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第6話 うんこ回です!

 黒乃は数年ぶりの人との食事を堪能していた。人間は一人で食事をするよりも、複数で喋りながら食事をする方が、副交感神経を刺激されて消化がよくなり幸福になれるらしい。そんな話、二十一世紀のオカルトかと思っていたが、あながち間違いでもないような気がしてくる。

 いつもは死にそうな目をしながら食べていたので、常に胃もたれや食欲不振に悩まされていた。痩せすぎでは?と会社の同僚に心配されることもあったが、薄ら笑いで誤魔化していた。背が高いから痩せて見えるだけですよと。しかし今は食欲がみなぎってきている。もっと食べたいくらいだ。


「ご主人様、美味しいですね! 今日のは会心の出来です」


 メル子も喜んで食べている。

 ところでメイドとご主人様とは一緒に食事をするものなのだろうか。メイドはご主人様が食事をしている間、そばに控えて立っているというイメージが黒乃にはあった。それはごく一部のお屋敷勤めのメイドだけであろうか? 近代のメイドは主人が食べている間は、別室で同時に食事を行うパターンも多そうだ。主人が独り身なら一つの机で摂るところもあるだろう。


「メル子は他にどんな料理を作れるの?」

「メキシコ料理とかペルー料理、アルゼンチンにチリなんかもいけますよ」

「ええ……メル子って南米出身なんだっけ?」

「違います。そこの浅草工場生まれです」


 チャキチャキの江戸っ子だった。


「メイドの本場イギリスの方面はどうなのかな」

「イギ……うーん」


 なぜかメル子は視線を外してうつむいてしまった。あれ? イギリス料理は得意ではないのかもしれない。あまり突っ込まない方がいいだろう。黒乃は少し話題を変えることにした。


「ロボットでもご飯食べるんだね」

「それは食べますよ。お腹が減りますもの」

「お腹が減るって、それバッテリーが減るって意味なの?」

「バッテリーも減りますが、主に燃料の方ですね」


 古い世代のロボットの主動力は、体内のバッテリーに蓄えられた電気だった。しかし世代を経るごとに、バッテリーと燃料のハイブリッドが主流になってきているようだ。


「燃料を生成したり体内の回生ナノマシンを動かすために、有機物を口から取り込む必要があるのです」


 ロボットの体内にはバイオプラントがあり、そこで燃料を生成している。ここ数年はこのハイブリッド式を環境や安全の観点から政府が推奨しており、いずれ義務化されるものと思われている。


「大昔でいうところのバイオエタノールというものです。まあ、正確にはもはやエタノールではないのですが」

「ほえー」


 黒乃は感嘆した。よくできてるなー半分、なに言ってるかわかんねー半分。


「その燃料を燃やしてエンジンで動いてるの?」

「いえ、家庭用のメイドロボにエンジンはないです。危ないですしうるさいので」

「んん? じゃあどうやって燃料使ってるのさ」

「人間でいう血管に相当するパイプが全身を巡っていまして」

 

 そのパイプの中を燃料が流れており、必要に応じてパイプが圧縮されることで燃料が燃焼する。その時のカロリーによって人工筋肉が動くという仕組みだ。同時に電気神経回路が筋肉の中に張り巡らされているので、電気刺激でも筋肉を動かすことができるハイブリッド式である。


「いやでも、燃料が全身に回ってたら爆発して危なくない?」

「その点はご心配なく。生成される燃料は衝撃でも火でも燃えませんので、緩やかに熱を出すだけです」


 なるほど、そこが旧来のバイオエタノールとは違うところか。


「バイオプラントって凄いね。食べたもの全部燃料にできるなんて」

「あっ……」

「んん? どしたのメル子」

「いえ……全部燃料にできるわけではありませんよ」


 急にメル子が赤くなり体をクネクネさせはじめた。


「燃料に変換できなかった食べ物は圧縮されて後でまとめて排出されます……」

「ああ! わかった。つまりうんこだー!」

「ちょっと! はっきり言わないでください」

「あははは、うんこー! メイドロボもうんこするんだー」

「ぐぬぬぬ、ご主人様、小学生ではないのですから」

「てか、カレー食ってる時にうんこの話しすなー! あはは」


 黒乃は茶化しているが、メイドロボの人間ぽいところを聞けて少し嬉しかったのだ。そしてうんこネタは時代も種族をも超える。


「ふふふ、なんだか笑ってしまいますね。ふふふ」

「だろ〜? うんこ出されたら人は笑うんだよー」

「ふふふふ、ご主人様」


 メル子の目がキラリと光った。


「メイドポイントマイナス1です」

「ぐはっ」


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