決戦前に少しでも強化しておきましょう
前回のオーガ族ではないが、新たに機械生命体の船団が地球にやって来る可能性が高くなった。
なので彼らの特性を各国政府に伝えて、国民に公表するか隠すかは指導者の判断に任せることにする。
現時点では地球側から交信を試みても反応なしだが、第三者の自分はそこまでは面倒を見きれない。
なので私は独自行動をするために、島風のメンバーを再集結する。
流石にこのままだと地球がヤベーとわかっているからか、各国政府は渋々ではあるが黙認してくれた。
おかげでレジスタンスを名乗る機械生命体の仲間探しが捗り、残りの四人はすぐに見つかる。
しかし相当派手にやられたようで、毎度のように間一髪で助ける形で全身傷だらけの彼らを救助した。
何にせよ無事で良かったと割り切り、日本に戻って駐屯地の設備を借りる。
島風で分析して無人機を操作し修理しながら、詳しい話を聞かせてもらう。
ちなみに今回もトーキョーテレビの取材を受けているので、事件が片付いたら編集して全国放送するらしい。
島風は駆逐艦で地球のものよりは大きいが、受け入れ人数にそれ程余裕があるわけではなく。
なのでうちも取材したいと言っても面倒だし、当分は一局だけだ。
護衛艦隊が到着したら軍部に丸投げできるが、ここには旅行に来たのに仕事を増やすのはよろしくない。
そのような事情はともかく、レジスタンスの機械生命体から話を詳しく聞いてわかったが、彼らの言葉に嘘はなかった。
まず地球人を驚かせたのを一番に謝罪されたが、何もしていないのに問答無用で襲撃したのは人類のほうだ。
結果、彼らはやむを得ず応戦し、大怪我こそさせてしまったが殺してはいないと主張しているので、調べると本当に一人も犠牲者はでていなかった。
それに悪の帝国の艦隊に関しても、移動要塞と同じように艦載機をステルスモードで飛ばして調査をしているが、現時点では地球を征服して大いなる秘宝を手に入れる気満々だ。
なのでまだ交渉の余地が残されているとはいえ、人類にとってはあまりよろしくない。
そしてレジスタンスはどちらかと言えば地球人の味方で、協力して損はないという結論に至った。
ゆえに俗物的な私は、金色の液体が入ったバケツを無人機に運ばせる。
それを修理が終わったばかりのリーダーの前に置いた。
さらに汚れても良いようにエプロンを着用して、手にハケを持つ。
「何をするつもりだ?」
「オリハルコン皮膜を施して、少しでも防御力を上げます」
彼らは敵ではなく味方なので、目の前で死なれては寝覚めが悪い。
あとは少しでも戦力を強化しておくに越したことはなく、今のままでは地球の機械と同じ耐久力だ。
おかげで地球の兵器でも当たればダメージを受けてしまうし、悪の帝国と戦ったらあっさり破壊されてしまうかも知れない。
この際なので少しでも勝率をあげようとしたのだが、何故か彼らは大いに驚いていた。
「オリハルコンだと!?」
どうやらオリハルコンを知っているようで、ないわけではないが珍しいパターンだ。
「知っているのですか?」
「見るのは初めてで、伝承に残っているぐらいだがな」
つまり現物は謎のままということだ。
ならば今自分が持っているオリハルコン皮膜とは、全くの別物かも知れない。
機械生命体の伝承には興味はあるが、先にこっちの用件を済ませたかった。
なので私はリーダーに率直に尋ねる。
「嫌なら塗るのを止めますけど、どうしますか?」
応急処置用のオリハルコン皮膜なので、合金よりも耐久力は落ちる。
幸いノゾミ女王国の技術力を上回る敵国は今のところは現れていないため、現時点では皮膜剤を使用することは殆どなかった。
それでも転ばぬ先の杖や、万が一に備えて置いてある。
今回に限っては彼らに使ったほうが有用だと、そう判断したのだ。
少なくとも地球レベルの銃弾や爆発を受けても、傷一つつかなくなる。
悪の帝国の艦隊と真正面からやり合うのは厳しいが、塗っておいて損はない。
私はどのぐらい強化されるのかを簡単にリーダーに説明すると、すぐに返事をしてくれた。
「キミが言うなら間違いはないだろう。ぜひ頼みたい」
「僕たちにもお願いします!」
「おうよ! パワーアップして、帝国に一泡吹かせてやるぜ!」
駐屯地の格納庫には五台の車が停まっていて、リーダーがもっとも大きい十トントラックだ。
そして私を信じてくれるのは嬉しいし、悪い気はしない。
けれど気合を入れて踏み台に乗ったあとに、幼女体型だと塗るのが大変そうだなと思い至る。
続いてすぐに一歩下がり、ハケとバケツを近くの人に渡した。
「すみません。塗るのは他の人に任せます」
「ああ、それが良いだろうな」
表情は変わらないけれど、口調からリーダーが苦笑しているのがわかった。
そうして塗装作業中に、私は機械生命体の伝承や大いなる秘宝が隠された場所を聞かせてもらう。
木箱に腰かけながら、島風のAIと協力しながら現在の地球のマップと照合していく。
自分はフェザー兵器での戦闘能力は高いが、この体はやはり貧弱だ。
すると周りの人が気を利かせて椅子を用意してくれたので、お礼を言ってそちらに座り直す。
「しかし、昔と今では地球も大きく様変わりしています。探すのは難しいですね」
機械生命体が秘宝を隠したのは大昔らしく、地殻変動で大陸の形が変わっている。
いくら情報収集能力に長けているとはいえ、探すのは一苦労だ。
「だが、見つけねばならん!
悪の帝王の野望を阻止し、宇宙の平和を守るためには!」
リーダーが金色のペンキを塗られながら、大きな声で発言する。
そんな状態でも彼は格好良かったが、データ照合には時間が掛かりそうだ。
(こりゃ埒が明かないね。……仕方ないか)
私は久しぶりに意識を沈めて、仮想空間に移動した。
そこでは時間が完全に停止しているので、心ゆくまで作業に没頭できる。
どれぐらいそうしていたのか、やがて結論が出たので現実に戻ってきた。
そして一息つき、リーダーに顔を向けて答えを口に出す。
「見つけました」
「はっ、早いな! 難しいのではなかったのか!?」
「ええ、難しかったですよ。時間もかなり掛かりましたし」
リーダーは意外そうに声をかけてくるが、一から十まで詳しく説明する気はない。
なので私は空中にウインドウを表示して、結果だけを単刀直入に告げる。
「場所は太平洋。その海底深くに、大いなる秘宝は隠されています」
隠したのは大昔なので今も存在しているかは不明だが、子孫に渡すのが目的ならば何らかの施設を建てて、そこで保管されているはずだ。
恐らく古代遺跡のようなものが作られたのだと予測する。
時の流れで崩壊して瓦礫の山に埋もれていたら最悪だが、その辺りは実際に行ってみないと何とも言えない。
「しかし大いなる秘宝は現時点では謎に包まれており、ここは慎重に行動すべきでしょう」
悪の帝国艦隊が、わざわざそれを求めて地球に来るぐらいなのだ。
戦局を左右する重要アイテムか、もしくは高純度のエネルギーが秘められている何かの可能性が高い。
それに今の私は、地球の協力者の立場だ。
機械生命体との交渉を有利に進めるにしても、破壊せずに無傷で手に入れるべきだろう。
「やはり直接現地に行って回収するのが、もっとも安全で確実ですね」
私の提案を聞いて、この場の皆も同意を示した。
その後のことだが、場所は深海で古代遺跡の可能性が高い。
世界中の学者連中が同行を求めたが、命の保証はできないし場合によっては余裕がなさそうだ。
無駄な犠牲を増やしたくないという理由で、トーキョーテレビの取材陣のみ同行を許可して、あとは島風の乗務員のみとなる。
それからオリハルコン皮膜だが、五台全て塗るには足りなかった。
なので他の四人は重要な箇所のみに留めて、あとはミスリル皮膜に切り替える。
さらに金銀では目立つし眩しすぎるので、元のカラーに塗り直しておく。
ただし戦闘で激しく動いたり攻撃を受けると、塗装が剥げて光り輝く機械生命体に変化する。
格好良いだけで性能に変化はないが、やはり見栄えが良いのはいいことだ。
それに彼らは気合や根性で能力を底上げできるため、やる気は重要であった。
地球人も皮膜剤を欲しそうにしていたが、残念ながら予備も含めてすっからかんだ。
何より科学技術では複製どころか分析も困難なので、そういうのもあるよと知っておく程度で十分だろう。
あとはレジスタンスは悪の帝国との戦いのあと、ノゾミ女王国の同族に会うことが決まった。
そのまま我が国に仕官する可能性も高いので、もう国民も同然で少しぐらい世話を焼いても良いと思った。
ちなみに、他にもレジスタンスのメンバーが居るようだ。
今は宇宙の隅々に散らばって潜伏しているようだが、既に仲間に連絡を入れて地球を目指して集まってきているらしい。
間に合うかどうかは微妙だが、五人だけで悪の帝王に挑むのではない。
それを聞いた私は、内心でホッと息を吐く。
やがて一通りの準備が終わり、目標地点に向けて島風を発進させる。
敵よりも先に大いなる秘宝を確保するのが重要なため、なるべく手早く済ませたいのだった。
悪の帝国の艦隊が地球に到達するまで、もうあまり時間はない。
さっさと大いなる秘宝を回収して、少しでも地球の立場を良くしておくに越したことはないだろう。
私はレジスタンスから得た情報を元にして、太平洋のマリアナ海溝上空にやって来た。
そして海底に向けて島風をゆっくり降下させつつ、周辺海域の調査も同時に進めていく。
航宙駆逐艦は、深海の圧力に余裕で耐えられるので問題はない。
それに光が届かなくても、センサー類が充実しているので感知範囲はかなり広い。
機械生命体を格納庫に収容しているが、五台の乗用車を入れたので少し手狭だ。
しかし前回と同じ百名の乗務員も、私の命令を素直に聞いてくれる。
現時点では問題は起きておらず、周りの壁にぶつからないよう気をつけて探索を行う。
やがてもうすぐ一万メートルというところで、レーダー手が何かを見つける。
「艦長! 水深一万メートル付近に、高エネルギー反応です!」
艦長席に座っている私に報告してくれたので、すぐに正面モニターに詳細情報を表示する。
そのまま島風は高エネルギー反応を感知した現場に向かい、副長が大きな声を出す。
「これは!?」
正面の壁面にライトを向けて明るく照らすと、表面上は岩や土で偽装されている。
しかし内部は空洞になっており、奥には高エネルギーを発する何かがあるようだ。
「どうやら、今は閉ざされているようですね」
何らかの手段で扉が開いて奥へ入れるのかも知れないが、残念ながら今は封印状態らしい。
いざとなれば島風の対消滅バリアで強引に掘り進むこともできるけれど、崩落したら大変なのでできれば使いたくはなかった。
とにかく今は詳しく調査するために、さらに島風を近づける。
すると目の前の壁が脈打つように揺れ動いて、一部が崩れて巨大な膜のようなものが出現した。
「艦長! これは一体!?」
すぐに解析を行うと、トラクタービームの応用だとわかる。
「どうやら重力の壁を構築して、内部への水の侵入を防いでいるようです」
島風は反重力推進機関で動いているので、斥力を打ち消して普通に通れる。
なので操舵手に前進を命じ、ついでに格納庫から連鎖反応が出ていたから、一応伝えておく。
「レジスタンスのリーダーが、入り口の鍵だったようです。
しかし彼も、詳しいことはわからないようですね」
リーダーだけでなく、同行した仲間たちも困惑している。
そもそも彼が知っているのは、大いなる秘宝の隠し場所だけだ。
それ以外は全部不明なため、重力の膜の向こうがどうなっているかわからない。
念のために何があっても対処できるように、島風は警戒を厳として微速前進させて内部に突入するのだった。




