我が国では駆除対象ですね
どれぐらい戦っていたのか、やがて巨人は片足をつく。
それを好機と見たので、皆は一気に畳み掛ける。
何とか振り払おうとするが、動きが鈍った巨人はもはや格好の的だ。
余裕があるようで、パワードスーツを着用した隊長がレジスタンスのリーダーに呼びかける。
「よう大将! こっちはもうすぐ終わりそうだぜ! 援護は必要かい!」
するとリーダーは大剣を高く掲げて、門番の攻撃の隙を突く。
そして勢い良く突進し、斜めに振り抜いた。
「問題ない! 今! 終わったところだ!」
リーダーと戦っている巨人の動きが止まり、続けて上半身と下半身が火花を散らして真っ二つになる。
「ヒュウッ! やるねぇ!」
「騎士だからな!」
一対多数のほうも勝敗は決した。
二体の門番はあちこちから火花を散らし、完全に活動停止していた。
私は念のために周囲を感知して、異常なしと判断する。
「皆さん、良くやってくれました」
労いの言葉をかけつつ、シールドフェザーに書き換えた物を元に戻す。
そして扉の前にある端末に向かい、解析してハッキングを行う。
「扉を開けるまで、少し待っていてください」
その際に形状変化記憶デバイスを刺して、古代遺跡の情報も抜き取っておく。
だがそこであることを知り、私は少しだけ驚いて呟きを漏らす。
「やはりそうでしたか」
「艦長、何かわかったのですか?」
パワードスーツを着用した隊長が近づいてきた。
なので私は端末を操作しながら、質問の答えを話していく。
「この遺跡は、元は巨大な宇宙船だったようです」
周囲も、土と金属が入り混じっている。
端末から得た情報では、宇宙船を遺跡に改修したのは間違いなかった。
「しかし、何のために遺跡に?」
「現時点では不明です」
エネルギーフィールドを解除して扉を開けるまで、元の機能の殆どが死んでいることもあり、まだ少し時間がかかりそうだ。
私は情報を得るためにマルチタスクで適当に探していると、破損の少ない重要そうなファイルを見つける。
念のためにウイルスチェックなどを行うが問題ないことがわかり、3D投影ドローンに繋いで再生させた。
「大いなる秘宝を求めし者よ。どうか我の声を聞いて欲しい」
すると大広間に、機械生命体の長老らしき人物が投影される。
たまに映像が乱れるが、保存状態はあまり良くないので仕方ない。
「私は辺境の宙域で、大いなる秘宝を見つけて回収した。
しかし母星に帰る途中でエンジントラブルが起き、未開の惑星に墜落してしまった」
自動翻訳機を通しているので、私や地球人だけでなく機械生命体も問題なく聞き取れている。
そして、さらに長老は言葉を続ける。
「願わくば、王の資格を持つ者に託したい」
王の資格が何かは知らないが、海底の偽装に近づいたら自動的に解除された。
なのできっと、レジスタンスのリーダーがそうなのだろう。
「我はもはや母星には戻れぬが、どうか大いなる秘宝を──」
これ以降のファイルは、破損が酷く再生できない。
そこで途切れてしまい、他の情報も殆ど壊れている。
私が静かに息を吐くと、やがてエネルギーフィールドの解除に成功した。
大扉がゆっくりと開いていき、私を含めた全員が奥に視線を向ける。
そうして緊張しながら無言で部屋に入っていく。
最初は暗かったが3D投影ドローンがライトで明るく照らすと、すぐに全貌が明らかになる。
「これが大いなる秘宝か!」
最奥部の中央には、半径五メートルほどの赤く発光する球体が鎮座していた。
「赤く光る玉にしか見えんな」
レジスタンスは大興奮しているが、地球人は揃って困惑している。
一方で私は、過去に全く同じ物を見たことがあった。
「艦長、どうしたんですか?」
私が思わず頭を抱えて微妙な表情になっているのを、パワードスーツの隊長が目敏く気づいたようだ。
率直に尋ねてきたので、少しだけこめかみを押さえながら理由を話していく。
「実は私は、前にコレと全く同じ物を見たことがありますし、良く知っています」
取りあえず私は、機械生命体のリーダーに質問してみる。
「貴方はコレが何か、知っていますか?」
すると彼はこちらを見て、次に赤く発光している大いなる秘宝に視線を向ける。
「悪の帝王が長年探し求めている大いなる秘宝だとしか、知らないな」
つまり地球人と同じで殆ど何も知らないわけだが、どうやらこの場で私が一番良く知っているようだ。
それに関しては別に隠すつもりはないので、簡潔に説明することにした。
「大いなる秘宝を簡単に言い表すと、卵です」
「たっ、卵!? 悪の帝王が探している物が、卵だと言うのか!?」
そんな馬鹿なと言わんばかりの顔をしている。
しかしデータベースで照合したが、自分が知っているアレとほぼ百パーセントで合致していた。
なので今は、納得しなくても良い。
話だけでも聞くようにと伝えてから、続きを説明していく。
「もちろん、ただの卵ではありません」
半径五メートルもあって、赤く光っているのだ。
この時点で普通の卵ではないのは明らかで、この場の全員が本能的に理解している。
それに今まで私は間違った発言はしていないため、誰も口を挟むことなく耳を傾けていた。
「もしこの卵が孵化したら、ある生物が出現します」
そう言って3D投影ドローンにアクセスして、卵から孵化した生物をデータベースから呼び出した。
「うちの国民は溶岩虫と呼んでいて、端的に言えば熱エネルギーを食べる巨大な虫ですね」
孵化後の姿は、巨大な赤いオケラだ。
虫が駄目な人はその時点で気絶しそうだが、私は慣れているので平気だった。
周りの者たちは何人かが青い顔をしているけれど、スケールが違いすぎるので無理もない。
「溶岩虫は、惑星の熱エネルギーが大好物です。
もしここで孵った場合、地球の奥深くに潜って数百もの卵を産みます」
ちゃんと3D映像で説明するが、聞いている人たちは絶望の表情である。
トーキョーテレビも撮影しているけれど、これを放送できるかは微妙なところであった。
「雌雄同体で、一匹でも繁殖には問題ありません」
そう言って私が目の前の卵を見つめると、周りの者たちは揃って嫌そうな顔をした。
「幸い、卵は低温では孵化しません。
しかし溶岩虫がもし一匹でも地球に寄生したら、酷いことになるでしょう」
「どっ、どうなるんですか?」
先程は数百もの卵を産むことを説明したが、質問されたので続きを話していく。
3D投影ドローンの映像を切り替えると、地球にとってあまりよろしくない光景が皆の目に入る。
「地球の熱エネルギーは、残らず溶岩虫に食べられます。
そう遠くないうちに、死の星になるでしょう」
惑星も永遠には生きられないが、溶岩虫に寄生されると目に見えて寿命が削られていく。
奴らは熱に強く、過酷な環境でも生存が可能だ。
おまけに繁殖力も高いので、ノゾミ女王国では特定外来生物に登録されており、見つけたら即駆除チームが派遣される程である。
けれど私はここで、あることを思い出した。
そして赤く発光する卵を見ながら、何気ない呟きを漏らす。
「そう言えば地球より熱エネルギーが豊富な太陽がありましたね。
場合によっては、先にそちらに向かうかも知れません」
「さっ、最悪だ!?」
どうやら太陽が消えてなくなる未来を想像したようだ。
引きつった表情に変わった者が何人か出てしまい、思わず天を仰いだり頭を抱える隊員も現れた。
するとパワードスーツの隊長が、すがるように声をかけてくる。
「でっ、でも! 艦長なら、何とかできますよね!」
「ええまあ確かに、我が国では特定外来生物に登録されていて、駆除が義務づけられていますからね。
私も何度か殺処分をした経験はありますよ」
通常なら宇宙軍が出動して駆除するのだが、偶然その場に居合わせたことも何度かある。
この場の者は今の発言を聞いて、一転してやったぞという顔になった。
それはこの場の全地球人だけでなく、機械生命体までもが速やかに処分してくれという顔になっている。
(けど溶岩虫は、悪の帝国の交渉材料なんだよね)
悪の帝王は、コレを喉から手が出るほど欲しいらしい。
もし破壊したら外交的に面倒なことになって、苛ついたから地球を滅ぼすわとか言い出しかねない。
例えるなら他人が飼っている昆虫を、危険だからという理由で赤の他人が勝手に殺すようなものである。
それに溶岩虫を殺処分して、全て解決というわけでもない。
今も悪の帝国の宇宙艦隊が近づいてるのもあって、どう動くのが正解なのやらと考えていた。
すると、ふと妙な反応を感知する。
「あれ? ……おかしいですね」
はてと首を傾げると、隊長が疑問に思って尋ねてくる。
「どうかされたのですか?」
「いえ、上手く説明できないのですが」
頭上から何者かが急接近中だが、私がこれ程近づくまで気づかないのは珍しい。
(ステルス性能が高い個体なのかな?)
ただし宇宙は広いし長く生きているので、珍しいだけで過去に一度もなかったわけではない。
それはそれとして、彼らは真っ直ぐ掘り進んで来ているようだ。
微かに周囲が震え始め、私以外の人たちも異常に気づいて周囲を警戒する。
「全員、頭上に注意してください!」
「艦長! それはどういう──」
パワードスーツを着用した隊長が質問するが、あいにく答えている時間はない。
轟音と共に天井が崩れて、大量の瓦礫や土埃が舞う。
その中で私は、落ち着いてシールドフェザーをドーム状に展開し、この場の全員を守るのだった。




