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やはり要塞の最後は自爆ですね

 フェザー兵器により、周囲の敵戦力は壊滅した。

 時間にしてほんの一瞬だが何が起きたかというと、光線や剣で攻撃したのだ。


 それらが目にも留まらぬ超高速で行われ、あまりにも早すぎたので衝撃波が発生して周囲に暴風が吹き荒れた。

 けれど味方や重要な装置は、シールドフェザーで結界を張って防いだので問題はない。


 ただし敵はまともに攻撃を受けて、一人の例外もなく無慈悲に吹き飛ばされた。

 だがやり過ぎて、移動要塞に誘爆しないようには気を遣っている。


 そのおかげでバルガスだけは虫の息だが生きており、フェザー兵器を翼のように展開する私を見て驚愕していた。


「そっ、その髪と耳! そしてガキ臭い容姿!

 光の翼を操り、他種族を一方的に蹂躙する!」


 どうやら指揮官専用のパワードスーツに助けられたようだ。

 鎧はボロボロになって火花を出しているのでまともに動かないが、喋ることは可能なようだ。


「おっ思い出したぞ! お前が! お前がぁ!

 俺たちの母星を滅ぼした! 災厄の魔ぐぎゃあ!?」


 けれど余計なことを喋ろうとしたので、もう一発撃ち込んで強制的に黙らせる。

 攻撃に転じても本気には程遠いので余力はあるし、彼を殺すのは容易だ。

 何にせよここは敵地なので、フェザー兵器の魔力は常に満タンを維持している。


 なお、あまりの急展開に地球人類たちは呆然としていた。

 そしてバルガスと同じように、私を見たまま完全に固まっている。


(しかし、また魔王認定だよ)


 つくづく魔王に縁があるものだ。

 するとパワードスーツを装着した島風の乗組員が、恐る恐る声をかけてくる。


「あの、艦長。母星を滅ぼしたとは、一体?」


 私はどう答えたものかと悩みつつ、データベースを検索して過去の記録を引っ張り出す。

 そして皆が気になっているであろうことを、順番に話していく。


「バルガスの先祖は遥か昔に我が国に侵略してきたので、返り討ちにしました」


 彼らの先祖は数多の国々に迷惑をかけていた。

 ノゾミ女王国にも侵攻してきたので、返り討ちにしたのだ。


「その際に彼らの母星や支配地域をうちに併合したので、滅ぼしたように見えても不思議ではありません」


 今も直径二十キロの移動要塞を、駆逐艦一隻に破壊されかけている。

 なので地球にとっては滅亡の危機でも、我が国ではその程度の事件ということだ。


「くっ、くそお! 地球が奴らの勢力圏だと知ってさえいれば!

 手を出さなかったものを!」


 一撃を叩き込んだのに、バルガスは意外と元気そうに喋っている。

 私は取りあえず捕虜を解放するため、大部屋内に設置されている端末の元に歩いて行く。

 背中に皆の視線が集中しているのがわかるが、これ以上はわざわざ語ることではない。


 なので平然とした態度でパネルを操作して、赤いエネルギーフィールドを解除する。


「人質を解放しました。地上に転送してください」


 島風のクルーに伝えると、囚われていた地球人類が眩い光の繭に包まれる。

 その様子を見ていたアメリカ軍の隊長が、大きな溜息を吐く。


「しかし、酷く嫌われているのだな」


 彼は苦笑気味な表情で喋りかけてきたが、私は特に何も思わずに答えを返す。


「彼らの先祖はたびたび反旗を翻したので、そのたびに我が国の宇宙軍が鎮圧しました。

 そして毎回一方的な展開でしたし、嫌われたり恐れられるのも当然でしょう」


 彼らとノゾミ女王国との戦力差は、生まれたての赤ん坊と成人男性ぐらいある。

 なので戦力を集める目的で弱そうな惑星に侵略戦争を仕掛け、原住民を奴隷にしたり資源を手当たり次第に奪い取っていく。


「我が国は、被害を受けた惑星の環境を回復させたり、奴隷として捕まっていた原住民を解放しています」


 煮ても焼いても食えない者は国外追放するしかなく、他の知的生命体が住む惑星から救援要請を受けることも多々ある。

 原因は外宇宙に放り出した犯罪者が悪さをしたからなので、結局尻拭いをするハメになってしまう。


「あとは治療や支援を行ったりと、戦後処理が本当に大変でした。

 なので戦闘民族とは、心底関わりたくありません」


 宇宙人には色んな種族が居て、ノゾミ女王国の長い歴史の中で何度も衝突した。

 けれどそのたびに勝利してきたので今の繁栄があるが、それでも戦わないで済むなら越したことはなかった。


 すると隊長が無精髭を弄りながら、率直に尋ねてくる。


「そんなに危険な宇宙人を、嬢ちゃんの国はどうして滅ぼさずに逃したんだ?」


 アメリカ軍の隊長は隠してはいるが、少し怒っているようだ。

 けれど私は全く動じずに、自分の意見を堂々と口に出す。


「我が国は宇宙の警察官ではありません。

 彼らはもう二度と逆らわないと、泣きながら謝罪したので許しました。

 ですが完全に信用はできませんので、国外追放処分にしたのです」


 ノゾミ女王国では、千年が経った今も鎖国政策が続いている。

 周辺諸国の揉め事は我関せずだが、こっちに火の粉が飛んできそうなら事態の収拾に努めるのだ。


 けれど、あまり積極的には動かない。

 何故かと言うと、無駄な仕事が増えて面倒だからだ。


 なので政務や統治の負担を減らすために、併合して完全管理社会を運営している。

 だが相変わらず自国民以外は、この体制に拒否反応があるようで受けが悪い。


 そのような事情はともかくとして、私は話を戻すために咳払いをしておもむろに口を開く。


「しかし運命とは皮肉なもので、移民船団を率いて外宇宙に逃げ出した彼らの子孫と、数百年の時を経て地球で再会しました。

 これは我が国にとって、完全に予想外のことです」


 国外追放は、次に会ったり逆らったらお前を殺すという最後通告だ。

 ロボットアニメ的な演出ではなく、ガチでそうするつもりだ。


「国外追放とは死刑の前の最後通告です。

 次に我が国の前に現れれば、もはや彼らの命はありません」


 それに当人ではなく子孫だとしても、オーガ族は地球に侵略戦争を仕掛けたのだ。

 この場で敵の命を奪うことに、何の躊躇もなかった。


 しかし彼はまだ、諦めていないようだ。

 けれど勝てないと知っても、涙を流しながらの土下座はしない。


「まっ、まだ終わってねえぞ!」


 今の台詞は強がりではない。

 懐から小型のスイッチを取り出して、勢い良く押した。

 未来予測で行動は読めていたが、アレを止めるのは難しかった。

 何らかの要因で、スイッチがオンになってしまう可能性が高かったのだ。


 それから間を置かずに、突然けたたましいアラームが鳴り始める。


「こっ、これで! お前たちは! 全員死ぬ!」


 バルガスは満身創痍でありながら、不敵な笑みを浮かべて勝ち誇っていた。

 その一方で私は、近くの端末を操作して急ぎ現状の把握に努める。


 するとすぐに、彼がやったことが判明した。

 この場の皆に大きな声で伝える。


「バルガスは自爆装置を作動させたようです!」


 やはり未来予測の通りで、続いて端末を忙しく操作してさらに詳しく解析する。


「あと十分で移動要塞は大爆発して、ワシントンと周辺地域は壊滅的な被害を受けます!」


 私は空中にウインドウを表示し、被害の状況を皆にもわかりやすく伝えていく。


「さらに舞い上がったガスや粉塵が太陽光を遮り、永遠の冬が訪れる可能性もあります!」

「何だと!?」


 アメリカ軍の隊長が動揺のあまり大きな声を出して、倒れているバルガスに物凄い剣幕で詰め寄る。


「おい! 今すぐ解除しろ!」

「もう遅えよ!」


 その発言と同時に、私はバルガスの体内に高エネルギー反応を検知する。

 地球の言葉は通じないはずなのに良く意味がわかったなとツッコむのは後回しにして、とにかく大きな声で叫ぶ。


「バルガスは自爆する気です! 全員急ぎ退避しなさい!」

「くそがっ!」


 バルガスが隠し持っていた爆弾を起動して、眩い閃光と轟音や熱風が荒れ狂って周囲が大きく揺れる。


 幸い大爆発する前に全員が離れることができたし、咄嗟にフェザー兵器のシールドで皆を守ったのが功を奏した。


 皆が怪我一つないのは幸いだが、自爆の破壊力はとんでもなかった。

 あちこちに穴が空いて隔壁が吹き飛び、周囲が焼け焦げている。


 それに、状況はかなり悪い。

 こうしている間にも、自爆のカウントダウンは刻一刻と進んでいるのだ。


 私が事態を収拾するために端末を忙しく操作していると、米軍の隊長が近づいて声をかけてくる。


「解除はできないのか!」


 彼の質問に考えるよりも先に、事実をはっきりと告げる。


「要塞の中枢に行けば解除は可能でしょうが、それをするには時間が足りません」



 端末からアクセスしても防壁に阻まれてお手上げだし、重要な区画は敵の侵入を防ぐためにバリアか隔壁で閉ざされている。

 それにエネルギーフィールドで妨害されていて転送できない上に、下手に衝撃を与えると誤作動で爆発する可能性もあった。


 なので人質を救出したように直接乗り込むしかないが、今から中央制御室に向かって自爆停止コードを解析して入力するには、到底間に合いそうにない。


 皆も止めるのは無理だとわかったようで、悔しそうな顔をしている。

 けれど私は諦めたわけではなく、冷静に端末を操作していく。


 そして防壁を掻い潜って移動要塞のシステムに割り込みをかけ、ある命令を出した。


「何をしているんだ?」


 米軍の隊長が尋ねてきたので、率直に答える。


「移動要塞を地球外に飛ばして、そこで自爆させます。

 これなら、被害は最小限に抑えられるでしょう」


 これなら地球が壊滅的な被害を受けることはなく、既に移動要塞の反重力推進機関を操作して上昇を開始している。


 私の発言を聞いた皆、大喜びしていた。


「その手があったか!」

「やった! 助かるぞ!」

「それじゃ! 俺たちも急いで脱出しましょう!」


 けれど私は表情は変えずに端末の操作を忙しく続けて、はっきりと返事をする。


「ですので、貴方たちは今すぐ脱出してください」


 一斉に私に視線が集まる。

 しかし全く気にせずに、説明を続けた。


「今ハッキングを止めると、地球に逆戻りです。

 だから私のことは捨て置き、早く脱出してください」


 オーガ族は私や島風のハッキングに抵抗を続けていて、端末からの干渉では処理能力に限界がある。

 反重力推進機関を乗っ取れたが、気を抜けば逆に操作を奪われてしまう。


(いくら旧世代でも施設の規模が桁違いで、全員が必死に抵抗していますね)


 なので島風と私だけでは要塞を宇宙へ飛ばすのが精一杯で、この場を離れることはできない。

 戸惑う皆に、さらに大きな声で命令する。


「これは艦長命令です!

 今すぐ島風に乗り込み、移動要塞から脱出しなさい!」


 人質はとっくに全員救出して、地上に転送している。

 そして米軍の義勇兵や、パワードスーツ部隊を帰還させることなど造作もない。


 なので私が微笑みながら説明すると、米軍の隊長が一歩前に出る。

 そして決意を込めた顔で叫んだ。


「そんなことできるか! 私は誇り高いアメリカ軍人だ!

 子供を犠牲にして──」

「残念ですが、もう時間がありません!」


 彼が話している最中ではあるが、本当に時間がないのだ。

 私が島風の転送装置を遠隔操作で作動させると、この場の自分を除く全員が光の繭に包まれる。


「さようなら。どうか元気で」


 うちの航宙艦なら対消滅バリアを展開できる。

 たとえ脱出が間に合わずに自爆に巻き込まれても、無傷で済むだろう。


 しかし、私を転送して回収されたら困る。

 なので、事が済むまでロックをかけておいた。


「さてと、あとは時間との勝負ですね」


 端末を忙しく操作しながら、鞄から形状変化記憶デバイスを取り出す。

 そして差し込み口をスキャンして最適な形に変わったことを確認して、慎重に接続した。


 無事に起動したのでホッと息を吐きつつ、変わらずに反重力推進機関の操作を続行する。


「もっと時間があれば、全情報をコピーできたのですが。

 まあ大本の目的は果たせましたし、良しとしましょう」


 移動要塞は大気圏外に出て、地球からどんどん離れている。

 周囲に天体はないので、ここなら自爆しても被害は殆ど出ない。


 しばらく作業に没頭していたら、残り数分になった。

 なので私は形状変化記憶デバイスを抜き取り、空間圧縮鞄に入れながら攻性防壁を仕掛ける。


 これで簡単には反重力推進機関の主導権は奪えないし、突破を試みている間に逃げれば地球が被害をうけることはない。


「では、行きましょうか」


 あとは島風の転送装置を作動させるだけだ。

 私は航宙艦の座標を改めて確認すると、はてと首を傾げてしまう。


「何故、こっちに向かっているんでしょう?」


 私は脱出するように命じたはずだ。

 しかし島風は移動要塞の隔壁を対消滅バリアで破壊しながら、こっちに真っ直ぐ近づいてきていた。


 すぐに前方の壁が貫かれて大きく揺れ、航宙艦が床を擦るように移動し、少し離れた場所に停止する。


「艦長! 迎えに来ました!

 時間がありませんので、早く乗り込んでください!」


 外部スピーカーからは、副長の声が聞こえてきた。

 心の中がぐちゃぐちゃになって考えが上手くまとまらないが、入り口のハッチが開いたので急いで駆け出す。


「皆には、あとで山ほど説教があります! 覚悟しておくように!」


 今は彼らの厚意を無下にするべきではないと思った。

 それに時間がないのは本当だ。


 伸びてきた階段を数段飛びで駆け上がり、開いた扉に間一髪で駆け込む。

 すると直後にハッチが閉まって、移動要塞が大爆発して轟音と共に船体が大きく揺れる。


 焦って駆け込んだ私はバランスが取れずにすっ転んだが、転倒して壁や床に体を打ちつけることはなかった。

 その前に誰かが受け止めてくれたのだ。


「よう、無事か。嬢ちゃん」


 顔を上げると、アメリカ軍の隊長が良い笑顔を浮かべて歓迎してくれた。

 

「貴方も元気そうですね」


 私も二本の足で立ち、姿勢を正しながら返事をする。

 そして自分の周りには、大勢の地球人が集まっていた。

 さらには艦内放送で、副長の声が聞こえてくる。


「艦長! 御命令を!」


 なので私はコホンと咳払いをしてから、堂々と大きな声を出す。


「島風は、これより地球に帰還します!

 総員! 気を引き締めなさい!」

「「「了解!!!」」」


 だが家に帰るまでが遠足と言うし、島風の任務はまだ終わってはいない。

 異星人に捕まった人たちの検査や卵の摘出は、地球の技術力では満足に行えないだろう。


 けれど、当面の危機は去った。

 あとは戦後処理が終われば地球の観光を再開できるし、それまで頑張ろうと内心で気合を入れるのだった。


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[一言] 事実上追放者を利用して勢力拡大している実績がある以上一部に不満は出るのは仕方ないのでは?
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