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うちのメイドロボがそんなにイチャイチャ百合生活してくれない  作者: ギガントメガ太郎


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540/552

第540話 後輩です!

 浅草寺から数本外れた静かな路地に、黒いセーラー服の女子高生が群がっていた。一人は丸メガネ黒髪おさげののっぽ少女、一人は赤みがかったショートヘアと厚い唇が色っぽい少女だ。


「シューちゃん! あの子!?」

「ミラちゃん、あの子やで」


 鏡乃(みらの)朱華(しゅか)が覗き込んでいるのは、とある古民家だ。ルベールの紅茶店『みどるずぶら』の隣、ゲームスタジオ・クロノス事務所の二軒隣だ。


「かわいい!」

「かわいかねー」


 二人はうっとりと見惚れた。その先にいるのは、小さなメイドロボだ。紺色の長半纏に赤い前掛け、白髪を白い手拭いで包んでいる。背の丈は低く、フォトンやマリーと変わりがない。古民家の中で、なにやら忙しく動き回っていた。


 このメイドロボはチャコシーという。先日隅田川を流れていたところを、チャーリーと茶々様によって拾われた。その後どういうわけか、茶々様のメイドロボにジョブチェンジすることになったのだった。

 チャコシーは、戸の隙間から覗き込む女子高生達に気が付いた。


「あ! こんにちは!」


 作業の手を休め、軽い身のこなしで戸を開けた。手を前に揃え、目を逸らさずに太陽のような笑顔でお辞儀をした。


「わぁ! こんにちは! 鏡乃は鏡乃です! 尼崎からきました! 高校一年生です! 四月から二年生になります! 鏡乃です!」

「こんにちは。ウチはミラちゃんのお嫁さんの朱華やで。よろしゅう」

「よろしくお願いします! チャコシーといいます! チャ子って呼んでください!」

「チャ子、かわいい!」

「チャ子ちゃん、かわいかー」


 鏡乃と朱華はその愛らしさに悶えた。小さなメイドロボといえば、マリーの姉アニーのメイドロボ、マリエットがいるが、それとは違ったかわいさだ。


「なんだなんだ、騒がしいな」

「お二人とも! なにをしていますか!?」


 騒ぎを聞きつけて事務所からやってきたのは、黒乃とメル子だ。


「あ、クロちゃん! メル子!」

「やあ鏡乃、朱華ちゃん。学校は終わったのかい?」

「終わった!」

「ひょっとして、チャ子ちゃんを見にきたのですか?」

「そうやでー」


 ロボヶ丘高校のアイドルである茶々様にメイドロボができたという噂は、あっという間に学園内を走り抜けた。学生がロボットのマスターになるという状況は稀であり(マリーは例外中の例外)、加えてそれが子供型ロボットだというのも話題に拍車をかけた。

 それを聞いた鏡乃は是非とも一目見たいと茶々様におねだりしたが、しらばっくれられるばかりだった。唯一、朱華にだけは本人からその情報が漏らされた。茶々様は茶道部の部長であり、朱華はその部員だ。かわいい後輩にだけは、気を許してしまったのだろうか?


「ミラちゃん、もうええやろ? ここにきたことが茶鈴部長にバレたら、ウチお仕置きされてまうで」

「ええ!? お仕置き!? どんな!? 鏡乃もお仕置きされたい!」

「もうバレておますえ」


 鏡乃達の背後から現れたのは、黒いセーラー服の白髪美女茶柱茶鈴(ちゃばしらちゃりん)だ。茶々様はすかさず背後から朱華の腰に腕を回し抱き寄せた。


「部長!?」

「チャ子のことはないしょ言うたやろう?」

「部長! 誰にも言うてません! ミラちゃんにしか言うてません……あふん」


 茶々様は朱華の耳に息を吹きかけた。ダンスをするように右にいったり左にいったりする二人を、鏡乃はプルプルと震えながら見た。


「またシューちゃんと茶鈴先輩がイチャイチャしてる!」



 黒乃とメル子、鏡乃と朱華は古民家の中に通された。中は古風な造りの茶室になっており、八畳の広間の炉には湯が沸かされていた。炉の前には茶々様が座り、茶を点てている。その横に黒乃達は一列になって正座をしていた。

 茶室と土間の間には棚が置かれており、様々な種類の茶葉が並べられていた。チャコシーはその中を必死に整理していた。


「いだだ!」

「いたい!」


 黒乃と鏡乃はそのデカケツ故、正座に耐え切れず悶えていた。


「足を崩して楽にしとぉくれやす」


 茶々様の言葉を待ってましたとばかりに、巨ケツ達は足を投げ出した。


「ふーい!」

「ふぇー! メル子とシューちゃんは足痛くないの!?」

「ウチは茶道部やもん。正座は毎日しとるで」

「メイドロボも基本は正座ですよ」

「えー? そうだっけ?」


 黒乃は普段のメル子の姿を思い返した。


「確かにそうだわ」

「今まで気が付かなかったのですか!?」


 そこへチャコシーが茶筒(ちゃづつ)を持ってやってきた。


宗匠(そうしょう)! これはどこにしまいましょう!?」

「これ、チャ子。その姿勢はなんどす」


 チャコシーは畳に左膝をつき、右膝を立てていた。茶筒を持った右手は前に、左拳は畳につけた。自分の体勢を確認したチャコシーは、慌てて正座に直った。


「これです!」

「これはそこの棚どす」

「はい!」


 チャコシーは正座の姿勢のまま茶々様に背を向けた。そして立ちあがろうとした瞬間、前につんのめった。茶々様がチャコシーの前掛けを手で押さえていたのだ。それに気が付かなかったチャコシーは、そのまま畳に倒れるかと思われたが、思わぬ軽い身のこなしで立ち直った。ただし、茶筒の中身は全部ぶちまけられた。


「あーあ」

「わぁ!」

「やってもーた」

「ごめんなさい! チャ子の失敗です!」


 素早く動いたのはメル子だ。懐から紙を取り出すと、ちりとりのように使い茶葉を拾い集めた。次に水指(みずさし)の水で別の紙を湿らせ畳の上を這わせると、細かい茶葉がきれいに吸い取られた。さっきまでの大惨事が一瞬にして片付いてしまった。


「落ちた茶葉は飲む用には使えませんが、他にもいろいろな用途があります。脱臭剤として使ったり、入浴剤としても使えます。無駄にはなりませんね」


 メル子は笑顔で茶葉が包まれた紙を手渡した。それを受け取ったチャコシーは、潤んだ瞳を輝かせた。


「メル子さん、すごいです!」

「当然ですよ。私は世界一のメイドロボですから」


 それを聞いたチャコシーの瞳は、ますます輝きを増した。


「世界一なんですか!?」

「もちろんですよ。えっへん」


 メル子は(アイ)カップの胸を張った。


「すごい! メル子、すごい!」

「すごかねー」

「さすがメル子」


 次々に褒められ、恍惚となるメル子。その横で、楽しそうに黙々と茶を点て続ける茶々様。

 しばらくは静かな時間が流れた。浅草寺の喧騒はここまでは届かない。聞こえるのは茶道具が時々奏でる音色のみ。茶杓(ちゃしゃく)の微かな音、柄杓(ひしゃく)が湯を汲む音、茶筅(ちゃせん)が茶碗の中で踊る音。すべてが心地よい。黒乃と鏡乃は猛烈な眠気にいざなわれていた。

 炉の中の炭が爆ぜるのと同時に、黒乃の前に茶碗が差し出された。我に返った黒乃は茶碗を前にうろたえた。


「えーと、えーと、どうするんだっけ?」

「かしこまらずに、お好きにどうぞ」


 そう言われて安心した黒乃は、茶碗を両手で鷲掴みにした。申し訳程度に回転させ、一口含んでみた。抹茶の爽やかな苦みが心地よく舌を刺激した。


「んー、うまい。けっこうなお手前で」

「おおきに」

「鏡乃も飲むね! ズズズ。ゔぇー! 苦い! けっこうなお手前で!」

「おおきに」



 茶室は混沌としてきた。畳の上に横になり、堂々と寝に入る黒ノ木姉妹。メル子はなにやらしきりにチャコシーに所作を教えているようだ。その中で、朱華だけが茶々様に向かい合っていた。


「朱華はん」

「なんでしょうか、部長」


 茶巾(ちゃきん)で茶碗を拭きながら茶々様は言った。


「あてもそろそろ卒業どす」


 もうじき二月になる。そこから卒業まではあっという間だろう。


「はい」

「この一年間、ほんまに愉快どしたなあ」

「はい……」


 朱華は一年を思い返した。鏡乃と二人上京してきた。茶道部に入り、茶々様と出会った。なにも知らない朱華に、丁寧に茶の湯を教えてくれた。ちゃんこ部と何度も戦った。運動会もあった。そして特別合同課外授業では、ともに死線をくぐり抜けた。


「楽しかったです……」


 思わず目から雫がこぼれ落ちた。卒業したとして、別に会えなくなるわけではない。茶々様は浅草にいるのだ。ここにいるのだ。だが、もう部室にはいない。


「朱華はん。茶道部は頼みますえ」


 茶々様は、朱華に茶道部の部長になれと言っているのだ。まだなにも知らない自分に務まるだろうか?

 その時、鏡乃がおもむろに起き上がった。


「シューちゃん、部長になるの!? すごい! シューちゃん、すごい!」

「ミラちゃん……」

「鏡乃もね! ちゃんこ部の部長になる! フンスフンス! 絶対ちゃんこ部の部室を取り戻すんだ!」


 朱華は涙を拭いた。いつも鏡乃には世話を焼かされているが、その天真爛漫さに救われてもいる。これからもずっとそうなのだろう。


「せやでミラちゃん。うち、茶道部の部長になるで」

「すごい! じゃあ、また対決しようね!」

「負けへんで〜」

 

 チャコシーが軽やかに駆け寄ってきた。


「宗匠! 聞いてください!」

「なんどす、チャ子」

「メル子さんは世界一のメイドロボなので、チャ子はメル子さんに弟子入りすることにしました! メル子さんからメイドロボのことを教わります! いいですか!?」


 チャコシーは、つい先日ジョブチェンジしたばかりの新米メイドロボだ。まだわからないことだらけなのだ。


「あてはかましまへんけど……」

「ご主人様もかまわないよ」


 いつの間にか、黒乃も起き上がっていた。


「メル子はこう見えて二歳児だから、自分より後輩のメイドロボがいないんだよね。だからちょうどいいと思うよ」

「ご主人様!」


 茶々様は畳に丁寧に両手をついた。それに倣ってチャコシーも両手をついた。


「メル子はん。チャ子を、よろしゅうおたのもうします」

「こちらこそ、よろしくお願いします!」

「すごい! メル子にも後輩ができた!」

「すごかねー」


 夕方の茶室は暖かい空気に包まれた。これが茶道、これが作法。融通無碍(ゆうずうむげ)、おもてなしに決まった形はない。


「ところで、黒乃はん」

「ん?」

「そろそろ、ぶぶ漬けでもいかがどすか?」

「ぶぶ漬け? ああ、お茶漬けのことね。いいね! サケ茶漬けで頼む!」

「鏡乃はウメ茶漬け!」

「ご主人様!」

「ミラちゃん!」


 これもおもてなし。いや、つらのかわあつし。


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