第535話 記者会見です!
浅草某スタジオ。会議室はカメラを持った記者達で埋まっていた。
白いクロスがかけられた長テーブルにはマイクが並べられ、その横には演台が設置されていた。パイプ椅子に座った記者からは、殺気にも似たオーラがほとばしっていた。彼らと長テーブルの間には、謎の直系4.55メートルの円が設置されていた。
濃い化粧とピチピチのスーツで身を固めたロボットが演台に上がった。記者達はカメラのスイッチを入れた。
「皆様、ようこそお集まりくださいました。ただいまより、ゲームスタジオ・クロノス主催、八又産業協賛、新カードゲームプロジェクト『MERCO』の発表会を開催いたします。司会は私、ロボテレビの女子アナロボが務めます。またこの会見は、ロボチューブでも中継が行われています」
『いえーいwww』
『見てるよー』
『なんの会見なのこれww』
まばらな拍手が送られ、それと同時にフラッシュが焚かれた。
「ではさっそく登場していただきましょう。ゲームスタジオ・クロノス代表取締役、黒ノ木社長とメル子さんです」
控室の扉が開き、中から白ティー丸メガネ黒髪おさげののっぽと、緑の和風メイド服の金髪巨乳メイドロボが現れた。その途端、いっそう激しいフラッシュが浴びせかけられた。二人は長テーブルに着くと深々と頭を下げた。
「どうもこんにちは。ゲームスタジオ・クロノス代表取締役の黒ノ木です」
「メル子です!」
再び激しいフラッシュ。ほとんどのカメラのピントはメイドロボのIカップの谷間に合わされていた。
『でけぇwww』
『メル蔵!』
『また黒男やんけwww』
『前にある円はなんなのw』
「えー、お集まりいただき、まことにありがとうございます」
「ありがとうございます!」
「本日皆様をお招きしたのは、弊社の最新プロジェクト『MERCO』の立ち上げを発表するためであります」
「であります!」
「黒ノ木社長、MERCOとはどういったプロジェクトなんでしょうか? ご説明お願いします」
「はい」
黒乃はデバイスを操作し、スクリーンの映像を切り替えた。謎の文字列が画面に表示された。
「MERCOとは『Multiple Eclectic Robust Card Opper』の略で、全方位型多機能カードゲームシステムをさします」
『カードゲームなのね』
『なんかすごそうw』
『最後のオッパーってなんだよww』
メル子がマイクを握り締めた。
「ちなみに! MERCOとは私の名前のメル子から取られています! すごいでしょう!?」
『だろうねw』
『言わなくてもわかるよw』
『メル蔵、落ち着けwww』
「黒ノ木社長、いまいち名前からではどういうものかわからないのですが、詳しい説明をお願いします」
「もちろんです。MERCOはこれまでのトレーディングカードゲーム(TCG)の文脈をベースにしていますが、そこに新たな発想を付け加えています。それが『拡張性』です」
「拡張性と申しますと、いわゆるブースターパックが思い浮かびますが?」
「そのブースターパックで間違いありません。既存のTCGでは、ブースターパックによりカードが追加されます。それはMERCOでも同じです。しかしMERCOの場合、カードと同時に『新しい遊び』が追加されるのです」
会場がざわついた。スクリーンにはピラミッドのような図と、ピラミッドを逆さにしたような図が表示された。
「既存のTCGはまずルールがあり、そのルールに従ってカードが追加されます。ルールという土台の上に、カードが乗っているんです。ブースターパックで拡張されても、その構造は変わることはありません。これはピラミッドで表されます。土台より広くはカードを乗せられません。上にいくに従ってカードを乗せられる幅は狭くなり、いずれピラミッドは完成します。
その反面、MERCOは無限に拡張が可能です。基本ルールが土台として存在し、その土台の上に拡張ルールを乗せることができます。これは土台の拡張に他なりません。拡張ルールはいくらでも増やすことが可能です。よって、その上に乗るカードも無限に増やせるのです。これは逆ピラミッドで表されます。このピラミッドに完成はありません。故に、MERCOは無限の拡張性を備えているのです!」
『なんかすげえ!』
『よくわからんけどすげえ!』
『はんぱねえ!』
「黒ノ木社長、根本となる理念はわかりました。では具体的に、どのような拡張があるのでしょうか?」
「はい。現在予定していますのが、シナリオパックの拡張です」
「シナリオパック? TCGでシナリオがあるんですか? 対戦ゲームですよね?」
「MERCOにおいて、対戦はメインのコンテンツとなり得ますが、それがすべてではありません。一人プレイ、対戦プレイ、協力プレイ、シナリオプレイに対応しています。これが全方位型多機能カードゲームたる所以です。シナリオパックにはシナリオカードが封入されており、それをめくることで物語が展開します。プレイヤーはカードの文言に従い行動を決めます。それによってアイテムを手に入れることもありますし、戦闘になることもあります。次々にカードをめくりながら冒険をします」
「……」
『メル蔵?』
『なんか寝てね?』
『話が長過ぎて寝とるww』
『メル蔵、起きろww』
「黒ノ木社長、カードの持つソフト面での機能は理解できました。では、ハード面はいかがでしょうか? 特殊なカードを考案されたと聞いています」
「よくぞ聞いてくださいました。MERCOでは、前代未聞のカードを採用しました!」
「ふがっ!? ご主人様? 呼びましたか?」
「え?」
「今、呼びましたよね?」
「いや、呼んでないよ。会見中だからちゃんとして! MERCOの話をしているから!」
「だから、私がどうかしましたか!?」
『あかーんwww』
『寝ぼけてるww』
『しっかりしろw』
黒乃は巨ケツのポケットから一枚のカードを取り出した。
「これが、弊社と八又産業が共同で開発したカードの試作品です」
猛烈なフラッシュが焚かれた。その光を反射して、カードは七色に輝いた。
「普通のカードに見えますが?」
「見た目はそのとおりです。しかしこのカードは、特殊なローションでコーティングされています。私はこれを『ソラリスコート加工』と名付けました」
『ん?w』
『ソラリス?ww』
『なんかやばそうwww』
記者達もざわめき始めた。
「ソラリスコート加工は、特殊なナノマシンが含まれたローションでコーティングされています。これにより、圧倒的な耐久性、安全性、赤ちゃんにも優しい手触り、汚れ防止など、様々な機能を実現できました。特にすごいのは自己修復機能です。見てください」
黒乃はカードを真っ二つに折りたたんだ。悲鳴にも似た声が会場から上がったが、杞憂であることがすぐに判明した。
「社長!? カードの折り目が! なくなっていきます!」
「そうです。これまでのカードは汚損に弱く、カードを守るためにはスリーブが必須でした」
スリーブとは、カードを保護する目的で装着させる透明なフィルムのことだ。カードゲーマーは一枚一枚、場合によってはカード一枚にスリーブ二枚、地道に装着する作業を夜な夜な行っているのだ。
「ソラリスコート加工は、その手間を完全に省いてくれます!」
「黒ノ木社長。すごいですが、その分製造コストがかかるのでは?」
「ふふふふ」
「はい! ご主人様がワロています!」
「普通はそのように考えますが、弊社の編み出した画期的な手法により、コストの大幅カットを実現しました」
黒乃はスクリーンに謎の空間を映し出した。そこには大量の液体が満ちていた。
「これはなんでしょうか、社長? おや? なにか異様にテカっていますね? ひょっとして、これ全部ローションですか!?」
「お察しのとおり、これはロボローションの海です。場所は秘密ですが、浅草の地下にあります。とんでもない量があります。我々はこれを汲み取り、カードのコーティングに利用しているのです!」
『あかーん!』
『これソラリスの海だろwww』
『423話をご覧くださいww』
『なんでいつもローションが出てくるんだよwww』
記者達が右往左往を始めた。デバイスでどこかに連絡する者、慌てて走り出ていく者、前に詰め寄ってくる者もいた。
「社長! これは本当に安全なんですか!?」
「えー、安全です。ロボローションは、完全に浄化されていることが確認されています」
「社長! またとんでもないことが起きるんじゃないだろうね!?」
「えー、ご安心ください。なにも起きません」
「社長! また浅草が壊滅したらどう責任を取るんだ!?」
「えー、そんなことは起こるはずがありません。もし起きたら、火星で一人で暮らしてやりますよ! ガハハハハハ!」
「貧乳!」
「誰が貧乳じゃい」
「デカケツ!」
「貴様らーッ!」
黒乃は長テーブルを弾き飛ばすと、直系4.55メートルの円の中に踊り込んだ。
「文句あるやつは、かかってこんかーい!」
「ご主人様ー!」
『あーあー、また始まったよwww』
『そのための土俵ww』
『なんでいつもこうなるんだよww』
記者達が土俵になだれ込んだ。それをちぎっては投げちぎっては投げする黒乃山。その痴態は全世界に放映されてしまった。
結果、MERCOプロジェクトの知名度はうなぎ登り。反面、八又産業の株価は暴落した。




