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全弾発射は浪漫ですね

 溶岩虫は機械生命体の母艦にある動力機関に取りつき、産卵行動を開始した。

 数百もの卵は次々と孵化し、敵の宇宙艦隊が標的になって、あっさり壊滅して宇宙の藻屑になる。


 現在、周辺宙域でまともに動いている艦は島風だけだ。

 そうなれば当然のように狙われるため、地球圏に被害を出さないように敵の注意を引きつつ迎撃することを余儀なくされる。


「光子魚雷の弾数が、ゼロになりました!」


 流石に多勢に無勢なため、強力な武装である光子魚雷は早々に尽きる。

 この兵器は地球では生産できない。

 なので魚雷の補充は艦内の物質変換機器を使うしかないが、いくら無から有を生み出せる魔法文明の最新鋭機とはいえ、駆逐艦は本来そういう使い方はしない。

 専用の補給艦なら別だが、とても時間がかかるのだ。


 少なくとも戦闘中はそちらに動力を回す余裕はなく、旗色は悪い。

 だがここで逃げたら、地球どころか太陽系の終焉である。


「敵が多すぎて、主砲の冷却が間に合いません!」

「単発撃ちに切り替えなさい! 少しでも隙を減らすのです!」


 一斉発射の主砲は強力である。

 だが魔力は無制限に使えても、冷却が必要なため連発はできない。


「ホーミングレーザーを発射しなさい!

 決定打にはなりませんが、足止めにはなります!」

「了解!」


 航宙駆逐艦が一隻だけでは、火力不足なのは明らかだ。

 しかし私と仲間たちは、決して諦めずに必死に戦い続ける。


「全てのフェザー兵器を、攻撃ではなく防御に回しなさい!

 ここで島風が落ちれば、太陽系は終わりです!」


 攻防一体の対消滅バリアがあるとはいえ、無敵ではない。

 圧倒的な質量の前には突破される可能性もあり、何より敵の数が多すぎて短期決戦は無理だ。


 なので長期戦を覚悟して、乗務員にもそのつもりでいるように命令するのだった。







 どれだけ戦っていたかは覚えていないが、長い時間をかけて溶岩虫の最後の一匹を仕留めることができた。

 正面モニターには、主砲の直撃を受けて消滅する特定外来生物が映し出されている。


 それを見た私は、艦長席に背中を預けて大きく息を吐く。

 乗務員たちも安堵したようで、中には安心しすぎてその場に崩れ落ちる者までいた。


 取りあえず私は、頑張ってくれた皆に労いの言葉をかけようとする。

 だがそこで大破した敵母艦が微かに揺れて、レーダー手が大きな声で報告した。


「艦長! 敵艦内部に高エネルギー反応です!」

「何ですって!?」


 私は正面モニターを操作して、イソギンチャクの成れの果てを拡大表示する。

 すると要塞の腹を食い破り、巨大な溶岩虫が姿を現した。


 そう言えば倒した相手は巨大なオケラとはいえ、過去のデータを参照すると全て小型に分類され、大型は一匹もいなかった。

 つまり奴がイソギンチャクの動力機関を食べて産卵を行ったマザー個体だと、そんな予測が出ている。


「全く! 少しは休ませて欲しいですね!」


 大破したイソギンチャクよりは少しだけ小さいが、それでもかなりの巨体に成長したようだ。

 迷惑極まりないが放置はできないので、早速命令を出す。


「奴を地球に行かせるわけにはいきません! 攻撃開始!」


 島風が主砲を放ち、巨大な溶岩虫の外骨格に直撃した。

 しかし痛がる素振りを見せるがそれだけであった、傷がついているので効いてはいるようだが。


 けれどすぐに治癒してしまい、二発、三発と続けて攻撃しても同じだったので、あまり効果はないと思われた。


「巨大溶岩虫が、我が艦に向かってきます!」


 正直かなり不味い状況だと理解して、私は戦術を切り替える。


「残念ですが、今の島風の武装では効果が薄いです!

 進路反転! 奴を地球から引き離します!」


 私は逃走ルートを操舵手に伝えて、付かず離れずで巨大な溶岩虫を誘導する。

 いくら島風の武装では対抗策がないとはいえ、アレに太陽や惑星を食わせるわけにはいかない。


「了解! 進路反転します!」


 なのでワープでは逃げずに、通常航行を維持する。

 そのまま追いかけっこが続き、やがて指定のポイントに到着した。


「艦長、この先には一体何が?」


 少し進んだ先に広がる宙域は、周りには何もない。

 しかし副長が気になるのも当然で、彼の質問に勿体つけることなく答える。


「島風には、まだ一つだけ武装が残されています。

 巨大溶岩虫を倒すために、それを使います」


 副長たちは、武器は全て撃ち尽くしたと思っていたようだ。

 管制室に驚きが広がる中で、私は続きを話す。


「ただし、この武装は私しか扱えません。

 なので、副長。あとは任せます」


 私は遠隔操作で転移装置を動かす。

 そして格納庫に固定されている島風唯一の艦載機の前に瞬間移動すると、ちょうどレジスタンスのリーダーとばったり出会う。


「キミはこんなところで一体何を!?」


 いきなり転移してきた私に驚いて、口を開いた。

 なので微笑みを浮かべて、はっきりと答えを口にする。


「決まっています。巨大な溶岩虫を倒しに行くんです」


 そう言って、遠隔操作で目の前の機体のコックピットを開く。

 次に中に乗り込んで座席に座り、シートベルトを装着して起動シーケンスを開始する。


「この感覚。懐かしいですね」


 私はかつて、ミスリルジャイアントやデウス・エクス・マキナなどの巨大ロボットに搭乗した経験がある。

 そして最前線で戦っていたのだ。


 しかしここ最近は、戦争が起きても私が出る前に勝負がつく。

 敵国が降伏したり、宇宙生物の駆除が完了するのだ。

 被害なしで勝てるのは良いことだし、女王が先頭に立って戦うのは色々おかしいのはわかる。


 けれど私がサブカルチャーが大好きなのは、前世から変わっていない。

 コスト度外視で浪漫を追求したコックピットには憧れるし、国営で行われる夏と冬の祭典には、正体を隠して毎年こっそり参加している。


 そんな事情はともかくとして、全てが問題なしと表示されてエンジンに火が入った。


「起動シーケンスが終わりましたし、そろそろ行きますか」


 遠隔操作で、固定具を解除する。

 そして格納庫にいる人たちの退避を終えてから、宇宙空間に通じる隔壁を開いた。

 全天周囲モニターには、コンディションには異常がなく発進可能なことが表示されている。


「シルフィード! ノゾミ! 出ます!」


 反重力推進機関は正常に作動し、全長二十メートルの風の精霊はふわりと浮き上がった。

 見た目は白い飛行タイプの戦闘機だが、コレは空を飛ぶだけではなく変形して人型ロボットにもなれる。


 予算や人員や資源を惜しみなくつぎ込んだり、複雑な変形機構が整備士泣かせではあるけれど、ノゾミ女王国は経済的に余裕があるため問題ない。


 とにかく開いた隔壁を抜けて島風の外に出たので、遠隔操作ですぐに閉じて格納庫内の空気や重力を正常値に戻しておく。


「あの頃よりも機体のスペックは上がっていますが、無理は禁物ですね」


 そして戦う場所は地上ではなく、宇宙に変わっている。

 千年も経てば機体スペックも大幅に向上しているが、それでも巨大な溶岩虫を倒すのは一筋縄ではいかない。


「では、兵装ブロックを借りますね」


 島風は様々な区画に分かれていて、状況に応じて切り離すことができる。

 さらにそれぞれが独立して稼働できるのだが、私はシルフィードを戦闘機モードから人型ロボットに変形して分離した区画に取り付いた。


 分離する前に退去命令を出したけれど、皆ちゃんと指示に従ってくれたようだ。

 兵装ブロックには誰も残っておらず、私は指定の箇所に有線ケーブルを接続して、機体の動力を流し込む。


「エネルギー充填百パーセントでは、火力が足りませんね」


 今から行うのは、限界以上に火力を上げて一気に殲滅する作戦だ。

 普通に何発叩き込んだところで、怯みはしても致命傷には程遠い。

 地道に続けていても、時間をかけ過ぎれば本能的に勝てないと判断して逃げられる可能性があった。


 惑星を食われるのは避けたいので、多少無茶でも短期決戦で仕留めないといけない。


 しかしエネルギーチャージには時間がかかり、やがてこの宙域に巨大な溶岩虫が到着した。

 まだ距離は遠いが、肉眼でもはっきり見えている。


赤色のオケラが真っ直ぐ突っ込んでくるので、私は島風に指示を出す。


「申し訳ありませんが、こちらの準備が整うまで時間を稼いでください!」


 主武装は分離させたが、島風には予備の武器が残っている。

 副長はすぐに理解して、他の乗務員に命じて溶岩虫の注意を惹きつけるために前に出た。


「艦長を援護する!」

「了解! ホーミングレーザー! 発射します!」


 副長が臨時の指揮を取り、サブ武器で攻撃を行う。

 魔力補充がなくなったので連発はできないが、牽制には十分だ。


 それに蓄えた熱エネルギーも無限ではない。

 激しい運動を続ければそのうち疲れてくるし、微々たるダメージでも効いているのだ。


 ただしかなりの長期戦を覚悟しなければいけないし、逃げられたら元も子もない。

 これに対して、うちの副長や乗務員はやる気十分だった。


「やってやる! やってやるぞ!」

「大和魂を見せてやるぜ!」


 状況的には決して楽観視はできないが、味方がすぐにやられる状況でもない。

 そのまましばらく時間を稼いでもらっていると、やがてエネルギー充填が完了する。


「今から大技を放ちます! 射線上から、急ぎ退避してください!」

「「「了解!!!」」」


 指示通りに島風が退避したのを見届けた私は、有線ケーブルを引き抜いてシルフィードを武装ブロックから離脱させる。

 私なら何処に居ても遠隔操作が可能なので、その場に留まって狙いを合わせる必要はない。


「リミッター解除!」


 管理者権限で無理やり出力を上げたので、武装ブロックからは異常を知らせるアラームが鳴りっぱなしだ。

 爆発四散するのも時間の問題なので、早いところ発射しないといけない。


 あと十秒ほどで大爆発を起こすと予測が出たので、赤いオケラに狙いをつける。

 そのまま私は、躊躇うことなく撃った。


「全弾発射!」


 瞬間、全ての兵装ブロックに搭載されている兵器が、一斉に発射された。

 駆逐艦の主砲とは比較にならない程の威力の光線が放たれ、青い閃光は赤い巨体をあっさり飲み込む。


 そうして、どうやら敵は耐えられなかったらしい。

 眩い光の中で塵芥に分解され、この宇宙から完全に消滅した。


「溶岩虫の消滅を確認!」


 レーダー手から、嬉しそうな連絡が入る。


「しっ、信じられん! あれ程の敵を、たったの一撃で!」

「やった! やったぞー!」


 島風の船員も、大喜びしている。

 だが兵装ブロックは、正直かなり不味い状況だ。


 限界以上のエネルギーを溜め込んで一気に放出したことで、爆発こそしなかったが回路のあちこちが焼ききれている。

 冷却機能もまともに動かないようで、火花を散らしていた。


 なので私は、慌てて次の命令を出した。


「喜ぶのはあとにして、早くドッキングシーケンスに入ってください!」


 万が一に備えて分離したが、爆発しなかったのは幸いだった。

 しかし遠隔操作では対処に限界があり、早いところ手動で修理しないと本当に爆散してしまう。


「わっ、わかりました!」

「総員! 宇宙服及びパワードスーツを着用し、緊急点検を開始!」


 兵装ブロックの全ての機能をマニュアルで操作し、バイパスを繋げて保たせている。

 けれど正直かなりヤバい状況で、早いところ島風とドッキングして全人員と無人機を投入して修理作業に入りたい。


 だがまあ結果を見れば、害虫は駆除できたし地球も救われた。

 多少の被害は出たが、とにかく良しとするのだった。

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[一言] シルフィード「なんか大昔にも虫と戦わされた記憶が・・・」
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