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第92話 ダイエットします! その三

 パパンパン。

 浅草寺(せんそうじ)に乾いた花火の音がこだました。雷門を潜り、仲見世通りを抜けた先にあるのが浅草寺だ。その境内に土俵が作られていた。周りには客席が設置され、大勢の見物客が詰め寄せていた。


『冬の訪れとともにやってまいりましたァ! 浅草が誇る一大相撲イベント「浅草場所」! いよいよ始まりまァす! 実況は私、音楽ロボのエルビス・プレス林太郎でェす。そしてェ』

『解説を務めます、おっぱいロボのギガントメガ太郎です。よろしくお願いします』


 大きな歓声が上がった。十六名の女性力士が、ゾロゾロと土俵の下に集った。皆、それぞれの衣装の上からマワシを締めている。


『さっそく出場力士が揃い踏みでェす! 浅草場所では大相撲力士達の前哨戦として、女性力士による大会が開催されまァす。十六名によるトーナメント形式で戦い、優勝者には豪華景品が進呈されまァす』


 力士達が四名ずつ土俵に登り四股を踏む。これを四回繰り返す。最初の四人が土俵に上がった。褐色のメイドロボ、ノエノエが優雅に四股を踏んだ。


『ギガントメガ太郎先生ィ。注目の力士を教えてくださァい!』

『まずはなんといっても、前大会優勝者のノエノエ選手です。ハワイ出身のメイドロボで、格闘技の修行のためマスターであるマヒナとともに、各地で大会に出場しています。引き締まったおっぱいが見所です。優勝候補といって間違いないでしょう』


 次の四名が土俵に上がり四股を踏んだ。


『ノエノエ選手の対抗馬はいるでしょうかァ?』

『前大会準優勝のマッチョメイド選手です。圧倒的なパワーを秘めた破壊の化身です。マニアにはたまらん選手ですね』


 マッチョメイドが四股を踏む度に客席がブルブルと震えた。次の四名が土俵に上がると、一際大きい歓声が起こった。


『あーっ、きましたァ! きれいどころ揃い踏みでェす!』

『マリー選手、アンテロッテ選手、アニー選手、マリエット選手の四人です。賑やかし枠として参戦ですね。アニー選手とアンテロッテ選手は、おっぱい要員の役目もあります』


 最後の四人が土俵に上がった。客席が静まり返った。ただならぬ気迫を感じているようだ。


『出ましたァ、いつもの二人でェす!』

黒乃山(くろのやま)とメル子選手ですね。メル子選手は今大会最重量(どたぷん)の選手となります』

『先生ェ! 黒乃山の仕上がりはどうでしょうかァ?』

『完璧に仕上がっています。ノエノエ選手と決着をつけるべく、浅草部屋で稽古を積んできたようです。今大会最軽量(ぜっぺき)の選手です』



 一回戦の取組表


 Aブロック

・第一試合 黒乃山×五反田信子

・第二試合 マリー×マリエット

・第三試合 御徒町安子×南千住時子

・第四試合 浜離宮菊子×マッチョメイド

 Bブロック

・第五試合 メル子×アンテロッテ

・第六試合 三ノ輪咲子×小松川丸子

・第七試合 アニー×増上寺春子

・第八試合 東駒形照子×ノエノエ


 *張り手、マワシ以外を掴む、目潰し、噛みつき、金的は反則。


 

 いよいよ取組が始まる。黒乃山は念入りに股割りをしていた。その完璧なあんこ体型は、浅草部屋での稽古の成果を如実に表していた。


「ご主人様! がんばってください!」

「ぷきゅー、任せなしゃい。決勝まで進まないと、ノエ子とは当たらないから負けられないっしゅ」



 ——第一試合 黒乃山×五反田信子


 行司ロボが両力士を呼び上げた。二人は土俵の中央で向かい合った。


『さあ、立ち合いでェす。黒乃山、落ち着いた構え』

『対する五反田信子選手は、大学相撲の横綱です。身長では黒乃山に劣るものの、体重はほぼ同じ。いい勝負が期待できそうです』


 黒乃山は白ティーにマワシを巻いている。その白ティーの胸には『必勝』の文字が表示されていた。以前買ったディスプレイシャツだ。自由に文字を表示できる。

 両者、勢いよくぶちかました。力は拮抗しているかと思われたが、そのまま黒乃山が押し切った。大きな歓声が上がった。


『電車道でェす! 土俵の外まで一直線だァ!』

『お見事です。気迫が勝負を分けましたね』


「ご主人様、すごいです!」

「ブヒュー、ポヒュー。ごっちゃんです」



 ——第二試合 マリー×マリエット


「いきますわよ、マリエット! 容赦しませんわー!」

「望むところですわ、お嬢様ー!」


 ドレスの上からマワシを巻いた瓜二つなお嬢様とメイドロボが、組み合ってもがいている。


『ギガントメガ太郎先生、これはァ!?』

『はい、完全にかわいいですね。無限に見ていられます』


 マリーはマリエットのマワシを掴み、土俵際まで追い詰めた。マリエットはタワラに足をかけて踏ん張るが、そのまま土俵の外に転がった。二人まとめて倒れた拍子に、チュッと唇が重なった。


『やりましたァ! 最近忘れがちな貴重な百合シーンでェす!』

『ごちそうさまです。正直見た目が同じなため、どちらが勝ったのかわかりません』


 軍配はマリーに上がっている。大歓声を浴びながら両者土俵を降りた。



 ——第三試合 御徒町安子×南千住時子


 合掌ひねりで御徒町安子の勝ち。



 ——第四試合 浜離宮菊子×マッチョメイド


『さぁ優勝候補の一人、マッチョメイド選手が登場でェす!』

『相手の浜離宮菊子選手は、今大会最重量の力士です』


 浜離宮菊子は最大のパワーでぶちかましたものの、マッチョメイドはびくともしなかった。マッチョメイドのゴスロリドレスが風でそよぐだけだ。マッチョメイドは菊子のマワシを掴むと、無造作に腕を振った。菊子はゴロリと転がって勝負はついた。


「おで つよい ことしこそ 優勝する」


『あっさり上手投げで決着ゥ!』

『安定した強さですね』



 ——第五試合 メル子×アンテロッテ


「きましたァ! 期待の一戦でェす!」

「この戦いのために、前日から席取りをしていた猛者どもが多かったそうです。全員ロボマッポに追い払われましたが」


「もきゅー、メル子〜、怪我しないでよ〜」

「楽勝ですよ! 見ていてください、絶対に勝ってみせます。瞬殺です!」


「アンテロッテ! メル子をコテンパンにしてやるんですのよー!」

「当然ですわお嬢様ー! コテンのパンパンですわー!」

「「オーホホホホ!」」


 両者とも土俵の中央で見合った。バチバチと火花が飛ぶ。


「とうとう決着をつける時がきましたね。覚悟をしてください」

「返り討ちにしてやりますわよー!」


 両者同時につっかけた。「まだまだまだ!」行司ロボが二人を止めた。


『立ち合い不成立でェす』

『二人とも気がはやっていますね。落ち着きましょう』


 二度目の立ち合いは成立した。両者お互いのマワシをガッチリと掴んだ。リーチで勝るアンテロッテが上手をとった。腰を入れてメル子を引き寄せる。二人のお乳がムニっとくっついた。


『お待ちかねのお色気シーンだァ!』

『メル子選手の(アイ)カップと、アンテロッテ選手のGカップのせめぎ合いですね。ありがとうございます。どちらのお乳が勝利をもぎ取るのか、目が離せません』


 体を密着させ、押し合いへし合いをしている。二人が動く度に、お乳がムニムニと形を変えた。その様子に大歓声が巻き起こった。


『G、H、I! G、H、I! G、H、I!』


『これはやばァい! 十八禁になってしまうぞォ!』

『これはもう、おっぱいが相撲をとっていると言ってもいいでしょう。乳相撲の誕生です』


 次第に体の大きいアンテロッテが優勢になっていった。機を見計らってアンテロッテが上手投げを仕掛けにいった。しかし突然、アンテロッテの力が抜けて体勢を崩した。その隙を逃さず、メル子が掬い投げで勝負を決めた。


『決まったァ!』

『いや、待ってください』


「物言い」土俵下の小松川丸子が、手を上げて軍配に異議を申し立てた。審判団はそれを受けビデオ判定に入った。


『えー、審議の結果を申し上げます。ただ今の勝負、メル子選手がアンテロッテ選手に掬い投げを決めたとの軍配でしたが、ビデオで検証をした結果、投げる直前にメル子選手のフリージングブレスがアンテロッテ選手の耳に炸裂しており、ついついあふんと感じてしまったため、力が抜けてしまったようです。よって、メル子選手の反則負けとします』


 会場から大きな歓声が上がった。


『なんとォ! 卑怯な技を使って勝ちにいったが、即バレてしまったァ!』

『これは恥ずかしいですね(笑)』


 ヨロヨロとメル子が土俵から戻ってきた。椅子にどかっと腰を下ろした。黒乃山と視線を合わせようとしない。


「ぷひゅー、あー、メル子……」

「なにも言わないでください!」


 メル子は手で顔を覆って動かなくなってしまった。



 ——第六試合 三ノ輪咲子×小松川丸子


 かわづ掛けで三ノ輪咲子の勝ち。



 ——第七試合 アニー×増上寺春子


 立ち合いアニーが変化をしてぶちかましをかわしたが、着地で足首を捻ってしまいリタイア。


「グネりましたわー!」

「アニーお嬢様ー!」



 ——第八試合 東駒形照子×ノエノエ


『いよいよ、一回戦最後の試合でェす!』

『優勝候補のノエノエ選手の出番ですね。対する東駒形照子選手は、社会人相撲で優勝経験があるベテラン。勝負の行方が楽しみです』


 ノエノエはナース服をベースにした動きやすいメイド服にマワシを巻いていた。ベリーショートの黒髪により左目が隠され、表情がわかりづらい。そのクールな態度に苛立ったのか、東駒形照子は立ち合い右手を振り張っていった。しかしその手は虚しく空を切った。


『ああァ!? ノエノエ選手が消えたァ!?』


 ノエノエは照子の背後に現れた。後ろからマワシを掴んで引き倒した。


『立ち合い、すさまじい速さで背後に回り込んだようです。速すぎて見えませんでした』


 ノエノエの完勝である。ノエノエは土俵の上から指をさした。その指の先にいるのは黒乃山である。


「もきゅっ! ぷひゅっ! 挑発してやがりゅ〜! ちくしょ〜! 決勝で待ってろにょ〜!」


 黒乃山は立ち上がってその挑発を受けた。


「メル子、見てりょよ〜。ご主人様が優勝旗を持ってきてやるかりゃな〜。ぼひゅー!」

「あ、はい……がんばってください……」


 メル子は下を向きながら応援した。


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