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なぜなにノゾミちゃんが番組名ですか

 今回はトーキョーテレビ局の影山支社ではなく、本社の近くに転移する。

 入り口で待っていた安坂アナと瀬口プロデューサーに案内されて、局内に作った特設会場に向かう。


 特に問題もなくスタジオに入ると、大勢のスタッフが集まって凄い熱気を発していた。

 事前にあらゆるメディアで大々的に宣伝しており、かなりのお金が動いている。


 なので気合の入れようも半端ではなく、宇宙人としてテレビ番組に出演するのはかなり珍しい。


 そして私の容姿や行動は地球ではとても目立ち、視聴率を稼げて宣伝効果も抜群だ。


 自分は地位や名誉には興味はないし、お金にも不自由はしていない。

 けれど地球の友人に頼まれ、ついでに面白そうなのでテレビ出演するのである。

 気まぐれというのが、何とも私らしい理由だった。




 それはそれとして安坂アナに案内されて、ステージの椅子に座って出番を待つ。

 するとトーキョーテレビが呼び集めたのか自ら出演を希望したかは不明だが、各界の著名人が立て続けに挨拶にやって来る。


「本日はよろしくお願いします。ミスノゾミ」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 互いに微笑みながら握手をする様子は、まるで有名アイドルのサイン会だ。


 ただし、サインは絶対にしない。

 ノゾミ女王国で一度これをやってしまい、酷い目に遭ったのだ。

 流石に地球では家宝にする人は続出しないだろうが、人の欲望には限りがない。

 転売や偽物を出されたら面倒なので、止めたほうが無難だろう。


 そのままいつもの女王スマイルで適当にやり過ごしていると、私の付き人役を務めている安坂アナが来て、そろそろ本番開始だと教えてくれたのだった。




 出演者やスタッフが配置について、いよいよ番組が始まる。

 司会者も有名人で手慣れているらしく、滞りなく進めていく。


 本来は編集してから流すのだが、宇宙人などというにわかには信じられない存在がゲストだ。


 なので視聴者に、これはノンフィクションだと思わせたかったと。

 ゆえに何が飛び出すかわからないが、危険を承知で生放送に踏み切る。


 ちなみにタイトルロゴは、なぜなにノゾミちゃん! ……であった。

 最初はもっと硬派な番組名の予定だったが、私の見た目は完全に幼女だ。

 他の出演者は全員大人なこともあり、なおさら容姿が際立つし浮いてしまう。


 なので番組全体のイメージや、少しでも我が国と友好的な関係を築きたいとあれこれ考えた結果、堅苦しくはなく柔和なタイトルになったのだ。




 そんな事情はともかくとして、椅子に座った番組司会者が軽快に喋っていた。


「本日はスタジオに、あの有名人! ノゾミちゃんを、ゲストとしてお呼びしております!」


 各々のスタッフだけでなく、大勢の観客からも盛大な拍手が巻き起こる。

 何でも見物席に座るにはかなりの高倍率で希望者が殺到し、裏では高額が動いたらしいが私には関係ないので放置だ。


 とにかく普段通りに、微笑みながらお辞儀をする。

 すると司会者が続けて、他のゲストを順番に紹介していく。


 その辺りは慣れているようで、やがて形式的な流れが滞りなく終わる。


 そして番組の趣旨である質問を私にするのだが、まずは既に地球で広く知られているような簡単な問であった。


 それらをいくつか答えたあとに、いよいよ本題に入る。


「ミズガルズ国とは、どのような国なのでしょうか?」


 いつもは我が国と適当に誤魔化して、ミズガルズ星から来たと口にしている。

 だからなのか、地球ではそっちが国名と勘違いされているようだ。


 都合が良いのであえて修正せずに、司会者の質問に答えていく。


「私の国は、地球から遠く離れています。

 光の速さで──」


 片道は最速の航宙駆逐艦で連続ワープしても、一ヶ月もかかった。

 光の速さでは何十、何百年経っても辿り着けない。


 私は空中に半透明のウインドウを表示し、故郷の映像を地球人に見せる。


「惑星の環境は、地球と殆ど変わりません」


 海や山や自然が豊かで、空気や水も澄んでいる。

 SFっぽい未来的な街並みもあるが、惑星の何処かしこも人々でごった返しているわけではない。


 地方に行けば昔ながらの田園風景も広がっていて、景色は長閑だが文明レベルが高いので不便ではなくとても快適である。


「我が国ではエネルギー問題はほぼ解決し。資源不足や環境汚染などは過去に一度も起きていません」


 私は各都市や地方の映像から、マジックアイテムの基礎構造に切り替える。

 魔石の大きさや純度で出力限界が決まるなど色々あるが、その辺りは地球人には公表していないので黙っておく。


 とにかく重要なのは無から有を生み出せるだけでなく、時間によるチャージが必要でもほぼ無限に近いエネルギーを得られることだ。


「そして魔石の生成や加工は我が国でしか行なえず、他国では科学が発展していますね」


 今では魔物を狩って魔石を取り出す必要はなく、人工的に作り出したほうが質の良い物ができる。


 だが最重要な上書き処理は、文明がどれだけ発展しても私以外は不可能だった。

 つまりノゾミ女王国以外では生産できないのだが、後半は秘密である。


 するとそこで、自分以外のゲストが苦笑気味に発言した。


「いやはや、羨ましいですな。

 地球にも少しで良いので、わけて欲しいですね」


 彼の言葉は、地球側の総意と言っても過言ではないだろう。

 隣の芝生は青く見えるというが、エネルギーや資源や環境などの問題に頭を抱えているので、うちの技術が喉から手が出るほど欲しいのはわかる。


 しかし私は、首を横に振った。


「残念ですが、地球に提供はできません」

「それは何故でしょうか?」


 司会者が率直に尋ねてきたので、私はウインドウの画面を切り替えて簡単に状況を説明する。


「我が国のマジックアイテムは、最先端技術の結晶です」


 そう言って私は下げている空間圧縮鞄に手を入れて、美しい装飾の施された手袋を取り出す。

 それを両手につけたあとに、静かに意識を集中させる。


 すると何もない空中に水の玉が現れて、どんどん大きさを増していく。


「「「おおっ!?」」」


 周囲で今の光景を見ている人たちから驚きの声があがり、今度は水の玉を維持したままで火球を作り出した。

 またもやどよめきが広がったところで、私は続きを説明する。


「私は魔法使いではありませんが、マジックアイテムさえあれば誰でも魔法を扱うことができます」

「それは素晴らしいですね!」


 司会者が興奮気味に答えたところで、火と水の玉を静かに消す。


「しかし先程も言いましたが、マジックアイテムは我が国の最先端技術の結晶です。

 それを安易に他国に与えれば、機密情報を知られたり悪用される危険もあります」


 制御権は私が持っているのでいざとなれば破壊するのは容易だが、わざわざ与えたのにそんなことはしたくない。

 自分のやったことが徒労に終わるのも嫌だし、無償の施しを行うつもりはなかった。

 それに絶対に解析や分解はしないでくれと言っても、いつか必ず誰かがやるに決まっている。


 しかし我が国が千年かけて発展させてきた魔法技術で、どれだけ粘り強く交渉しても首を縦に振らないとわかってくれたようだ。

 地球人はこれ以上欲しがったりはせずに、ゲストの一人が顎髭を弄りながら別のことを質問してくる。


「では、あのオーガ族たちの技術はどうでしょうか?」

「……と、言いますと?」


 私がはてと首を傾げると、彼はさらに言葉を続ける。


「ミスノゾミなら、彼らの技術を詳しく解析できるのではと思いまして、ぜひ意見をお聞かせ願いたい」


 確かに異星人の技術を解析できている。

 答えるのも問題はないので、私は情報を整理してデータベースの映像を切り替えながら説明を行う。


「先程も言ったように我が国は魔法文明ですが、オーガ族は科学文明を築いてきました。

 つまり、地球人類と同じですね」


 今のところはノゾミ女王国以外で魔法文明を見たことがないが、広い宇宙なので探せば何処かに居るかも知れない。


 とにかく私から見たオーガ族の技術について聞きたいのだろうから、嘘偽りなく答えていく。


「現時点では資源の加工や入手が、難しい物が多いですね。

 しかし技術さえ確立すれば、地球人類でも問題なく扱うことができるでしょう」


 現時点ではノゾミ女王国のほうが文明レベルは上だが、地球人類よりはオーガ族のほうが優れていた。

 なので学ぶべき点は多く、彼らの技術を吸収すれば大きく発展するのは間違いない。


 しかしここで私は、ふと疑問に思った。


(でも、科学的に光速を越えたり、空間を捻じ曲げるのは可能なのかな?)


 高度に発達した科学は、魔法と区別がつかないと言う。

 だが我が国では気軽に超常現象を起こせて、複雑な処理を行うには多くの魔力が必要になるが、必要な対価さえ払えれば奇跡のバーゲンセールも可能である。


 千年が経った今も、魔素を何やかんやしてということぐらいしかわかっていない謎技術ではあるが、何だかわからんがとにかく良しだ。


 そして私は地球人類に向けて、はっきりと伝える。


「現時点では我が国はオーガ族よりも発展していますが、外宇宙にはまだまだ未知の知的生命体が存在している可能性が高いです」


 宇宙は広く、ワープ航法を使えば他の知的生命体と出会う可能性がある。

 過去に何度も衝突しては併合してきたので、うちの技術力が子供騙しだと鼻で笑う異星人も何処かに居るかも知れない。


 そんなヤバい状況にならないためにも、現状で満足せずに常に進歩を続けていきたい。


「そして我が国はあらゆる技術や種族を吸収して、版図を拡大してきました。

 なので魔法文明が主だとしても、科学も日夜進歩していますよ」


 ノゾミ女王国の一般市民の殆どは科学技術は扱えないが、両方使える人も一定数いるのだ。


 ここで私はウインドウを切り替えて、移動要塞内の端末をハッキングして反重力推進機関を動かしている映像を流す。

 するとスタジオ中にどよめきが広がった。


「私が移動要塞をハッキングできたのも、魔法だけでなく科学技術も発展しているからです」


 それに出会う知的生命体は科学文明ばかりなので、そっち方面に詳しくなって損はない。

 相手の機密情報をぶっこ抜くには攻性防壁を破らなければいけないし、やはりそういった技術は必要不可欠なのだ。


 私の思惑はともかくとして、ゲストの一人がおもむろに発言する。


「異星人の技術については、既に各国で研究が始まっていると聞いています。

 しかしそれ以降の情報が上がってこないので、我々としては気になるところですね」


 彼の発言に対して、私は静かに頷く。


「地球と比べれば、遥かに進んだ技術です。

 そう簡単に解明されたら、オーガ族も立つ瀬がないでしょうね」


 今度は周りの人たちから、笑い声が響く。

 すると、そこでゲストの一人がおもむろに発言した。


「そう言えば取り扱いに失敗して、火災が起きたり爆発で吹っ飛んだりと色々大変なようだな」

「あれってガス爆発じゃないの?」

「いや、実際には違うらしいぞ」


 どうやらネットの噂になっているようだ。

 爆発事故の話に切り替わったので、彼らが言っていると思われる記事をウインドウに映し出す。


 そこで早速ゲストが反応して、嬉しそうに私に質問してくる。


「そうそう、これだよ。……でっ、ノゾミちゃんはどう思う?」

「黙秘します」


 島風のシステムを使えば地球の情報などすぐに集まるし、PCの防壁も簡単に突破できる。

 なので、ネットに繋がってさえいれば丸裸も同然だった。


 しかし私に喧嘩を売るなら別だが、各国が必死に隠そうとしているものを暴く趣味はない。


(秘密を探るにしても、こっそりとだしね)


 少なくとも公共の電波で流すものじゃないし、対処はなかなか難しい。

 だが、この場の人たちは何となく察したようだ。


 それ以上は何も言わずに、司会者が明るく笑いながら話題を変える。


「ですが、高度な技術とはいえ危険物が多そうですね」

「膨大なエネルギーを秘めているので、仕方ありません」


 魔石も破壊すれば、蓄えられたエネルギーを放出して大爆発する。

 オーガ族の科学技術も似たようなもので、取り扱いに失敗すれば大変危険だ。


 すると、司会者はもう少し突っ込んできた。


「何か地球人類に助言をいただけませんか?」


 私は少しだけ思考加速に入り、別に地球人類に無駄な犠牲を出すこともないかと結論を出す。

 

「ではオーガ族の技術の基礎情報を、動画にしてアップロードしておきましょう」


 安全に気をつけて研究開発を行えば事故や怪我人も減るので、基本的な情報を動画にまとめて編集してアップロードしておく。

 島風のAIにも協力してもらえば、あっという間に終わることだ。


「私のチャンネルにアップロードしましたので、興味のある方はどうぞ」


 それに動画サイトの広告収入も入る。

 本当に基本的な情報しか載せていないが、現時点では地球人類にあまり高度技術を与えたり干渉をする気はない。


 なのでその後も放送が終わるまで私への質問が続き、特別番組は大好評のうちに幕を閉じるのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] なぜなにノゾミちゃん・・・ シリーズ化を前提にしてるような番組名だ
[一言] 無難な形ですか。
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