表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/34

メガネをかければ正体がバレないはず

いつも誤字報告ありがとうございます。

本当にすみません。見直しはしてるんですが、作業時間と効率の兼ね合いが。

肥沼茂則こえぬましげのり

 私こと肥沼茂則こえぬましげのりは、日本国の総理大臣である。

 しかし自分は別に、望んでなったわけではない。

 政党の旗頭になるべく、消去法で選ばれたいわゆるお飾りだ。

 他に誰か適任が見つかるまで、総理の椅子を温めておくのが役目である。

 それ以上は求められておらず、渡された台本をただ読みつつ現状を維持するのが務めと言っても過言ではなかった。




 だがここで、誰もが予想していなかったとんでもない事態が起きる。

 よりにもよって自分が総理の代でと大いに頭を抱えたが、現状は待ってはくれない。


 今も首相官邸の前で車を降りると同時に、マスコミたちに一斉に群がられている最中だ。


「総理! 巨大隕石の地球への接近について、何か一言!」

「総理! 隕石対策について、国民が納得できるご説明をお願いします!」


 鬱陶しいことこの上ないが、今は世界中で地球に急接近してくる巨大隕石の話題で持ちきりなのだ。

 日本の対策が気になるのもわかるけれど、こういう場合に答える台詞は決まっている。


「隕石対策は! 目下検討中であります!」


 答えに困ったなら、お決まりの台詞で煙に巻くに限る。

 そもそも直径二十キロの巨大隕石に有効な対策など、我々人類にできるはずがないのだ。


「どうか国民の皆様は落ち着いて!

 くれぐれもパニックにならないように、努めてください!」


 対象は宇宙を漂っているので、地球からでは打てる手段は限られてくる。


 唯一有効だと思われるのは、核弾頭による破壊だ。

 そして既にアメリカが、既に数え切れないほど攻撃を行っている。

 しかし、結果は失敗だった。


 隕石の表面の岩盤を焦がしたり、少し削る程度だ。

 とんでもなく硬い鉱石でできているのか、それとも他に理由があるかは不明である。

 しかし破壊どころか進路を変えることさえできずに、私たちは終わりの時をただ黙って待つことしかできない。




 ちなみに宇宙航空研究開発機構であるJAXAジャクサからは、近日中に地球に衝突すると報告されている。

 当然のように世界中が大混乱に陥っており、治安が悪化に歯止めがかからない。


 だが何故か先程から、隕石の速度が急激に落ちてきている。

 そのような報告が入り、緊急会議を行うことになったために首相官邸まで足を運んだのだ。




 色々な事情を抱えている私は、何とかマスコミたちから逃れて首相官邸に入った。

 そのまま大会議室まで急ぎ足で向かい、扉を開けて入室して自分の席につく。

 既に全員が揃っており、早速始めようと補佐官に質問する。


「巨大隕石の速度が落ちているのは本当か?」

「はい、JAXAからそのような報告を受けています」


 そうかと呟いて、大きく息を吐く。

 すると他の大臣たちから、口々に質問が飛ぶ。


「原因は何だ?」

「衝突は回避できそうなのか?」

「隕石の進路も変わったんじゃないか?」


 様々な憶測が飛び交い、補佐官が答えにくそうにしている。

 なので私は、一旦落ち着くようにとこの場の大臣たちに伝えた。


 そして静かになったあとに改めて彼に説明の続きを促すと、小さく頷いて話し出す。


「巨大隕石が速度を落とした原因は現在調査中ですが、進路は変わっていません。

 なので地球の重力に捕まるのは確定なため、衝突を避けるのは難しいと思われます」


 いくら遅くても、直径二十キロの岩の塊が地球に激突するのだ。

 恐竜絶滅の引き金になった隕石は十から十五キロほどという推測があるし、それより大きいので突入角度とは関係なく人類滅亡は避けられない。


 たとえ運よく生き延びても、壊滅的な被害を受けるのは間違いなかった。

 なので、速度が落ちても素直には喜べない。


「アメリカだけでなく他の国々も、距離が近づいたことで核弾頭による攻撃を開始しました」


 補佐官の説明は続き、私を含めた関係者各位は一語一句聞き逃すまいと耳を傾ける。

 隕石との距離が遠いと、何らかの理由で外れたり途中で障害物に当たる可能性があった。

 なので国家予算をムダにするのを避けるために、ある程度近づくまでアメリカ以外の国々は発射せずに準備を進めてきたのだ。


「しかし、目に見えた効果はないようです」


 表面を焦がしたりほんの少し削ったりできたのは、奇跡的に当たった最初の一発だけだった。

 それ以降は何発叩き込んでも全く効果がなく、隕石の軌道を変えることもできない。


 相変わらずの地球衝突コースで、この場の全員が難しい顔をして思い悩んでいた。

 すると突然、大会議室に第三者の声が響き渡る。


「会議中に失礼します」


 声は私の背後から聞こえたので慌てて振り向くと、そこには緑の髪と三角耳とが特徴的で、さらに軍服とメガネをかけた幼い女性が立っていた。

 どう見てもこの場には不釣り合いだし、どのように侵入したのかまるでわからない。


 この場の者たちは騒然として、自分も驚いて後ろを向いたまま固まる。

 それでも反射的に震えながら声を出した。


「だっ、誰だ!?」


 その間にSPや秘書が慌てて取り押さえようと動くが、彼女はそこにいるように見えて実在しないらしい。

 何故なら手で触れようとしても、すり抜けて捕らえられないのだ。


 私たちの行動がおかしいのか、幻想的で美しい少女は静かに微笑んでいる。

 だがここで防衛大臣が、何かに気づいたように声をあげた。


「もしかして、ノゾミちゃん?」


 すると先程までは余裕の表情だった謎の少女が、一瞬だけ固まって大きな声を出す。


「わっ、私は! ノゾミなどという者ではありません!」


 間髪入れずに全力で否定してきた。

 その反応だけで、彼女がノゾミという人物なのは間違いなさそうだ。


 しかし名前がわかっても得体の知れない存在なのは明らかで、下手に声をかければ余計な面倒を被りそうだった。


 幸い私はそこまで詳しくはないが、孫娘が彼女の大ファンだ。

 動画を何本か視聴して、最近のメイクやCG技術は凄いなと思っていた。


 先程は驚きすぎて混乱していたが、良く見れば特徴的な可愛らしい容姿や美声は一度見たら忘れられない。

 防衛大臣が指摘してくれたおかげで、すぐに思い出すことができた。


「ノゾミちゃんは知らないだろうが、不法侵入は犯罪だ!

 3D映像技術の悪用もだ! 今すぐに止めなさい!」


 確かに最近は専用の機械があれば、現実そっくりの3D映像を映し出すことができる。

 最先端技術ではあるけれど、彼女がそれを使っている可能性もあった。

 そして防衛大臣が言う通りに犯罪なのだが、ノゾミちゃんは大きく溜息を吐く。


「だから私はノゾミちゃんでは、……まあいいです」


 どうやら防衛大臣は彼女のファンのようで、ノゾミちゃんを説得して犯罪行為を止めさせようとしているようだ。

 しかし彼女にその気はないらしく、SPを鬱陶しそうに手で払うと一旦消して別の場所に3D映像を移動させた。


 そのまま何食わぬ顔で話を続けようとするので、子供にしては場馴れしていてメンタル強いなと、大会議室のほぼ全員がそう思いながら進行していく。


「現在、地球に飛来しつつある巨大隕石について、重要な情報を入手しました」


 瞬間、この場の空気が明らかに変わる。

 そして次に彼女の口から出た言葉は、私たちの予想を遥かに越えていた。


「あれは自然の隕石ではなく、人工物です」


 もしかしたら彼女も、隕石が急に減速したことを不審に思ったのかも知れない。

 その前から人工物説は出ていたが、今回のことで疑いを持つ者が増えたのは間違いなかった。


(子供にしては頭が良いが、それだけだな)


 そのような憶測なら誰でも口にすることができるし、子供でも容易とは言わないが思いつくことだ。


 わざわざ犯罪を犯してまで私たちに伝えたのがこれでは、期待外れにも程があった。


(それに子供とはいえ、無断侵入を無罪にすることはできない)


 ノゾミちゃんは日本人なので、自国の法律に従って裁かせてもらう。

 少年法で守られているとはいえ、しばらくは臭い飯を食うことになるのは確定だ。


 そんなことを考えていると、今度は大会議室の中央に隕石らしき3D映像が突如として現れた。


「これは巨大隕石の外観です」


 人物だけでなく情報も投影できるとは、最近の科学は凄く進歩しているようだ。

 取りあえず罰するのはあとにして、私を含めた各関係者は中央に表示された3D映像に注目すると、彼女は説明を続ける。


「ちなみに内部は、このようになっています」


 すると内部構造が明らかになったのだが、その瞬間にこの場の全員が硬直する。

 色んな意味で予想外過ぎて、思わず言葉を失ったのだ。


「これは! 一体!?」


 まさかの隕石の内側は要塞であった。

 現時点では嘘か真かは不明だが、私は反射的に口を開く。


(あまりにも良くできている! 大人でも一朝一夕で作れるものではない!)


 まるで現実の映像を透過してそのまま縮小したかのようで、たとえ彼女に協力者がいたとしても簡単には作れない。

 それに誰にも気づかれずに大会議室に仕掛けるなど、常識的に考えてあり得なかった。

 彼女そっくりの3Dモデルなら探せば見つかりそうだが、これは流石に不可能だ。


 皆が言葉を失っていると、ノゾミちゃんが満足そうに微笑んで続きを話す。


「私はたまたま観光に来ていた宇宙人で、他種族の接近にいち早く気づきました。

 なので、ここは地球の皆様にご報告をと思いまして」


 確かに彼女はそういう設定で、エルフの幼女を演じてはいた。

 しかし何処から何処までが事実で嘘なのかが判断できないし、やはり彼女が宇宙人というのも現時点では半信半疑だ。


 けれど足踏みしていても状況は進展しないため、私は総理大臣としてノゾミちゃんの目的を知る必要がある。


「こっ、この映像を我々に見せて、何が目的なのかね!」


 もはやあの隕石を彼女が操っていても不思議ではないと思えるほど、私たちは混乱していた。

 なので少しでも情報を得るために、率直な質問をしたのだ。


 それに対して彼女は、動じることなくはっきりと答える。


「地球人類の承認をいただくための、前段階ですね」

「ぜっ、前段階とはどういうことかね!」


 また妙なことを言い出したと思ってしまう。

 しかし、それだけではわからないので続きを尋ねた。


「もし地球人類が移動要塞の被害を受けたときに、我が国が武力介入するための前段階です」

「「「えっ?」」」


 私だけではなく大会議室に集まった者たちも困惑する。

 心の声が外に出てしまったようで、何とも言えない空気が流れた。


 すると大会議室の中央の3D映像が切り替わる。

 そこには日本語で島風と刻まれた宇宙戦艦が現れて、光線を発射して巨大隕石を破壊していた。


 これがどういうことなのかわからない私たちに、彼女は淡々と説明していく。


「もし私が悪い宇宙人から地球を守ったとしても、地球の皆さんが感謝するのは最初だけです」


 次に切り替わったのは、被害を賠償しろや亡くなった宇宙人や遺族の気持ちを考えろなどの、様々なプラカードを持った大勢の市民たちの抗議活動だった。


「職業柄、そういう事例は数え切れないほど見てきました」


 どんな職に就いているのかは不明だが、あの若さで本当に女王ということはないだろう。

 しかし、彼女の言わんとしていることはわかる。


「なので、簡単には武力介入には踏み切れません」


 確かに地球でもあちこちで起きているし、もし彼女の説明が事実でもあとで文句を言われたのでは、安易に手を貸せない気持ちも理解できた。


 ここで私はあることが気になり、率直に尋ねてみる。


「ならば、もし地球でそのような抗議活動が起きたら、どうするのですか?」


 勇気を出した質問に、彼女は迷うことなくはっきりと告げた。


「我が国に併合します」


 その言葉を聞いた途端に、大会議室の空気が凍りついた。


「これまで、途方もない数の国家や惑星を併合してきたのです。

 今さら一つ二つ増えたところで、問題はないでしょう」


 とんでもないことを言い始めた彼女だが、ここで物凄く大きな溜息を吐いた。


「ですが本音を言えば、併合などしたくはありません。

 新規が馴染むまでは大忙しですし、仕事を増やしたくはないのです」


 まるでブラック企業に揉まれた労働者のような、悲痛な叫びが聞こえた気がした。

 これで嘘なら大した役者だが、私や他の者にも今の言葉が彼女の本心だと何故か察することができた。


「ちなみに併合せずに全面撤退をするという道もありますが──」


 表情は動かさずに平静を装っているけれど、ノゾミちゃんは気が重そうだった。


「原住民が大泣きしながら、我々が悪かった。頼むから併合してくれと、必死に引き止めてきます」


 もはや先程から聞いている私たちは困惑するばかりだが、やがて彼女は首を振る。


「ですが今は関係はないので以降の説明は省きますが、私は地球に対して観光名所以外の価値は見出していません」


 併合という言葉が出たときは、彼女も地球の支配や侵略が目的かと警戒した。

 しかし今は全く隠す気のない暴露の連続で、こっちの事情には微塵も興味がないようだ。


「我が国が侵略や支配をすれば、地球の文化が壊れてしまいます。

 わざわざ面倒に首を突っ込むのも、観光名所を守りたいだけですからね。

 相手の宇宙人にも事情があるでしょうし、正当性がない武力介入はしたくありません」


 できることなら関わりたくないという本心が見え隠れするが、彼女の目的は良くわかった。

 私は他の関係者と小声で相談しながら、頭の中で考えていく。


(たとえ地球が滅びても、観光地の一つが潰れただけか)


 彼女の語った情報が何処まで事実かは不明だ。

 しかし地球にはあまり興味はなく、たまたま立ち寄った観光地の危機に渋々ではあるが、力を貸しても良いかと確認を取っているのは理解したのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] この世界の地球は技術的にかなり進んでるのかな? 地球でもホログラムが実用化されてる?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ