第57話 ロボチューブ生配信です! その二
「あ、はい皆さん、始まりました。『ご主人様チャンネル』の黒男です」
カメラの前に白ティー丸メガネにサングラスをかけた女が現れた。床に正座をしている。
「よし、おっけー? よし。はい皆さん、始まりました。『ご主人様チャンネル』の黒男です」
「それはもう言いました! 次です」
『なにこのチャンネル?』
『誰これ』
『待ってましたwww』
『丸メガネの上にグラサンかけてますの』
「あ、今日はね、記念すべき第二回目の配信ということでね。あ、皆さん、コメント書き込んでくれてますね。あ、もっちりもちもちさん、飛んで平八郎さん、おフランスざんすさん。あ、乳首がもげてくっつかないさん、初めましてお大事に」
『なんの番組?』
『メル蔵出せwww』
『すげえ貧乳だな』
「あ、そうそう。今日も助手のメル蔵がいますからね。あ、貧乳ではないですね」
「ご主人様! 最初の企画いきましょう!」
「ニャー」
『メル蔵がメインだろwww』
『今、猫の声した?』
「はい! ではいきますよ。はい、最初の企画はこれ!」
「デデン!」
「箱の中身はなんじゃろな〜」
「パフパフパフ!」
『でた謎の効果音www』
『帰ります』
紙袋を被ったメル蔵が猫を抱えて現れ、黒男の膝の上に置いた。猫は黒男の膝の上に乗せられた途端暴れ出した。
「はい! この子は、あれですね。あの、五万年前に作られて、最近月面で発見された猫のチャーリーですね」
「ニャー」
『猫きたー!』
『可愛いwww』
『ロボット猫ですの』
『捨て猫?』
『なんか嫌がってない?』
「あ、すごい。視聴者が百人増えた。さすが猫。あ、バランスのいい山本選手、この子はですね、捨て猫というか、月で拾ってきたチャーリーです。チャーリーはですね、ダンチェッカーにフラれたばかりで傷心中なのでね、遊んであげようと思います」
『ダンチェッカーって誰だよwww』
『でかい猫だな』
『可愛いですの』
「準備ができました!」
メル蔵はカメラの前にダンボール製の箱を設置した。箱のカメラ側の側面は切り取られており、中が見える。上の面には手を入れる穴が空いている。
箱の中にはロボプリンがポツンと置かれていた。
「あ、ではですね、この箱の中に手を入れ、手を入れまして、中になにが入っているのかをですね、見ないで当てるというゲームですね。私が正解したら私が食べて、不正解ならチャーリーが食べます」
「ご主人様! 制限時間は三分ですからね。いきますよ! さん、にー、いち、スタート!」
「いくぜ! よし! うわ! 怖い! ちょっと待って、よし! 入れます! よし! 怖い! よし!」
『早くしろよ』
『この展開前も見ましたの』
『なんなのこれ』
黒男は恐る恐る箱に手を入れた。手をパタパタと動かし、中にあるものを探る。
「あれ? なにもないよ? なにも入ってない! どこ? メル蔵! なにも入ってない!」
「もっと奥です」
『へっぴり腰www』
『あるだろwww』
黒男は足をガクガクさせながら箱の中に手を伸ばす。息が荒くなり、鼻水が垂れた。
「あああ、メル蔵! ある? ほんとにある? メル蔵! あるのね!?」
「あります」
その時、黒男の指先がロボプリンの上辺に触れた。その瞬間、黒男は弾かれたように後ろに吹っ飛んだ。背後のテーブルにぶち当たり、ガチャガチャと盛大な音を立てた。
「あああああ、噛まれた! 今、噛まれたよ! なにか、ベトっとした粘液が! 生きてる! これ生きてるよ! 生き物はなしって言ったじゃん! メル蔵!」
「生きてはいませんよ」
『アホだwww』
『なんだこの貧乳』
『プリンにビビるとかwww』
『鼻水汚いですわ』
「ハァハァ、死んでるのね!? ハァハァ、もう一回。ラストチャンス。メル蔵!」
「なんですか」
「メル蔵!」
「なんですか」
「よし! いくぞ、ハァハァ。よし!」
再び箱の穴に手を差し込み、プリンを指でつついた。くるりと円周をなぞっていく。反動でプルプルとプリンが揺れた。
「ハァハァ、わかった、わかった! ロボプリン! 死んだロボプリンでしょ!!!」
「ダララララララララ、ダン! 正解です! テュッテュルー!」
「やった! 皆さん、やりました! 見事に、見事に当てることが、できました! 皆さあああああん!」
『やるじゃん』
『誰でもわかるだろwww』
『貧乳のくせに見直したぞ』
「ハァハァ、じゃあ当てたので。あ、貧乳ではないですけど、プリンをいただこうと、思います! やったぜ!」
黒男が箱の方を見ると、チャーリーがロボプリンを貪り食っていた。
「チャーリー、貴様ーーーッ!」
「ニャー」
『ざまあwww』
『いいぞ、チャーリー』
『チャーリー、ロボプリンは美味いか?』
「ご主人様、次の企画いきましょう!」
「ハァハァ、チャーリー、あとで覚えてろよ。では、皆さん。次のね、次の企画です。次の企画はこれ!」
「デデン!」
「ロボ寿司ルーレット〜!」
「パフパフパフ!」
メル蔵は木製の寿司下駄を、黒男の前に差し出した。その上には、マグロの寿司が八貫乗っていた。
『寿司美味そう』
『ロボ寿司ってなんですの』
『貧乳寿司』
「はい、これはですね。あ、緋村八宝菜さん、誰が貧乳寿司じゃい。これはですね、私とチャーリーがですね、はい、一貫ずつロボ寿司を選んで食べていきます。ロボワサビが大量に入っているロボ寿司が一つだけあるのでね、はい」
「え……」
「どした、メル蔵?」
「なんでもないです!」
「はい、ロボワサビが入った寿司を当てないようにね、全部食べた方が勝ちというね、そういうゲームですね」
「ニャー」
『お腹減ってきましたの』
『頭にロボつけたらなんでもいいと思ってるだろwww』
『チャーリー、がんばれ!』
「よし! メル蔵!」
「はい!」
「いくぞ!」
「どうぞ!」
「では私から一貫選びます。これかな? こっちにしようかな? 皆さん知ってますか? 寿司の数え方は、一貫二貫と数えるんですよ。貫というのは、江戸時代に使われていた重さの単位のことでしてね。重さで寿司を分けていたから、一貫二貫と呼ぶようになったんですね、はい。つまり、これ一個で一貫の重さがあります。知ってましたか?」
「ご主人様、一貫は3.75キログラムなので、重さが全然違いますよ」
「ああ、そう」
『うんちく失敗www』
『だっさwww』
『この人男?』
黒男はロボ寿司を一つ選んで手に取った。チャーリーも匂いを嗅いで、充分に吟味したのち一つ選んだ。
「さあ、準備完了! せーので食べますからね! ハァハァ。チャーリー! 準備はいいな? せーので食えよ? 一気にいけよ? ハァハァ、怖い! ちなみにこのロボマグロとロボワサビとロボ酢飯は、全部ロボットが食べても平気なものです! ご心配なく!」
「ニャー」
『だろうなwww』
『人間は食べても平気なんですの?』
「メル蔵! 合図ちょうだい!」
「わかりました。いきますよ〜? いっせーのせっ!……と言ったら食べてくださいね……あ、もう食べてしまいましたね」
黒男とチャーリーはロボ寿司を貪り食った。しかしすぐに二人の顔が真っ青になり、動きがピタリと止まった。そして二人は同時にロボ寿司を吹き出した。
「ぎゃあ! 顔にかかりました! ロボワサビが目に! 痛いッ!」
「ゲホッゲホッ! 辛い! 鼻に! ツーンってきた! あああ! ぐえー!」
黒男とチャーリーは転げ回って悶絶した。
「ご主人様! 水です!」
「ありがとう! ブー!」
黒男はコップに入った水をグイッとあおったが、即吹き出した。
「これ……これ、水だ! あれ? これ水だ。じゃあ吹き出さなくてよかったじゃん。メル蔵! ここはトムヤムクンでしょ!」
「水です!」
『なにこれwww』
『こいつらアホなの?』
『この貧乳をロボットにしてやりたい』
「ゲホッ! なにこれ……どうなってるの。ニコラ・テス乱太郎さん、貧乳ではないのでロボットにはなりません。ゲホッ、メル蔵!」
「はい!」
「ロボワサビ入りの寿司は一個だけだよね!?」
「全部にロボワサビを入れました!」
「それじゃ、ゲームにならないでしょ!」
『全部入りwww』
『チャーリーが死にそうwww』
『鼻水が汚いですの』
「すいません! でもひょっとしたら、一個だけロボワサビ抜きがあるかもしれません!」
「ほんとにあるのね? ゲホッ、じゃあロボワサビ抜きを、食べた方が勝ちってことに、するから!」
「はい!」
しかしその後も黒男とチャーリーはロボ寿司を食べていったが、すべての寿司にロボワサビが入っていた。
「メル蔵! 話が違う……全部、全部ロボワサビ入りだよ! ゲホッ!」
「すいません! この勝負、引き分けとします! テュッテュルー!」
黒男とチャーリーは、ロボワサビを食べすぎてカメラの前でダウン状態だ。ピクリとも動かなくなった。
紙袋を被ったメル蔵がカメラの前に現れた。
『メル蔵、可愛いよ』
『デッカ』
『デカすぎてキモい』
『¥5000。メル蔵のおっぱいに乾杯』
「不気味うどんさん、ロボチャットありがとうございます。それでは皆さま、『ご主人様チャンネル』第二回の配信を終わりたいと思います。また次回にご期待ください。ごきげんよう!」
(軽快なBGM)




