デ○スターっぽい要塞ですね
地球に迫っている移動要塞に備えるために、島風の乗務員を百名募集した。
数は適当で深い意味はなく、大体それぐらい居れば各部署が回ると判断したからだ。
これでノゾミ女王国は、地球が侵略されたら味方することができる。
反撃して相手が死亡しても、人類の同意もあるし正当防衛を主張するのだ。大勢の証人がいるので問題はない。
まあ居なくても女王陛下のゴリ押しで何とかなるが、あとで揉めたり仕事が増えるのはよろしくない。
なので建前だけでも取り繕わせてもらったのだった。
なお島風はワンオペレーションで動かせて、乗務員は本来は不要だ。
しかし、いざという時のために手動操作にも対応しているし、メンテナンス等は無人機以外にも人の手でも行えるので、居て困ることはない。
ちなみに私も思いつきで募集しておいて何だが、よくもまあ正体不明な謎の宇宙人を信じて、わざわざ応募してくれたなと思った。
何しろ公式発表から数日後、東京にある練馬駐屯地には大勢の人々が集まっていたのだ。
ちなみに今は海軍提督の服装と伊達メガネで誤魔化しているが、今のところは誰にも気づかれていない。
母星でも眼鏡をかけるだけで、女王ではなく一般人として接してくれる便利アイテムだ。
実は正体はバレバレであろうと、そういった配慮がされるのは重要で、地球でも効果があって何よりだった。
そして島風の情報分析なら、ヤバい人や戦力外を弾くのは容易いことだ。
それだけ応募した人が多かったとも言うが、大は小を兼ねると言うので精鋭が集まって何よりである。
事前に日本政府に話を通していた私は、駐屯地の演習場に整列した乗務員百名の前に転送した。
光の繭が消えたあとに、堂々とした立ち振舞で声をかける。
「急な呼びかけに応じていただき、感謝します」
急に私が現れたことで、全国から集まった百名の志願者は驚く。
しかし既に一度は見ているため、立ち直りは早かった。
そして本来なら、ここで色々と説明するところだ。
けれど今は時間がないので、手早く済ませることにする。
「貴方たちの配属先は、もう決まっています
残った日数は侵略者との戦闘に備えて、各部署で訓練を行ってもらいます」
そして私は島風の迷彩バリアの範囲を遠隔操作で拡大した。
彼らにとっては、私の背後に急に航宙艦が現れたように見えたことだろう。
「これが貴方たちが搭乗する、対移動要塞の決戦兵器!
我が国が誇る第十四世代航宙駆逐艦! 島風です!」
ちなみに雇用した百人以外にも、護衛や政府関係者が集まっている。
彼らの驚きが一層大きくなるが、私は構わずに説明を続けた。
「申し訳ありませんが、私や島風の存在はしばらく秘匿させてもらいます。
侵入も監視もできませんので、そのつもりでいてください」
島風を中心に、駐屯地を囲むようにバリアを張らせてもらった。
通信機器はノゾミ女王国以外は使用不能になり、地球人類では侵入も脱出もできない。
事前の取り決めとして記載してあったし、忘れている人がいるかも知れないので念のための説明だ。
ちなみにトーキョーテレビ局の安坂アナや瀬口プロデューサーと、彼が率いる取材スタッフは特例としてこの場に入っている。
今回の件が片付いたあとに特番を組んで放送予定だが、あくまで敵に知られると不味いので、終わったあとなら問題はないと判断したのだ。
とにかく簡単な説明も終わったので、私は軽く手を叩いて大きな声を出す。
「では時間がありませんし、早速始めましょう!」
そう言ってデータベースを空中に表示して、さらに各々の名前と所属を読み上げていく。
ちなみに金で釣られたのか、替え玉採用を画策したり良からぬことを吹き込まれた人も一定数居た。
そういう方々は問答無用で転送して、お帰りいただく。
本来ならば能力が高くて、素行も問題ない人しか居ないはずなのだ。
予想はしていたが未開惑星は治安が悪く、ノゾミ女王国とは違うようだった。
しかし大半の者は地球を防衛するのだとやる気に満ちており、訓練を真面目に受けてくれる。
特に宇宙軍のパワードスーツを着用し、立体映像による模擬戦は大好評だった。
移動要塞に乗り込んだり、市街地の戦闘を想定しての訓練だ。
何というか隊員たちのテンションが振り切れているだけでなく、トーキョーテレビの取材スタッフも撮れ高だと大変張り切っていた。
まるで欲しくて堪らなかった玩具が、ようやく手に入った子供たちのようだ。
そういうちょっと引く光景だったが、やる気があるのは良いことだ。
時間もないし詰め込み教育が何処まで役立つかは不明ではあるけれど、彼らは地球人類の精鋭部隊なのでとにかく良しとしておくのだった。
移動要塞は地球に到達する日になり、とうとう偽装を解除して正体を現す。
事前の情報通り、デススターやイゼルローン要塞っぽいなと思った。
そして無数の破片は隕石として降り注いだが、殆どが大気圏で燃え尽きる。
さらに各国が避難勧告を出していたので、大きな被害は出なかった。
ただそれでも小規模な破壊は頻発したので、世界各国は大いに頭を抱えている。
けれど部外者の私が心配することじゃないし、地球や人類は無事なので良しだ。
そんな現状を管制室の正面モニターに映しながら、島風の艦長席に座る私はおもむろに呟きを漏らす。
「どうやら移動要塞は、ワシントンに降下するようですね」
異星人と地球人の文明レベルには、大きな開きがある。
けれど侵略戦争を仕掛ければ圧勝できる程ではないし、さらに惑星は広大で七十億以上の人間が居るのだ。
要塞一つだけで完全に征服するには、かなりの時間を要するのは間違いない。
そこでまずは各国の首都を順番に潰していき、戦力を削っていくことを選んだようだ。
「しかし、こんな状況でも地球人は呑気ですね」
移動要塞の真下には大勢の地球人が集まって、ようこそ地球へなどのプラカードを持ったり、宇宙人との交信を試みようとしていた。
最初に地球人類と接触したのが私だったからか、宇宙人ともわかり合えると思ったのかも知れない。
だが、うちの国民にも良い人も居れば悪い人も居る。
こういうのはしばらく付き合うまで、心の内で何を考えているかはわからない。
それでも事前に警告はしたし、もし怪我や死んでも自己責任だ。
救いようのない人々を見て、私は大きな溜息を吐いた。
すると近くに待機していたアメリカ軍人が、おもむろに声をかけてくる。
「ノゾミ艦長」
「何ですか? フランク副長」
私は正面モニターではなく、彼の方に顔を向ける。
ちなみに乗務員百名の制服は、ノゾミ女王国軍のものだ。
元々配属まで秒読み段階のところで借りパクしたので、予備の服や物資が大量に積まれていた。
それはそれとしてフランク副長の声に耳を傾けると、彼は困惑気味に続きを話す。
「何故私が副長なのでしょうか?」
何度目かになる質問だが、私の答えは決まっていた。
「それは貴方が、もっとも副長の適性が高いからです」
島風が集めた情報を分析した結果、彼が副長に一番適していることがわかった。
自分の前世は日本人だが、やはり能力が高い人物を配置したほうが効率が良い。
あとは轟沈する気は毛頭ないけれど、命がかかっているので各々の適正重視だ。
多少低くても募集した国で固めようという気は、これっぽっちも起きなかった。
「それとフランク副長」
「何でしょうか?」
まだ他にも理由があるが、そちらは話したことがなかった。
なので、この機会に伝えておこうと思った。
「私の友人に、かつてフランクという人物がいました」
何だか死亡フラグっぽいが、気が向いたので止める気はない。
ちなみにトーキョーテレビの取材スタッフも管制室に入っているけれど、口を出さずに邪魔をしないことが絶対条件であった。
そのような事情はともかく、私は昔を懐かしみながら続きを聞かせていく。
「彼は私と共に何度も死線を越えて、今では英雄として祀られて国民の尊敬を集めています」
だが彼は人間なので、とっくの昔に亡くなっている。
今は子孫が変わらぬ忠誠心で仕えてくれているが、その辺りは話すと長いので省略して、正面モニターの隅にフランクの像を表示した。
「これが王都の神殿に安置されているフランクの像です」
立派な鎧を着こなして風の魔法剣を構えた、勇ましい姿だ。
「何となくですが、俺に似てますね」
「ええ、似ていますよ。全く同じではないですけどね」
昔の友人であるフランクと彼は違うとわかってはいるが、ふと思い出して懐かしい気持ちになったのだ。
そんなことを考えていると、レーダー手から報告が入る。
「艦長、全乗務員が配置に付きました。いつでも出発できます」
私は王都の英雄像の画像を消して、深呼吸する。
そして移動要塞の未来を予測しつつ、今後の計画を練った。
「……頃合いですね」
自分にとっての良いタイミングとは、移動要塞を操る異星人が侵略戦争を仕掛けた直後だ。
そのことは既に、地球人側には伝えている。
最初から話を聞く気がない戦闘民族に国交は開きたくはないし、どう考えても徒労に終わるのが目に見えていた。
なので一発ぶん殴って強制的に黙らせるのが、もっとも手っ取り早くて確実なのだ。
ちなみに、私の自己中心的な物の考え方は今に始まったことではない。
できれば彼らの相手や事後処理は、この星の人類に任せたいのが本音であった。
しかし、そのことは決して態度には出さない。
やがて副長のフランクが席についたので、私は艦内放送のスイッチを入れる。
「これより駆逐艦島風は、ワシントンに急行します!」
とうとう時は来た。
そのための準備は行ってきたつもりだ。
「異星人との戦闘が予想されます!
総員! 気を引き締めてかかりなさい!」
負けるつもりはないが、ほぼ間違いなく戦闘になるだろう。
けれど万が一の地球との和平交渉も考慮してシールドを張り、敵の目から逃れておく。
「島風! 起動!」
操舵手が手動操作で、島風の反重力推進機関を起動していく。
すると船体が少しだけ揺れて、ゆっくりと浮き上がる。
地上にカメラを向けると、集まった人々が各国の国旗を振ったり私たちを応援してくれていた。
(これは乗務員に、一人でも犠牲者出しちゃ駄目なやつだ)
そんなことを考えつつ、問題のない高さまで来たところで私は大きな声を出した。
「後部ブースター点火! 加速開始!」
船体に凄まじい加速がかかるが、艦内重力は常に一定方向に1Gだ。
衝撃を受けなければ揺れることはないので、平気である。
「発進!」
通常航行でもあっという間に地球を一周できるが、地表に近いと衝撃波で周囲がヤバいことになる。
なので高さや周りに物がないことに気をつけないといけないし、全速前進は余程切羽詰まっていたり、宇宙空間ぐらいしか使うことはない。
到着まではしばらくかかるが、その間に正面モニターの移動要塞に動きがあった。
「移動要塞から、多数の航空機が出現しました!」
レーダー手の女性が大きな声で報告してくれたので、私たちは正面モニターを観察する。
「一体何を始める気なのやらですね」
直径二十キロの移動要塞から、直径十メートルほどの円盤型航空機が無数に飛び出してきている。
そして何をするかは、すぐにわかった。
「これは! 円盤が人間を連れ去っています!」
「なるほど、反重力推進機関の応用ですか」
ノゾミ女王国は転送装置があるので、重力を逆転させるトラクタービームは廃れてしまった。
しかし理論は遠い昔に確立しているため、今でも使おうと思えば普通に使える。
そして地球人類にとって、これは流石に見過ごせないようだ。
すぐにアメリカ空軍が飛んできて、宇宙人のUFOに攻撃を開始する。
「敵航空機にミサイル着弾!」
機銃やミサイルでUFOを攻撃すると、次々と撃墜して地上に落ちていく。
「ヒャッホー! やったぜ!」
「見たか! 異星人どもめ!」
地球人類は移動要塞の宇宙人を完全に敵認定しているようだが、私も異星人である。
しかし対応は百八十度違うことから、艦長は除くようだ。
そんなことを考えている間にも、次々とミサイルが直撃して、UFOは激しく燃えあがって火花を散らしながら、ワシントンの街に落ちていった。
どうやら耐久力はそれ程ないようで、地球の技術でも十分に撃墜できるようだ。
だが移動要塞は沈黙を保ったままなのが不気味だし、やられっぱなしだった敵の飛行兵器に変化が起きる。
「敵航空機が、人類の捕獲を中止しました!」
「奴ら、諦めたのか?」
「いや! これは反撃だ!」
トラクタービームを使っている間は、その場から動けないし他の兵装も使えなくなるので、円盤型の乗り物は人類を連れ去るのを一時中断する。
そして今度は、アメリカ空軍の戦闘機を執拗に追いかけ始めた。
反重力システムによる変則的な軌道と、人類の航空機に引けを取らない速度に翻弄されているのがわかる。
さらに赤色の熱線を発射し、地球側の戦闘機と交戦に入った。
双方が次々と撃墜されては、地上に落下していく。
そして正面モニターには、地上戦力として戦車や歩兵部隊が応戦している光景が映っている。
だが敵の攻撃を受けて壊滅させられており、ワシントンの建造物も倒壊していた。
あちこちで火災が発生し、人類が危機に晒されている絶望的な状況だ。
管制室の乗務員は皆、真面目な表情で私に視線を向けている。
だが地球人類の犠牲は、最初から想定の範囲内だ。
私は一切動じることなく、大きな声で発言する。
「これ程の被害が出た以上、異星人による侵略は明らかです!
ゆえに我が国は第三勢力として武力介入し、地球人類の友軍として戦いましょう!」
移動要塞の異星人がいくら御託を並べても、ここまで派手に破壊活動を行ったのだ。
強制的な拉致も含めて状況証拠も揃いすぎており、侵略目的なのは明らかだった。
もはや私が、静観に徹する理由もない。
もしもうっかり相手を全滅させても、正当防衛故に致し方なしで済むだろう。
今は地球の知的生命体の絶滅を防ぐためにも、独自に戦闘行動を開始するのだ。
「総員! 第一種戦闘配置!」
私の発言を聞いて、管制室の乗務員たちの顔つきが変わった。
それに艦内放送でも、全フロアに伝えられている。
誰もがいよいよ来るべき時が来たと自覚し、慌ただしく動き始めるのだった。