面倒ですし回収してもらいましょう
突然天井が崩れて、周囲に瓦礫が降り注いだ。
しかも、突然の乱入者は溶岩虫の卵を器用に避けて、主に私たちに向かって、岩石やら金属片を飛ばしてくる。
咄嗟にシールドフェザーをドーム状に展開して味方を守ると、機械の体をした彼らが大声で叫ぶ。
「大いなる秘宝は、帝王様のものだ!」
「地球人などにやるものか!」
土煙で良く見えないが機械生命体なのは明らかで、自動翻訳機も彼らの言語だと教えてくれている。
だがこちらが何か言う前に、続けて銃弾や砲弾が飛んできた。
「シールドフェザー!」
それらは全て防壁に弾かれたので、仲間たちには傷一つつかない。
しかし、彼らの目的は私たちを倒すことではなかった。
「しまった! 大いなる秘宝が!」
奴らの目的に気づいたレジスタンスのリーダーが、大声で叫ぶ。
「あばよ! 裏切り者と! 間抜けな地球人ども!」
「仲良く生き埋めになりな!」
悪の帝国の機械生命体は、溶岩虫の卵を包み込むように重力場を展開する。
そのまま彼らが通ってきた大穴に引き返していくが、どうやら大型の掘削工事用の重機に変形して、ここまで掘り進んできたようだ。
仲間たちは逃すまいと追いかけようとしたので、私は慌てて警告を発する。
「全員! その場から動かないでください!
遺跡が崩壊します!」
彼らは追ってこれないようにエネルギー弾やミサイルを乱射し、周囲で立て続けに爆発が起きる。
元々老朽化が進んでいたので、完全にトドメを刺した形になった。
(私が動けば、阻止するのは容易いけど。ここはあえて卵を回収してもらおう)
様々な思惑が交差して慌ただしく事態が動く中で、私だけ別のことを考えていた。
周りからはアンタはどっちの味方なんだいと言われるかも知れないが、溶岩虫の所有者は現状では不明だし、外交的に揉める原因であった。
なので、厄ネタはあえて持っていってもらったのだ。
彼らがそれを使って何をするかは知らないが、ノゾミ女王国にはただちに影響はない。
いよいよヤバくなってから阻止に動いても間に合うし、多少の損害はコラテラルダメージだと割り切る。
それに今はもっと他にやることがあるので、急ぎ島風に連絡を入れる。
「島風! 聞こえますか! 今すぐ私たちを回収してください!」
神様からのギフトであるリアルタイム通信に距離は関係なく、エネルギーフィールドだろうと素通りである。
「了解! 今から転送するので、その場から動かないでください!」
本当は私がやっても良いが、まだ崩壊し始めたばかりだ。
時間的に少しだが猶予があったので、乗務員を信頼して任せることにする。
情報共有をしているため状況把握もバッチリであり、私たちはすぐに光の繭に包まれた。
そして人類が十人と機械生命体が五人、さらに幼女とテレビ局のスタッフが一度に転送される。
安全装置が働いて合体事故のキメラ状態にはならないけれど、行き先の格納庫は少々窮屈に感じた。
何にせよ、私たちは島風に戻ったのだ。
艦内放送の機能を使い、大きな声で命令を出す。
「海底遺跡の崩落に巻き込まれる前に、急いで脱出しなさい!」
「りょっ、了解! 島風! 発進します!」
先程の衝撃は入り口まで伝わっており、既に崩壊は始まっている。
今も天井から岩や金属が降り注いでいて、あまり長くは保ちそうにない。
なので私たちは生き埋めになる前に、反重力推進機関を起動して急いで脱出するのだった。
<悪の帝王>
我は機械生命体の帝王である。
レジスタンスを拷問して情報を吐かせ、大いなる秘宝というものが辺境宙域の未開惑星にあることを突き止めた。
何でも熱エネルギーを無尽蔵に吸収する爆弾とのことだ。
それを使えば惑星すらも容易く破壊することができるため、もし量産化に成功すれば我の帝国が名実共に宇宙の覇権を握るのは間違いなかった。
しかし原住民から隠すために、厳重な封印が施されているらしい。
資格ある者しか解除できないという話なので、自分が艦隊を率いて向かって直接手中に収める必要があった。
他にも候補者はいるが、誰も彼もが曲者揃いで油断はできない。
最悪なのが超高性能爆弾を、オーガ族か惑星連合に売り払われることだ。
ただ鬼の奴らは少し前に辺境宙域の未開惑星を侵略して、あろうことか敗北して全滅したらしい。
何が起きたかは距離が遠すぎて、詳細情報が入ってこない。
だがどうせ油断し、移動要塞に原住民の侵入を許したのだろう。
三流指揮官の良くやる失態だし、奴らは機械生命体と比べれば下等生物だ。
それでも国土や戦闘能力だけは殆ど差がないため、我々も油断は禁物だろう。
なお、次に惑星連合だが、奴らは弱小国家の寄り合い所帯だ。
いつも口だけで、滅多に星間戦争にはならない。
しかし一度戦端が開かれれば、広大な領土や物量を遺憾なく発揮する。
弱いくせに各国が連携して攻めてくるので、結果的には粘り強く長期戦になり、互いに痛み分けで停戦協定を結ぶことが良くあった。
今回の地球と呼ばれる惑星に手を出すのも、奴らは良い顔をしていない。
いつも通りに侵略行為に対する抗議をしてきたが、それは連合の目的を果たせないからだ。
奴らの星々には明確な上下関係がある。
どの国家も自分たちより下の相手を欲しがっており、もし見つけたら一方的に搾取するのだ。
特に未開の惑星ともなれば文明レベルが低く、好き放題に支配できる。
結局のところは戦争ではなく経済的に侵略しているだけで、やっていることは我が帝国やオーガ族と何も変わらない。
戦争は防げても飢餓や貧困が起きれば、惑星の原住民は苦しい生活を送らざるを得ないのだ。
しかしそのおかげで、我々のような上流階級は良い暮らしができる。
今も本当に笑いが止まらないし、弱者からの搾取は特に何も思わない。
そして我を悪の帝王と呼ぶのは一方的に虐げられた人々だが、このように呼称されているのは自分だけではなかった。
かつてのオーガ族は別の宙域を根城にしていたが、災厄の魔王に滅ぼされかけて慌てて逃げてきたと聞いている。
そこは女王を頂点とする一大国家で、帝国と惑星連合、さらにオーガ族が支配する宙域を合わせても、まるで比較にならない程の広大な版図を保有しているらしい。
もし事実なら、まさに宇宙の覇者と言っても過言ではない。
けれど情報はかなり古いし、信憑性に欠けるのでおとぎ話だろう。
大いなる秘宝が惑星破壊爆弾なのは事実だが、そんな規格外の存在が現実にいるはずがなかった。
オーガ族は悪の帝王よりも恐ろしいと口を揃えて言うが、奴らは何度も世代交代をしたからか今となっては半信半疑のようだ。
何しろ、たった一人で無数の星々だけでなく全ての企業を管理運営するというのである。
他国家との戦争は何度も起きているが一度も負けたことがなく、他の惑星国家よりも圧倒的に優れた技術力を持つ。
それはまさに無尽蔵のエネルギー資源と言っても過言ではないため、そんな国家が現実に存在するはずがないのだった。
災厄の魔王は類人猿で、容姿は緑の髪を伸ばして三角耳の幼い女と聞く。
この時点で何とも嘘臭く、普通はもっと我のように禍々しい姿で見る者を恐怖させるはずだ。
それに宇宙は広いので、このような特徴を持った人物は大勢該当する。
誰が災厄の魔王かを見分けるのは、不可能なのだった。
巨大戦艦の玉座に腰かけて、我はそのようなことを考えていた。
すると部下の一人が目の前で敬礼し、ある報告を入れる。
「地球に降下した部隊から、報告が入りました!」
「地球。確か、オーガ族の侵略を退けた惑星だったな」
我ら機械生命体は、下等なオーガ族とは違って決して油断はしない。
なので本隊が到着する前に、ステルス性能の高い精鋭部隊を派遣した。
地球人類の情報を集めつつ、可能であれば大いなる秘宝を手に入れようと考えたのだ。
前に届いた映像では、都市部には破壊の跡が殆ど見られなかった。
移動要塞を投入したのに、奴らは殆ど何もできずに負けたということだ。
戦闘能力がどれだけ高くても、知能の低さはどうしようもないようだと、報告を聞いた我々は奴らを嘲笑う。
そのような事情はともかくとして、我は報告の続きを待つ。
「調査隊は大いなる秘宝を入手し、これより帰還するとのことです!」
「ほう! 手に入れたか!」
自分がわざわざ地球に来た目的は、大いなる秘宝を手に入れるためだ。
それが果たされた以上、もはや辺境宙域の未開惑星に用はない。
だがここで疑問に思い、顎髭を弄りながら尋ねる。
「しかし、大いなる秘宝は封印されているのではなかったのか?」
「封印はレジスタンスが解除したらしく、おかげで場所を感知できたとのことです!」
報告を受けた我は、次の瞬間に怒りの表情に変わる。
「やはり! あの裏切り者は、地球に来ていたか!」
奴は機械生命体が、他の惑星を侵略するのを良しとしなかった。
そして帝国から離反し、同じ志を持つ者が集う。
またレジスタンスを組織して、我に反旗を翻したのだ。
離反しようと一族なのには違いなく、封印を解除できたのも納得だった。
しかし奴がこの星にいるなら、大いなる秘宝を手に入れてこのまま帰るわけにはいかない。
「地球へと向かうぞ! 人類もろとも反乱軍を滅ぼしてくれるわ!」
「御意!」
奴のことだ。地球に各地のレジスタンスを呼び寄せたのだろう。
ならば、かえって手間が省けるというものだ。
艦隊を率いてきて正解だった。
相手にとって不足はないどころか、圧倒的な戦力差で一方的に蹂躙できる。
「レジスタンスも地球人も! 敵ではないわ!」
これなら反乱軍が集結し、原住民が手を貸しても赤子の手をひねるように容易く殺せる。
地球を奴らの墓標にして。人類諸共滅ぼしてやるのだ。
勝利を確信した我は、玉座に腰かけながら大笑いするのだった。




