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たった一つの冴えた引き撃ちです

 島風の艦長席に座った私は、メインモニターに映る惑星連合の艦隊を見つめる。

 地球にかなり近いので、周辺への被害を考えると最大火力で一気に勝負を決めるのは難しい。


「わかってはいましたが、多勢に無勢ですね」


 相変わらずこっちは島風だけなので、また厳しい戦いになりそうだ。

 一応は地球を守るという大義名分はあるものの、惑星連合が潔く身を引いてくれればその限りではない。


 宣戦布告もまだないし、今は様子見の段階だ。


 こっちは一隻、相手は五十を越える大艦隊だ。

 数だけ見れば不利ではあるが、技術力なら優位に立っている。

 ちなみに例によって例のごとく、トーキョーテレビの番組スタッフも同行しているが、今さらなので乗務員は誰も気にしていない。


 とにかく私が今後について考えていると、レーダー手から報告が入る。


「惑星連合の艦隊が通信を呼びかけています!」

「繋いでください」


 すると正面のメインモニターに、ジャーリールが大きく映し出された。


「ノゾミさん、地球から手を引く気はないか?」


 単刀直入に切り出してきたが、私を相手に腹芸は無意味だと理解したようだ。

 一度は惑星連合の情報を奪われたため、企ても露見していると考えているのだろう。


 だから自分に地球から去るようにと要求してきたのだろうが、こっちはそんな気はない。


「嫌ですね。惑星連合が撤退すれば、良いではないですか」


 まだ地球の観光旅行は終わっていないのに、去るのは嫌である。

 けれどノゾミ女王国にとっては、失っても惜しくはない未開惑星の一つだ。


 しかしそれでも、目の前で他人に掻っ攫われるのは悔しい。

 遠い場所ならふーんで受け流せるが、今は直接関わっているのだ。


「惑星連合は、ノゾミさんに多額の金銭や物資を支払う用意がある」


 私は迷うことなく、はっきりと告げる。


「いりませんよ。そんなの」


 こちらの発言にジャーリールは驚き、次に苦笑した。


「どうやらノゾミさんは、高潔な精神の持ち主のようだ」


 こう見えて千年以上も女王を務めているので、金銭や物資には不自由していない。

 ミズガルズ星でも無駄に余らせているし、人のことはともかく自分では使い道は特になかった。


 それに自分勝手な性格の私が、高潔な精神を持っているとは到底思えない。

 他者の評価と食い違い、少々微妙な表情になってしまう。


「そんなに地球が好きになったのだな。ノゾミさんは」


 彼は私の変化に気づかないようで、なおも話を続ける。


「ええ、好きですよ。

 私にとって地球は、第二の故郷ですからね」


 前世の地球は十年と少ししか過ごしていないが、今の私を形作る大切な思い出をくれた。

 そしてこっちの地球も何処か懐かしい雰囲気を感じるので、一人旅をしていて気分が良いのだ。


 今の発言を聞いた島風の乗務員は、とても感激している。

 けれど逆に、ジャーリールは呆れた表情を浮かべていた。


「なるほど、猿どもと低俗な遊びをするのが好きと言うわけだ」


 今までの穏やかな雰囲気が一変する。

 ジャーリールの口から、急にこちらを見下すような発言が飛び出した。


「未開惑星の価値など、資源と労働力しかあるまい」


 確かに一理ありだが、私はすぐに首を横に振る。


「いいえ、私はそうは思いません」


 ノゾミ女王国は資源や労働力は足りているし、今さら未開惑星を欲しいとは思わない。

 なので私は、彼の発言を否定する。


「惑星の人々の営みを垣間見たり、独自の文化に触れるのは素晴らしいことです」


 ちなみに私が今言ったことは、故郷がどうとかではなく旅行というやつだ。

 地球を観光地扱いしていたのだが、幸いツッコミを入れる者はいなかった。


 ジャーリールは気づかなかったようで、話はそのまま進んでいく。


「たとえノゾミさんが高潔であっても、他の者は違う!」

「いいえ、他の人も同じですよ」


 ノゾミ女王国は、千年以上も管理運営を徹底してきたのだ。


「ありえん! 人は多様で状況に流されやすい!

 どれだけ清廉潔白であろうと、いずれは黒く染まる!」


 確かに普通の国家ならばそれが当たり前だが、うちは全国民を籠の中の鳥として面倒を見続けてきた。

 女王が全てを管理運営するということは、あらゆる面で私の影響が強く出るのだ。


 祖国では、私は第二の母と呼ばれている。

 国民が生まれてから死ぬまで、ずっと見守り続けていた。

 時には目の前に現れて干渉することもあり、物の考え方や価値観などは自ずと親に似るのだ。


「変わりませんよ。私は千年以上も、私のままです」


 今の発言を聞いてジャーリールは絶句し、乗組員からは尊敬の眼差しを向けられる。


「お前はおかしい!」

「でしょうね。否定はしません」


 正論ではあるが、今までずっと私は私としてやって来たのだ。

 ならばそれで良いではないかと思いつつ、いつの間にかノゾミさんからお前呼ばわりされていることに気づく。


「お前は、この宇宙に存在してはならない!」


 ジャーリールは、もはや完全に取り繕う気をなくしたようだ。


「私としては弱者を騙し、食い物にする強者のほうが許せません」


 この時点で彼は、私とは絶対に相容れないことを理解した。

 つまり殺られる前に殺るし、遅かれ早かれノゾミ女王国と惑星連合は衝突して星間戦争になる。


 それに惑星連合が過去に弱者を経済的に追い詰めて、大勢の人々を殺してきたことを知った。

 なので表情には出さないが、久しぶりに怒っている。


「今! ここで滅ぼしてやる! ノゾミ!」

「その言葉! 宣戦布告と受け取りましたよ! ジャーリール!」


 私への殺害予告は、そのまま宣戦布告と受け取った。

 するとすぐに通信が切れて、惑星連合側の艦隊が一斉に動き始める。


 こちらも急いで指示を出す。


「総員! 第一種戦闘配置!」


 迎え撃つために乗務員を戦闘配置につかせたが、戦力差は数だけで見れば五十倍以上だ。

 そしてどうやら惑星連合は、きりのような陣形を組んで真っ直ぐに突撃してくるらしい。


「艦長! 如何されますか!」


 副長のフランクが尋ねてきたので、私はすぐに命令を出す。


「島風は全速で後退しつつ、攻撃開始!

 ただし、周囲被害はなるべく抑えてください!」

「了解! 島風、後退します!」


 操舵手が全速で後退させると同時に、島風の攻撃が始まる。


「射程はこちら有利です!

 撃って撃って! 撃ちまくりなさい!」


 どれだけ数が多くても、攻撃が届かなくては意味がない。

 島風は後退しつつロングレンジ攻撃を行うが、惑星連合は艦を守るのに手一杯なようだ。


 それに我が国最速の航宙艦だけはあり、全速で動けば敵を振り切ってしまうので低速に切り替えて、敵射程外を維持しつつ一方的に砲撃を浴びせ続ける。


 何と言うか、技術力の差は残酷だった。

 航宙艦の船足だけでなく、射程もこっちのほうが上なのだ。

 敵は全エネルギーをバリアに回さざるを得なくなり、追いつくどころか攻撃もおぼつかない。


 そして島風は適切な距離を保ったまま一方的に攻撃を浴びせ続けるが、惑星連合の陣はきりのように細長く密集している。

 多少狙いが雑でも、中央を狙って撃っても何処かに当たるのだ。


「敵バリア! 消失!」


 出力限界を越えたバリアは、ガラスのようにヒビ割れて崩壊してしまう。

 こうなれば、もはや航宙艦を守るものは何もない。

 雨のように降り注いでいるホーミングレーザーが、盾役の重巡洋艦に直撃する。


 装甲を厚くしているので一発では轟沈はしないけれど、それでも大爆発が起きて航行不能に陥る。

 密集陣形なので急に先頭の足が止まったり進路が変わると、どうしても移動速度が落ちてしまう。


 そして動かない航宙艦など、ただの的である。

 おかげで他の艦のバリアも次々と剥がれていき、剥き出しの船体に攻撃が当たって爆発が起きては、戦線を離脱したり宇宙の藻屑になっていく。


 蓋を開けてみれば、何とも一方的な戦いだ。

 しかし被害なしで勝てるに越したことはないので、現状維持である。


 しばらく後退しつつ攻撃を続けていると、やがて状況に変化が起きた。


「あら? あの艦は──」


 惑星連合の艦隊が半数以下になると、奥に隠れていた旗艦が前に出てくる。

 今まで安全な場所に居たからか、殆ど消耗していない。

 そして圧倒的な不利な状況でも、私だけは絶対に倒す気のようだ。


「敵艦隊が急速接近!」


 敵はバリアに回すエネルギーを、全て加速力に注ぎ込んでいる。

 再びきりのような陣形を組み直し、レーザーの雨の中を強引に進んでいた。


 レーダー手が警告を発するが、私は全体を見て考える。

 島風は安全のためにバリアを展開しつつ、攻撃しながら後退を行っていた。

 しかし敵の捨て身の突撃のせいで、距離がジリジリと詰められていく。

 防御が手薄になっているので多くの艦隊を沈めたが、それでも惑星連合の足が止まることはない。


 攻防一体の対消滅バリアなら、追突されても航宙艦が揺れるぐらいで済む。

 だが怪我人は出るだろうし、事故は起きないほうが良い。


 なので私は現状を分析して、新しい命令を出す。


「島風は今、安全宙域に到達しました!

 主砲の発射を許可! 残りの敵を殲滅しなさい!」


 逃げる側は一見すると不利だが、代わりに戦場を自由に選べるという利点があった。

 おかげで周囲に何もない宙域に敵を誘い込めたので、ここなら思う存分暴れられる。


 光子魚雷は地球では補充できないが、主砲は修理したので発砲には問題はない。


 きっと惑星連合は、逆転勝利を信じていただろう。

 しかし現実は高威力の青い閃光が次々と飛来し、航宙艦を貫いていく。

 主砲は貫通力が高く、密集陣形では数隻同時に轟沈するのも良くあった。


 バリアさえ展開していれば多少の抵抗はできたのだが、残念ながら全てを加速力に回している。

 何もできないまま艦隊が次々と沈んでいき、宇宙の藻屑となった。


 やがて旗艦にも主砲が直撃し、大爆発が起きる。

 陣形の足並みが乱れ始めて、指揮系統が混乱しているようだ。


 私は今回の戦闘の終わりを確信し、レーダー手に指示を出す。


「惑星連合艦隊に、降伏勧告を出してください」

「よろしいのですか?」

「これ以上の戦闘は無意味です。

 抵抗を止めて投降すれば、命は保証しましょう」


 彼らにはもう、戦う意志は残っていない。

 無抵抗な相手を殺すのは後味が悪いし、敵の情報など色々聞きたいことがある。


 生きていたほうが、ノゾミ女王国にとってはメリットが大きい。

 もはやまともに動いているのは十隻程度だけれど、私は惑星連合艦隊に降伏勧告を出すのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「わたしとあなたは違う。この世の闘争の全てはそれが全てだ。人間がこの世に生まれてからな」
[一言] バカにされて怒るのが当たり前だと、思い込んで敵を挑発して返り討ちにされることほど、哀れなものはないですね。
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