大いなる秘宝とは何でしょうか
フランクの購入したクラッシックカーは、外宇宙から地球にやって来た機械生命体だ。
他にも四人いて山中に降下するまでは一緒だったのだが、軍隊に強襲されてしまう。
いくら優れた科学技術と身体能力を持っていても、多勢に無勢だ。
何とか撃退はできたが全身が傷だらけになって、追手を撒くために各々が別方向に逃げ延びるのが精一杯だった。
そのうちの一人は地球の乗用車に擬態し、紆余曲折の末に大陸を渡って日本にやって来る。
まるでハリウッド映画のトランスフォ○マーのような話だ。
しかし、広い宇宙では割りと良くあることだった。
そして彼はまだ日本語が不自由なので、ここまでは全て私が説明した。
「……と言う訳なのです」
立ちっぱなしでは何なので、車庫にあった椅子や荷物に私たちは腰かけている。
そんな様子を見た機械生命体が、表情は変わらないが驚いたように声をかけてきた。
「キミ、は、何者だ? 地球人、では、ないのか?」
傷だらけの白いクラッシックカーは、どうやらラジオのスピーカーを使っているようだ。
私は正体を隠す必要ないし、時期にバレるため、この場ははっきりと告げる。
「私は地球人に似ていますが、彼らとは違いますよ」
そして機械生命体でもないが、上手く分類できないので大雑把に伝える。
「わかりやすく言うと、貴方たちよりも先に地球にやって来た異星人ですね」
「把握、した」
わかってくれて何よりだと、静かに頷く。
そのまま話を先に進めることにして、率直に尋ねる。
「ところで貴方たちは、何故地球に?」
話してくれるかはわからないが、聞かなければ始まらない。
彼らが降下したときの会話内容は聞き取れているが、そのあとに襲撃を受けて中断された。
「地球の存亡がかかっていることは知っていますが──」
「ちょっと待ってくれ! 艦長! それは本当か!?」
今まで聞き役に徹していたフランクが、いきなり大きな声をあげる。
「落ち着きなさい、副長。それを今から確かめるのです」
「そっ、そうですね。取り乱して申し訳ありませんでした」
友人のフランクではなく、わざわざ副長呼びしたことですぐに冷静さを取り戻した。
今は彼が話すかどうかが重要で、もし黙ったままならどうしようかなと考えつつ、ただじっと待っていると、やがてスピーカーから声が聞こえてくる。
「我々の遠い先祖、この星に、大いなる、秘宝、隠した。
悪の帝王、それ狙って、地球に、攻めて、くる」
地球に大いなる秘宝があるなんて知らなかったし、悪の帝王もついでに検索したが何も出てこない。
近いものはいくつかヒットするが、絶対に正しいという保証はない。
「大いなる秘宝に、悪の帝王ですか」
また大層な名前が出てきたものだと思いつつ、私は大きく息を吐く。
そして改めて、彼に質問した。
「では貴方たちは、悪の帝王から大いなる秘宝を探すように命じられたのですか?」
すると白いクラッシックカーが大きく揺れて、怒ったような大声が聞こえてくる。
「違う! 我々は! 悪の帝王を倒すため! 大いなる秘宝を探しに、地球に来た!」
つまりは、正義の陣営ということになる。
しかしこの私も、何度も魔王認定されてきた。
善悪は時と場合によってコロコロ変わるし、どっちが地球にとって最良なのかは現時点では不明である。
(まだ情報や判断材料が少ないし、どうしたものかな)
機械生命体の動向は掴んでいるが、完全な味方かどうかは良くわかっていない。
私は思い悩んでいると、彼はさらに言葉を続ける。
「それに、地球は遠からず、悪の帝王に、滅ぼされる!
その前に、早く! 秘宝を、見つけないと!」
彼は今、遠からずと言った。
つまり悪の帝王は地球にかなり近づいているというわけで、場合によっては放っておくと人類滅亡コースに突入しかねない。
「本当に攻めてくるんですか?」
「そう、だ! キミは、殺されないうちに、早く、逃げろ!」
彼はさっきから熱心に説得している。
嘘をついているようには思えないし、もしかしたら本当に近くまで来ているかも知れない。
(ふむ、少し探ってみようかな)
島風のシステムを使い、彼らがやって来たと思われる宙域を探知する。
そのまましばらく続けていると動きを止めた私が心配なようで、フランクが不安そうな顔で声をかけてきた。
「艦長、その……大丈夫か?」
「私は大丈夫です。
しかし、地球は危ないかも知れませんね」
そう言って私は、空中に半透明のウインドウを表示した。
そこに映っているのは、無数の金属が寄り集まってできている巨大なイソギンチャクだ。
「これは!?」
「間違いない! 悪の帝王の、母艦!」
これが今、地球を目指して凄い速度で移動して来ている。
さらにそれよりは小さい海産物っぽい艦隊を、大勢引き連れていた。
「イソギンチャクのような母艦は、移動要塞と同程度の大きさです。
それが艦隊と共に、地球に真っ直ぐ向かっています」
「でっ、できれば知りたくはなかった!」
とんでもなく巨大なイソギンチャクに悪の帝王が乗っていて、艦隊を引き連れて大いなる秘宝を探しているのが事実と仮定すれば、地球は間違いなくヤバいことになる。
やって来る宇宙人が友好的で、ラブアンドピースと叫ぶ可能性は限りなく低いからだ。
だが、希望がないわけではない。
今はとにかく良い方向に持っていくために、行動するべきだろう。
「今は悪の帝王より先に、大いなる秘宝を手に入れるべきでしょう」
悪の帝王なんてとんでもない呼称の相手が、艦隊を引き連れて重い腰を上げてやって来たのだ。
ならばきっと、大いなる秘宝はとんでもない代物なのだろう。
(彼の発言が事実でなくても、地球人類がキーアイテムを押さえておけば最悪は避けられる)
奴らのほうが先に地球にやって来たら、最悪ローラー作戦で世界各国を蹂躙されかねない。
なので先に大いなる秘宝を見つけ出しておいて、交渉材料として使うのだ。
現物を見ないと何とも言えないが、このまま何もせずに待っているよりは余程いい。
私はそんなことを考えながら、再び白いクラッシックカーに顔を向ける。
すると向こうも状況を理解しているのか、続きを話し出す。
「ごめん。大いなる秘宝の在り処、自分は知らない。リーダーが、知っている」
いつの間にか、かなり日本語を喋れるようになったようだ。
謝ったあとに素直に教えてくれた。
「では、リーダーの場所は?」
「知らない。仲間とはぐれて、音信不通。
強い電波出すと、奴らと地球人に、見つかる」
なので、仲間の場所はわからないらしい。
私は大きく息を吐いて、フランクに顔を向けて重要なことを伝える。
「機械生命体は、地球のマシンに擬態することができます」
そう言って、白いクラッシックカーに視線を向ける。
「彼らの本隊が地球に来るまで、まだ時間的余裕はあります。
今の情報を各国政府に伝えますから、協議してください」
自分はあくまでも、地球に観光に来た第三者だ。
フランクは静かに頷いたが、ふと何かを思い出したのかおもむろに質問してくる。
「擬態した機械生命体は、どうやって見破るんだ?」
「彼らからは、微量ですが特殊な電磁波が出ています」
ただし今の人類の科学力では、微量な電波を感知するのは難しい。
なので地球のマシンに擬態できたり、機械の扱いが得意なことや、知らない間にハッキングを受けているかも知れないことも教えておく。
当然ながらフランクの顔が引きつったが、機械生命体のほうは何だか嬉しそうだ。
「キミは、我々に詳しいな」
「私の国にも、機械生命体がいますからね」
ただし彼とは少し違うが、今の発言を聞くと、白いクラッシックカーが一際大きく揺れた。
「我々以外の仲間は、見たことがない!
大変興味深い! ぜひ、会わせて欲しい!」
もし悪の帝国と戦っているなら彼らは少数派のレジスタンスだろうし、仲間が少ないのも納得だ。
なので大興奮している車体を呑気に眺めながら、私はおもむろに口を開く。
「別に良いですよ。
地球からだと少し遠いので、うちの者が到着してからになりますけど」
一人旅ができるのは今だけで、やがては護衛艦隊が到着する。
もし彼が良い異星人ならミズガルズ星に連れて行っても良いが、今はその前にやるべきことがある。
「ただし大いなる秘宝を奴らよりも先に手に入れて、地球の平和を守ってからです」
本当は私のやることではないけれど、このままでは地球が酷いことになってしまう。
おまけに悪の帝国の目的は自分ではなく、またもや第三者的な立ち位置である。
まだ本当に侵略や支配しようとしているかは断言できないため、取りあえず今後予想される交渉で優位に立っておくのだ。
「本当に一難去ってまた一難ですね。
私は気楽に観光がしたいだけなのに、……どうして」
アニメや漫画では地球は毎度のように狙われているが、本当にウルトラの人に助けてもらいたいぐらいだ。
何で見た目は幼女の私が頑張らなければいけないのかと、内心で大いに嘆く。
「かっ、艦長。お気を落とさずに」
「ありがとうございます。フランク」
元気づけようと近づいてきた副長に微笑みかける。
そして私は彼の手を取り、真剣な表情に変わって声をかけた。
「もちろん副長も、手伝ってくれますよね?」
「えっ!? はい、まあ……許可が出れば」
敵の目標は私ではなく地球で、ノゾミ女王国はお呼びではない。
しかし場合によっては滅亡の危機なので、前回と同じように地球人類を前面に押し出すほうが都合が良い。
なので自分は裏方で忙しく動き回り、段取りを整えていくのだった。




