一難去ってまた一難ですね
異星人について色々教える特番は、色々あったが無事に終わった。
レギュラー番組の申し出があったが、私は地球で定職に就く気はない。
一度体験すれば十分なので、お断りさせてもらう。
そして動画サイトにアップロードした説明動画は、案の定とんでもない再生数を叩き出している。
著作権者は自分が持っているし、色んな団体からの異議申し立てを受けているが、何だかんだで消されずにそのままになっていた。
きっと報復が怖いのだろうけど、私はわざわざ処分して回る気はなかった。
しかし告知する気もないため、特に何もしない。
旅の路銀を稼いでおくに越したことはないし、しばらくはのんびり観光しながら様子を見ることにしたのだった。
それから少し経って、私はハワイのホテルに宿泊していた。
今は眺めの良い個室を借り、椅子に座って窓から海を眺める。
ノゾミ女王国の護衛艦隊はまだ到着はしないが、確実に近づいている。
それまでは地球に滞在して観光を続けるけれど、その後は今のところは考えていない。
現実に護衛が来てから決めれば良いことだし、今は景色を見ながら穏やかな時間が流れていくのを楽しむのだ。
なお、この瞬間にもネットワークを使って分身体を操作して政務や仕事を行っている。
けれど本体は室内でくつろいでいるし、窓の外には何処までも続く青い空と青い海が広がっていた。
何とも開放的な気分だ。
「綺麗な景色を見ながら飲むジュースは、美味しいですね」
透明なガラスのコップに注がれたココナッツウォーターを、美味しく飲む。
そして両手を伸ばして、大きく伸びをした。
「昨日はあちこち観光しましたし、今日はゆっくりしましょうか」
ゴーレムなので別に疲れはしないが、心は人間である。
たくさん動いたあとは、気分的に一休みしたくなるのだ。
あとは外を歩けば結構な頻度で取り囲まれて話しかけられるので、同じ場所を何日も連続で出歩くのはよろしくない。
オーガ族を撃退し、動画サイトに異星人の技術情報をアップロードしてからと言うもの、私の知名度は天井知らずに上がり続けている。
なので転送する前に各国政府に一報すると、ガードマンを手配してくれるようになった。
代わりに親睦を深めるために関係各所に顔を出す必要があるが、気楽な一人旅がしたい私としては何とも微妙な対応だ。
そこで今は誰にも伝えずに、宿泊前にホテル内に緊急の用事がない限りは誰も入れないように頼んでおいた。
もし無理だったら転送して面倒から逃げるとわかっているためか、真面目に対応してくれた。
おかげで今のところは何かに巻き込まれることもなく、平和なものだ。
そう思っていたのだが、このタイミングで島風から緊急の報告が届く。
なので私はデータベースを起動して、半透明のウインドウを目の前に映し出した。
「なるほど、……これは」
私は島風のシステムを利用して、地球に接近する物体を観測していた。
今回見つけたのは自動車サイズの隕石で、地球への落下コースだ。
「隕石は五つ。どれも数メートルほどですか」
おまけに五つの隕石はまるで意思を持っているかのように、ピッタリくっついている。
こういう時は十中八九で何かがあるので、念のために島風に詳しく調べさせた。
「異星人かも知れませんし、念には念をですね」
私もデータベースで検索したが、近いものはあるがどれも違う。
だからと言って異星人ではないと断言することはできないため、またもや地球に未確認生物がやって来る可能性が上がったと見ておく。
もしそうなら、敵か味方かだけでなく目的も不明だ。
私は未来予測で、彼らの落下地点を割り出す。
そして世界各国にそれとなく警告を発しておくのだった。
五つの隕石は中国の山中に落下した。
付近に人間や動物がいなかったことから、被害は大したことはない。
そして今回は地球が滅びる瀬戸際ではなく、私は静観するつもりである。
事前に警告は出しておいたので、あとは人類が対処すれば良い。
何でもかんでも仕事を任されては困るし、面倒事に首を突っ込んで文句を言われるのもごめんだ。
しかし、だからと言って完全に放置もできない。
そこで私はアメリカ大統領に連絡を入れて、関東にある米軍基地に向かう。
名目としては久しぶりに友人に会いたいというありふれた理由だが、目的は別にある。
とにかく正式に許可をもらった私は基地の門番に顔パスで通してもらい、護衛や監視として数名の同行者が増えたが、気にせずにかつての島風のクルーを呼び出して個室で会う。
「久しぶりですね。フランク」
「ええ、そうですね」
いつの間にか、監視の他にも偉そうな人が何人かついて来ている。
しかしこれぐらいは母星で慣れっこだが、フランクは落ち着かないようだ。
「だが何故、ノゾ……艦長がここに?」
何故わざわざ言い直したかは、あの短い間に艦長役が板についていたのかも知れない。
そんなことを考えていると、フランクはさらに言葉を続ける。
「何となくですが、厄介事になりそうな気がするのですが」
今は米軍施設の会議室を使わせてもらっている。
互いに椅子に座って向かい合って話すが、フランクはともかく私は落ち着いていた。
「察しが良くて助かります。
それで、米軍は何処まで掴んでますか?」
別に私の口から直接伝えても良い。
しかし情報が筒抜けなのを遠回しに教えると、相手の気分が悪くなるだろうし、あまり言いたくはなかった。
すると私の発言を聞いたフランクは、この基地の司令官に視線を向けると静かに頷いたので、話しても構わないという意思表示なのだと理解した。
彼は静かに息を吐いたあとに、私に説明していく。
「中国の特殊部隊が、異星人を捕縛しようと試みた。
結果は失敗で、返り討ちに遭ったことは掴んでいる。
その後の行方は不明だ」
私はフランクの説明に合わせて、半透明のウインドウを表示した。
そして証言は間違っていないことを再確認していると、彼はさらに言葉を続ける。
「艦長。教えて欲しい。あの異星人は一体何者なんだ?
前に戦ったオーガ族とは、身体の構造が違いすぎる」
彼だけではなく、この場の全員が知りたがっているようだ。
なので私は勿体つけることなく、堂々と話し始める。
「良いでしょう。教えてあげます。
今日私がここに来たのは、それを伝えるためですから」
大会議室の空気が重くなるが、別に今すぐ地球が滅亡するわけではない。
だが私がそんなことを言っても簡単には信じないだろうし、さっさと知りたがっていることを伝えることにした。
「彼らは機械生命体です」
「機械生命体?」
私は目の前の半透明のウインドウに、数メートルほどの人形ロボットを映し出す。
「その名の通り、機械の体と頭脳を有した知的生命体です」
しかし、命令に従うだけのロボットではない。
感情があって己で考えられる、意思を持つ知的生命体だ。
私や他のゴーレムに近いが、魔法で動いているわけではない。
それとまだ質問が続きそうだったので、私はコホンと咳払いして本題に入る。
「ところでフランク。貴方は最近、車を購入しましたね?」
フランクはよく知ってるなと驚いていたが、車の話を振られて嬉しそうだ。
「ああ、ずっと欲しくて探していたんだが、ようやく見つかったんだ」
返事を聞いた私は、満足そうに頷いて続きを話す。
「フランクの車を、私に見せてもらえませんか?」
「別に良いが、古いし派手さはないぞ」
「構いませんよ」
異星人から車の話に変わったことで、大会議室に集まっている人たちは困惑していた。
フランクが司令官に確認を取ると、アメリカ大統領からも許可を取っているのですんなり通る。
現在は彼の家の車庫にあるようだ。
なので勤務中ではあるがしばらくフランクを借りて、転移で直接飛ぶのだった。
転移先の彼の実家には、ちょうど奥さんや娘さんが居たようだ。
フランクは皆に帰ってきたことを伝えて、さらに私のことも紹介する。
そうしたら何故か、見た目だけなら同い年ぐらいの小さな女の子に飛びつかれた。
何でも私の大ファンだと興奮気味に語ってくれたので、女王としてワッショイされることは多く慣れていても、純粋に好かれているのが伝わってきて嬉しいやら小っ恥ずかしいやらだ。
それに彼女は良い子だったので、滅多にしないが特別に頭を撫でてあげた。
それはそれとして、車を見せてもらう約束があるので車庫に移動する。
裏から入って表のシャッターを閉めたまま、天井の電灯をつけると明るくなった。
その際に何故か母娘も一緒だが、気にしないことにする。
「これが昨日届いた俺の愛車だ」
「ふむふむ、これがそうですか」
大陸から日本に持ち込まれた中古の外車で、全体のカラーは白だ。
西暦二千年で生産が終了したクラッシックカーだが、動きはしても少し傷が多い。
フランクは近々専門の業者に修理に出す予定らしく、隣には家族が使っていると思われる最新の車が並んでいる。
しかしそっちには用はないので、私は古い車に真っ直ぐ近づいていく。
そこであることを思い出し、念のために皆にも伝えておく。
「少し驚くかも知れませんが、危険はありません。
なので全員、その場から動かないでくださいね」
「何だかわからんが、……わかった」
フランクが家族の元に移動して、守るように前に立った。
それを見届けた私は、真面目な顔で自動翻訳機を調整する。
そしてクラッシックカーに顔を向けて、コホンと咳払いをした。
「ええと、言葉は通じますか?」
すると突然、エンジンはかかっておらず触れてもいないのに、白いクラッシックカーがガタンと揺れた。
後ろで見ているフランクたち三人は、思いっきり驚いている。
しかし先に危険はないと伝えておいたので、パニックになったりはしなかった。
「ここには貴方の敵は居ないので、大丈夫ですよ」
私は問題なく言葉が通じているのを確認する。
そのまま落ち着かせるように、語りかけていく。
「本当に、敵、いない、のか?」
「ええ、私は味方……かはわかりませんが、少なくとも敵ではありません。
そして、今ここに居る地球人たちもです」
スピーカーからは日本語が聞こえてきたので、どうやらこちらに合わせてくれるようだ。
フランクたちにも話が通じるのはありがたく、説明の手間が省ける。
「ただし、ここは天井が低いので、しばらくその形態でいてください」
「……わかった」
私と彼との会話で、この場の三人は多少は状況を把握したようだ。
まだわけがわからずに困惑はしているけれど、もう少しすれば機械生命体のことは地球全土に知れ渡ることになる。
なので取りあえずは簡単に状況を説明して、落ち着いてもらうことに決めたのだった。




