太った活きのよいエビが3尾。


「これは3層も期待出来るね……じゅるり」


 海の幸ゲットに興奮を隠せない萌。エビが大好物なので仕方ないのだ。そんな萌を見てほっこりする千尋であった。ちなみに千尋もエビ大好きっ子である。


 さらに先に進むと、行く手をトゲトゲした岩山のようなものが阻んだ。桟橋と接する部分には、何やらオレンジ色っぽい動物の舌のような物体が蠢いている。


「お姉ちゃん、あれ何?」

「うーむ……我も実際に動いている所は見た事がないが、雰囲気からしてサザエではないか?」


 それは、サイズ感さえ無視すれば正しくサザエであった。足元の舌のような物体が本体なのだろう。ぬめぬめと動き、こちらに迫って来るが動きは非常に遅い。殻の部分は見るからに固そうだ。網焼きにして上から醤油を垂らしたい欲が凄い。


「私が殴ってみていい?」

「うむ。油断するなよ」

「うん!」


 萌はあっという間にサザエに迫り、蠢く本体を避けて殻にパンチを入れた。「ガキン!」と金属がぶつかったような音がする。


「かったーい!」


(萌の打撃でも割れんか。本体を攻撃するしかなさそうだな)


 と千尋が考察するが、その間に萌はサザエを滅多打ちにしていた。


「どりゃぁぁあああー!」


ガキンガキンガキンガキン、バキン!


(おおぅ、割りよった)


「割れた! …………お、お姉ちゃん、中身がなんかグロい……」


 殻をぶっ叩いていた時のテンションが、サザエの中身を見てダダ下がりの萌であった。殻を割っただけでは倒せないようだ。千尋がすかさず近付いて中身部分を刀で一閃。サザエは割れた殻も一緒に青い靄になって四散した。


「サザエは我に任せよ」

「う、うん。任せたよ……」


 千尋と萌は更に先に進んだ。

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