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地球人が主役なので私はサポートです

 移動要塞の内部に突入した私たちは、すぐに周囲の索敵を行った。

 連れ去られた人質を救出し、相手の親玉を倒すためにも情報収集は大切だ。


「連れ去られた人質を発見しました!」


 すぐにレーダー手が見つけたようで、正面モニターに場所が表示される。

 どうやら連れ去られた人たちは一箇所にまとめられているらしく、私は新たな指示を出す。


「対消滅バリアを維持! 目標地周辺に向かいます!」


 レーダーでそれらしい場所を探せたのは良いが、特殊なエネルギーフィールドが展開されているようだ。

 転送装置での救出は難しく、妨害している設備を破壊するか、直接救出する以外に助ける手段はない。


 それにもし転移できる状態だとしても、余計なお客さんまで一緒に来るか、異常を感じたら人質が殺されてしまうかも知れない。

 なので、未来予測でそのような事態に備えて現地で義勇兵を募集したのだ。


 私の考えはともかく、島風は移動要塞をバリアで破壊しながら最短ルートを突っ切っていく。


「突撃ーっ!」

「おらおら! ノゾミ様のお通りだ!」

「異星人共! 退かねえと轢き殺すぞ!」


 明らかに乗務員のテンションがおかしくなっているが、今までは防戦一方だったのに一転攻勢になったからだろう。


 異星人たちをバリアで対消滅させたり、内部に格納されている飛行物体や戦車も体当たりで破壊している。

 やりたい放題だが、直径二十キロもある施設を歩いて移動したくはない。

 それに敵戦力は未だに健在なため、まだ気は抜けないのだ。


 やがて人質が捕らえられている牢獄のすぐ近くに到着したと、レーダー手から報告が入る。


「艦長! 目標地周辺に到達しました!」

「島風停止! 対消滅バリアを解除しなさい!」


 命令通りに操舵手が島風を停止させ、対消滅バリアも解除してゆっくりと降下する。

 航宙艦で現地に乗り込むプランもあるが、加減に失敗すると人質を轢き殺してしまう。


 なので安全第一で、ある程度近づいたらそこからは徒歩だ。

 私は続いて、大きな声を出す。


「転送開始!」

「了解! 転送を開始します!」


 事前に全体の段取りは伝えていた。

 しかし、いきなり要塞内部に転移したアメリカ軍人たちは大いに驚いている。


 何しろ地上とは大きく異なる金属質な施設で、あちこちが派手に壊れて火花が散っている。

 幸い今すぐ爆発したりはしないが、鉄っぽいのに何処となく生物的な構造で薄暗い。

 SFチックな航宙艦の島風とは違い、不気味なイメージが付きまとうのだ。


 私は外部スピーカーを使い、外に転移させたばかりの彼らに語りかける。


「近くに大勢の地球人が捕まっています。

 今すぐ人員を送りますので、少し待ってください」


 ナショナルモールに集まった軍人は、思った以上に多いようだ。

 それだけ異星人の侵略行為に腹が立ったのだろうが、いくら何でも千や万は過剰戦力で必要ない。


 私は百人もいれば義理立てした証明には十分だと判断し、転送を止めさせた。

 そして外部スピーカーに繋いでもらい、自分の声を届けさせる。


「今から我が国の武装を貸し与えます!

 形状や使い方は地球の銃と同じですが、威力が桁違いですので取り扱いには気をつけてください!」


 彼らの元に派遣したのは、マスタ○チーフのようなパワードスーツを装着した突入部隊だ。

 さらに手が空いている乗務員の何人かに、収納ケースを持たせている。


「貸すだけですので、あとで必ず返してもらいますよ!

 それと分析や解体は、絶対にしないでください!」


 艦内の装備がゼロになったが、予備も入れれば義勇兵の分はギリギリ足りた。

 準備が完了したと報告を受けた私は、管制室の乗務員たちに堂々と告げる。


「では、私も突入組に参加してきます!

 あとは副長に任せます!」

「「「えっ!?」」」


 人質救出作戦とは別に、私も移動要塞でやることがある。

 島風に搭乗していてもやれなくはないが、直接乗り込んだほうが効率良く動けるのだ。


 なのでこの場の皆が驚いているのを気にせず、遠隔操作で転送装置を作動させた。

 義勇兵やパワードスーツの部隊の前に突如として現れて驚かれたが、気にせずに口を開く。


「私も同行します」

「かっ、艦長もですか!?」


 百人のアメリカ軍と島風の乗務員の前に現れた私に、注目が集まる。

 そして戦闘のプロっぽい強面の中年男性が眉をしかめたので、微笑みながらはっきりと告げた。


「大丈夫です。足は引っ張りませんよ」


 そう言って私は、腰のホルスターから魔銃を引き抜いた。

 続けて目標に向けて、立て続けに三発撃ち込んだ。


「ぎゃあっ!?」

「ぐわっ!?」

「ぎひいっ!?」


 すると物陰に身を潜めて、今まさに攻撃しようとしていた三人の異星人の急所に、寸分違わず青い光線が当たる。

 威力は絶大で直撃した箇所が吹き飛んでおり、あっさりと敵の命を奪った。


「ほう、まるで機械のように精密な射撃だ」


 義勇兵の隊長らしき軍人が無精髭を弄りながら、感心している。


「確かにこれなら、足手まといにはならないか」


 だが彼は次に、私と一緒に転移したメンバーを見て呆れた表情に変わった。


「嬢ちゃんは別にいいが、そいつらも連れてくのか?」

「はい、半数は島風に残りますが、一部の方が同行を願い出ましたので」


 そう言って私が後ろを振り向くと、瀬口プロデューサーと安坂アナ、そしてトーキョーテレビのスタッフは熱心に撮影を行っていた。


「私の指示に従うように厳命してありますし、いざという時は強制的に転送させます」

「はぁ、……命の保証はできんぞ?」


 米軍の隊長は大きく溜息を吐き、これ以上は言っても無駄だと諦めたようだ。


「大丈夫です。皆さんの命は、私が守ります」


 すると子供に守られるとは思っていないのか、訝しげな視線を向けられる。

 だがまあ何にせよ、移動要塞の内部であまり長々と話している時間はないはずだ。


「無駄話はここまでにして、さっさと行きましょう」


 この場でもっとも偉いのは、艦長の私だ。

 指揮系統を統一するためにも、志願した義勇兵にもそう伝えてある。

 なので米軍の隊長もやれやれと首を横に振ったあとに、不敵に笑って大きな声で号令をかけた。


「今まで可愛がってくれた異星人の野郎に、鉛玉をプレゼントしてやるぞ!」

「「「おおー!!!」」」


 突入部隊も入れると百人以上も集まって叫んだからか、かなり賑やかである。

 とにかく私たちは速やかに動き出し、捕まっている人質の救出作戦を開始するのだった。







 敵の数が多いため、バラバラに行動すると各個撃破されるのは目に見えている。

 それに私たちが人質を救出しに来るとわかっているので、監視や警備の兵隊が大勢集まっているようだ。


 牢獄は特殊なエネルギーフィールドで囲まれているため、転移が確実に成功するとは言い辛い。

 なので直接踏み込んで異星人を排除したのち、囚われの地球人を救出するのだ。




 ちなみに総司令官のバルガスに、各々の持ち場を死守しろと厳命されているらしい。

 次々と仲間が撃たれて倒れていくのに全く退く気がなく、私は物陰に身を潜めたままフェザー兵器を展開する。


 不意の事故死を防ぐために、アメリカ軍人のカバーに入った。


「悪い、嬢ちゃん! 助かった!」


 異星人に爆弾のようなものを投げ込まれたので、シールドフェザーをドーム状に広げる。

 そして、範囲内に居る人たちを守った。

 

「馬鹿野郎! 前に出すぎだ! 死にたいのか!」


 魔銃を持った隊長が敵を次々と撃破しながら怒声を響かせており、とても賑やかだ。


「嬢ちゃん! 右の部隊のカバーを頼む!」

「全く! 世話が焼けますね!」


 隊長の指示通りに、やや劣勢になりつつある右のカバーに入る。

 物陰に隠れて射撃している異星人を、逆にフェザー兵器で撃ち殺していく。


 昔は風の魔石で浮遊していたが、今は反重力推進機関で飛行しているのだ。

 人間には不可能な高速移動を行い、敵を次々と排除していく。


 ガンで撃ち抜いたり、ソードで斬り裂いたりと色々だ。

 生きるか死ぬかの極限状態なので、私と同じで地球人も死体を見ても気にしない。


 ちなみにフェザー兵器は、私の代名詞と言っても過言ではない。

 何処に行くにも常に持ち歩いており、瞬時に展開できるようにしている。

 できれば使わないに越したことはないが、世の中そんなに甘くなかった。


「捕虜収容所まで、あと少しです!」

「そう願いたいものだな!」


 島風の情報分析能力は確かだ。

 敵の配置や人質の場所まで、しっかりわかっている。

 私は道案内をしながら異星人の戦略を看破し、事前に警告したりと大活躍だ。


「エイリアンめ! これでもくらいやがれ!」


 うちのパワードスーツを装着した隊員が、異星人に接近して真正面から顔を素手で殴りつける。

 すると力が強すぎたのか、頭部が潰れたトマトのように弾け飛んだ。


 大変スプラッターな光景なので、銃を使って戦えば良いのにと内心で思いつつ口を開く。


「あっちは気にしないことにしましょう」

「ああ、そうだな」


 擬似的な未来予測と人間離れした機動性、さらには並大抵の攻撃を弾き返す頑丈さを持つパワードスーツ部隊だ。

 絶対に壊さずにちゃんとした状態で返却してくれと念押ししたので、被弾こそしていないが異星人の返り血で酷い有様だった。


 隊長や義勇兵もレベルの違いを自覚したのか、コツコツ真面目に地球人らしく戦っていく。

 アメリカ軍人たちが羨ましそうに見ているが、あれはノゾミ女王国の最新技術だ。

 魔銃を貸し出すのも非常事態でなければ未開惑星保護条約に違反しているため、絶対に返却してもらおうと心に決めるのだった。




 やがて私たちは、地球人の捕虜が捕らえられている区画に到着する。

 そこは壁や天井が離れている広々とした空間で、中央には赤いバリアに守られた牢屋があった。


 中には百人以上の地球人が捕まっていて、異星人の兵士が大勢集まって周囲を警戒している。


 しかし、彼らは私たちが近くまで来ているのは気づいているが、何処に居るかまではわからないようだ。


 私たちは通路の曲がり角に身を潜めて、目の前の施設を注意深く観察していた。

 まずは半透明のウインドウを義勇軍の前に表示し、情報の共有に努める。


「赤いエネルギーフィールドを解除すれば、島風の転移装置で人質を地上に送ることができます」


 島風の転送装置が使えれば、人質を安全な場所に移動させるなど造作もない。

 そしてちゃんと英語字幕付きのウインドウを表示しているので、情報共有には問題はないはずだ。


 次に私は、再び牢獄に視線を向けて首を傾げる。


「ですが、何故ここにバルガスが居るのでしょうか?」


 この場に集まっている異星人たちは、やたらゴテゴテした鎧のようなものを装着しており、向こうのパワードスーツに間違いない。

 銃弾程度なら簡単に弾き返せるが、魔銃の出力を上げれば問題なく貫ける。


 けれどリーダーであるバルガスは、この中で一番ガタイがいい。

 それだけではなく、装備も他の兵士よりも良いものを使っている。


「バルガスを倒せば、状況は一気に好転するでしょう。

 しかし、手強そうですね」

「確かにな。奴だけは、そう簡単には勝てそうにないか」


 私は関節の隙間や装甲が薄い箇所、あとはアイセンサーなど狙えば効率的にダメージを与えられることを認知させる。

 そして敵のパワードスーツの性能予測も見せたあとに、襲撃のタイミングを見計らう。


 ここが正念場だと皆もわかっているようで、自分以外は言葉を発せずに口を閉ざす。


「三、二、一、……今です!」


 私たちが潜んでいる曲がり角から、敵の注意がそれた。

 その瞬間に一斉に広間に雪崩れ込んだが、トーキョーテレビのスタッフは危ないのでその場で待機だ。


「地球人の襲撃だ!」

「応戦し……ぎゃあ!」

「こっ、こいつら! スーツの弱点を! ぐわっ!」


 自動翻訳機によって、異星人の言葉はわかる。

 まさか地球人が、ここまでやるとは思わなかったようだ。


 義勇兵も精鋭のようで、慣れない魔銃だろうと的確に敵のパワードスーツの弱点を突き、行動不能に追い込んでいく。


 しかし、流石は戦闘民族だ。

 すぐに態勢を立て直して、応戦を開始した。


「やはり人質を助けに来たか! 反撃だ!」


 強化服は我が国以下とはいえ、身体能力は地球人を越えている。

 決して油断はできず、不意打ちは成功したがすぐに混戦状態になった。


「地球人共を皆殺しにしろ!」

「エイリアンに負けるな! 押し返せ!」

「「「うおおおおっ!!!」」」


 向こうは総司令官のバルガスが居て、直接指揮している。

 おかげでこの場に居る異星人たちは戦意が高かったが、アメリカ軍人も人質を目の前にして退くことなどあり得ない。


 そしてそれは島風の突入部隊も同じで、両陣営が一歩も引かずに激しい銃撃戦が繰り広げられる。


 さらに我が国のパワードスーツを装着した隊員と、オーガ族の総司令官であるバルガスがブレードで鍔迫り合いをしており、一般人とは別の異次元の戦いを繰り広げていた。


 私はサポートに徹していて、地球人側の被害はゼロだが長くなりそうだなと感じた。


(うーむ、もう十分かな)


 被害を受けたアメリカ合衆国は、敵を大勢やっつけた。

 少しは溜飲を下げたはずだし、地球人類の味方だと十分に伝わったはずだ。


 なので私は、この辺りで一気に片付けることに決めて、意識を集中させて大きな声を出す。


「フェザー展開! 攻撃開始!」


 今までは威力を抑えて専守防衛に徹していたが、ここで初めて攻撃に転ずる。


 我が国の技術が日夜進歩しているように、フェザー兵器も改良を続けてきた。

 しかも私が所持しているのは、女王専用の特注品だ。

 コスト度外視で技術の粋を集めて、島風以上の開発費用や人材をつぎ込んでいる。


 あとは国民からも、俺たちの女王陛下は最強なんだという強い要望があった。

 結果、宇宙艦隊とも真正面からやり合える強力無比の性能になったが、あまりにもピーキー過ぎて私しか扱えない欠陥品になった。


 そのような色々な事情はあるが、とんでも兵器がオーガ族を蹂躙したのだった。


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