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うちのメイドロボがそんなにイチャイチャ百合生活してくれない  作者: ギガントメガ太郎


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第523話 DYING ROBOT その二十四

 特別合同課外授業二十四日目の昼。

 三つの作戦の準備が進んでいた。


 一つは、船内のゾンボ掃除。さまよう百体の乗員ゾンボを第二デッキに押し戻さなくてはならない。マリー率いる中学生達にその役割が与えられた。

 一つは、補給物資の回収。先程補給物資の投下が行われた。これを回収しなくてはならない。帰宅部部長茶柱江楼(ちゃばしらころ)率いる討伐隊に任された。

 一つは、ローション生命体ソラリスの捜索。この島のどこかで成長を続けているというソラリス。完全なる復活を果たす前に、やつを見つけて倒さなくてはならない。この任務はちゃんこ部とロボキャットに託された。


 三つの作戦は同時に行われる。討伐隊とちゃんこ部は、港に集まっていた。


「フンスフンス! はーどすこいどすこい!」


 鏡乃は四股を踏んで気合いを入れていた。鏡乃の頭の上のチャーリーは、大欠伸をして尻尾を揺らした。


「鏡乃山、気合い入ってるな」

「あ、江楼ちゃん! ごっちゃんです! スンスンスン! お日様の匂い!」


 江様の日焼けした肌は汗で光っていた。


「本当はよ、俺がソラリスの捜索にいきてーんだがな」

「そうなんだ! でも江楼ちゃんは、たくさんの討伐隊を連れていかないといけないから! 江楼ちゃんの方がいいよ!」

「ああ、そうだな。そっちは任せたぜ」


 そう言うと、江様は鏡乃を抱き寄せて背中を叩いた。


「わぁ! スンスンスン! 江楼ちゃんもがんばってね!」


 いよいよ出発だ。討伐隊は島内の各所に落ちた補給物資を確保しにいく。彼らは掌山からついさっき帰ったばかりだ。疲労困憊、満身創痍。それでもいかなくてはならない。


 討伐隊は歩き出した。島のあちらこちらに投下された物資目指して進んでいく。ちゃんこ部が向かうのはどこだろうか? それはチャーリー任せなのだ。討伐隊が掌山に向かう際、多数のロボキャットが目撃されていた。後にわかったことなのだが、ロボキャット達は討伐隊を手助けしていた。森にさまようゾンボを誘き出し、学生達と鉢合わせしないようにしていた。ロボキャットはゾンボではない。味方なのだ。


「チャーリー! 頼んだよ!」

「ニャー」

「かわいいッス!」


 猫好きのでかおはチャーリーの背を撫でようとしたが、爪でひっかかれてしまった。チャーリーは霧で覆われた森の中を進んだ。皆、チャーリーのケツの穴を必死に追いかけた。空が霧で覆われているため、日差しはいかにも頼りなく森は暗い。まとわりつく湿気は南国にしては冷たく、汗はすぐに冷えた。


「ねえ、チャーリー。どこにいくの?」

「ニャー」

「わっかんない!」


 ちゃんこ部はひたすら森を進んだ。どうやらここは西海岸付近のようだ。


「ロボキャットッス!」

「ほんとだ。たくさんいるぜ!」

「アッチにもいマス!」


 チャーリーに導かれるように、ロボキャット達が集まってきた。草むらの中、枝の上。そこら中にいる。やがて森を抜け、真白い砂浜へとたどり着いた。そこで待っていたのは、大量のロボキャット達であった。


「おお……チャ王!」


 その中から一際大きな黒猫のロボキャットが進み出てきた。チャーリーの前にひれ伏すと、それに倣ってロボキャット達も伏せた。鳴き声の大合唱が始まった。


「ニャー」


 チャーリーが一声鳴くと、ピタリと音は止んだ。


「チャ王よ、よくぞお戻りになられました」

「ハル! ハルだ! わぁ! ハル、久しぶり!」


 鏡乃は走りより、ハルを抱き上げた。


「ロボキャットが喋っているッス!」

「喋る猫ッス!」

「ハルはね、ロボキャットのリーダーなの! 鏡乃のお友達だよ!」


 ハルはもがいて鏡乃の腕から抜け出した。


「友達ではない。我はチャ王のために、そして肉球島を取り戻すために働くのみだ」


 ハルはボロボロになったボディをつらそうに動かした。彼は量子状態になった肉球島に突入する際、チャーリーへのダメージをすべて肩代わりしたのだ。


「ねえねえ! 鏡乃達はね、ソラリスを倒さないといけないの! ソラリスを倒さないと、おうちに帰れないの! ハル、いっしょにソラリスを探してくれる?」

「すでに探している。ロボキャット達を島全域に送り込んで、くまなく探している」

「おお!」

「すごいッス!」


 ちゃんこ部は歓声を上げた。正直、ソラリスを探すといっても、まったく手掛かりがなくて困っていたのだ。


「それで、見つかったッスか!?」

「見つからぬ……」

「え?」

「森も、海岸も、工場も探したが……」

「そうなんだ……」


 ちゃんこ部は肩を落とした。鏡乃は一つ思い当たることがあった。


「ねえ、ハル? 北の四つの島は探したの?」


 肉球島は五つの群島からなる。鏡乃がいる掌島、北方の人差し島、中島、薬島、小島だ。かつてのサバイバルで、鏡乃達は薬島に漂着した。


「あそこは潮の流れが激しい。こちらから向こうへ渡るのは無理だ。ただ、ロボキャット達は、美食丸が島にくる以前から監視はしていた。四島に船が渡ったことはないそうだ」


 ちゃんこ部は悩んだ。船が渡ったことがないというだけで、捜索をしたわけではない。ソラリスは四島のどこかにいるのかもしれない。美食丸に搭載された小型ボートを使って調べるべきだろうか? ボート部なら可能だろう。しかし、海を渡るのはとても危険だ。なにが待っているのかわからない。そもそも、ハイデンには四島に渡る手段などないはずだ。


「うーん……」


 鏡乃は悩んだ。


「うーん……!」


 鏡乃は悩んだ。


「わっかんない! うわーん!」


 鏡乃は泣き出した。丸メガネから大粒の涙が溢れた。


「鏡乃山、どうした!?」

「大丈夫ッスか!?」

「鏡乃山サン、落ち着いてくだサイ」


 ちゃんこ部が皆で宥めたが、鏡乃の涙は止まらない。


「うわーん! 鏡乃は、クロちゃんみたいに頭がよくないから! わっかんない! うわーん!」

「ソンなことナイデスよ、鏡乃山サン! 成績はクラス上位じゃないデスか!」

「クロちゃんならこんな時は、すぐにいい考えを思いついて、実行できるのに! 鏡乃はできない! クロちゃんの妹なのに! うわーん!」

「おいおい、鏡乃山……」

「うわーん!」


 鏡乃の中のなにかが擦り切れてしまったようだ。実家を飛び出して半年。ボロアパートから離れて二十四日。守るべき紅子を守れず、救助はこず、与えられた役割は果たせない。そしてなにより時間がない。鏡乃は子供のように声を出して泣いた。


「ニャー」

「いだッ!?」


 チャーリーが飛び上がり、鏡乃の脳天に爪を突き立てた。


「いだだッ!? チャーリー、なにするの!?」

「ニャー」


 突然の暴力に、丸メガネを丸くする鏡乃。それを見たハルは笑い出した。


「クククク」

「なんで笑うの!?」

「チャ王はこう申している。自惚れるなと。小娘の考えなど、初めから当てにしていないと」

「ええ!?」

「そうだぜ、鏡乃山。そんなに背負い込むなよ」

「鏡乃山サン! ミンナでいっしょに考えまショウよ!」

「鏡乃山は一人じゃないッス!」

「ちゃんこ部の仲間がいるッス!」

「うう……グスン……みんな……ごっちゃんです……」


 鏡乃は白ティーをまくり上げ、丸メガネをきれいに拭いた。白ティーは涙でシミだらけになったが、鏡乃の心は洗われたようだ。


「いったん船に戻って、このことを報告しようぜ。そうしたら生徒会長がいい案を出してくれるさ」

「わかりました、まるお部長!」


 ちゃんこ部は船に向けて歩き出した。その後ろ姿をチャーリーは呆然と見ていた。


「ニャー(腹減ってるところにピーピーうるさいからしばいただけだけど、いい感じにまとまったからヨシ!)」





 ——夕方の美食丸。

 西海岸から帰還したちゃんこ部は、港に降ろされたタラップを見て瞳を輝かせた。港には多数の補給物資のボックス。それを抱えてタラップを上る生徒達。これの意味することは一つ。補給物資の回収も、船内のゾンボ掃除も成功したということだ。


「わぁ! わぁ! すごい! みんなすごい!」


 喜んではいるものの、若干の気後れが鏡乃にはあった。とはいえ、報告はしないといけない。そこへ江様が近づいてきた。


「鏡乃山! 無事だったか」

「あ、江楼ちゃん!」

「これを見ろ!」

「なになに……ええ!?」


 江様は紙の束を手渡した。鏡乃はそれを受け取った瞬間、仰天した。その紙にはある人物がプリントされていた。


「紅子だ! 紅子が印刷されてる! なんで!?」

「わからねえ。補給物資の中にたくさん入ってた」


 この写真には覚えがある。鏡乃がボロアパートの部屋で撮ったものだ。出発の前日、照れくさそうにカメラを見つめる紅子が写っていた。量子状態を経由しているため、写真はボロボロだ。それでもはっきりと紅子とわかった。写真を見た途端、再び涙が溢れ出てきた。


「うわーん! 紅子! うわーん!」

「泣いている場合じゃねーぞ! どうしてこの写真が送られてきた!? お前ならなにかわかるんじゃねーか?」

「うわーん! クロちゃんが送ってくれたんだ!」

「なんでだ!?」

「鏡乃が寂しがってると思って!」

「だったら一枚でいいだろ! 多すぎるぜ!」


 枚数としては千枚はある。明らかに多い。


「うわーん! 生徒に一人一枚! うわーん!」

「はぁ!? まあ写真はいい。問題はこっちだ」


 江様は一枚の封筒を見せた。なんの変哲もない茶封筒。だが、補給物資の中に入っていたにしては不自然だ。


「あれ? あれ? なんかおかしい! あれ!?」

「ああ、どう見てもおかしい」


 とてもきれいな封筒だ。傷一つない。そんなことはありえないはずなのだ。


「封筒はこれ一つだけだ。これは重要なメッセージだぜ。いい知らせか、悪い知らせか」

「初火先輩に見せないと! みんな! 生徒会本部にいこう!」

「「ごっちゃんです!」」


 ちゃんこ部はタラップに乗り込んだ。鏡乃は階段を上ろうとした時に、ふとあることに気がついた。


「あれ? 新弟子ロボ、どしたの?」


 タラップから見下ろすと、新弟子ロボと弟弟子ロボが埠頭でしゃがみ込んでいるのが見えた。


「ナンでもありまセン! 弟弟子ロボの調子が悪いみたいナノで、ココでメンテナンスをしてから戻りマス!」

「わかった! 気をつけてね!」



 ——第十二デッキ、生徒会本部。

 生徒会長茶柱初火(ちゃばしらういほ)の前には、紅子の写真の束と封筒が置かれていた。初様は震える手で封筒を取ると、慎重に封を切った。中から出てきたのは折りたたまれた紙切れだ。


「読みます」


 初様は静かに手紙を読んだ。文字が読めるということは、補給物資が肉球島に突入する際のダメージを回避できているということ。それだけで、この手紙がいかに重要かを思い知らされた。初様が黙読する様子を、鏡乃、江様、マリー、小梅、怪我をおして会議に参加した茶々様、朱華が見ていた。

 手紙を読み進めるにつれて、みるみるうちに初様の顔が青くなっていった。最後まで読み終えた手紙を机の上に置くと、初様は大きく息を吐いた。


(うい)姉! なんて書いてあった!?」

「なになに!? 早く教えて!」

「助かる方法ですのね?」

「やっと助かるんですか!?」

「……」


 初様は口を開いたが、声が出てこない。


「なんだ!? どうした!? なんか言えよ!」


 初様は、左手を封筒の上に置いた。


「こちらか」


 初様は、右手を紅子の写真の上に置いた。


「こちらか」


 初様は、最後に鏡乃の目を見て言った。


「我々は、どちらかを選ばなくてはなりません」


 その言葉に、一同はピクリとも動くことがかなわなかった。ただ一人、茶々様だけが鉄扇の裏で怪しく笑った。


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