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国民は激重感情を向けてくるから困ります

<ノゾミ女王国宇宙軍、総司令官>

 我が国は千年が経った今も変わらず、鎖国政策を行っている。

 だが、外宇宙の探索をしていないわけではない。


 文明が発達した国家を見つけると「今度お隣に越してきたノゾミ女王国です。仲良くしてくださいね」と、女王陛下はそんな感じで挨拶するのだ。


 それに対する反応は大きく分けて二通りある。

 表面上だけでも仲良く接するか、本心を隠さずに喧嘩腰かだ。


 しかしどちらも最終的には、ノゾミ女王国に併合へいごうされる。

 避けようのない未来と言っても過言ではないが、大きな理由は多くの貧しい者は豊かな者を憎んだり嫉妬するからだ。

 けれどそうでない人々もいるので、極小数の国家はいきなり星間戦争になったりはしない。


 だがノゾミ女王国が完全管理社会だと知ると、何処の国家も大いに反発する。

 うちは千年以上も今の状態なので慣れているが、他は違った。

 他国家の常識では、我が国はディストピアと呼ばれる反理想郷になるのだ。


 最上位者や特権階級に奉仕する民衆と構図や、日夜監視されて奴隷のような扱いを受けている下級市民に見えると。


 確かにうちは女王陛下に、日夜監視されている完全管理社会なのは間違っていない。

 しかしあの御方は名実ともに神様で、下々の民とは格が違う。

 そして我が国の民は彼女以外は皆平民で、身分の上下はなかった。


 何にせよ監視体制を維持しているおかげで事故や犯罪を未然に防ぎ、怪我や病気になったらすぐに救助が駆けつける。

 女王陛下に助けられた国民は星の数ほど居るため、誰もが感謝していた。


 それぐらいありがたくて尊い存在で、ディストピア扱いされてもだからどうしただ。


 しかし、そのことが周辺諸国や異種族は気に入らなかった。

 富や技術を独占するなと抗議したり、我が国の神を奪うために星間戦争を仕掛けてくる。


 誰もが私利私欲のために女王陛下を手に入れようと画策し、我が国に計略を試みたり侵略したりは数知れずだ。


 だがあいにく国力や技術格差は天と地ほどに離れている。

 戦いどころか喧嘩にもならない一方的な展開なため、結果はわかりきっていた。


 それに女王陛下は見切りをつけるのが早く、うちは他国と交流しなくても自給自足でやっていける。

 元から鎖国政策を取っているので、あまり騒ぐようなら速やかに国交断絶を行う。


 すると今度は泣きながら頭を下げ、必死に引き止めてくるのだ。

 何とか交渉のテーブルに付いてくれるように訴えてくるが、女王陛下は他国の事情は二の次で、常に我が道を行く御方である。

 妥協はせずに、併合か国交断絶の二択の姿勢を崩さない。


 そしてうちの鎖国政策は、かれこれ千年以上も続いている。

 別に交流しなくても全く問題はなくやっていけるため、来る者は拒まずだが去る者は追わずだ。


 ちなみに大抵は追い詰められた他国に様々な派閥が生まれ、治安が急激に悪化する。

 各地で内乱が起きて、このままだと大勢の犠牲者が出るため、仕方なくノゾミ女王国が武力介入して併合を行うのが定番の流れなのだ。


 別に秘密裏に工作員を送って混乱を広げたわけではなく、完全にノータッチである。

 なので毎度のごとく、どうしてこうなったと女王陛下はいつも頭を抱えて、渋々ながらノゾミ女王国の版図を拡大していくのだった。







 何度も併合を繰り返して成長したノゾミ女王国は、多数の銀河を統治下に置く巨大国家だ。

 そして昔と変わらずに、全ての星々を女王陛下が御一人で管理運営している。


 なお最近になって国民の事務処理能力が上がったおかげで、政務も任せるようになった。

 けれど大人数で行っても多忙極まりないため、今までも今もこれだけの仕事量を御一人で片付けている女王陛下には、本当に頭が下がる思いだ。


 そして我々はまだ未熟なため、やはりあの御方のようには未来を正確に予測するのは難しく、お手を煩わせることも多い。


 そうでなくては、我が国は千年以上も平和な時代が続かなかった。

 おかげで今も国内では種族の垣根を越えて繁栄を謳歌しているし、女王陛下の偉大さを身に沁みて実感させられるのだった。




 そのような事情があり、あの御方が王都の軍港を見学しに来たときは狂喜乱舞した。

 それに最新の航宙艦を見せて欲しいと頼まれて嬉しかったし、目の前に部下たちが居なければ、きっと本当に大声で叫びながら踊り狂っていたことだろう。


 何故なら女王陛下は第二の母と言っても過言ではなく、近くに親が居なくても常に見守ってくださっていたのだ。

 怪我や病気、事故や犯罪を防いでいるのは彼女の御力だし、天から我々を明るく照らす神のような存在でもあった。


 なので女王陛下が突然旅に出るのは予想外で、我が国が始まってから一番大きな事件と言える。

 けれどノゾミ女王国でもっとも偉い御方の判断に、下々の民が逆らえるはずがない。


 それに無断で借りることになったが、おかげで一人で気楽な旅行ができるのでありがとうと、心からのお礼を言ってくれた。


 その言葉を聞けただけでも、自分としては感涙にむせぶ思いなのだった。


 しかし、いくら白でも黒といえば黒に染められる女王陛下が望まれたとしても、お一人で行かせるわけにはいかない。

 万が一でも彼女を失った場合、民の心の支えがなくなるだけでなく、我が国の管理運営が成り立たなくなる。


 千年も経った今では神格化されて崇められており、掠り傷だろうと怪我をするのをノゾミ女王国民は耐えられなかった。


 女王陛下もそのことをわかっているので、絶対に追って来るなとは言わない。

 護衛艦隊の出撃を許可してくれたが、第十四世代航宙駆逐艦には追いつけない。


 十三世代の航宙艦では遅すぎるし、女王陛下が消費した魔力を補えば長距離ワープを連続で行えるのだ。

 なので合流するのは当分先になるが、そこはもう仕方ないと諦めるしかないのだった。




 そして自分は今、重要な話し合いの真っ最中だ。

 巨大な球体状の大会議室には、広大なノゾミ女王国の各地から軍部の関係者が集まっている。


 その数は万を越えるが、彼らの殆どは現実にはこの場に来ていない。

 立体映像として参加しているので、本物ではないのだ。


 ちなみに会議の内容だが、言うまでもなく女王陛下のことである。

 今もっとも対策を講じるべき問題であり、全国民が一番注目している話題でもあった。


 現に数万人もの軍部の関係者は、白熱した議論を繰り広げている。

 会議室の全員に伝わる仕組みなので聞き逃しはないが、とても賑やかであった。


「おのれ! 異星人め!」

「まさか我が国の女王陛下を、害さんとするとは!」


 女王陛下は地球を守るために、異星人の侵略を阻止しようと戦いを挑んだ。

 そこでやはりノゾミ女王国民であるため、自国の神様に肩入れしてしまうのだ。


 実際に皆の憤りは凄まじく、一向に落ち着く気配がない。


「女王陛下が怪我をしたらどうするんだ!」


 女王陛下の武装ならば、たとえ最後の自爆に巻き込まれても問題なく生存できる。

 島風の転送装置があるし、宇宙を漂流することになっても追いついた護衛艦隊が回収すれば済むのだ。


 しかし、世の中に絶対はない。

 何かの不具合が起きて正常に動かずに、うっかり怪我をしてしまう場合もある。

 それでも死ぬとは微塵も思わないのは、女王陛下を心から信頼しているからだ。


「あの侵略者どもめ! もう勘弁ならん!」

「さよう! 国外追放を受けた上で、女王陛下に逆らったのだ!

 子孫と言えど、もはや滅ぼすのもやむなしよ!」


 女王陛下が抜き取ったデータには、オーガ族の母星の位置がしっかりと記されていた。

 彼らは外宇宙でやりたい放題しているようで、いくつもの惑星を滅ぼしたり支配下に置いていた。


 彼女が言うには、撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけらしい。

 つまり逆に奴らが我々に滅ぼされたとしても、当然の報いというわけだ。


 ただしノゾミ女王国がインベーダー共に侵略されたら、全力で抵抗させてもらう。

 我々軍人は命が尽きるまで、国民を守るために徹底抗戦の覚悟がある。


 しかし今はそんなことより、女王陛下のことだ。


「ですがあのシチュエーションは、とても魅力的でした!」


 一人の若い軍人が大声で叫んだことで、話の流れが百八十度変わった。

 他の者たちも口々に叫びだす。


「確かに! 絶体絶命の危機を見事に覆したのだ!」

「女王陛下の機転は言うまでもないが! 地球人たちもやるものだな!」


 女王陛下は今後起こりうる未来を予測できる。

 文明が発達した今、一部の者は精度は低いが同じ能力を得たが、やはりまだまだ未熟だ。


 それでも便利なことには違いなく、敵の攻撃ならば正確に予測できる。

 実際に女王陛下からもお褒めの言葉をいただいているし、政務や管理運営に役立てていた。


 そして世代を重ねるごとに、情報収集能力や処理速度が少しずつ上がっている。

 今回の件で異星人との戦闘にも十分に活用できることが明らかになり、貴重なデータが手に入った。


「我々では未来予測を活用する前に、殲滅してしまいますからな!」

「うむ、今回は良い実戦データが取れた!」


 本来なら移動要塞に、航宙駆逐艦一隻で挑むことなどあり得ない。

 たとえそうなったとしても、敵射程外から主砲を一発撃てば終わっただろう。


 しかし女王陛下は地球人類を気遣い、わざわざ苦難の道を選んだ。

 負けないとわかってはいても、見ているこっちはうっかり怪我をするのではないかと始終ハラハラしていた。


 すると軍人の一人が、活発に笑いながら大きな声をあげる。


「あの程度では島風は沈まんが、航宙駆逐艦の装甲は薄い!

 船足の速さを生かし、回避に徹したのは良い判断だ!」

「その通り! 操舵手の腕が良いのも高評価だ!」


 素質やある程度の経験があったとはいえ、詰め込み教育で島風を見事に操縦して見せたのだ。

 実戦であれだけ動ければ大したものだった。


 その後も、地球人の乗務員を褒めるような発言が相次いで出て、少し経って話題が変わる。


「我々も幾度となく戦争を経験していますが、劣勢になったことは一度もありませんからな!」

「ぐぬぬ! 強すぎて戦闘データが集まらないのは、困りますぞ!」


 ノゾミ女王国は古来から、各々の能力や仕事ぶりが正しく評価されてきた。

 功績を重ねて出世はするが、才能と実力が両立していなければ上に行くのは難しい。


 コネなどという手段は不要なため、この場に集まった数万人はノゾミ女王国の戦闘のプロなのだ。

 地球人類よりも遥かに上に立つ先輩として、なかなかやりおると満足気に頷く。




 同じ話題がしばらく続いたあとに一息ついて、次の議題に移る。


「太陽系へのワープゲート建設の件だが──」


 コホンと咳払いしてから、そのように切り出す。

 すぐに詳しい情報が、大会議室の中央にホログラムで映し出された。


「人員も資金も、どれだけつぎ込んでも構わない! とにかく急いでくれ!」

「わかりました!」


 本来は地球に向けてのワープゲートは、当分先になるはずだった。

 しかし今回の件で、あの未開惑星は侵略異星人に狙われているとわかる。


 護衛艦隊が到着して女王様は保護できるが、惑星まで守りきれる保証はなかった。

 オーガ族は文明レベルは大したことはないが、数だけは多いのだ。

 航宙艦は無傷でも、地球への被害をゼロにすることは難しい。


 それに侵略者は、未開惑星に手を出しただけではない。

 あろうことか、女王陛下を殺そうとしたのだ。


 我々は我慢の限界どころか、堪忍袋があっさりブチ切れた。

 できることなら今すぐあの御方の救出に向かい、ついでにオーガ族を一匹残らず根絶したいところだ。


「それで護衛艦隊は、まだ追いつけないのか?」

「急がせてはおりますが、外宇宙の辺境惑星ですので」


 女王陛下のことなので大丈夫だろうが、世の中に絶対はない。

 ほんの少しの掠り傷だとしても、許容できるわけがなかった。


 こんな気持ちになるなら、自分が護衛艦隊の指揮を取れば良かったと焦燥感に駆られてしまう。

 すると隣の部下が、すぐに声をかけてくる。


「総司令官、落ち着いてください。

 今我々にできるのは、待つだけです」


 どうやら顔に出てしまい部下に諭されたので、思わず言葉に詰まった。


「今すぐ女王陛下の元に馳せ参じたいのは、皆同じです」


 確かにこの場に集った者たちは、女王陛下や愛する家族や友人のためなら喜んで命を捨てられる者ばかりだ。


 少しだけ冷静さを取り戻し、大きく息を吐く。


「できればミズガルズ星に帰って来て欲しいが、あれほど楽しそうにしておられてはな」


 大会議室に集まっている軍部の者たちが、今の発言を聞いて口を閉ざす。


 地球を観光している女王陛下は、とても楽しそうに毎日を過ごされていた。

 自分は何度かお見かけしたことがあるが、旅行中のほうが明らかにイキイキとしているのだ。


 女王らしく振る舞ってはいるものの、見た目相応の子供らしさも滲み出ている。

 つまり童心に帰って、心の底から一人旅を楽しんでいるのだ。


 そんな姿を見せられては、外宇宙は危険なのでミズガルズ星に帰ってきて欲しいとは、とてもではないが口に出せなかった。


「女王陛下は千年以上も祖国のために尽くしてきたのだ」


 本当に年中無休で働き続け、長期休暇を取ったのは今回が初めてだ。

 ちなみに分身体はこれまでと変わらずに政務を続けていて、休んでいるのは本体だけなのはこの際置いておく。

 本人が満足しているので、それで良いのだ。


 だがここで、他の軍人が口を開く。


「しかし、やはり放ってはおけん!」

「その通りだ! 休暇の邪魔をする気はないが!」


 理想としては護衛艦隊で遠くから見守りつつ、一人旅を楽しんでもらうことだ。


「護衛や世話係を同行させたいものだな」

「何にせよ、全ては艦隊が到着してからか」


 女王陛下と我々の距離は遠く離れている。

 だが毎日少しずつ近くなっているので、いつかは到着するはずだ。


 ワープゲートの建設工事が急ピッチで進められており、既に地球に向けて多くの人員や資材の運搬が始まっていた。


 これからあの御方を中心にして、事態が目まぐるしく動いていくのは間違いない。


「しかし、できることなら自分も島風の乗務員となり!

 女王陛下と共に絶体絶命の危機を乗り越えたかった!」


 ここで一人の軍人が悔しそうに叫ぶと、他の者もあとに続く。


「確かにアレは痺れた! 久しぶりに血が滾って、現役に戻った気分だ!」

「それは儂も感じたわい! あそこまで熱い激戦は初めて見たぞ!」


 女王陛下自らが生放送していることもあって、ピンチになると現実でも手に汗を握る。

 だがいざとなれば、宇宙艦隊と真正面からやり合える武装を使用するので安心して見ていられるが、他の軍人なら生きた心地がしない。


 そして結果は、侵略異星人は倒されて地球は守られた。

 原住民にも見せ場を作り、彼らと協力して撃退したのだ。


 実際に、未開惑星の者たちは良くやっていた。

 今後の成長が楽しみで、何なら部下に欲しいぐらいだ。


 それに魔力器官がないだけで、容姿や感性はノゾミ女王国人と殆ど変わらない。


 地球の文明が発達して各国の意思が統一されれば、鎖国状態の我が国と細々とだが交流が始まるだろう。


 たとえいずれは併合されるとしても、いつの間にか彼らも女王陛下と同じように、目が離せない存在になっていたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] オーガ族、終了のお知らせ〜(笑)
[一言] 意外に好感触な国民たち…
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